表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

勝手に期待して落胆? はあ……



 30分



 ダンジョンの入り口を抜けると、そこには無機質な廊下と扉が広がっていた。


 僕らは無駄口を叩かず、気配を消しながら移動した。


 ところどころにある監視カメラ。


 どこからとも無く、生徒達の悲鳴が響く。

 試験はもう始まっているのだ。




 地味子の身体が一瞬消える。


 僕がナイフを上に投げて、素早く銃を撃つ。


「ぐえ……」


「マ……ジかよ……」


 地味子は奇襲しようとした魔物(先生)の背後を取り、瞬時にナイフで倒した。


 僕は天井に潜んでいた魔物(傭兵?)の首すじにナイフをぶつけて怯ませ、銃で倒した。


 僕らは頷きあって手でサインを交わす。


 ――ここは戦場だ。僕らの生活費を稼ぐための場所だ!


 僕らは5分後に集合ということで、散開した。






「うおぉぉーー!? なんだこいつ!?」

「ムギュ……」


「やっちまえ! あいつは一人だ!」

「下級生だ! 撃ちまくれ!」


 敵役の魔物以外でも、生徒達が襲いかかっている。


 僕は冷静に銃で対処する。


「な、なんだ! あ、俺死んじゃった!」

「み、見えないぞ!?」

「どこだ! どこにいる!? 卑怯者め! 痛!!」


 僕は気配を消しながら次々と敵を仕留めていった。





 地味子と合流する。


 ――5人と3個の宝石。


 ――6人と2個の宝石なの。


 僕らは戦果を報告して、上の階を目指した。




 22分


 2階のダンジョンの構造が見えてきた。


 この階は不規則に扉の位置が変わる事がある。

 来た道が塞がれたり、いきなり壁が出てきたりする。


 これは面倒だ。

 僕と地味子は戦わず最速で最上階を目指す事にした。


 2階から、魔物(傭兵)の強さが上がってきた。

 だけど、見つからなければ問題ない。


 僕らはこの階を最速で駆け抜けた。





 18分


 いきなり大きな部屋に出た。


 部屋は学校の教室を模して作られていた。

 黒板になにやらこの部屋についての説明文と古代文字が書かれている。


『脱出したければこの部屋の謎を解き明かせ!』


 悩むほどの問題ではない。

 僕たちは一瞬で答えにたどり着いた。


 ……僕と地味子は、部屋の隅にあったカーテンを同時に引く。


 黒板が大きく開いて、次の階段が現れた。




 16分



 僕たちは順調にダンジョンを攻略していった。

 子供だましの脱出ゲームも次々と解いていく。

 迫りくる魔物を冷静に葬り去る。

 略奪を狙う生徒達をスナイプする。




 ――確か説明ではダンジョンは5階まであるはずだ。


「そろそろ撤退の頃合いかな? どう思う?」


 地味子は辺りを警戒しながら考え込んだ。


「……基準がわからないの。この階の魔物を殲滅したら退場してもいいと思うの」


「そうだね。じゃあ最後に狩り尽くそうか! ……でも気配感じないんだよね」


「……魔物がいない。……生徒はほとんど脱落したと思うの」



 ――!?





 僕らは同時に横っ飛びをした。


 すかさず射線に向けて銃で応戦する。


「いたたた!」


 そこには仲間を盾にして銃弾を防いだ生徒会長が仁王立ちしていた。


「ふん、反応が早いな……おかげで一人ぼっちになってしまったぞ?」


 後ろから金髪ツインテールの後輩が顔を出した。


「会長! 私のグループもまだいますよ! ……私以外全滅しちゃいましたけど!」




 15分




 僕と地味子が目配せをする。


 ――どうする? もう十分ポイントを稼いだよな?


 ――クラスの上位は超えているはずなの……念の為倒す?


