表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対恋愛しない拗らせ男子の青春  作者: 野良うさぎ(うさこ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/25

幼馴染って複雑だね


 朝のHRが始まる時間だ。

 まだ教室には生徒達のざわめきが響く。




 突然、教室の入り口から大男が入ってきた。

 僕と美心以外は誰も入る瞬間に気が付かなかった。


 美心が驚愕の表情になった。

 少しだけ震える手で僕の制服を掴む。

 僕は制服を掴む美心の手を包み込んであげた。



 教壇に立つ大男。

 刺繍が入った学ランを羽織り、ブカブカなズボンをはいている。

 中に着ているシャツには何か文字が書いてあった。


 頭は綺麗なリーゼントでキメていた。


 男は髪を櫛で撫で付ける。


 気配が薄い……


「へ!? だ、誰?」

「み、金剛さんじゃね!」

「あの不動の一位!?」




 男は僕の隣にいる美心を見据えると、いきなり泣き出した。


「うおぉぉーー! 逢いたかったぞ、美心! 俺だ! 金剛傑こんごうすぐるだ! ……さあ、リミット試験なんて参加せずに、俺の勇姿を見守ってくれ!」


 生徒達はざわめきが強くなる。


「え、ヤバくね」

「リミット……試験?」

「憧れるわ……」



 金剛は俺を睨みつけた。


「き、貴様……美心の手を……貴様が美心をたぶらかした新堂か! ゆ、許さんぞ……許さんぞ!!」


 羽織っていた制服を上空へ脱ぎ捨てた。


 デカデカと黒井美心命! と書かれているTシャツが俺に迫った。


 ――なに!? 早い!


 僕の制服の上着を突き破り、拳が壁を突き破る。


「……貴様……変り身だと?」


 金剛は僕の代わりに犠牲になった、机と制服を拳で串刺しにして呟いた。


 美心が叫ぶ。


「金剛さん、止めるの! ここは教室なの! 私たちはリミット試験でランクゼロになって、私は自由になるの!」


 金剛は戸惑った表情をしていた。


「み、美心? お、俺達は結婚を誓いあった仲じゃないのか? 幼稚園の頃誓っただろ?」


「そんな記憶ないの! 妄想はやめるの!」


「な、に……じゃあこいつは美心のなんだ? 俺は美心のなんだ?」


「慶太は私の大切な……同居人なの! 金剛さんは唯の親戚のお兄ちゃんなの! 親が勝手に決めた婚約者の一人なの!」


 金剛は顔面が蒼白になった。


「ど、同居人だと!? ……許さん、許さんぞ!」


 金剛は拳を引き抜いて僕と向かいあう。

 僕も拳を構えた。



「そこまでだ!」



 三枝先生が颯爽と現れた。



「全く……学園は治外法権じゃないぞ? お前ら戦うならリミット試験中にやれ。ていうか金剛、お前前回のランク試験の運動会が楽しみ過ぎて、前日熱出して休んだだろ? 少しは落ち着け!」


 鼻息が荒い金剛が叫ぶ。


「くっ、あの時俺がいれば……。新堂! お前はリミット試験でぶちのめす! どうせリミット試験の内容はランク1位のこの俺が決められる! ……頭を使う試験も考えたが、どうせお前も学力はMAXだろ?」


