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絶対恋愛しない拗らせ男子の青春  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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22/25

みんな優しいね


 僕と美心は手を繋ぎながら学園まで登校している。


 後ろにはポメ子とパグ太がしっぽをフリフリしながら付いてきている。


「わふん!」

「ばうばう!」


 今日の10時から始まるリミット試験。

 試験という名のただの処刑。


 僕らは何も隠さずに素のままの状態で堂々と歩く。


 道行く人が振り返る。


 学生達が何事か、と騒ぎ立てる。


 街のわんこ達が吠えまくる。


「あいつ新堂だよな? え、黒井さんと手を繋いで登校してるよ!?」

「マジで新堂……いや違うだろ! あんなに光輝いているわけ……あれ?」

「わんこかわいいーー!」

「……犬連れで登校? 頭おかしいんじゃね?」

「おい、お前震えてんぞ?」

「お、お前もだぞ? なんだこの寒気は?」







 学園の入り口に近づくと、一台の装甲車が止まっていた。

 栞が車の前で仁王立ちしている。

 父さんと母さんが車の中でいちゃいちゃしていた。


 運転席から父さんが手をひらひらさせて挨拶をしてくる。

 僕も軽く手を上げて答える。


 栞が僕らに近づいてきた。


 栞は近所のお嬢様学園の制服を着込み、編み上げのブーツを装着している。

 手には穴開きグローブだ。


 少し甘えた感じで僕に話しかけてきた。


「……私……素直になる……お兄ちゃんをいじめる奴は私が許さない……」


 今までもツンツンした感じがなくなり、柔らかくなっていた。


 僕は美心と手を繋いだまま、栞の頭をなでてあげた。




 栞の顔が一気に赤くなる。


「――――あ、ありがと……私……今まで生意気でごめん……これからはちゃんと素直になるから……だから……だから……」


「栞……もう大丈夫だよ。この戦いが終わったらまた仲良くしような」


 栞の顔がパアっと明るくなる。


「うん!!」






 気がついたら母さんが美心を抱きしめていた。


「……く、苦しいの」


 母さんは豊満な肉体で美心を包み込む。


「美心さん……私だけがあなたの気持ちをわかるわ……逆らえない家に生まれて、言われるがままに人形のような生活を送って……」


 美心はおとなしく抱きしめられていた。


「……大丈夫。あなたは……もう私達の家族よ。慶太が選んだ娘だもん。……きっと慶太のお父さんみたいにカッコよくあなたを救ってくれるわ! ね、慶太!」


「当たり前だ。美心は僕の大切な……人だ」


「慶太……」



 父さんが車から出てきた。


「……慶太。色々文句もあるが、男が決めた事はやり通せ。てめえは新堂家の長男だ。黒井家なんかに負けるなよ! ポメ子とそのわんこは預かるぞ、それでいいな? 俺たちの方が安全だ」


 父さんが僕の胸を叩く。


「当たり前だ。だって、僕は父さんと母さんの息子だよ? 負けないよ。……それより、ポメ子達を絶対守ってね……」


「もちろんだ、またな!」


「わふんわふん!」


「ばうばう!」






 僕らは学園に入っていった。


 学園が静かだ。


 僕らに視線が向けられているのがわかる。


 敵意。

 好奇心。

 同情。

 憐憫。


 様々な感情が入り混じっている。



 クラス前に着くと、心配そうに神埼さんが走り寄ってきた。


「あ、新堂君に黒井ちゃん! ……なんか学園の様子がおかしいよ? あれ? 新堂君達もいつもと雰囲気が違う!?」



 僕らは簡単に今の状況を神埼さんに説明した。


「ええ!? それってやばくない? あわわ……私、どうすれば……」


 あたふたする神埼さん。なんかほっこりする。


 美心の視線を感じた。


「か、神埼さん、大丈夫だよ。僕らを信じて。とりあえずリミット試験が始まるまで何が起きるかわからない。始まっても、神埼さんは教室でおとなしくしていればいいよ?」


 神埼さんは神妙な顔をしている。


「うん……わかったよ……」


 神埼さんは京子達のところへ向かって行った。






 京子と目が合った。

 無事で良かった。


 事件の処理は全部父さんに任せちゃったからね……


 京子はこっちを見ただけで近づいて来ない。


 ただ、顔を赤くしてもじもじしている。

 高位女子特有の女子に嫌われる女子感が無くて、爽やかな表情だ。


 僕に笑いかけてくれた。

 昔を思い出す素敵な笑顔だった。


 ――良かった。


 また、美心の視線を感じた。






 朝のHRが始まる。


 三枝先生が不機嫌そうな顔で教室へ入ってきた。

 教壇の前に立つと盛大なため息を吐く。


「はぁ……私は結婚したいんだよ! なんでこんな揉め事ばっかりなの! 今日はせっかく医者と合コンだったのに……というわけで、今から放送流れるから聞いてね!」





 教室に備え付けられているスピーカーがノイズ混じりに音を出す。


『……あー、あー、マイテス、マイテス……オッケ、大丈夫みたいだな。……俺はランク1位の金剛だ! 喜べ、今日の授業は休みだ! 代わりに今日はハンティングを行う。……10時になったら2年D組の新堂慶太と黒井美心を捕えろ。捕らえた者には1000万円の報酬をやる。あー、名家に関わっている奴は話が行っていると思う。よろしくな。……くそっ、俺は正々堂々と……』


