何で怒るの?
「疲れた……」
「うん……少し休むの……」
僕らはラスボスである先生の猛攻を逃げながら反撃して、どうにか時間までやり過ごした。
先生は暴れてスッキリしたらしく、笑顔でダンジョンに戻っていった。
僕と地味子はバスで学園まで戻り、とっとと家に帰宅した次第である。
「わふん! わふん!」
「ばうばう!」
ポメ子とパグ太が居間で座り込んだ僕たちの周りを駆け回っている。
「よしよし……散歩行きたいのか? 少し時間が早いけど行くか?」
「わん!」
「ばう!」
「……ついでに本も買いたかったし、出かけるの」
地味子はパグ太のお腹をさすっていた。
僕らは一緒に出かけることにした。
いつもは公園とか海に行ってるけど、今日は街まで散歩することにした。
街にはドックカフェもある。
書店は順番に入って、一人がわんこ番をすることにした。
ドッグカフェにいるとポメ子とパグ太達は意外と大人しい。
元々ポメ子は人見知りする質だから、パグ太と仲良くなった事自体珍しい。
パグ太もどうやら人見知りするわんこのようだった。
僕らは厚切り肉ハンバーガーを食べながらこれまでの反省会を行った。
地味子のお口はちっさいから少しずつしかハンバーガーが食べれない。
思わず可愛らしいと思ってしまった。
顔の表情が緩む。
「えっと、無事引っ越しもできて、住所も知られてない。ランク試験も多分大幅に上がるだろう? 今のところ問題はなさそうだね? 最上階まで行かなかったから、多分10以内は入ってないはず……うん、大丈夫なはず……」
「そうね。とっても自由でのびのびの生活なの。パグ太も友達ができて喜んでるし……新堂には感謝するの」
地味子がペコリと頭を下げた。
「いやいや、僕も黒井には色々助けられたからな! お互い様だ。このまま充実したわんこ生活を送るぞ」
「ばう!」
「うお! お前が返事するか! はははっ!」
「ふふふっ……」
地味子が珍しく笑っている。
本当に今の生活になって良かったんだろうな。
僕も嬉しくなってきた。
僕たちはのんびりとテラスでご飯を楽しんだ。
「ん。じゃあお願いね?」
黒井が僕にパグ太を預けて、書店へ入っていた。
ポメ子とパグ太は疲れたのか、その場でおとなしく座って休んでいた。
僕は今回のランク戦について考える。
――まさか生徒会長と戦う羽目になるとは……やっぱり勝ったのはまずかったよな……
先生も完璧僕たちの実力を知っている。ていうか、親父と先生はどこで繋がったんだ?
もしかして親父って未だに、ハーレム野郎なのか?
三枝先生って明らかにヤバいだろ……
意識的に口調を変えたり、中2のすることだろ……
僕の変な子から好かれる体質は親父譲りなのか?
今回のランク順位は来週終わりに発表だ。……新学期だから今までのランク順位が一新される。
僕も地味子と同じEランクだった。ランクはA~Jランクまである。
ランク試験の成績で得られるポイントが決まり、ランクも決まる。
……会長って生徒ランク7位なんだよな。……途中で調整のため、お宝を捨てまくったから大丈夫かな……
僕はそんなことを考えていると、ポメ子が唸りだした。
「ぐるぅぅぅぅ……」
「あ、ちょっとなんでいつも唸るのよ! このバカ犬! お、お兄ちゃん!? こんなところで何してるの!」
麗しの妹が友達と一緒に現れた。
僕はポメ子をなだめる。
「よーしよしよしよし……」
「はっはっは!」
簡単に上機嫌になってくれる。
ちらりと店内を見る。
地味子はラノベコーナーの前で真剣に悩んでいる。
もう少し待ってあげるか。
スマホを取り出して、小説の執筆をしよう!
ポメ子が主人公の話だ!