 金剛がいきなり黒板にものすごい早さで板書し始めた。


 三枝先生が黙って見ている。


「なにあの公式?」

「……高校で習うレベルじゃないよね?」


 書き終わった金剛が僕に向かってチョークを指で弾いた。


 僕はチョークを挟み取り、黒板に金剛の問題の答えを一瞬で書く。


 金剛は腕を組みながら鼻で笑った。



「ふん! そのくらい出来て当たり前だな。……やはり男なら拳で勝負だ。……今日はこのぐらいにしてやる。リミット試験は今月末だ! 首を洗って待っていろ!」


 金剛は髪をなでつけながら、美心にウィンクをして教室を出ていった。





 教室の空気が弛緩する。


「新堂、黒井、昼休み職員室へ来い……全く……はぁ……」


 疲れた顔の先生が僕らに告げた。





 授業の合間の休憩時間に神埼さんが心配そうな表情でやってきた。


「黒井ちゃん、新堂君大丈夫? なんかすごい人だったけど……」


 美心は神埼さんの胸に頭を埋めてた。


「……疲れたの。あいつは昔から人の話を聞かないの」


「制服……僕の制服……」


「気をつけてね……その、せっかく友達になった二人になにかあったら悲しいから……」


 ――やっぱり神埼はいい子なんだな。


 僕は神埼の頭をポンポンした。


「ふえ!? ちょ、新堂君!」


「僕らは大丈夫だよ。安心してね! 今月が終わったら平和になってるから!」


 神埼さんは顔を真っ赤にしてパニックになっている。


 美心が僕を睨んだ。


「……慶太。私には……」


 不満そうな美心が僕に擦り寄って来た。




「おい、新堂がハーレムだよ……」

「俺、友達になっておけばよかったな」

「はぁ……俺たちには京子ちゃんがいるだろ!」




 京子は暗い顔をして自分の席でブツブツ言っていた。


「……ヤバい、どうしよ。枕営業なんて嫌だよ……チャライケメンの親父が怖すぎだよ……」



 僕は真っ赤になっている神埼さんに訪ねた。


「ねえ、京子ってどうしたの?」


 動揺から少し回復した神埼さんが小声で僕に伝える。


「……うーん、なんか京子ちゃんは、しくじった! って言ってるのよね……なんかランク6位の元カレがストーカー気味になって、お父さんが出てきたりして、所属事務所に圧力がどうとか揉めてるらしいの……」


 うん、よくわからないけど、大変な状況らしいね。


 僕が京子を見ていると、京子は僕の視線に気がついた。


「……私、どうしてこうなっちゃったんだろ」


 京子はスマホ片手にフラフラと教室を出ていった。





 美心と神埼さんが僕を見た。


「……慶太。ムカつく女だけど、名家が関わっていたらお先真っ暗なの。……多分六本木の闇に沈められちゃうの」


「私は一緒のグループだけど、京子ちゃんは意外と真面目でカリスマ性があるから助かってるよ。キツイけど、意外と嫌いじゃないよ? だから京子ちゃんが不幸になったら悲しいな……」





 僕は考え込んでしまった。


 確かに僕は京子の陰口で号泣した。

 自分を変えるほどのショックを受けた。


 でも京子の破滅を願っているわけではない。

 関わらなければそれで良かった。


 ――くそ、見えるところで不幸になるのは後味が悪すぎる。




 授業開始のチャイムが鳴った。


 京子は戻ってこなかった。





 先生の授業を聞き流しながら、ずっと京子の事を考えていた。


 幼稚園の頃。


『へへん、慶太とずっと一緒だよぉ!』


 小学校の頃。


『あ、このゲーム一緒にやろ! ……隣のクラスのゆうき君に告白されちゃったんだ。もちろん断ったよ。ジュース買ってきて!』


 中学……


『うん? これ? 先輩にもらったネックレスだよ? 可愛いでしょ! あ、お腹空いたから唐揚げさん買ってきて!』


『はぁ……慶太ももう少しお洒落したら? 私だって努力してるんだよ? 隣のクラスの芋っぽい野球部員だってお洒落になってるよ! ……これ美味しくないよ……違うの買ってきて……』