 放送が切れた。






 先生が俺を見た。


「というわけよ。10時までまだ時間があるわ。みんなどうするか考えてね! ちなみに私は7名家の三枝家よ……まあ、名家とその分家には通達がいってるからね。うちのクラスの半数は名家絡みじゃない? 好きにしてね。私も好きにするからねー」


 先生は椅子を持ってきて教壇に突っ伏した。


 教室がざわつく。


「……俺100万円って聞いたよ」

「あ、俺は500万円!」

「まじで、僕のところは10万円だよ……」

「……拙者は悲しいでござる。同じクラスメイトを捕まえるなんて」

「そうよ! これじゃ唯のリンチじゃない!」

「姫の言う通りです! 僕らは姫に付いてきます!」


「とりあえず様子見かな?」

「あんたのところは?」

「うーん、命令出てるからね……」



 僕と美心は生徒の喧騒を無視して、早弁をしていた。

 これから長い戦いが始まる。


 僕らの勝利条件は生き延びるか、黒井家の滅亡だ。


 父さん達が負ける事はほぼない。

 パグ太達は安全だ。

 でも、あの人達は身を守るだけ。


 ――これは僕が本当の男になるための試練みたいなものだ。


 僕と美心は家からずっと手を離していない。


 今も手を繋いでいる。


 美心が少しだけ緊張してるのがわかる。


 僕は手の力を強める。


 美心はそれに答えるかの様に手を握り直した。









 先生が告げる。


「あと3分だよ! みんな身の振り方は決めたかな? 1000万円っていいよね! お金があれば何でもできる! 男もできる! 車も買える! 黒井家が絡んでいるからクラスメイトは地獄に落ちるけどね!」




 僕らは席を立った。


 この試験はここがスタート地点だ。

 これは誰かに決められたわけじゃない。


 ここは僕と美心が出会えた大切な教室だ。



 ここから始まったんだからね。



 名家関係の生徒達が鞄の中から武装を取り出す。



「はい! 5……4……3……」


 先生がカウントダウンをする。


「2……1……」



 生徒達が目の色を変える。



「ゼロ」


 放送も鳴り響く。


『リミット試験開始』










 三枝先生が教壇を思いっきり教室のど真ん中にぶん投げた。


 教室に凄まじい破壊音が響く。


 いつの間にか移動した先生が壊れた教壇の上に立って吠えた。


「おい、てめえら……このクラスで新堂に襲いかかろうとした奴ら……ふん、半数か……てめえら退学だ。いいか! 新堂の敵は私の敵だ! 同じクラスの仲間に手を出す奴なんていらねぇ! かかってこいや!!」



 三枝先生が僕を見た。



「ふん、クラスの半数はお前を慕ってるじゃねえか。ちゃんと見ておけ。いつまでもクールぶってんじゃねえぞ? お前のお父さんはもっと熱い男だぞ? はぁはぁ……さっき校舎で見かけて大興奮しちゃったよ……」



 ――そうだね……僕も少しは素直になるよ……



 僕の前には神埼さんを筆頭に、京子グループが立っていた。

 姫グループもいる。

 モブ仲間だった奴もいた。



 神埼さんが叫んだ!


「私は新堂君が大好き! だからこんな仕打ちは許せない!」


 京子が名家関係の生徒を蹴り倒していた。


「あんたらダサいわよ! 慶太の敵は私の敵よ!」



 先生が僕に襲いかかろうとした生徒の頭を掴んで放り投げる。


「新堂! 雑魚は任せろ! お前らは窓からとっとと出ていけ!」



 学園中の生徒達がこの教室に集まる。

 教室の入り口が生徒達で埋め尽くされる。


「ひゃっほーー! 1000万だ!!」

「家の命令は絶対……」

「新堂って奴はどこだーー!」

「ほげっ!? さ、三枝だと!?」



 僕と美心は窓に足をかけた。



「みんな、ありがとう! 一直線で黒井家をぶちのめしてくるよ!」


「ぶちのめすの!」



 僕らは窓から地上へと飛んだ。









 地上に降りるとグラウンドの横の通路に出る。


 生徒達はまだ校舎にいるはずだ。

 人影が無いかと思われた……が、違った。




 女子生徒の影が見えた。



「……新堂。二階堂家の命令により……お前を拘束する……」



「先輩……できる女と……はぁ……ミチルはお仕事モードに入ります……すみません……」



 複雑な表情をした会長と後輩が僕らの前に立ちはだかった。






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