異世界に転生されたポメ子は女神様からチートをもらって、大活躍!
なぜか悪役令嬢に仕立て上げられ、虐げられていたパグ太を助けて恋に落ちる!
おお……悪くない……
僕は高速でスマホをポチポチし始めた。
「ちょっとお兄ちゃん! 無視しないでよ! なんで勝手に出ていったのよ!」
妹が僕の手を掴んだ。
「あれが栞の兄貴? へー、地味だね」
「うん、地味だね」
「わんこ可愛いね!」
僕はキョトンとしてしまった。
「え!? だって出てって欲しいって提案したのは栞だよ? ちょうど良かったと思って、親父にお願いして一人暮らしを決意したんだよ? なんで怒るの?」
栞がプルプル震えだした。
「だ、だって……家の場所わからないんだもん……お、教えなさいよ! どうせ家事できないでしょ? わ、私がチェックしてあげるわよ!」
地味子が書店から出てきた。
数冊の本を抱えて、ホクホクとした顔をしている。
「……新堂。誰?」
「ああ、妹だ。お前のところの兄貴みたいなもんだ」
「……パグ太達みてる。本屋さん行くの」
「おう、ありがと! 黒井すぐ買ってくるから待ってな」
「お、お兄ちゃん!? 話し終わってないよ! 住所教えなさいよ!」
「……」
地味子が書店の中まで追いかけてこようとする栞をブロックした。
「ちょっとあんた邪魔よ! どきなさい! お兄ちゃんと話せないじゃない!」
「……」
僕はそのまま書店に入って本を物色し始めた。
数分で書店を出ると妹はいなくなっていた。
地味子はパグ太たちのお腹をさすっている。
「お待たせ。……あいつはすぐ帰った?」
「友達にせっつかれて帰っていったの」
「すまん……ありがとう」
地味子は首を振る。
「問題ないの。でも不思議、あの子は自分が悪いと思っているのに、なんであんな口調になっちゃうの?」
「ああ、ツンデレってやつか……わからん。僕に好意を持ってくれているのに、キツイ口調でしか表現できない。……昔はもっと酷かったけどね……」
「……住んでる世界が違うの」
「ああ」
パグ太が僕の足に擦り寄ってきた。
「ふふ、慰めてるの」
「おう、ありがとな!」
僕はパグ太の頭をわしゃわしゃした。
「ばうー! ばうばう!」
「よし、今日はお疲れ様会だ! 食材は家にあったな?」
「うん、煮物作るの」
「お、じゃあ僕は魚でも焼くかな?」
僕たちはポメ子たちを抱いてゆっくりと夕暮れの街を歩く。
二人で献立を話し合いながら、後ろを気にする。
僕らは尾行者を撒くため、一瞬姿を消して家に帰ることにした。
********
私は呆然としてしまった。
だっていきなり消えるんだもん!
ていうか、お兄ちゃんの隣にいた地味な子は誰?
せっかくあのうざい京子さんがいなくなったと思ったら……
とんだ泥棒猫ね……
お兄ちゃんはなんで私の言うことを聞かないの!
私は家族で可愛い妹なのよ!
べ、別にあんなお兄ちゃんの事はキモいとしか思ってないけど、もうちょっとチヤホヤしても良くない?
……はぁ、私って可哀想な妹。
昔のお兄ちゃんは本当に地味でキモかったな……
京子さんに彼氏できてからお兄ちゃんは変わっていった。
お兄ちゃんはすごくかっこよくなった。
自慢のお兄ちゃんになった。
少し優しくしてあげようと思ったら、お兄ちゃんはつれない態度を取ってくる。
――ムカつく。
だからキツイ口調しかできないの……
それぐらい感じ取ってほしいな!
私は悪くないんだから!
ていうか、どうせ私の事が大好きだから冷たい態度を取るのね?
ほんと空気読まないお兄ちゃんなんだから。
プンプン!