第9話 まったりオヤツ回。
絶賛お説教され中の私です。
「エイプリル、なんで僕から逃げたの!?
てかこれは何?
なんでレッドメイル家の封蝋付きの手紙がここにあるのかな?
一体どこで会ったのか詳しく言いなさい。」
「えへへ…」
「えへへじゃないからね!?
何したの一体!!
城からの呼び出しなんてありえないでしょう!?」
「えーっと、あのぉ。不敬を…」
「はーー!?」
オーガストくん。
可愛いお顔が台無しですよ。
見開いた目がそろそろ瞬きを求めています。
早急にパチパチとまぶたを動かしましょう。
「なにウィンクの練習始めてんの!?しかもなんで今!?そんな事でごまかされないからね!?」
「ウィンクの練習なんてしてない…、ねーお腹空いたよ、もういいでしょ?」
「ねーじゃありません!!」
「…ブッははは!!!あー、まじやべぇな!てか、その辺で、許してやれよ、な?オーガスト。」
「関係ない人は黙ってて!!」
ギロリと笑いすぎて息が絶え絶えなサミュエルを睨みます。
私はよろよろと正座から立ち上がり、椅子に座ろうと試みましたが。
「「あっ」」
同時にオーガストとサミュエルが叫びました。
「…危なかった。」
オーガストが私を抱きとめます。
「チッ」
「僕が簡単に触らせると思う?」
「早く姉離れしろよ、シスコン。」
「褒めてくれてありがとう!」
そういうとオーガストはサミュエルに舌を出した。
オーガストは私を抱きしめながら、ニッコリとサミュエルに微笑んだ。
私は痺れた足に耐えながら、オーガストの腕の中で唸っていた。
「それで何でこれが来る訳なんだ?」
サミュエルが頬杖をついて、片手につまんだ手紙を見つめています。
「それはですね、アナスタシア様にお昼を誘ってもらって、憧れの円陣の真ん中に招待してもらったんですけど…。
……ハッ!!!手帳に書いてなかったそういえば、まだ!!急いで書かなければ…!!」
私はオーガストを突き飛ばし、手帳とペンを取り出し、椅子に座る。
「エイプリル…!」
「ぶは!!これは続きを聞くまでにまた時間がかかりそうだな!!
お茶飲んで待つしかない…ブッ、クククっ!」
「…サミュエル。」
「そう怒んなよ、俺だって気が気じゃねーよ。
レッドメイルなんて、一番関わりたくない人種だ。」
「しかも円陣って…。なんで呼び出されたかはなんとなく察するけど…。
レッドメイルもだけど、スタインバークもだよ。
厄介過ぎるでしょ…。」
「…そうだな。極力避けていくしかないな…。
エイプリルは特殊すぎる。
変わってる、面白い、だけじゃその後どう転ぶかわからん。
たかだか男爵だが、たかだか男爵だからこそ、この土地を狙っている奴も多い…。」
「それなりの躾をちゃんとさせたつもりなんだけどね…。
どうしてこうなったか…。」
「「はぁ…」」
私は今日の『円陣記念日』の事を事細かに書き記していたので、2人が大きなため息を吐いてるなんて知りませんでした。
それを横目で2人が覗いてたようで、私が説明せずとも彼らは内情を知ります。
そしてまた大きく息を吐き、頭を抱えました。
はぁ…。
アナスタシア様、本当にお綺麗でした。
しかもあの赤毛。
なんだ全く偉そうに。
次またアナスタシア様をいじめようものなら、落とし穴掘って落としてやります。
どこに掘りましょうか?
やっぱり中庭がいいですかね?
「…エイプリル、中庭に落とし穴は無差別テロと一緒だから止めるべきだね…。」
「ほぇ?何で分かったの!?」
「うん、ここに書いてるからね…。」
「乙女の手帳を盗み見するとは弟でも許さんぞ!!」
「いや、もうここはテーブルの域だよ…。」
ハッ!!!
気がつくと夢中になり過ぎて、手帳のページさえめくるのを忘れていた様です。
手帳からテーブルにペンを走らせておりました。
いやぁ、失敬失敬。
落とし穴の図解を布巾で消します。
このペン中々消えませんねぇ。
さすがうちの商会から出てるペンです!
書きやすい上に、消えない、にじまない。
インクに油分を足したのは正解でしたね!!
