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教室を離れると人は変わる

 神埼さんと僕たちは無言で歩く。

 僕と地味子は神埼さんが話し始めるのを待っていた、が……



「……ちょっと長くない!? いつ喋るの!」



 すでに学校からかなり距離を離れた。もうすぐ僕たちの家に着いちゃうよ。


「ご、こめんなさい……何から話していいか分からなくなって……あ、も、もう私の家に着いちゃうよ……どうせなら上がって頂戴……」


 僕と地味子は顔を見合わせた。

 うちから近いし、まいっかって感じだ。


「オッケー。で、どこの家?」


「ん。さっさと終わらすの」


 ……見渡しても普通の家はない。そこにあるのは、昭和の香り漂う木造アパートだけだった。


「ここよ……」


 神埼さんは恥ずかしそうにアパートを指差した。









 アパートは今でいうとシェアハウス的な感じであった。

 トイレ、シャワー、キッチン、下駄箱は共同。

 ……漫画で見た事ある……トキワ荘だっけ? まさにそんな感じの年季の入ったアパートである。


 中に入ると、男性禁止という札が貼ってある……

 どうやら女性限定のアパートらしい。


 廊下を進み、神埼さんの部屋に入っていった。


 和室の部屋は小綺麗に片付けられていて、無駄な物がない。


「い、今、お茶を入れてくるわ。……確か押入に……」


 神埼はスカートの中が丸見えでガサガサ探してる……


 僕は地味子にお願いをした。


 地味子はバッグからインスタントコーヒーを取り出した。お尻をガードしつつ、神埼さんの近くによってあげた。


「……神埼さん。これで入れるの」


「わ! 黒井さん、ありがとう! へへ……」


 神埼さんは、はにかんだ笑顔をしていた。

 とても柔らかい笑顔。

 くるくるの巻髪でギャルっぽい格好で、貫禄があるのに、どこか幼く見えた。




「ふぅ……コーヒーが美味しいね……」


 僕たちはコーヒーを飲みながらのんびりとしていた。

 あ、今日はポメ子達のお風呂の日だな……

 そんな事を考えていた位のんびりしていた。


 黒井はうつらうつらしている。


 ――違う!


「神埼さん! 話、話! ね、話を聞くよ!? のんびりし過ぎだよ?」


 眠そうな神埼さんが僕の方を向いた。


「ふえ……直美はオネムですよ……わわわ! すみません……つい家だとのんびりしちゃって……はい、ちゃんと話します」


 ――おいおい、キャラ変わりすぎじゃね?








 地味子もちゃんと起きて神埼さんに向かい合った。


「うん、ごほん! 今日はお家まで来てくれてありがとう。……そして昨日はごめんなさい」


「……どういたしまして。っていうか昨日は僕も言い過ぎたかもね。……でも、僕の本心でもあるよ。僕は地味に生きたかったんだ。だから目立つ人と関わり合いになりたくなかった。というか、話したことも無い生徒に好かれるとは思わなかったし……」


「そうだったんだ……私……新堂君に助けられて、凄く嬉しかったんだ。しかも、助けた事を自慢しないで、まるで何事も無かったかのように振る舞って……カッコよかったわ。……一目惚れに会話は必要ないよ!」


 僕と地味子は真面目に聞いた。


「私……本当は人と話すのが苦手なんだ……だから新堂君にどうやってお礼を言えばいいかわからなかったの……だんだん目で追っているうちに、もっともっと気になってきちゃって。それで、京子さんと一緒にいるうちに悪ノリしていく自分を感じていたわ……本当にごめんなさい……」


 神埼さんは恥ずかしそうに畳をガリガリ掻いている。


「……学校にいると、クラスの役割をしなきゃって思ってしまうの……私……全然偉そうに言うつもりが無かったのに……新堂くんにライバル宣言したり……なんだろ? 意味わかんないよね?」


 ……だから口調も安定してなかったのか。


「京子さんといると、京子さんの調子に合わせてしまうわ……どうしてかわからないけどね……そうしないと、クラスでうまくやっていけない気がしてしまうの」


 僕は口を開いた。


「よくあることだよ。教室は一つの世界だよ。その世界でうまく回るためには、自分にあった役割をこなす事が大事だよ。そして、みんな異物は排除しようとする」



 神埼さんは乾いた笑い声を上げた。


「ははっ……難しいね……私は別に目立ちたくなかったのに……普通に生きたかっただけなのに……この容姿のせいで、みんな私に期待をするわ」



「元々、私のうちは貧乏なのよ。母親一人で妹が7人もいて……だから私はこの学校に入ったの。絶対上位を目指して、高ランク目指して、お母さんに仕送りをしようと思って……」



 神埼さんは僕と地味子を見た。



「……あなた達はすごいと思うわ。だって、あんな世界にいても自分を貫き通す強さがあるもの……一体二人は何者なの?」


 僕と地味子は同時に神埼さんへ告げた。



「ただの地味男だよ」


「ただの地味子なの」





「ぷっ! ぷははは! 面白いわね……私もそうやって生きれればいいな……」


「大丈夫だよ。少しずつ変われるよ。変われない人は……たまにしかいないし」


「そうなの。神埼さんは大丈夫なの。とっても可愛いの。なでなでしたいの……」



 神埼さんは僕を見た。



「うん、よし! ……新堂くん……改めてお礼を言うね……私を助けてくれてありがとう。……もしよかったらこれからは友達として接してもいいかな?」


 神埼さんの気持ちが素直に伝わる……

 無理をしていない。とても自然体だ。

 意外とまともな人だったんだね。






「うん? ごめん友達はむり。っていうか友達の基準がわからない」



「え!?」



「……友達はレベル高いから、少し話す同級生だったら大丈夫だよ。……これからよろしくね」



「え……よ、良かった……へへ……地味子ちゃんも一緒だよ!」


 神埼さんは地味子に飛びついた。


 地味子はかわすこと無く、無抵抗で受け入れていた。


「く、苦しいの……」


「へへ、地味子ちゃんお肌すべすべ!」



 こうして僕らと神埼さんの交流が少しだけ始まった。






 *******





 ここは学校の高ランク専用ラウンジルーム!


 今ここにいるのはトップ10位以内のランカーグループ達! ミチル燃えてきました!


 緊急会議は混沌です!


「……新堂と言ったな? あいつが俺の美心にまとわりついているのか?」


「ふん、美心は俺の物だぞ?」


「殺すぞ……黒井様は僕の大天使様だよ」


「黙れ貴様ら! 美心は俺の妹だ! いくら許嫁共のお前らでも許さんぞ!」


「……会長〜、ランカーさんって変態さんしかいないんですか! やばっ、燃えてきました!」


「ミチル……黙れ……頭が痛くなる……はぁはぁ……痛み……忘れられない……新堂……」


「ぎゃー!! 会長までおかしくなってるです!」


「ひひひっ! 俺っちが殺っておきますか? 俺の能力ならイチコロっす」


「ばか、てめえ7英雄になれたばかりだろ? 足元すくわれるぞ?」


 上座に座っていた男が机を叩いた。


「てめえら黙れ……この俺が新堂っていうクソヤロウを試してやろう……次のランク試験だ。その時……嵐を起こす」




 男は黒井美心命とデカデカと書かれたシャツを見せつけながら、偉そうに全員に告げた!







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