プロローグ:始まり
138の資格を持つ理科教員・神門輝也の”非日常”は唐突に始まった...
足元に柔らかい感触を感じ、僕は目を覚ました。足元には何やら白い物体があった。いや、より正確にいうのなら”いた”というべきか。足元にいたのは白い服を着た15歳くらいの少女。つまり女子中学生というやつだ。
「くぅ、くぅ」
…どうやら寝ているようだ。
―いや、まずい。こんなところ誰かに見られでもしたら...僕は社会的に終わる。
謎の女子中学生(仮)は、幸いなことに起きる様子もない。
―よし、今のうちにこの場から逃げだそう。
そう決意を固めた、僕は少女を起こさないように細心の注意を払いながら、そっと先ほどまで自分が眠っていた大理石の台座(?)のようなものから抜け出そうとした。が、
―まずい、足が抜けない。
少女は僕の足を抱きかかえるようにして眠っていたのである。僕は、足を抜こうとするが少女はまるで大切なものでも抱え込んでいるかのように僕の足から手を離さない。
「むぅ...ん?」
そうこうしているうちに彼女が目を覚ましてしまった。
―ああ、終わった。お父さん、お母さん、僕の社会的人生はどうやら女子中学生と一緒に寝ていた変態教師として終わるようです。この親不孝な息子を許してください。
目の前の少女は、目をしばたたかせると僕の顔をまじまじと見つめて...
「わっ‼すいません。私寝ちゃってました?」
その反応は予想外だった。てっきり叫ばれると思っていた僕は正直困惑を隠せない。
「えーと、ここにいるということはあなたが日本から来た方でしょうか?」
彼女は起きるやいなや、そう尋ねてきた。
「ええ、はい。」
―うん。正直に言おう。僕は何が起こっているのか全く分かっていない。
「ようこそ‼私たちの世界へ」
少女ははにかみながらそう言った。
~数時間前~
≪キーンコーンカーンコーン≫
授業の終わりのチャイムが鳴り、僕はほっと胸をなでおろす。今日の授業もこれで終わりだ。
―あとは、この休み時間生徒たちの猛攻を耐えきれば僕の勝ちだ。
授業が終わり、生徒たちがこちらに向かってくるのを僕は視界の端にとらえた。
―来たな。
『先生―‼』
「はい、何ですか」
笑顔を浮かべ僕は生徒たちのほうへ振り返った。スマイル0円とはよく言うが、僕はその考えには賛同しかねる。ただより高い物はない。本来の意味とは異なるが、心身ともに疲れ切った今の僕の笑顔は、とてもじゃないがただでは配れない。
『先生は結婚してるんですかー!』
「いや、してないよ」
『えー、そうなんだ!』
2年A組の生徒たちは休み時間のたびに僕を質問攻めにする。正直、資格試験のための勉強で連日寝不足気味な僕には厳しい。
『先生―!先生は何歳なんですか!』
「えーと、それは...」
―いや、学級だよりに書いてあるだろ。
怒りとともにそんなことを考えていると突然、視界が歪んだ。猛烈な睡魔に襲われた僕は、とっさに足に力を入れたが…
―足に力が入らない...。やっぱり5日連続の徹夜は、厳しかったか...。
『神門先生!神門先生!』
こうして冒頭の場面に至るのであった。