鴨鍋って美味しいよね
僕と地味子は手を繋いで道の真ん中で仁王立ちをしている……
「あ!?」
「ん!?」
僕らは顔を見合わせた。
僕の顔が一気に熱くなるのがわかる。
地味子の顔も赤くなって、手の温度が高いのがわかる。
僕らは手を離した……少しだけ名残惜しい……恋愛感情じゃない。これは……大切な仲間の事を思っているだけだ。
「が、学校行こうか!」
「う、うん……」
僕らは恥ずかしさを押し殺すように、猛ダッシュで学校へ向かった。
学校内に着く頃には少し落ち着いてきた。
地味子がポツリと漏らした。
「……新堂が婚約者になるの?」
「あ……そこまで考えてなかったよ……ごめん……あいつらがあんまりムカついたから、つい……」
僕らは周りの生徒を無視して学校の廊下を歩く。
「そうね。あいつらは本当にムカつくの……でも、それに抗えない自分も嫌なの……」
僕は地味子の頭をポンポンする。
「はは! 大丈夫だ。あんな奴らと婚約させないよ」
「……新堂が婚約者になったら今の生活が維持できるの……パグ太とポメ子の楽園を作るの……」
地味子は少しだけ悲しそうな目で遠くを見た。
僕は少しだけ強くポンポンした。
「……どんだけ強大な敵でも大丈夫……僕と地味子が力を合わせれば!」
「うん……うん! そうなの! 私も頑張るの! 後でトップランクとランクゼロの事を教えるの!」
もう教室に着く。
遠くで僕を呼ぶ声がする。
「…………せんぱーい……せんぱーい! ミチルです! できる女と……」
僕は教室の扉を締め切った。
教室に入ると異質な空気がする。
――あ、いじめはどうなったのかな?
クラスメイトは僕を見て緊張をしていた。
「……なんか雰囲気ちがくない?」
「やべーよ、絶対近づくな?」
「あいつ、いつも一人だよな……たまに地味な女子生徒と話してるけど、あれ誰?」
「え!? 新堂の隣にいる女の子って誰? 超可愛くない?」
「……ヤバい……萌……」
僕らは自重をやめることにした。
ランクゼロを目指す事にした。
面倒な隠し事はおさらばさ!
今まで、先生方か相当な実力者しか僕らを認識できていなかったけど、これからはだだ漏れだ!
……そう考えると、京子も神埼さんもミチルも会長も相当な実力者だったんだな……
ざわつくクラスメイトを無視しようとした時、神埼さんがトコトコこっちに来た。
爽やかな笑顔で軽く手を振ってくれている。
その表情には無理がない。
「新堂君、黒井ちゃん! おはよう! 昨日はありがとね!」
「ああ、おはよう」
「おはようなの!」
神埼さんは挨拶だけすると、満足そうな顔で自分の席に帰っていった。
今度は京子が取り巻きを引き連れて来た。
「あれあれ? 神埼さんには挨拶して私には無いのかな? ふふん、まあいいわ。私、新しい彼ができたの……ふふん、なんとランク6位の超優秀でイケメンな彼……あなたなんて足元にも及ばないわ! ふふんっ!」
京子は胸をボインボイン揺らす。
僕は全く興味がないから自分の席に着いた。
地味子も自分の席に着く。
「ちょ、ちょっと! 少しは興味持ちなさいよ! 嫉妬しなさいよ! 私をバカにすると彼が黙って無いわよ!」
僕は先生にメッセージを入れる。
クラスの席を、同じグループ同士で島を作るって言う提案だ。
地味子と席が遠いと何かと不便だ。
……神埼さんは京子と一緒だからかわいそうだけど仕方ない……あんな感じでも実力だけはあるしな。
先生から返信が来た。
『オッケーよ! 私が行く前に、あんたがメールで説明した通りの席順にしておいてね! じゃあ3分後ね!』
僕は京子に先生のメールと席替えの表を見せた。
「な、なによ……脅したって……うん? 先生からのメール? ……席替え!? 3分後!」
僕は立ち上がった。
「おーい、みんな! 今から席替えだ! 京子の指示通り動いてね! よろしく!」
京子は目の色を変えてクラスメイトに指示を出した。
