ヒロインってよく拐われるよね?
バイクに乗ると歌を歌いたくなるよね!
僕は能天気に歌いながら道路を凄い勢いで駆け抜ける!
バイクに取り付けたスマホのGPSをチェックする。
――出遅れた感が強いな……六本木のビルで止まっている……大丈夫! 間に合うよ!
高速に乗ったら変な車とバイクが僕と並走してきた。
――ん? 首都高バトルしちゃう? ……って、おいおい、それはないだろ!
車のウィンドが開いた。
マシンガンらしき武器を僕に向けて来た!
バイクに乗っている集団も何やら物騒な武器を取り出す!
――ちょっと楽しくなってきたよ、京子! あんまり好きじゃないけど、待ってろよ!
僕は車に向かって思いっきりピースサインをした!
********
「学園で監視しているサブの連絡通りだ! あいつだ! ぶち殺せ!」
「若を馬鹿にした奴だ! 親父がもみ消してくれる!」
「六本木なめんなよ!」
「てめえら気合入れろ! この高速は封鎖してある! 名家の意地を見せろ! 俺たちは灰沼家の一員だ!」
「ひゃっはーー!!」
「敵はガキ一人だぞ! 俺たち灰沼家のララバイ隊の力を見せろ!」
「「「おっす!!!」」」
********
高速で走る車が僕に向かってマシンガンをぶっ放してきた。
僕はバイクを巧みにターンさせて避ける。
僕の前方を4台の車が道を塞ぐ。
横と後ろには大量のバイクの群れが来た!
――ヤバ……バイクに傷をつけたら怒られる……仕方ない……次の現金支給で弁償するか!
僕は胸ポケットから学園で拾った石を投げつけた。
石が唸りを上げて前方の車のリアガラスを割って、運転席の男の頭にぶち当たる。
車が制御不能になり、スピンしながら壁に激突した。
僕の攻撃に腹を立てたのか、一斉にマシンガンを向けて来た。
僕はギアをニュートラルにしてバイクの上に立つ。
僕はバイク勢に向かってとんだ!
「ギャー! こっち来るな! ぐふ……」
「ちょ、ブレーキ蹴りやが……」
「燃えちゃうよ! 駄目!」
バイクからバイクへ飛び跳ねる僕。
燃え盛るバイクが後方へと散っていった。
僕は自動走行で走っているバイクに着地する。
再び胸から石を取り出して連続して車に投げつけた。
タイヤが破裂する。
ガラスが粉砕される。
人が飛んでいく。
車が穴だらけになる。
悲鳴が途切れない。
やがて僕の前を走る車はいなくなった。
――このビルか! でかいな……GPSだと60階の大部屋にいるか……
僕の目の前には灰沼ビルと掲げられた大きなビルがあった。
地上100階建ての高層ビル。
この六本木を象徴しているビルだ。
僕はバイクを隅っこに止めてビルを見据えた。
――バレバレだから正面から押し入るか!
僕は堂々と正面玄関を通ろうとした。
入り口の警備のおじさんが叫ぶ。
「き、きみ! 止まりなさい!」
「敵襲だ! アラームを鳴らせ!」
「こいつ例のガキだぞ! ぶち殺せ!」
「ララバイ隊の仇だ! 拷問してやるぞ!」
僕は軽快にステップを踏む。
――60階か。エレベーター使えるかな? アラーム鳴ってるし無理だよね?
頭の中にはこのビルの地図は入っている。
敵地に行くんだ。当然の備えだ。
僕は襲いかかる敵を無視して階段を目指した。
「当たらないぞ!?」
「銃をかわすだと!?」
「だからあの学園の奴らは嫌いなんだよ!」
「素手でナイフを受け止めた……」
「は、速い……上の階の奴らに連絡しろ」
階段を5段飛ばしで駆け抜ける。
――はぁ……親父に迷惑かけちゃったな……素直に謝ろう……師匠にも怒られるんだろうな……でも、親父に会えるから喜ぶのかな?
手榴弾がとんできた。
石を飛ばして跳ね返す。
爆音が響いた。
――ていうかなんで京子のためにここまでしなきゃいけないの……でも、これは僕のけじめだよね?
