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手を繋ぐと落ち着く……


「ばうばうばうーー!」


「わふんわふん!」


 僕はパグ太をそっと床に下ろして軽く撫でる。


「……慶太。わ、私……ポメ子を危険な目に」


 ポメ子達を身体で庇おうとしていた美心が泣いている。


 僕は美心を抱きしめた。


「あ……」


 言葉なんて僕らにいらない。

 美心は必死に守ろうとしていた。

 身体が触れ合うと気持ちが伝わる。


 美心の身体の震えが少しずつ取れてきた。


「……美心。僕を信じてくれてありがとう……絶対後悔させない」


「慶太……」


 僕らは更に力強く抱きしめあった。




 足元でパグ太がポメ子を必死に舐めている。


「ばうばう、ばうばうばう! ばうーーばう!」


「わふ、わふん……わふんわふん!!」





 僕は美心にお願いをした。


「ポメ子とパグ太をお願い……」


 美心は頷いて2匹を胸に抱いた。





 バイクの残骸が僕らに襲いかかってきた。

 それはまるで散弾のようだ。


 美心が庭へ逃げる。


 僕は両手を広げて力をためた。

 ハンドルが、タイヤが、タンクが、チェーンが、マフラーが……飛んでくる!



「ははははっ! 非常に興味深い……この私に逆らうとは!」



 所々、服だけ焼け焦げた美心の親父……黒井レンジが破壊された風呂場からゆっくりと歩いてきた。



 僕は自分の両手をふるい、襲いかかる破片を空へ飛ばしていった。


 黒井親父の眉毛が上がる。



「ふむ……最低限の強さはあるようだな。どうだ? 新堂君と言ったかな? 美心の事は諦めて、有意義な学園生活を送らないか? 今なら学園の支配権を半分くれてやろう」



 僕は温厚だ。


 比較的怒ったことは無い。


 京子の理不尽な命令も我慢してきた。。


 師匠の暴虐も耐え抜いた。



 ……僕は今、初めての感情を持て余している。


 ――怒り。


 僕は叫んだ!



「うるせーー! 美心を傷つける奴の言うことは聞かねーよ! てめえは美心に謝れ! ポメ子とパグ太に土下座しろ!」


 黒井親父は不思議そうな顔をした。


「……新堂くん、なぜ私の駒であり、人形の美心に謝る必要がある? 私の持ち物だよ、それは」


 美心に視線を向けた。

 お腹に力を入れて美心が視線に抗う。


 黒井親父は続けた。


「……美心は卒業して結婚する。そして君は楽しい学園生活を送る。それでいいじゃないか? 何が不満なんだ? 私はわからない」



「……話が通じねーな。僕は美心を自由にする。心のそこから笑わせてあげたい。普通の生活をさせてあげたい。美心は駒なんかじゃなねー。美心は……美心は……僕の大切な婚約者なんだよ!」


 黒井親父の気配が変わった。

 禍々しい空気が辺りを支配する。



「ほぉ……親を無視した婚約者か……どうやら本気で我が黒井家に喧嘩を売っているようだな? ……仕方ない。相手してあげよう。……金剛!!」



 玄関からドタバタ足音が聞こえた。


 顔面蒼白で震えているランク1位の金剛先輩が現れた。


「は、はい……ま、ま、ま、参りました!」


「ふむ、そんなに緊張するな。君は美心の正式な婚約者候補なんだから。……私は、我が黒井家の権限を使って、リミット試験を開始しようと思う。……開始は明日の朝10時からだ」


