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爆破予告を聞いてくれ

突然だが、何もかも吹っ飛ばす事にした。

理由は、世間が嫌になったからだ。腐敗した政治に、給料が高いくせに働かないおっさん、点字ブロックの上に自転車止めるババア、口喧しく路上でギター片手に喚く小僧、あまり俺の給料が高くないことを知ると音信不通になった合コンで出逢った女

我が物顔でそびえ立つビル、おかげで生乾きで結局乾燥機にかけなければならない洗濯物、安い造りの癖に高い管理費をふっかけてきたアパート。朝からいちゃつく上階のカップル。

etc…


うんざりだ

全部吹っ飛ばす。綺麗にしてしまおう。


いいじゃないか。誰も彼も人生があって大切な人がいたりするが、俺自身にはそういう風に接してくれる人はいなかったし、これからもいないだろう。

それに天涯孤独だ。

俺自身も一緒に吹っ飛べば加害者死亡で世間はどうとでも流すだろう。一時献花台もできるかもしれないし、マスコミで俺の人格分析やなんやらするかもしれんが、知ったことではない。


俺も含めてうんざりだ。


やれないことはない。

大抵考えれば出来る。出来ないときはまた考えればいい。

線香花火位の規模から始め、少しづつ規模を大きくし、

大きくするにつれて色んな問題も出たが考えて対策し

出来上がるまで60回の試作と精神的忍耐を費やし

おそらく理論値では街の一区画は更地にできるほどの規模を持つ

爆弾を作ることができた。と思う。

こればかりは試験は出来ないが、おそらく十分な威力だ。

60回も忍耐強く関わったおかげで流石にやり遂げたときは充足感が湧き上がった。

正直もういいかもとも思った。


だがまだだ。なんとなくこのままスイッチ入れてドカンでは味気ない気がする。

なんとなく最高の米を最高の手間をかけて完璧に炊き上げたが、もう一品何かほしい。ご飯のお供がほしいような気分だ。

どうせなら…


そういうことを思いながらダラダラと日常を過ごしていたとき

テレビのロードショーでやってた

市内に仕掛けられた爆弾をベテラン刑事が血眼になって探す映画を観て(これだ!)と尻から目にかけて電気が走った。


刑事が駆けずり回り爆弾を探す→様々な謎解き→その果てに爆弾を見つける→俺参上→もみ合いの果てに時間制限が迫る→刑事脱出→俺爆死


郊外の工場だったら

*市民に被害はなし

*俺はこの世からおさらば

*刑事は英雄


常々思うのだ、誰でもよかったとか世間を騒がしたかったとか…

犯人に反吐が出る。

同情なんか誰がするか。

騒ぎを起こせば境遇や何やら黙って聞いてくれるとでも思うのか?俺は悪くない。世間が悪いんだ!とか

人生生きてれば一人や二人ふっ飛ばしてやりたいと思うことがある、だけど『人間』はふっ飛ばさないし飛ばせない。その人にも大切な人がいるかもしれないと思うからだ。

弱い人間を見繕ってやるなんて絶対駄目だ。

俺の顧兼に関わる。目指す終幕ではない。


巻き込むようで巻き込まない微妙な塩梅で演出するんだ

誘導して被害は最小限に

しかしドラマティックに!演出:俺 助主演:俺 だ。

素晴らしい!


早速創り上げた爆弾に細工を追加する。

…威力がデカ過ぎる。しかし、計画をやめる訳にはいかない。



ロケーション設定、謎解き、主演となる『刑事』役の選定…

etc…

これを完了するのに6年の月日が流れた。


その間、

胡散臭い探偵気取りの外人が家に来たり、

反吐が出る無差別野郎をバイクで追い回したり、

家出少女を拾ったり、大人になるまで世話をしたり、就職が決まり初任給で食事を奢ってもらったり、義父をぶん殴ったりして警察に捕まったりしたが、

概ねバレずに進めることができた。ヒヤッとしたところもあったし、随分と時間がかかったが…


ソファーに座って段取りを思い返す。

…我ながら完璧だ。

偽装も完璧。誰が、この俺が計画を進行してると思うだろうか?

唯一心残りなのは、刑事役は本物の刑事が良かったのだが…

まぁ結果として刑事より相応しい人物と出逢えたので結果オーライだ。


充足感が身を包む

今日はぐっすり寝て、明日には決行しよう。

電気を消して床につく。


翌朝

受話器を上げて番号を入力する。逆探知出来ない自前の特注品だ。勿論ボイスチェンジャー付きだ。

しかし、シナリオは用意しているが、俄に緊張してきた…


数コールしてるが出ない…

いい加減焦れて来たところで

「あのね!ちょっとしつこいよ!それどころじゃないんだよ!」

「あ…あのぉ」

「何あんた!…あんた?あなた?喉壊した?変じゃね?」

「いや、これ」

「あーーわかった!平松さんでしょ?!ちょっとね今全員出払ってて大変なんだよ!わかる?切るね!」

「ちょっ!ちぃっtまって…どうしたんです?」

「爆破予告ですよ!ば…あれこれ言っていいだけ?助役ー…ちょっとね聞いてくるんで、待っててもらえます?」


バタバタとそのまま席を外したらしい…

想定外だ…爆破予告が言えない…

電話にでてくれる相手が本当に社会人かわからない奴がいることも想定外だ…

どうしよう…

しかし…

聞きづてならんことだ。計画の練り直しが必要だが

こんなしょうもないことで台無しはゴメンだ

近場なので訪ねて事情を聞いて速やかに問題を解決しなければ


どちらにしろ計画は練り直しだ

完璧なシナリオに修正はげんなりするが

6年も費やした。今更1日2日どうということもない。

行動が早ければ早いほど良い。


受話器を静かに置いて

身支度をする。

しかしなんだ、6年の間に家が、変わって静かになったし上司も飛ばされなんとキレイな部屋になったことか…

「だがまだだ」

愛用のライディングブーツに足を通しながら呟く


「爆破予告を言わせてくれ」


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