『ゲーム借りるよ! え、まだやってるから無理? いいじゃん! テニス部でこれ流行ってるんだって! 一緒にやる約束しちゃったし!』


『ていうか〜、慶太って地味だよね。はぁ……どうでもいっか……。うん? 今日の放課後に話がある? ……いまさらか』


『で、話って何? ……これって慶太が大事にしてた【ネオPSギア】じゃん!? え、くれるの? なんで? 話ってそれだけ……え、どうしたの? 全然思っていた呼び出しと違ったよ……ねえ、本当は何を話したかったの? ……それだけ……そう……はは、なんか期待しちゃったよ……うん、これからも友達だね……はぁ……』


 卒業式……


『ふふ、こんなに一杯プレゼント貰っちゃった! あ、慶太、久しぶり……て、なんか変わった? え、なんで無視するの? ねえねえ私モデルになれたんだよ! 今度【ヤンジャマガ】に載るんだ! ……興味ないの……そう……ねえ、記念にボタン貰っていい? ……そう、誰にもあげないんだ……』


『え、ランク学園に行くの!? そんなに頭良かったの!? わ、私……決めた! 私もランク学園に編入できるように頑張るよ! ……ちょっと話し聞いてるの! ……あ、なんで離れていっちゃうの……私……寂しいよ……』



 本当に幼馴染だったんだな。ずっと一緒にいたんだな……

 いい思い出か悪い思い出かよくわからなくなってきた。


 僕はある意味京子のおかげで変われた。

 あの言葉を聞いていなかったらずっと変わらなかっただろう、多分。


 僕は駄目な男だったんだろうな。


 京子をあんなビッチにさせたのも僕に責任があるかもね……


 僕は京子のせいで性格が拗れた。

 そのおかげで美心に出会う事が出来た……



 ……美心、ポメ子、パグ太。僕の大切な人を傷つける奴らは僕が許さないだろう。



 ……中学までは京子が好きだった。それは事実だ。過去は変えられない。



 はぁ、仕方ない……過去の自分のためだ。





 僕は手を上げて先生に苦しそうに告げた。


「先生! 僕お腹痛いです! とても痛いです! 保健室へ行ってきます!」


「あ、ああ、君か……うん、行ってきなさい」


 僕は美心にアイコンタクトをして教室を出た。


 ――心配しないで、すぐ終わらすよ。


 ――今日は唐揚げ食べたいの。パグ太達と待ってるの。





 教室を出るとすぐにスマホで親父と連絡を取った。


「久しぶり。元気?」


『ばか! 元気じゃねーよ!? なんで連絡しねーんだよ! 家連れ戻すぞ!』


「あ、ごめんね……ところで親父に頼みがある……」


『珍しいなお前が頼み事するなんて』


「……親父の仕事に関わる事だ……手伝ってくれ」


 俺は親父に説明をした。


『…………マジかよ。あれだけ名家には手を出すなっていったじゃねえか……。くそ、仕方ねーな。……六本木を乗っ取るか……柄じゃないから誰か代役を立てて……』


「じゃあ、また連絡する! 僕は一足先に六本木で遊んで来るよ!」


『あ、こら待て! 母さんには内緒だぞ! めいに連絡しておけ!』


「師匠? 嫌だよ、自分で連絡しなよ!」


『死』


 僕は通話を切った。



 さて、京子につけたGPSをチェックして、さっさとあいつを学園に連れ戻すか! 


 もうすぐリミット試験があるしね!


 車で移動しているであろう京子のGPS。中々の速度だ。




 僕は三枝先生のバイクに近づいた。

 レーシングタイプのバイクに跨る。


 キーを回しながらアクセルをひねった。


 爆音が校舎に響く。

 重低音のエンジン音が腹に伝わる。


 僕はクラッチを掴みギアを踏み込む。


 一気アクセルをひねり、急発進をする。

 タイヤが悲鳴をあげる。

 ウィリーしそうな車体を抑え込む。




 職員室の扉が開いた。

 三枝先生が爆音に負けずに叫んだ!


「新堂ーー! 絶対壊すなよ!! 昼休みまでには戻ってこいよ!!」




 僕は左手でサムズアップしながら、恐ろしい速度で校舎を出ていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