彼女の実家がヤクザだった件
今日は二回目のデート日だった。
「またせたかしら」
そういう彼女に僕は首を振る。
「全然待ってないよ」
「そう、良かったわ。じゃあ行きましょうか。」
彼女にそう促され、僕らは歩き出した。
彼女と昼食を終え、二人で公園のベンチに座っていると、ガラの悪い男たちに囲まれた。
「うちのぼっちゃんが居るのに、男といるたぁいいご身分だな」
男たちのうちの一人の言葉に彼女は顔をしかめた
「勝手にあなたたちが言ってるだけでしょ、私はあなたのところのおぼっちゃんと一緒になるつもりはないわ」
僕には何を言っているのか分からなかったがとりあえず、トラブルに巻き込まれていることは分かった。
「逃げよっか」
僕は彼女にそうささやくと、彼女の手を取ってその場を逃げた。
十分ほど走った後、彼らが追ってきてないのを確認し、足を止める。
「はぁ、はぁ、逃げてよかったのかな。」
彼女にそう問いかけると彼女は微笑んだ。
「えぇ、まさかあいつらが、はぁ、直接接触してくるとは、はぁ、思わなかったわ。」
彼女は息を切らせながらそう答えた。
「ねぇ、あなた、私のこと好きよね」
そう確認してくる彼女に僕は驚いた。
「もちろん!どうしたの急に」
「いえ、少し覚悟がいるのよ」
そういいながら、彼女は一つ息をはいた。
「少し私の家に来てくれないかしら」
「えっ、うん分かったよ、今からかな」
「そうね、今日と明日の朝にもまた来てほしいわ」
彼女のお願いは覚悟がいる程のものだと思えず、拍子抜けをしてしまった。
「驚かないでね。」
彼女が言葉をそう加えるのを聞いて、一体何があるのだろうと不安の気持ちを抱えたまま、彼女の後をついていった。
彼女の後をついていくと、そこには白い壁に囲まれた大きな和式の屋敷が見えた。そこは地元でも有名で、全国規模のヤクザの本部だと言われている場所だった。
「もしかして、ここ」
「ええ、ここよ」
そういいながら彼女は壁に近づくと、おもむろに壁の一部を押す。
「私よ、帰ったわ」
その言葉で、壁だった部分が開いた。
隠し扉ともいうべきその仕組みに少し興奮しながらも、彼女があの時覚悟といったことに納得がいった。彼女が壁の中に入っていくと同時に、近くに誰か侍るのが見えた。
「また明日も来てくれるかしら」
彼女はそういいながら、こちらを振り返る。
僕はうなずきながら、今日は中に入れてもらえないんだと思いつつも、今日中に入ってといわれても気持ちの整理がまだついてないしなぁという二つの気持ちを抱えながら、帰路に就いた。
次の日、再び、あの屋敷を訪れた。どこから入るかは分からないので、とりあえず壁の周りをうろうろする。壁の周りをうろうろしてると、突然壁の一部が開く。
僕は驚いて声を挙げてしまった。
「うわっ!」
その声に開けた相手も驚いてしまったようだった。
扉を開けてくれた男は、なんとなくヤクザっぽくないような優し気な初老の男だった。彼を見ながらあの噂は間違いなのかなと思いつつ、案内されるがままに、歩みを進めた。
「こちらです」
そういわれて扉の前に案内された。
「この、扉の・・・」
「ええ、中です」
そう話していると、扉が内側から開いた。
なかを見ると、十人ぐらいの男たちと彼女が長机の左右に椅子に座って待っていた。多くの人はスーツではあるが、一番奥の人と何人かは和装だった。年を取っている人ほど、厳つい雰囲気だった。
「彼よ」
僕が入るなり彼女が言った。
その言葉で、一番奥の人の顔がぐっと厳しくなる。僕はもし彼女のお父さんなら挨拶を間違えられないなとぼんやりと考えていた。
「おい」
一番奥の人にそう声をかけられ、ビクッとなる。
「てめぇ、うちの娘のために命かけられるか」
「えっ・・・はい、もちろんです」
何なのかよくわからないがとりあえず、答えた。なにか説明が欲しかった。
その答えに数人の男が笑う。
「面白い奴じゃねか、気に入ったぜ」
奥から三番目のスーツのスキンヘッドの人が言う。多分あれは、禿げているのではなく、スキンヘッドなのだろう。
急に後ろのドアが開く。
「すみません、遅れました、親父に老人衆の方々」
そういうと、へらへらとしている一方で鋭いナイフのような鋭さを感じさせる男が入ってきた。知り合いだったので少しほっとした。
「こいつが例の・・・」
そういって僕の顔を見て言葉を切った。
彼もまたとても驚いているようだった。
「ああこいつなら安心ですね」
そういって彼は笑った。
「こいつ例の坊主ですよ」
その言葉に少し周りがざわつく。
「そいつが『般若』か」
「ええ、あの面もセンスがいいでしょう、俺が選んだんですよ」
割と僕は有名なようだった。
「えっと、僕は結局なんで呼ばれたんでしょうか」
その言葉で場は静かになった。
彼女が言った。
「私と結婚してほしいの」
彼女の言葉に僕は硬直する。
「黙ってないで何か言ってよ、恥ずかしいじゃない」
そういう彼女に僕は答える。
「僕、貧乏ですよ」
「関係ないわ」
「それなら、もちろん、喜んで」
その答えに彼女と場の数人は満足したようだった。
他の人々も、覚悟を決めたような顔をした。
僕だけなぜか置いてけぼりになったように感じて言う。
「あのっ、説明をしてくれませんか」
その言葉に、場の一同はあっという顔をしていた。