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僕はヘタレだったの!?


「敵襲だーー!」

「美心様がいるぞ!」

「標的がわざわざ来てくれたぞ!」


 屋敷は騒然となった。

 黒井家の私兵たちが迅速に隊列を作り、僕らを捕らえようと動く。


 僕と美心は名残惜しみながら身体を離した。


「黒井レンジはどこにいるかわかる?」


「……あいつはいつも奥の執務室にいるの」


 僕は本気を出す。


 出し惜しみは無しだ。


 ここで完璧に黒井家を潰さないと僕らの穏やかな暮らしに支障が出る。



 警棒を持つ私兵。

 銃器を構える私兵。

 装甲車を操る私兵。



 ――うるさいな。僕は今最高の気分なんだよ。人生初めての告白に成功したんだよ?




 僕は壊れた扉の破片を拾った。

 それは大きな鉄板のような残骸。


 僕はフリスビーの要領で装甲車に向かって投げつけた。



 凄まじい風斬り音が鳴る。


 装甲車が真っ二つになって爆発した。



「ひい!? 敵は爆発物を持ってるぞ!」

「早く撃てーー!」



 僕と美心は走り出した。



 僕らは銃弾飛び交う屋敷の庭を駆け抜ける。


 紙一重でかわす。


 美心は壊れた扉を手に持って、盾にして突き進む。


 僕は襲いかかる私兵をピンボールの様に投げつける。




「ば、化け物だ……」

「お嬢様に当てるな!」

「屋敷の中の連中に連絡しろ! レンジ様の元には行かせるな!」

「……お嬢様、ご無事で」



 屋敷の庭は壊れた装甲車が煙を上げている。

 傷だらけの私兵がそこかしこに倒れている。


 美心が入り口を守る私兵に迫った。


 服の色が違う。


「上級私兵なの! ランカー上位並の力を持ってるの!」


 私兵は素手で美心に迫った。


「美心様、ココから先は行かせません!」

「おとなしく拘束されて下さい! そうすれば……」


 美心は連続回し蹴りを放つ。



「うるさいの! 私は今最高の気分なの! ヘタレな慶太とやっと両思いになれたの! 絶対止まらない、私は慶太と一つになるの!」


 ――僕へたれだったんだ……


 美心の蹴りによって私兵吹き飛ばされた。









「黒井レンジ!」


 僕らは執務室に乗り込んだ。


 レンジが執務室の椅子でくつろいでいる。


 机には様々なモニターが映し出されていた。


 大量の生徒相手に攻めあぐねている三枝先生。


 力尽きて倒れようとしている神埼さん。


 そんな神埼さんを支えている京子。


 銃器で応戦するミチル。


 警察相手に立ち回りをしている僕の家族。


 吠えるポメ子とパグ太。


 レンジは無機質な目でそれを見ていた。


「くくくっ、お前らはもう終わりだ。美心はおとなしく金剛と婚約しろ。新堂君は死刑にするには惜しいな。新堂家ごと私の駒になってもらうか」


「いやだ」


「君が私に勝てる可能性は皆無だ。力の差がわからないのか? 仕方ない」





 レンジが立ち上がった。


 そう思った時には僕の腹に拳が刺さっていた。


「ぐっ!?」


 追撃の肘打ちが頭に降ろされる。


 かろうじて頭をずらしてかわす。


 頭から血が吹き出した。


 レンジの蹴りが僕の顎にあたった。


 僕は部屋の隅まで吹き飛ばされた。





「お父さん! もうあなたは私の家族じゃないの!」


 美心がレンジに蹴りかかるのが見える。

 レンジは美心の足を止めた。



「……そうだな。それは私も同意見だ……もういい。お前は廃棄する。そこら辺の女でも娘にして、金剛家にくれてやるか。……お前は生まれた事を後悔する位の地獄を味わってもらう。おい!」


