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邂逅編 1-2

そんな持論を脳内の自分自身に説きながら俺―榎本拓実(えもとたくみ)は今日の英語の授業で出された宿題のプリントに取り組んでいた。

現在は授業が終わった放課後であり、俺は頭を掻きながら教室で一人黙々と勉強している。なぜ放課後にもなってここで勉強しているのかというと、ただ単に家ではマンガや小説、ゲームなど誘惑が多く集中できないからだ。だったら図書室に行けばいいと思った人もいるだろうが、残念ながらここ、松塚高校の校舎の構造的に難しい。

わが母校(現在進行形)である松塚高校はHの字型の4階建てであり、一階には一年生のクラスと食堂、二階には職員室と物理室や化学室といった各教科の教室があり、三階には二年生のクラス、そして最上階には三年生のクラスと図書室がある。図書室は俺のクラスである2―1の教室のある校舎から丁度Hの字の対極側にある。そのため、毎日階段を上るような長距離の移動をしてまで図書室まで行くのが面倒になり、二年に上がってからは教室で課題や勉強をするようになった。

時刻は四時半前であり丁度小腹の空く時間帯だ。俺は開いていた教科書とプリントを傍目に、自分の机の上のビスケットに手を伸ばした。・・・うん、うまい。

やはり勉強の休憩でお菓子を食べている時が一番生を実感する。肩の力が抜け、俺は思わず椅子の背もたれにもたれかかった。これがふわふわタイムか・・・素晴らしい。

こうして俺は一人放課後ティータイム(ただし麦茶)を楽しんでいたが、気が緩んだためか、後ろで話をしている六人組のグループの声が聞こえてきた。彼らは2年に上がった始業後3日にして独自のコミュニティを形成し、2週間たった今ではこうして放課後に談笑するのが定着化している。

あーあ、まーたいつも通り騒いでおりますわ。ここをどこだと思ってるんだ、学校だぞ。静かに勉強しろ、勉強。

そう思っていたのだが、今日はどうやらいつもとは何か様子が違うようだった。

「理紗、ずっと探してて見つからないってやばくない?」

「確かに、俺達も探すの手伝うよ。」

「そうだよ、ないと困るじゃん。」

 どうやら一人の女子がなくしものをしたらしい。様子からしてまだ見つかっていないのだろう。

「ううん。大丈夫だよ。だって、あたしがどこかに忘れたのにみんな手伝ってもらうのは申し訳ないって。残ってもうちょっとだけ一人で探してみるから先に帰ってて。ほら、実はカバンの中にあったーとかだったらダサいし。ね?」

 少女は手を前に振りながらそう言うと、しばらくしてから「そっか、じゃあ・・がんばって」と後ろのグループの残りの構成員達はぞろぞろと帰っていった。

 俺はつい「ご愁傷さまです。南無南無」と心の中で手を合わせていた。対岸の火事は綺麗なものである。我ながらそんな感想を抱いた自分の性格の悪さについ苦笑いしてしまう。晴れてニヤニヤボッチの完成である。

よし、切り替えていくか。俺は内なる雑念を振り払って、引き続きプリントの問題を解くことを再開した。


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