かくれんぼを、しよう怪
学校から帰って、集まって、遊ぼうと約束した。
秋の風を涼しく、気持ちよく感じる日。
僕は住宅地を抜け、山に続く道、神社の前や、散歩している人達の傍を通って、友達と待ち合わせたバス停に着いた。
「よっす。これだけ?」
「3人? 穂坂さんとかは?」
「家が遠いから、まだじゃん」「そっか、もう少し待とう」
適当に暇をつぶして待っていたら、女子の二人が走ってきた。
「ごめーん、遅くなって」
小川さんが謝る、あとに続いて穂坂さんも謝った。「どこ行く?」
「あのさ」「何?」
突然、言い出したのは中島だった。スワローズのユニフォームに似たTシャツを着ている。
「ここに来る前、公園通ったろう?」
言われて、「んー、まあ通ったっていうか、そうだな」と曖昧な返事をした。
「誰か居なかった?」
中島はそう表情を変える事なく自然に聞いた。「んー、居たっけ?」
僕が思い出そうと苦心していると、他の皆も同じ様に顔を曇らせた。結局、皆は通ったけれど、誰も覚えていないらしい。
「誰か居たわけ?」
倉木が聞いた。こいつだけスマートウォッチを着けている。おかげで時間が分かる。
「うん。知らない女子が一人。違う学校の子かな」
「どんな子?」
「髪が長くて、正面から見てないけど、キャップ被ってて、ノースリの――」
特徴を説明しようともがいていたが、それぐらいが限界だった。「ふーん?」
「どこの子だろうね」「さあ」「近くの家の人じゃないの? たまたま遊びに来てたとか」
口々に言い出すが、いつまでも言っていても仕方ないと、移動する事にした。
「それじゃあさ、これから公園に行って、まだその子がいるか確かめようぜ」
「だよな。それがいいか」
「モヤっとするもんね」
僕を含む五人は、早速と公園に向かった。
いつも集まるのはこのメンバーで、適当に日が暮れるまで遊んで帰る。小学生なので、遠くには行かない。ゲームもするけれど、もう飽きてきた。制限されているし、電池はすぐ無くなるし、スマホは僕と中島は持っていない。あと数年したら、買ってもらえるだろうか、と漠然と思っている。
それにどうやら、集まってオニごっこでもしている方が、僕らには合っている。
「昨日、『逃走中!』観た? フワちゃん、あれ、わざとらしくなかった?」
昨夜に放送されたテレビの話で女子は盛り上がり始めた。
「ねー? たぶん、ミキを貶めようとしたんだよ」
「好感度アップ。って、お父が言ってた」
「あの銃、いいよな。蜘蛛の巣が飛び出してくるやつ」
「生け捕り~、はいよ、いっちょう!」
倉木が僕に絡んできたのを邪険に払いのける。もうすぐ、神社前だった。十分も経たないうちに、そろそろと山へ入っていく。山の道があって、古びた神社があって、鳥居を過ぎると、道が二手に分かれる。一方は、住宅地へと下って続く道で、一方は、平坦にグラウンドに着く。だが鳥居を過ぎたあたりから、公園がある。砂場、滑り台、ブランコと青いベンチがあるだけの、小さめの公園だった。周りが山に囲まれて、傍に神社があるものだから、人気は少ないと思う。この神社って、無人だよなあ、と噂した事がある。
「かくれんぼしない?」
振り向いたら小川さんが言った。声のした方を全員が見た。
公園に着いて、開口一番に、だ。奇妙な気がした。
「なぜか思いついちゃったの」
ショートカットの髪を触りながら、小川さんは目線を上に、空を見ていた。
「思いつき。いいよ別に、ってか、忘れてない? 誰も居ないね」
僕も忘れていたが、公園には僕ら以外に誰も居なかった。
散歩している人には、ここは避けられている。理由は不明だが。
「今日は変な事が多いな、学校から帰る時、クロネコが横切った」
「それ変でもないじゃん。猫なんてその辺にいるし」
「お届け物でーす、グローブが届いた」
中島を無視して、ジャンケンでオニを決める。負けた穂坂さんが最初のオニだ。
「はいいきますよー。もう、いいかーい?」
木の傍に寄り、穂坂さんは僕らを見ない様に背を向けて、オニの体勢をとった。
「ほい隠れろ、隠れろ」
「ほーいよ」
遊具、草陰、木の後ろと、僕らは隠れる。
僕らのルールでは、見つけると、オニは相手の名前の後に「見つけた」と叫び指を指し、発見したことを宣言する。最後まで見つからなかったら、優勝だ。
「もう、いいかーい?」
「まあだだよ」
「まあだだよー」
「まーーだだよぉ~」
「まあだだよー」
かくれんぼで遊んだ。一番近かった中島が最初に見つかり、次々とオニは変わり、三十分は経って、日が落ちかけてきた。カラスが鳴いていた。次のオニは、僕だった。正直、これが最後でいいと疲れてきていた。
「じゃあラスト。もう、いいかいー」
木に寄りかかって、僕は呼びかけた。蚊に刺されたらしい手首が痒い。
「まあだだよー」
「まあだーだよ~」
「まーだーだーっよ!」
「まあだだよ」
あー痒い。掻けば、赤くなってきた。ムヒが欲しい、塗りたい。
「もう、いいか~い?」
僕が二回目を呼ぶと、また、あちらこちらで返事が来る。「ま~だだよ~~」と。間を空けて、更に呼ぶ。
「も~いいか~い?」
僕が三回目を呼んだ時だった。
「もう……いいよ…………」
女の子の声だったが、違和感を覚えた。「ん?」僕は振り返ってみた。そこには、知らない女の子が居て、僕を見上げていたのだ。背の低い、赤いスカートを履いた、髪の短い女の子だった。にやぁ、と笑った。気味が悪い。誰、きみ……。
しかし、僕の声は出なかった、出る前に、僕は風の様に消えた。
え?
「ミキオくーーん!!」
「ミキーー!」
「志村くーーんっ! どこなのーー?」
赤い光が、容赦なく公園を染め上げて背景をつくる。その中に、僕は、居ないのだ。
「志村ーー!!」
そういえば、オニって隙だらけなんだよな。誰も見ていないもんな。
じゃあ中島が目撃した子は、誰なんだ? 僕が見た子とは、全然違うじゃないか。その子はどこに隠れた? その子も、かくれんぼをしていたのか? オニだったのか? 誰が隠れていたのだろう。何だか、……寒い。
遠くで、声がした。……うふ……ふふふふふ…………。
……ふふ……ふふふふ…………。
しつこく、僕の耳から笑い声が止まらない、さっきの気味の悪い声だった、きみがわるい。もう、いいよ……。
寒い、寒いよ、ここは、ここは、どこ。
出して、ここから、出して。
見つけて。
昨夜に放送された番組は、視聴率がいいらしい。小、中学生は観ている。
《END》
読了ありがとうございました。
2007年に投稿した、『かくれんぼを しよう』をリニューアルしてみました。
「オニって隙だらけ」
モヤっとするよね!(キラキラ)
作者、投げた。フワっと。
企画の締め切り直前でしたが、間に合ってよかったです。
ではでは、また~