第一話:言語学者ラン
「ようこそ‼私たちの世界へ」
―この人はいったい何を言っているんだ?
「あなたたちの世界?じゃあここ日本じゃないんですか?」
「ご安心ください。ご質問にはあとでちゃんと答えますから」
―”あとで”なんですね...
「まずは自己紹介をしませんか?」
―自己紹介の前に聞かなければいけないことがたくさんある気がするが、確かに僕の今の現状を把握するためにも彼女の名前などを聞いておくのは得策だろう。
「僕の名前は神門輝也です。緑葉中学校というところで理科の教員をやっています。趣味は読書と...資格を取ることです。」
僕の趣味を言うと、大抵の人は「変わってる」と思うだろう。しかし、彼女の反応は違った。
「資格ですか...わかります!私も言語魔法4種の資格を取ったときは本当に嬉しかったので」
「へえ、異世界にも資格はあるんですね」
―言語魔法?いよいよもってここが日本ではないことが確定しつつあるのだが。
「私の名前はラン。ラン・シーカー。王国で一応言語学のマスターをやっています。趣味は読書と異世界の言語を解読することです」
―王国?マスター?言語学?今の中で理解できたのは言語学という言葉ぐらいだ。おそらく言語の学問だろうが...。じゃあ彼女、シーカーさんは言語学者なのか。なるほど、だからか。
「だから言葉が通じるんですね」
なるほど。異世界だと言うのに言葉が通じる理由はわかった。だが、まだ一番肝心なことを聞いていない。それは...
「ここが異世界ってどういうことですか?」
「あなたはライトノベルを読みますか?読んでいるのならなんとなくわかるはずです。そもそもなぜあなたは寝ていたんですか。それを思い出してみてください」
―ああ、まさか、今の僕はラノベでおなじみの展開に巻き込まれているのか。
「もしかして死んじゃったんですか?」
「いいえ死んでいません。死んでいたのならこの小説は”異世界転生”ものになっているはずです。しかしこの小説は”異世界転移”ものになっています。ここまで言えばもうわかりますよね」
中学校の教員として、おそらく中学生であろう彼女に「わからない」ということはできない。考えろ、考えるんだ。転生ではなく転移。それでもって死んではいない。過労。頭の中を様々なワードが駆け巡る。もしかして...
「そうか!これは夢なんだ!」
―そうか、そうか、これは夢だ。いやー異世界に来るなんて普通はありえないよね。よかっt...
「なんでそうなるんですか!違います。あなたは死んでいないのに次元を飛んで世界に来てしまったんです。私はそういう科学的なことはわかりません。でも、生きている生身の人間が異世界に転移するのは明らかに異常です。だから、それを調べてみませんか?」
そう言い放った彼女の目は、知的好奇心によって輝いた正真正銘”学者の目”だった。だが一つ気になることがある。
「さっきこの小説は〜って言ったけど、なんのことですか?」
「さあ。私にもよくわかりません」
―なんだかうまくごまかされたような気もするが、一体何だったのだろうか。