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引っ越しってワクワクするよね


 深夜、僕は親父と二人で晩酌をしていた。

 僕のコップにはドクターペッパーが入っているけどね。


 親父が手酌で日本酒を注ぎながら熱く語っていた。


「そうか……電話があった時は驚いたが、一人立ちしてもいい年だからな……成長したな……」


 妹からの提案のあと、僕はメールで『息子一人暮らしの企画書』を添付して送った。

 その後、電話がかかってきて、いきなりのプレゼン、そしてヒアリング、無事親父の了承を得ることができた。


 そこからが早かった。どんだけ僕を追い出したいんだってくらいの勢いだ。

 わざわざ午後半休とって、契約に必要な書類を集めて、物件の内見、契約をしてくれた。


 地味子はすごく助かった表情をしていた。

 子供だけじゃ賃貸は借りられない。地味子は地味子なりの理由で親をどうにか説得したらしい。

 詳しく聞いていないけど、家出まがいの事はしない子だ。


 こうして僕たちの『パグポメ家』が手に入った。

 ちなみに……家賃は月20万円だ。


「お父さんもな、学生の頃一人暮らししてたんだぞ! モテモテでいつも女子が集まっていてな! はははっ!」


 僕は知っている。

 親父は学生の頃、病んでる女子に好かれる質だった。

 ……お母さんはその頃のハーレム要員の一人みたいだ。

 お母さんの闇日記に書いてあった。


「で、ポメ子はお前にしか懐いていないし、どうせお前が連れてくだろう。……しおりはどうする? 連れてくのか?」


「いや、無理でしょ? あいつは僕の事を嫌っていたでしょ?」


 中3までは、妹の僕に対する扱いは最悪だった。


 僕が勉強し始めたり、運動をしたり、自分を磨いていたら、急に僕に馴れ馴れしくなってきた。


「……そうだな。あいつも兄離れが必要だな。ふぅ、今後は俺たちも少しは早く帰るか。……とういかお前、生活費大丈夫か? お前の要望通りの物件だから少し割高だぞ? 一応お前用の貯金があるから使うか?」


 いくら放任でも親は子供を心配している。

 ありがたい話だ。


 でも僕はもう17歳。


「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。僕は学園の現金支給で生活できるようにするよ」


 親父は少し泣きそうになっていた。


「う、うう……慶太は立派になって……お父さん嬉しい……」


「ほら、親父、泣くなよ。絶対親父より稼いでやるよ!」


 そんなこんなで僕と親父のお別れ会が終わった。






 というわけで、今週末に家に引っ越す事にした。

 家族とは別れの挨拶はしてきた。


 なぜか妹だけは僕の一人暮らしを反対してたけど、母さんが「こっそり遊びに行けばいいのよ」って言ったらご機嫌になっていた。


 というか、住所が書いてある資料は僕が全部もっているから、親父に聞かない限り場所はわからないはず。結構入り組んでいる道だからね。

 親父には昔のヒロインズの事をネタに、家の場所の記憶を消してもらった。






 僕と地味子が、ポメ子とパグ太と共に家を見上げる。



 そこにある一軒家は日本家屋であった。

 今どき珍しく平屋で、一階しか無い。


 ちゃんと現代式の設備に変えていて、住みやすくなっている。


 玄関に入ると和室がある。

 ダイニングとして使えそうだ。

 その奥にはキッチンがあり、キッチンの横にはトイレと大きなお風呂。

 両サイドには和室の部屋がある、ここが僕らの個別の部屋になる。

 縁側があって、大きな庭がある


 ポメ子とパグ太は早速部屋を走り回っていた。


「わふん! わふん!」

「ばう! ばう!」


 しっぽフリフリですごく楽しそうだね。


 僕と地味子はそれを見ながら、宅急便で送られてくるであろう荷物を待っていた。






 のんびりとした時間がすぎる。

 荷物はまだ来ない。

 午前便で届くはずだからもうすぐだ。


 地味子は本を読み始めていた。


 僕はタブレットを開いて、書きかけの小説の続きを執筆する。


 和室ということもあり、時間の流れがいつもよりもゆっくりに感じる。


 僕らは無言だけど、お互い気を使わない。


 話す必要が無い。





 僕は小説を書きながら色々考えていた。


 京子や妹、生徒会長、後輩、神埼さん達はなぜ僕にかまってくるのだろう?

