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誰だっけ? ランク試験!


 僕らはランク学園が手配してくれたバスに乗っていた。

 これからランク試験会場へ向かう予定である。


 地味子と二人暮らしをする事になって、僕らは少し浮かれていたのかも知れない。地味子との共同生活は順調そのものだった。これから始まるランク試験を軽く考えていた。





 僕と地味子はバスの先頭席に座っている。

 後ろはもちろんリア充グループが占拠している。


 神埼さんと京子がいがみ合っている声が聞こえる。


「きゃは! 神埼さんまだ男と手を繋いだこと無いの〜。そんなビッチ風の見た目なのに〜」


「くっ……わ、私は清純派で通ってるんだ!」


「気になる男の子にアプローチもできない初心な女子ね〜。くすくすっ!」




 ……うるさいな。




 地味子もほんの少しだけ眉をひそめていた。


 僕らはポテチを食べながら先週行われた、月中間試験の出来を確認していた。

 月中間試験の後に大体ランク試験がある。


「一応、僕は満点にならないようにしたよ。流石に急上昇は怪しまれるからね」


 地味子はパグ太に似た小さなぬいぐるみを手で遊びながら頷いた。


「うん、私も適当に間違えておいた。満点じゃないの」


 少し誇らしげな表情だ。


「中間試験は少ししか影響ないからね。このくらいで大丈夫だろ? ……問題はランク試験か」


「……全校生徒合同で行われるから厄介なの」


 そう、ランク試験は全校生徒一斉に行われる。

 頭脳を競う時と体力を競う時がある。

 もしくはその両方か……




 今回のランク試験は特殊であった。


「……ダンジョンってなんだろうね?」


「……わからないの」


 よくゲームにある『ダンジョン』を模した施設を攻略するのが、今回の試験のようだ。


 お宝(ランクアップ宝石)と魔物(先生方とプロの傭兵……)と迷宮(脱出ゲーム)を乗り越えて、最上階を目指す試験らしい。


 生徒達は大喜びだ。

 ゲームみたいで楽しそう! と、のたまっている。


 ――いや、おかしいでしょ!? 僕たち学生だよ? 勇者目指してるわけじゃないんだよ? そんなのどこぞの転生勇者に任せてよ!


 ちなみに、この試験が終わったらダンジョンはどっかの企業に売りつける予定らしい。


 僕と地味子は同時にため息を吐いた。


「……先行して試験を受けたグループの結果を考慮して、程々に攻略しよう」


「そうね。とりあえず20〜30位になればいいの」


 僕らはそれっきり会話を止めて、自分達が持ってきた本を読み始めた。


 いつも通りの時間が二人に流れる。



 「あれ、あいつら何か良い雰囲気じゃね?」

 「モブグループじゃん? どうでもいいよー」

 

 「し、新堂……ま、まさか」


 「なによ……あのぽっと出の地味な女……やっちゃうわよ……」


 

クラスメイトの喧騒を無視して、僕と地味子はただひたすら本を読んでいた。










 試験会場に着くと、森に囲まれた工事現場のようなところに、校舎よりも2回り小さい白い建物があった。


 白い建物は入り口が9箇所ある。

 

 どうやら、この近代的なビルがダンジョンという代物らしい……





 三枝先生は生徒達を集めてダンジョンについて説明をしていた。


「いい〜? 今回の試験はいつもどおり単純だよ! ただダンジョンに潜ってお宝をゲットして敵を倒して迷宮を攻略するだけ! 最上階まで行ったら特別ボーナスだよ! でもでも時間制限があるから気を付けてね!」


 生徒達から歓声が湧いた。



「まじで! 俺ゲーム大好きだから今回は自信があるぜ!」

「私も私も!」

「敵って何?」

「宝箱を開けつつ最上階を目指す……」



 先生は説明を続けた。


「制限時間は30分! 強制的に退去させるからね! 敵にやられても退場だからね。……各クラス1組が同じタイミングでダンジョンに入るよ。入り口は別々だから安心してね! ……でも他のグループを倒したら、特別ボーナスとグループが持っていたお宝を強奪できるよ!」


