いつもより真面目だね
「新堂君、黒井ちゃん! 一緒に帰ろう!」
神埼さんの提案で僕らは一緒に帰ることにした。
彼女はつきものが落ちて、普通の子に戻っているみたいだ。
僕らは生徒達の奇異な視線にさらされながら下校することにした。
「へえー、黒井ちゃんってわんこ好きなんだね! 私もわんこ飼ってるよ! ほら、見て!」
美心と神埼さんがお互いのわんこの写真を見せあっている。
僕も混ざりたくてウズウズしている……けど、コイツらの相手が先か……
僕の前に生徒会長が現れた。
いつもみたいにバカ騒ぎしない。
後ろにいる後輩も静かだ。
「……新堂。お前本気か? 本気でランクゼロを目指すのか? お願いだから棄権してくれ! 灰沼家は二階堂家と同格、7名家の中では下位に属する。……新堂の強さは戦った私がよく分かっている。それでも……それでも! あの化け物に勝てるわけがない! 下手したら新堂家が消されるぞ!」
心配そうな顔をしている後輩も続けて口を挟んだ。
「……ミチルは心配です! だって、上位ランカーグループ全員が先輩の事を敵視してます! できる女と評判のミチルですが……ランカー達を止める事ができません……だから先輩がランクゼロを目指さなければ平和に終わります! 棄権して欲しいです……。ミチルは名家の分家です……もしかしたらミチルにも先輩討伐命令が来るかも知れません……そんなの嫌です! ミチルはにゃんこを一緒に助けた先輩の姿に一目惚れでした! ハートが燃え尽きるほどの衝撃ドキュンでした! 危うく変身しかけたほど先輩はいい男でした! 先輩に無碍にされても構いません! 頭がおかしい女と思われているのも知ってます! そんなの気にしません! だって先輩が……好きだからです!!!」
生徒会長が引きながら後退っていた。
「ミ、ミチル? は、話し変わってないか?」
「会長黙ってて下さい! 今私は熱い想いを伝えていますから!」
神埼さんは状況がよく分かっていないけど、後輩の言葉に反応してしまった。
「ちょっと、あなた! 私だって新堂君の事が好きよ! 一目惚れよ! ……気持ちはわかるけど、少し落ち着きなさい。だって新堂君は追えば追うほど逃げるわよ! だから落ち着いて少しずつ仲良くなりなさい?」
「お、お姉さま! ……あなたは女神ですか! 流石新堂先輩を好きになったもの同士! ……会長は先輩を利用しようと考えているだけでしたから、仲間がいてミチル嬉しいです!」
熱い握手をかわしていた。
話しずれてきたな……
僕は会長と後輩を抜きさろうとした。
「僕は今までどおり普通に生きるだけだ。……通るよ。どいて」
「おい、新堂!」
「……あ」
美心が僕のあとをついてくる。
後輩と連絡先を交換した神埼さんが小走りでついてきた。
会長と後輩の視線を感じる……
ああ、もう! 僕は甘くなってしまったのか?
僕は後ろを振り向いて二人に告げた。
「……棄権はしないよ。……でも気をつけるよ、会長。僕は本気を出すことにしたから安心して。あの時は手加減していたしね。……後輩、にゃんこ可愛かったね。……一緒に助けた後輩と戦いたくないから、その時はどうにかするよ」
会長は驚愕の表情をした。
「なに!? て、手加減だと? ま、まさか……」
後輩は頬を染めていた。
「ミチル嬉しいです! 先輩とやっと会話できました! にゃんこはミチル家で保護しているので、見に来て下さい!」
ミチルは手を大きく振って僕らを見送った。
僕も珍しく手を振り返した。
僕らはポメ子達が待っているお家へと帰ろうとした。
*********
この家は悪くないわね。
私の好みと一致するわ! 流石ご主人様! 高貴なポメ子の気持ちを分かっているわ!
見慣れない女も一緒についてきたけど、中々美人さんじゃない?
私の次ね。ふふん!
パグ太君もかっこいいしね……ふ、ふん、私のそばにいてよろしくてよ!
私達はご主人さまが学校へ行っている間、お庭で日向ぼっこをしているわ。
よく食べて、よく遊び、よくお昼寝をする。
わんことしての生き様を満喫しているわ。
あ、パグ太君の横顔が素敵……
「ばう?」
「わふん!」
危ない危ない、私は高貴なポメ子!
ご主人さまに恋人ができない限り、私も作らないの!
「ばう!?」
パグ太君が立ち上がった。
私も侵入者の気配を感じ取った。
――ここは私達のお城。ご主人さまの留守は私達が守るの。わんこ舐めんじゃないわよ!
侵入者が玄関の扉をがちゃがちゃしている。
程なくして扉が開き、家に侵入してきた。
声が聞こえる。
人数は3人。
「……この家を荒らすっていう依頼だったな?」
「ああ、あとペットを痛めつけろって指示があった」
「……胸糞悪いな。……仕方ない、とっとと終わらせるぞ」
私とパグ太は庭でおすわりして侵入者を待っていた。
侵入者と私達は目があった。
「いたぞ。……かわいそうだが、見た目だけ派手で残らない傷にするぞ」
「了解」
侵入者は私達に襲いかかってきた。
私は後ろ足に力を入れる。
身体の力を牙に集中する。
――とんだ。
「へ!?」
私は高速回転しながら侵入者に襲いかかった。
身体がブレる。
――刀牙弐。
牙は肩に食らいつき、そこから放射状に切り刻んだ。
「ぎゃーー!!!」
「こ、こいつ! と、止めろ!」
私は大きくジャンプした。
こんなのご主人さまとの修行に比べたら……
私は回転しながら綺麗に地面に着地する。
「ぐるぅぅ……」
侵入者をにらみつける。
「……ポメラニアンが10倍の大きさに見えるだと!?」
「血が止まらねーよ! 逃げるぞ! がはっ!?」
――あ、ご主人さま!
「お前らうちのポメ子を襲おうとしたな? 死ぬの? 死にたいの?」
侵入者はご主人さまのアイアンクローで身動きが取れなくなっていた。
「い、いつの間に!? ぐっ……」
パグ太君のご主人がもう一人の男を叩きのめす。
おうちに平和が訪れたわ!
ご主人さまが私の頭をなでてくれた!
「よく頑張ったな、ポメ子! 流石、クマを倒しただけあるな………防犯アラームが鳴って急いで帰って良かった」
「わふん!」
「ばうばう!」
あら、パグ太君……あなたも立ち向かおうとする姿はカッコよかったわよ。
「……うん。防犯強化するの。トラップ仕掛けるの!」
こうして私達のお家の防衛戦は終わったわ。
……私はポメ子。
何があろうとご主人さまを守る番犬よ。
……ご主人さま、早くそこの女とくっついて下さい! そうしたら私もパグ太君にアタックするわ!