テーブルの落書きをニマニマしながら消す私に、2人はまた溜息をつきました。
「とりあえず、明後日の休日にお城に行かなきゃだから…お父さんにちゃんと説明しようね…。
きっと不敬なんて言ったら、心臓止まっちゃうよ…。」
「ならその辺りはボヤかして言うしかありませんね!!任せてください。」
「はぁ…全くとんでも無い事をしでかしたと言う認識は持って欲しいけどね…」
「いつですか?」
「持つなら今だよ…。」
「いえ、何時とんでもない事しでかしたのだろうかと…」
「えええ?!」
「ぶっはっ!!!」
オーガストとサミュエルがまた仲良く声が揃います。
揃ったと言うより、1人は吹き出して笑っておりますが。
オーガストは頭が痛いとお茶も飲まずに頭を抱えました。
気圧の関係ですかね?
可哀想に。
ていうか城に行かないといけないとは…?
なんで私が行かないといけないのでしょうか。
行く用事なんてないのに…。
何かいただけるのであれば、喜んで行くのですけどねぇ。
お断りってできないのでしょうか?
メンドくさいですねぇ…。
私はテーブルに頬杖をつき、はぁ…と小さく息を吐いた。
その日の夕食の時間に、お父様は目をひん剥いて泡を吹き倒れました。
ブクブクと、カニの様に。
オーガストが必死に慰めてはいたが、お父様の意識は戻るまで時間がかかりました。
これもそれも城からの手紙が来たせいですね!
許せません。
何故うちにこんな酷い事を!
お父様の仇は私が必ず取りますよ!
…って、敵討ちって何を持って行ったらいいのかしら。
あ、ついでにうちで取れる鉱石を宣伝しようかしら。
王族に顧客が出来たら、中々うちの利益が上がるかもしれませんねぇ。
これは営業するべきですね!!
急にお城に行くのが楽しみになりました。
ルンルンとお父様の横で、うちの自慢の鉱石たちをケースにしまっていきます。
オーガストが眉を寄せ、私の顔を見つめました。
「ねぇ、リル。
ちょっと楽しみになって、営業する気じゃないよね?」
「え!?なんで分かったのですか!!」
「お父さんを見て!!泣いてるから!!」
「え!?なんで泣いてるのですか!?」
泡を吹いてたお父様が、今度はさめざめと泣き始めました。
「エイプリルー!!王子だけはダメだぁぁ!元、王子もだ!!事情がめんどくさすぎる!!
遠くに嫁に行ってはいかーーん!!」
「やだわ、お父様。私まだまだ嫁に行く気はありませんよ。」
「エイプリル…そういう問題じゃないから…。っていうか会話が繋がってないし…。」
オーガストが壮大な溜息を吐きました。
「ともかく明後日、登城予定でお願いします、お父さん。
エイプリルが寝たら会議ですから、そのおつもりで…。」
「うむ。緊急家族会議だな…。」
「家族会議なのに私が寝たらですか?」
「そうだ。お前がいたらお父さん泣いちゃって話が進まんからな…。」
「お父様が泣くなら私は、心を鬼にして参加せず寝ます。」
「…そうしてくれ…。」
「うん、間違いなくエイプリルはお父さん似ですよね。」
「ん?そうか??
確かに顔も髪の色もそっくりかもしれん!」
お父様は嬉しそうに口元を緩ませた。
『わはは』と笑うお父様に、『顔の話じゃねぇよ』と言わんばかりに笑ってない笑顔を向ける弟。
私に内緒の家族会議をするというので、私は早々に部屋へと引き上げた。
城で営業してはダメだと怒られたのですが、少しぐらいは持っていっても怒られないだろうと。
こっそりケースに忍ばせて、お出かけ用のカバンにしまいました。
明後日のお休みの日にお城に行った時、王様の目の前にわざと落としてみましょうかね!?
『お嬢さん、落としましたよ。
むほぉぉ!?なんだこれは!こんな綺麗な鉱石はどこから取れるんだ!』
『まぁ王様、こちらにご興味持たれるとはお目が高い!これはうちでうちの領地で取れる鉱石ですのよ!』
『なんだと!素晴らしい!よし買った!!』
『ご購入ありがとうございまーす!!!』
こ・れ・だ!!!
この流れですよ!!
そうと決まればこっそり落とす練習をしましょう。
自然に見える様に、軽やかに、こう…。
あれ、おかしいな。
手首が全然軽やかじゃないな…。
む、難しいですね。
上手に偶然落とすなんて…。
私はこれに夢中になってしまい、寝るのを忘れてしまったようです。
ハッ!!!
気がつけば白々と明るくなってきてます。
ヤバイ!
寝なきゃ…!
今からでもきっと遅くない…!
なんて思っていましたが、今からでは遅いんだということに後で気がつくことになります。
もちろん。
私がそのまま起床時間になっても起きれなかったのも、予想通りの展開となりました。
何故寝ないという選択肢を選ばなかったんだろう。
私は無覚醒のままメイヤーさんに着替えさせられ、オーガストによって馬車に乗せられ、学校へと向かうのでした。