 先生は嫌らしい笑みを浮かべた。


「みんなガンガン殺し合ってね! 採点役と監視役の先生がこっそり見てるからね! あ、一応救急隊も呼んでるから安心してね!」






 というわけで僕たちに武器が支給された。

 特殊な銃とゴムナイフを一丁ずつ。

 制服の上には攻撃判定されたことがわかるジャケットを着ることになった。


 攻撃耐久回数は3回まで。


 3回攻撃を受けたら退場になる。

 ジャケットが判別してくれるらしい。


 明確なルールは無い。

 ……妨害も略奪も規制してない。全て自己責任となる。



 僕と地味子は4番目の出撃となった。






 僕と地味子は隅っこの方で日向ぼっこをしながらポメ子とパグ太の写真を見せ合いながら時間を潰していた。


 試験を終えた生徒は、公正を期すためにすぐさまバスで帰らされていた。


 ――基準がわからなくなってしまった……





 そんな僕らに近づく足音が聞こえた。

 僕らは茂みと同化しているので、こんな僕らを見つけられるとしたら……


「新堂、久しぶりだな! お前の愛人、二階堂文枝が来てやったぞ!」


 うちの学園トップクラスの生徒会長様であった……


 あれ? 横には小さな人影が見える……

 見たことあるような……無いような……


「せ、先輩!! ミチルの事忘れてませんか!! ミチルです!  可愛い後輩のミチルです!」


 ……ああ、顔が思い出せなかったよ。


 僕と地味子は騒がしい二人を無視してスマホをいじっていた。


「すいません、今超忙しいので……」





「おいおい、スマホで犬の写真を見てるだけじゃないか! ……全く、せっかく宣戦布告をしようと思ったのに……」


「そうですよ、会長! ガツンと言ってやって下さい!」


 ――あれ? こいつら知り合い?


「あ、先輩が不思議そうな顔してます! なんとミチルは生徒会書紀にジョブチェンジしました! 二階堂先輩に誘われてました。……いや〜、できる女と評判のミチルは……」


「……うるさい、少し黙ってなさい」


 後輩がシュンとした。


「す、すみません。調子乗ってました……」


 生徒会長が後輩の頭を優しく撫でる。


「こいつはこう見えて優秀な人材だ。……まだ入学したてだが、今回のランク試験は良い線行くだろう」


「はい! できる女と評判です! ワイルドにアームがうなります!」


 ――クソうぜぇ。


「三枝から聞いたぞ? 少し本気を出したんだな?」


 僕と地味子は顔を上げた。


 黒髪で長身中肉むっちりの生徒会長と、金髪ツインテールで小柄で貧乳な後輩が不敵な笑いをしながら立っていた。


 ――イラッとする笑いだ。


「……たまたま試験の山があたっただけですよ。……今回のダンジョン試験はどうなるかわからないです……」


「ふふ、そうか。楽しみにしてるぞ! 同じ4番目の出撃だ。……もし私を倒せたら何でも言うことを聞くぞ? お前の妄想の中のあんな事やそんな事ができるぞ!」


「あ、ずるいです! 私も同じ出撃です!  じゃあ、私は私は……私が勝ったら先輩を好きに弄びます!」


 ――勝っても負けても駄目じゃね―か!


 僕が文句を言う前に二人は笑いながら颯爽と立ち去ってしまった……





 僕と地味子は顔を見合わせた。


「あいつらおかしくね? 僕そんなに知り合いじゃないよ?」


 地味子は少し考えて口を開いた。


「……多分……世界が自分中心で回っているの……自分が主人公と思っているの……」


「なるほど……確かに能力は高いけど……もっと一般常識を知ろうぜ」


「駄目、あの手の輩は言っても聞かない。自分の都合の良い風に捉えるだけ」


 地味子のひどく実感が籠もった言葉だった。


 ――こいつも色々大変だったんだな……


「よし! どうせほどほど上位に入んなきゃいけない! 憂さ晴らしするか!」


「……うん、さっきの奴らちょっとムカつくの」


「あ、そう言えば地味……黒井の兄貴は?」


「……けっ、あいつは最初の組。もう終わって帰宅しているはずなの」


「そ、そうか……さっさと試験終らせてパグポメ家に帰ろう。あいつらが待ってる」


「うん、早く顔を見たいの……」


 僕らは時間になって、会場に向かう事にした。




 ダンジョン試験。

 通常の試験とは一味違う。


 地味子がどれだけ動けるかわからない。

 だが、普段の動きを見れば一目瞭然だ。


 こいつの歩き方は凄まじい。

 全く音がしない。


 なにも使わずに気配を消せる。

 僕以外、認識ができなくなる。


 立ち姿が美しい。

 まるで一流の芸術品だ。


 感情が少ないかと思ってたけど、小さな表情には沢山の感情が込められている。

 




 僕は思わず地味子に声をかけた。


「黒井、やるぞ」


「……殲滅するの」


 僕らは珍しく静かに闘志を燃やしていた。


 それは青い炎だ。


 見えづらい。


 でも触るとヤバい。


 


 こうしてランク試験の幕が上がった。




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