 金剛先輩は戸惑っていた。


「く、黒井様……そ、それは」


「リミット試験内容は……そこの新堂君と新堂家を捕らえて我が黒井家に引き渡す、簡単な試験内容だ。――今回は特別にランカーグループと繋がりがある者を使ってもよい」



 ――ランカー以外だと? ということは名家全て敵に回すってことか……



 黒井親父は僕の少しの変化を見て取った。


「新堂君が思っている通りだよ。君の仲間はそこの美心と畜生、あとは家族位じゃないのかな? ははははっ!」


 金剛先輩が口をはさもうとした。


「で、でも、俺はこいつと拳で勝負したっ!? ぐっ」


 黒井親父の蹴りが金剛先輩の腹に埋まる。



「いつから貴様は私になめた口を聞けるようになった? 貴様は私の言うことを聞け」


 金剛先輩は苦しそうに深く頷いた。


 黒井親父は手を叩いた。


「よし、話もまとまった事だし、そろそろ帰るか」


「まて」


 僕は黒井親父を止めた。

 訝しげな顔で僕を見る。


「……僕らの……新堂グループの勝利条件はなんだ? これじゃあ負ける前提じゃないか?」


「ははははっ!! そうだな! ……こうしよう、君たちが最後まで生き残るか、黒井家を滅ぼす、もしくは私を倒したら君たちの勝利だ」


 黒井親父は笑いながら家を去って行った。




 金剛先輩が僕を一瞥した。


「……無駄な抵抗は止めてくれ……すぐに降伏をしてくれ……頼む……美心を傷つけたくない」


 黒井親父を追ってこの場を去っていった。


 破壊された僕らのパグポメ家と闘志に燃えている僕らが残された。








 僕らは破壊された家を整理して、とりあえず夕飯にすることにした。

 明日の10時。


 残りの時間を恐怖しながら過ごせ。

 焦って逃げ惑え。

 後悔しろ。

 跪け。


 黒井親父はそう言っている気がした。




「こら! ポメ子! パグ太でごろごろしない!」


「パグ太! ポメ子とくっつきすぎなの! 赤ちゃんできちゃうの!」


 でも、僕らはいつもと変わらず夕飯を楽しんで食べていた。





 美心の顔は晴れ晴れとしている。

 僕が美心の顔を見ていると、美心は恥ずかしそうに照れた。


「……慶太、カッコよかったの。まるでヒーローだったの」


「間に合って良かったよ。ていうか美心の父さんって超怖いね……」


「……お父さんは私を人と見てないの。……あんなのお父さんじゃないの!」


 美心はたこ焼きを口に頬張りながら訴える。


 僕は焼きそばをすする。


「さっき親父に電話しておいたよ。……多分うちの家族は大丈夫だと思うよ。……美心ごめんね」


「うん? なんでなの?」


「お母さんに美心の事を喋っちゃった……絶対婚約したい子がいるって……」


 美心の顔が真っ赤になって目を見開いた。


「け、慶太……お母さんと会う心の準備が……ないの……」


「……母さん、美心の状況を聞いて、自分と重ね合わせたみたいで……やる気に満ち溢れちゃって……『美心ちゃんは私の娘よ!』って父さんに喚いているらしいよ……」


「良いお母さんなのね……」


「うん……」



 僕らの静かな時間が過ぎる。


 僕らは不思議な縁で繋がった。


 こんなにも大切な人ができたのは初めてだ。


 京子の事を好きだった感覚と違う。

 恋に恋する感覚じゃない。



 美心と一緒にいるだけで心が満たされる。

 優しい気持ちになれる。

 何を考えるにも美心を中心で考えてしまう。


 この気持ちはなんだ?

 こんな気持ちになった事がない。


 今も胸がドキドキしている。

 美心の笑顔を見たい。

 手をつなぎたい。

 触れ合いたい。


 そんな事を考えていると美心と目があった。



 美心はにっこりと微笑んでくれた。


 僕の心に衝撃が走った。

 もう自分を騙せない。




 ――あっ、僕、美心の事が……好き……好きなんだ……




 僕は立ち上がる。


「美心!」


「ひゃい!?」


 僕は美心に近づいて手を取った。


「け、慶太? どうしたの?」


「……わからない。でも、こうしたかった。嫌だった?」


 美心は全力で首を横に振る。


「わ、わ、わ、わ、私も慶太と手を繋ぐと……落ち着くの……へへ」


 僕は美心の頭をなでた。

 美心は嬉しそうに微笑む。


「……今日の寝室どうしよっか?」


「……私の部屋は半壊なの……慶太の部屋で一緒に寝るの……」


 美心が指を畳にスリスリしている。

 畳から煙が出てきた。


「そ、そ、そうだね……じゃ、じゃあ僕の部屋で……一緒に寝ようか……」


 ポメ子とパグ太が嬉しそうに僕らの周りを駆け回る。

 まるで初めてあった時みたいに駆け回る。


「わふんわふん!」

「ばうばう!」






 僕らは最後の緩やかな夜を過ごした。

 明日から始まるリミット試験、というか黒井家対僕ら……


 僕と美心は手を繋ぎながら寝っ転がって今まであった事を語り合った。


 初めて出会った時。


 ランク試験の時。


 いじめられた時。


 一緒に本屋へ行った時。


 ……

 ……


 美心は僕の横で穏やかに眠りに落ちていった。


 僕も美心が横にいるおかげで、緩やかで心地よい眠りに落ちていこうとしていた。


 ……朝起きる時まで僕らは手を繋いでいた……






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