「席替えするよ! ヤバいって! 三枝が来るまでに終わらせないと後で罰ゲームがまってるよ! 絶対終わらせて! あんたのグループはここ! あんたはあそこ! ばか! あんたあのグループでしょ! とりあえず机は移動せず生徒だけ移動して!」
京子は精力的に指示を出してくれた。
三枝先生は生徒に出した指示をやらないと、ぶち切れする。
だから京子も必死こいて席替えの指示を出している。
「ひぃ!! み、みんな動け!」
「姫、姫ーー! やっと近くでご奉仕できます!」
「まじで!」
3分後。
「やっほー! お、席替えは終わったね! じゃあHRを始めるよ!」
僕と地味子は問題なく隣の席になれた。
一番後ろの窓側の席。
他のグループとは離れている。
孤立している。
チラチラ僕らを見てくる生徒達が増えていた。
僕らは物珍しさだけで見てくる生徒達を無視した。
「ランク試験は毎月あるの……それの成績でランク順位が決められるの」
屋上で地味子が説明をしてくれている。
僕はおとなしく聞いていた。
「ランク1〜10位のランカー達だけで集まって行う試験……リミットランク試験というのが年に一回行われるの……」
「リミット試験? 聞いたことないな……」
「普通の生徒は知らないの。ランカー上位か、学校側の人間しか知らないの。試験の勝者が得られる特典は毎年違うの……今年のリミット試験の勝者が『ランクゼロ』の称号を得られて……私と婚約者になって、黒井家に入れるの……」
――なるほどね……この学園に通っている生徒は名家の人間が多い。そいつらの色々な思惑ってやつがあるんだろうな。
――あれ、僕が黒井家に入る? マスオさん!
「……色々了解した。それでリミットランク試験はいつあるんだ?」
地味子は少し焦った表情になった。
「……正直、私は諦めていたの……この2年生の間だけ、パグ太と新堂とポメ子と一緒に楽しく暮らす事ができたら十分だと思ってたの……」
地味子が僕の顔を真っ直ぐ見た。
「へへ……少し欲がでちゃったの……」
僕は鼻を鳴らして照れ隠しをした。
「ふん……良かったな……。で、いつなの?」
地味子は明後日の方向を見た。
「……今月のランク試験で10位以内になったグループなの……」
「え!? もう過ぎてるじゃん!」
「……大丈夫なの……今月終わりまでリミットがあるの……毎年この時期は学生同士のいざこざが絶えないの……理由はこれのせい」
「……上位ランカーを蹴落とす?」
「そうなの。これは学園側も黙認してるの……」
「今月終わりまで一週間……なんとかなるか……いや、絶対なんとかするか」
「……うん……嬉しいの」
地味子ははにかみながら僕の裾を掴んだ。
なにこれ……ポメ子の次に可愛いんだけど……
僕は精神を統一した。
よし、大丈夫!
僕と地味子が一通り話しが終わった時、いきなり屋上の扉が蹴り開かれた!
ロン毛の金髪を後ろに流して、涼しい顔のチャライケメンが現れた。
着崩した制服が妙に似合っている。
香水の匂い強すぎて臭い……。
「ちょっと……お前が新堂? 俺の京子の事をいじめたやつ? あれ? 美心っちゃん? あ〜美心っちゃんだ! 俺だよ、俺! 俺! 俺!」
地味子は少し考えてから、呟いた。
「……ランク6位の…………」
名前が出てこない!
「思い出してよ! ほら僕も婚約者候補だよ! 灰沼家の者だよ! ってもういいよ! 今は京子ちゃん命だから! で、てめえが新堂? 俺の京子をいじめたやつって?」
屋上の扉の辺りに女子生徒の気配がする。
この気配は京子だろう。
……なるほど、よくやった京子!
僕と地味子はニヤリと口角を上げた。
「え、何? 俺、灰沼家の秘蔵っ子だよ? バカにしてんの? いくら美心っちゃんでも……殺すよ? ……まずはてめえからだ」
僕は地味子に言った。
「どうやら僕に用があるらしいね」
「うん、カモがネギを背負ってきたの」
カモネギは僕に襲いかかってきた!
「うるせー!! お前をボコったら京子は手を繋いでくれるんだよーー!!」
意外と純情なカモネギが叫んだ!