 レンジが呼びかけると、私兵が飛び出して来た。


 レンジは私兵に命令をする。


「おい、こいつを壊せ。何してもいいぞ」


「え、いや、美心お嬢様ではないですか……」


 レンジが私兵の頭を蹴りつけた。

 私兵は動かなくなった。

 違う私兵にまた命令した。


「お前、こいつの服を切り裂いて蹂躙しろ」


「……む、無理です」


 私兵の喉にレンジの拳が刺さった。




「ふう、仕方ない。私が壊すとするか……」



 レンジが美心の足を持って床へたたきつけようとした。






 僕はほんの少しだけ親の情を期待していた。

 油断もあったかもね。

 もしかしたらレンジは美心を幸せにしたいだけだったのかもしれない。

 そんな風に心の片隅で思っていた。

 でもこいつは正真正銘のクズだ。


 こいつは駄目だ。


 生きていちゃいけない。






 僕は素早く起き上がり、たたきつけられそうになった美心を受け止めた。


 そのまま美心を奪い返す。


 レンジの目が見開いた。


「……私が見えなかっただと? 貴様何をした」


 僕は美心の様子を見る。


「大丈夫? 怪我は無い?」


「大丈夫なの……慶太は大丈夫?」


 僕はピンピンしている姿を美心に見せた。


「はは、全然平気だよ! あんな攻撃効かないね!」


「心配したの……」


 美心、ごめんね。怖い目に合わせちゃって……






 僕は手のひらを顔の前に出した。


 レンジの拳を受け止める。


「なに!?」


 そのまま拳を握りつぶした。


「ぐ……くっ!」


 レンジの蹴りが僕の顔面にヒットする。






 僕はお構いなしにレンジの頭を掴んで床に叩きつけた。


 床がめり込むレンジ。


「がはっ!?」


 僕は馬乗りになってパンチを打ち付けた。


 パンチがレンジの身体を通して床を破壊する。


「ま、まて! ぐはっ……なんだこの力は……」


 僕は特殊な能力を使っていない。

 ただ力が強いだけだよ。


 僕の拳が止まらない。


 連打が早くなる。


 床の破片が飛び散る。


 レンジの顔の形が変わる。


 骨が折れる。


 床がついに壊れた。



 僕とレンジは下の階に落ちる。







 僕はレンジを下敷きにして1階へ着地した。


 コンクリートの塊も一緒に落ちる。


 レンジが立ち上がった。


「ぐふ……き、貴様……ゆる……」


 僕は本気の拳を振るった。


 ブロックしようとしたレンジの腕を破壊する。


 更に連打を繰り返した。


 レンジは必死に逃げようと試みる。


 僕はレンジの足を掴んで何度も床に叩きつけた。

 まるで壊れた玩具だ。


 何度も叩きつけると、靴がすっぽり脱げて、レンジは外まで飛んで行ってしまった。





「ひぃ!? れ、レンジ様!」

「あ、あのレンジ様がボロボロだぞ!?」

「あ、あ、き、来た!」



 僕は這って逃げようとするレンジのあとを追った。


 レンジが血だらけで叫ぶ。


「お、おい! 誰かあいつを止めろ!」


 庭にいた私兵たちは誰も動けないでいた。


「無理だ……」

「鬼がいる……」


 僕は再びレンジの前に立った。


「ひぃ!? わかった、わかった! リミット試験はお前が優勝だ! だからもう戦争ごっこは終わりだ! み、美心もお前にくれてやる! だ、だから止め……ぶほ!?」


 僕はレンジの頭を踏みつけた。


 何度も何度も踏みつける。


 頭だけ地面に埋まる。


 こいつは美心を壊そうとした。


 僕はこいつを絶対許さない。





 それでもレンジは這うように逃げようとした。


「はぁはぁ……絶対許さんぞ……私の力を全て使って……」


 レンジはスマホを取り出してどこかに電話しようとした。


 僕はスマホを踏み潰す。


 


 レンジの頭を掴んだ。


「……おい、お前は今から地獄がはじまる。父さんが来るまでおとなしくしてな!」





 僕は再びレンジの頭を地面にたたきつけた。

 正真正銘の全力を出した。


 衝撃で地面が割れる。


 レンジはついに身動き一つできなくなった。







 美心が僕の所へ走り寄る。


 僕は美心を抱きとめた。


「……美心、ごめんね。お父さんをぼこぼこにしちゃって」


「いいの、あんなのもうお父さんじゃないの……私は新堂家で生まれ変わるの」


「そっか……」


 僕は美心の頭を撫でる。


 周りは騒然としている。




 僕は大声を上げた。


「黙れ! 黒井家はこれでおしまいだ! この家は新堂家がもらい受ける! 文句がある奴はかかってこい!」


 沈黙が広がる。





 これでリミット試験が終了する。


 というよりもリミット試験をぶち壊した。


 ここからが始まりだ。


 僕と美心とポメ子とパグ太の新しい生活が待っている。


 僕は美心の手を取った。


「行こ」


「うん!」


 後処理は父さんにまかせて、僕らは学園に向かう事にした。








 ********





「おいおい、マジかよ。この後始末かよ……ていうかあの状態で生きてる黒井って凄いな……」


 俺はなんでいつもこうなんだ……


 母さんと結婚したくて、六角家を滅ぼした時とそっくりだ。


 冥が俺の腕を取る。


「ふふふ、慶太も頑張りましたね。黒井家の当主は厄介な敵でしたから」


 母さんが俺のもう片方の腕を取る。


「……ちょっと冥? 人の旦那を誘惑しないでくれる? ……慶太は私達の息子よ。黒井ごときじゃ相手にならないわよ」



 あー、俺は隠れて地味に生きたかったのに……

 灰沼家に続いて黒井家も吸収しなきゃいけないのか……


 俺の部下が屋敷を走り回る。


 はぁ……可愛い息子と、新しい娘のためだ。


 父さん頑張っちゃうか。


「よし、このまま黒井家の全てを壊滅させるぞ。頭がいない組織なんて唯のハリボテだ。行くぞ!」


 二人は胸を押し付けて返事をした。





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