 ――いや、撤退しよう。生徒会長はトップクラスだ。倒したら後が面倒だ。


 ――了解。




 僕らは手を上げながら戦意が無いことを伝えた。



「降参です……」

「……なの」



 生徒会長は不満げな顔をしている。


「あら……せっかく面白くなってきたのに……いいの? 私に勝ったら好きにしていいのよ?」


「やった! これで先輩を弄べる!」


 ――そんな約束してねーよ。……とりあえずこれでいい。十分ランクを上げられただろう。


「はぁ……今後のためにあなた達の力を見極めたかったけど仕方ないわね……」


「大丈夫ですよ! 新堂先輩は私が守りますよ!」


「……新堂、お前らはもう退場しろ、私は冷めた」


 ――勝手に期待して、勝手に落胆する……自分勝手がすぎるな……まあいい、我慢するんだ。






 生徒会長は捨て台詞を吐いた。





「家に帰って、スマホで見ていたブサイクな犬の世話でもしていろ。私は最上階をめざ……!?」

「あ、確かにあのわんちゃんブサイクでしたね! ぷぷっ……!?」





 ――ポメ子の事か? コイツラはポメ子を馬鹿にしたのか? ポメ子を馬鹿にしていいのは僕だけだ。


 隣にいた地味子が僕の袖を強く掴んでいた。

 こいつの気持ちが伝わる。


 ――ポメ子のためにムカついてくれてるのか……


 僕は思わず地味子の頭をポンポンした。


 地味子は深く頷く。


 僕と地味子の気持ちがひとつになった。




 13分




 生徒会長たちは僕らの様子が変わったのを感じ取っていた。


「はははっ! まさか犬ごときでやる気を出すとはな! 面白い……行くぞ! は、速い!?」


「ふえ!? み、見えないです! で、でも私は銃器に愛されしヒロイン! ま、負けない!」





 僕は一瞬の隙をついて、廊下の壁を縦横無尽に飛び跳ねて会長へ迫る。




「くっ! 撃ちまくれ!」

「はい! できる女と……きゅぅ……」



 陰から這い出た地味子が後輩の首を強打する。



 生徒会長は持ち前のフィジカルで地味子の魔の手から逃れた。


「くそ! 適当にからかって倒す予定だったが、これほどとは……」


 生徒会長は狭い廊下を後退しながら僕に銃撃を放つ。

 僕には当たらない。


 徐々に距離が詰まる。


 僕と生徒会長の距離が30センチまで縮まった。



「!?」



 間髪入れずナイフで応戦しようとする生徒会長。

 流石に高い判断能力と身体能力を持っている。


 僕はかわしながら銃撃を放つ。


 会長は身をひねりながら、パンチで僕の銃を落とそうとする。


 銃を上に放り投げて腕を掴んだ。


「くっ!」


 会長はその場で前蹴りを放つ。


 会長の綺麗で重たい蹴りが僕の顔を掠める。

 もう片方の手で銃撃を放つ会長。


 ――悪くない攻めだ。だけどポメ子を愚弄した罪は重いよ!



 ナイフで銃撃を全て弾いて、会長へ向けて跳弾させた。


「――な!? ぐっ!」




 落ちてきた銃を掴み取り、会長の()()に押し当てる。



 僕はゼロ距離で無慈悲な連射をした。



「ふぉあああああああぁぁぁぁぁーーーー!!!」


 会長の変な悲鳴が響いた。


 会長は痛みに耐えきれずその場で倒れてしまった。






 地味子がいつの間にか僕の横にいた。


 僕らは顔を見合わせると、ハイタッチを小さくする。

 心なしか地味子の表情が晴れ晴れとしている。


「……倒しちゃったね」


「仕方ないの。ムカつく女にはお仕置きが必要なの」


 会長が苦しそうにピクピクしていた。


「はぁ……はぁ……わ、私に……こんな仕打ちを……身体が熱い……新堂……今日の事は……一生忘れないわ……」


 僕らはドン引きだ。


 とりあえず退場するためにその場を離れて、監視役の先生を探すことにした。






 6分




「せんせーい! 新堂グループは体力の限界により退場します!」

「……します!」


 すると、三枝先生が扉からひょっこり現れた。


「えーー! なんで!? せっかくだから最上階目指してよ! これからボスキャラ(SAS)が現れるんだよ! ここまで来れた生徒は一握りなんだよ!」


「体力の限界です」

「……です」


 僕らは露骨に疲れているアピールをした。


 先生は呆れた顔をしている。


「はぁ……せっかく少しは真面目にやってると思ったら……継続できるのにしないのは超減点だよ? 君らの生活費が稼げなくなるよ?」



 僕らの眉尻がほんの少しだけ上がった。



 ――何故それを知ってる。


「先生は何でも知ってるよ! 新堂君のお父さんかっこいいもんね……先生大好きだよ……ふふ、ふふふふ……」


 ――親父! どんだけフラグ立てるんだよ!


 僕らが黙っていると先生は口に指を当てて考えていた。


「うーん……じゃあさー、最上階に行かなくてもいいからさー、せっかくだからラスボスと戦わない? 全然出番ないのよ……。戦ったら減点しないよ! 加点されるのが嫌だったらしないよ!」


 僕らは学園の先生には逆らえない。

 仕方なく頷いた。





「オッケー! じゃあ登場して下さい!」


 扉から屈強な男たち(魔物)が出てきた。


 全部で4人。


 先生の後ろに整列した。



 先生が不敵に笑う。



「手加減したら殺すよ? じゃあ、ラスボス役……アラサー独身超絶美人の三枝千香子さえぐさちかこと愉快なイケメン達!……てめえら行くぞ……ガキ共をぶち殺すぞ! 合コンの憂さ晴らしだ!」


「「イエスマイマム!」」



 ――マジかよ!? でも加点されないなら……




 地味子は僕の手を掴んだ。


 不意だったから、少しだけドキッとしてしまった。

 小さな手はとても柔らかかった……


 地味子は少しだけ、ほんの少しだけ顔を赤くしながら僕の手を引いて全力疾走をした。


「……あれはヤバいの……時間まで逃げ切るの」


「お、おう」


 正直、上の空だった。


 ドキッとしてしまった自分に驚いてしまった。

 ……大丈夫。僕は地味子の事を仲間だと思っている。大切なわんこ仲間だ。




 恋愛なんてしたくない。

 ドキドキなんてしたくない。




 僕らは手を繋ぎながら廊下を疾走した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