襲いかかる敵を石で気絶させる。
――名家か……こんな強大な組織でも下位なんだよな。美心の家はどんだけ強大なんだ? ……これは僕にとって前哨戦だ。近い未来、僕は黒井家と戦うだろうな。……だって、僕がランクゼロになったとしても、そんなの権力でどうとでもなると思う。問題は根っこから解決しないと駄目だ。
僕は絶対、美心を自由にさせる。
美心の顔が曇るのを見たくない。
心の底から笑い合える環境を作るんだ。
僕の父さんが母さんにしたように……
「はははは!! われは灰沼家四天王の一人、た……ぐはっ!?」
パンチパーマのおっさんを吹き飛ばした。
――考え事してるのにうるさいな! ……京子はどうすれば普通に戻るんだろう? 今回の事で怖い目みたから大丈夫なのかな? ……男にちやほやされ出してからあいつは変わっていった。
――昔は普通の女の子だった。
――今はビッチだ。
――そんなビッチでも大切だった幼馴染だ。
――悲しい事が起こる前にさっさと学園に連れ戻そう。
僕は60階の一番大きな部屋の扉を蹴り破いた!
「なんじゃ!?」
「ひぃ! し、新堂……」
全裸で血だらけの灰沼親子が、京子と対峙していた。
同じく血だらけで服が切り裂かれた京子が吠えていた。
かろうじて間に合ったようだ。
「あんたらの好きにはさせないわよ! 私の処女は高いのよ! はぁはぁ……け、慶太!?」
僕は笑ってしまった。
――そうだよね。京子は強い子だったね。まさかこんなところで粘ってくれていたとは……もう少し早く来れればよかったな。
「京子。助けに来たよ」
「あ……」
京子はその場で座り込んでしまった。
警備の人間が機械的に襲いかかる。
僕は手刀で気絶させて服を奪い取った。
警備の服を京子に被せた。
灰沼親子の股間に石を投げつけた。
「はう!!?」
「ぎゃっ!?」
「……なんで? なんで来てくれたの? わ、私、慶太にひどい事ばかりして……慶太に振り向いてほしくて……慶太を独り占めしたくて……」
京子は泣き始めた。
「ぐすっ……あれ……どんな時も泣かないって決めていたのに……涙が出ちゃうよ……」
京子が警備の服を強く掴む。
「私……もっと素直になる。神崎さんを見てたら、私がどんなに汚い人間なのか思い知ったの……だから慶太……助けに来てくれて本当にありがとう」
僕は無言で聞いていた。
灰沼親子は血だらけの股間を必死に押さえて呻いていた。
「慶太! やっぱり私は慶太が一番好き!」
京子が抱き着いて来ようとしたが、僕は京子の頭を押さえた。
「え!? なに!? どういう事……慶太?」
「え、無理だよ。僕、京子の事はそんなに好きじゃないよ」
京子が空気読めよって顔をしている。
僕はちゃんと説明をしてあげた。
「……大切な幼馴染だったからね。今日は今までの自分のけじめに来たんだよ。……京子、もう少し優しくしてあげればよかったかな? ちゃんと僕が告白していれば今は変わっていたのかな? 僕がもう少し早く強くなろうと思えたら違っていたのかな?」
僕は息を吐いた。
「……でもね、それは全て過ぎ去った事だよ。僕は京子の陰口を聞いて変われた。……美心とも会えた。……京子には感謝してるよ」
京子がいきなり笑い出した。
「ぷはっはは! ……さすが慶太ね。簡単に絆されないね! ふふ、私も神崎さんみたいにゆっくりアタックしようかな……」
腕を組んで仁王立ちしている京子、見えちゃいけない部分も丸見えだ。
「慶太、あんたが黒井を大切に思っているのは一目瞭然よ! ……でも私も負けないわ! これからゆっくり慶太と仲良くなるわ! 今度は正攻法で行くわよ!」
僕は目が点になった。
「あれ? 好きじゃないって言ったよね? 話聞いてなかったの!?」
「そんなの関係ないわ! 一度は私の事が好きになったんだから、もう一度振り向かせればいいだけよ! ……今度は恥ずかしがって、変な失敗はしないわ!」
京子の目の色がだんだん強くなってきた。
昔の京子に戻ってきた。
――なんだかな……はぁ……早く灰沼家を壊滅させて昼ご飯食べよ。
僕は京子に後ろに下がる様に言った。
――そろそろか。
灰沼親子が喚いた。
「な、なんじゃ貴様ら! ひぃ……し、死体じゃと……」
「や、やめろ! 俺に触るな! 俺は次期当主だぞ!!!」
灰沼親子が深い闇の中に沈んでいった。
その闇の中から一人の女性が出て来た。
長くて黒い髪で目が隠れている。
スタイリッシュな黒ローブを羽織り、スケスケのインナーをピッタリ装着している……
とても30代後半に見えない美貌。
「……久しぶり。……裕太どこ? ひひひ……」
取り合えず父さんの心配をする女。
僕の師匠、冥さんがこの灰沼家を壊滅させるためにやってきた。
闇の底から響くような師匠の笑い声がビルを支配した。