 僕は地味に生きたい。




 確かに、京子に間接的に振られてから、自分を磨こうと努力した。

 その結果、なぜか付きまとわれる人が増えてしまった。





 京子のあの時の言葉はツンデレとか照れてるっていう感じでは無い。ガチめだった。本当に信じていたからショックだった。いまさら距離を縮められても迷惑だ。



 妹は、僕が陰口を聞いてしまって以来、僕にずっと心を抉るような言葉を使っていた。僕が変わったらあいつの態度が柔らかくなった。



 神埼さんは僕がナンパから助けたから意識しているだけだ。以前は虫けらほども気にしてなかったはずだ。




 先輩は僕が仕事ができると認識してから見る目が豹変した。彼女が一番怖い……人を操る能力に長けている。



 後輩は猫を助けたという美談に酔ってるだけの夢見る少女だ。




 みんな僕の表面上しかみていない。

 ……でもそれが普通だろう。


 何故、彼女らは僕に好意を持つ?

 全然接点がないのに? 少ししか喋った事がないのに? 嫌な言葉を浴びせられてるのに? 僕が嫌がっているのに?


 そんな彼女達を僕が好きになるはずが無い。

 もし好きになったとしても、それは……まやかしだ。


 だから僕は絶対変わらない。


 自分を貫き通す!





 地味子が本を閉じた。


 僕がタブレットをスリープしたのと同時だった。


 しばらくして、玄関のチャイムが鳴る。


 僕らは荷物を受け取り、本格的に家の引っ越し作業が始まった。









 結局、家の整理で一日が潰れた。


 僕と地味子が座布団に座って、ローテーブルに並べられてた料理を食べながら、共同生活について話し合った。

 ポメ子とパグ太たちも自分の領域を認識したのか、好きな場所でご飯を食べている。


「まず必要なのはお金」


「うん。私はあと30万しか無いの」


「僕も30万しかない……ということは再来月までは大丈夫だね」


 契約の敷金礼金、家具や電化製品、諸費用でかなりのお金が消えた。

 今月の家賃は支払い済みだ。

 今月末に来月分の家賃を払う必要がある。


 地味子は表情を変えずに言った。


「うん……ランクポイント現金はまとめて引き落とし口座に入れるの」


「どうせ次からランクポイントはグループ制になるからね。2人でまとめてもらえるらしいね?」


 そう、グループになって変わったのが、ランクポイントでもらえる現金は個人では無く、グループ単位で支給される事になる。


「じゃあ、月に必要な経費を算出して、プールするお金も考えて、残りを僕らで分配すればいいね?」


「問題ないの」






 僕は話を進めた。


「……ランク試験についてだね。黒井は今どのくらいのランク?」


「……ランクEの真ん中。成績も真ん中。実技試験も真ん中」


「……僕と一緒か」


 僕らは黙ってしまった。


「どうやって目立たずランクをあげるか……」


「……」


 僕らはしばし考えた。


「やっぱ無理じゃね? どうあがいても目立つよね?」


「……頑張ってステルスするの」


 僕らはため息を吐いた。


「「はぁ……」」


「少しだけ真面目にやるか……」


「うん。10位以内にならなかったら、多分目立たない……」


 僕は引越して実感した。


 まだ一日も経っていないけど、素晴らしい生活が送れそうだ。


 この生活を終わらせたくない。

 地味子もこの家が気に入ってしまったようだ。


 さっき、縁側でお茶を飲みながらポメ子と戯れるパグ太を優しい目で見ていた。

 まるで孫を見るおばあちゃんのようだった。

 ……僕も隣で写真を取りまくってたから、おじいちゃんなのかな?






 珍しくブツブツ言いながら、地味に試験の上位になる方法を考えている。


 背に腹は変えられない。


「確か月曜に今月のランク試験が発表されるよな? あと、通常の月中間試験もあるな」


 月中間試験は毎月15日前後にある中間テストだ。

 これはランクに影響される。


「……うん。仕方ないの。パグ太のために頑張る」


「じゃあ、今回はクラスでトップになるくらいだったら目立たないかな? 確かクラストップランクは20万円位もらえたはずだ」


「それだったら、そんなに目立たないはずなの。所詮クラストップ」


 僕らは少しだけ安堵した。






 その後二人で家のルールやパグ太達の性格や世話にやり方を話し合い、今日は就寝する事にした。

 明日は足りなかった備品を買い足したり、ポメ子と一緒に遊ぶ日だ。


 ……ポメ子とパグ太はとても仲良しになった。


 お互いバカ面が愛らしい。


 あれ、ということはなるべく一緒にいさせた方がいいのかな?

 明日地味子に聞くか……

 今日は流石に疲れた……

 寝よう。


 僕とポメ子は一緒の布団で眠りに落ちようとしていた。





 僕らは全学年トップ10位以内じゃなかったら目立たないと思ってしまった。


 クラストップは全然大した事無いと思っていた。


 当たり前のように全学年単位で話をしていた。


 だって、所詮クラストップだよ? 


 ポイントランキングトップはほとんど3年生だよ?


 自分の常識では他人の常識を測れない。


 僕らはそんな事全然考えずにグースカ寝てしまった。











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