第87話 全てはマルッと解決か⁉︎
えーっと。
後日、お城で私は表彰式に出た。
何とも恥ずかしい気持ちで。
うちもバタバタ落ち着かなかったものだから、予定を合わす日程がだいぶ開いてしまったのだ。
あれから数ヶ月の月日が流れた。
そして忘れた頃の表彰式。
パクった書類で世界を救ったような。
人の手柄で二番煎じみたいな、複雑の思いを添えて〜。
願いは何かと尋ねられ、思いを伝える。
貴族の方々から動揺にザワザワと少し空気が荒れた。
そりゃ、新しいことを受け入れるのは怖い。
ましては子供が親の自由もなく、婚姻をするという不安。
自分の高貴な血が底貴族と混ざるー!なんて。
心配はごもっとも。
だけどもだけども、みんな頑張って。
私の願いはこれしかない。
王様のお言葉は絶対です。
何かの飲み会のゲームみたいなこと言ってますけれど。
そして無事にその願いは認められ、無理矢理でも浸透してもらおうとそのままレオンとの婚約破棄を希望する。
私の婚約破棄はこれで3度目となる。
アルド様の7回の告知を入れると、傷の数は計り知れないものになるけれど。
もうめんどくさい書類も、6ヶ月も待たなくていい。
そのままタイラー様もヴィヴィアンと破棄し、無事にレオンはヴィヴィアンとの婚約が決定した。
速攻で!
とっても幸せそうな二人を見つめてホッとするが。
すぐ横でハンカチ噛み締め、涙目のタイラー様がある意味不憫だ。
王位はどっちが継ぐかわからないけど、どちらが継いだとしても、今後は友人としてサポートできればと思う。
そして結局王妃は…。
「私ね、『救世主』の子孫なのよ!」
表彰式後のお茶会にて、二人きりになった時『チャーンス☆』なんて思いながら、ダイレクトに疑問をぶつけてみた。
王妃は恥ずかしそうに頬に手を当てて微笑んだ。
あまりのチャーミングな微笑みに、思わず見惚れてお茶を吹きそうになるのを堪える。
目をパチクリ、瞬きを何度もして王妃を見つめた。
「その昔この世界が魔族に攻められてピンチだった時に召喚された転生者の子孫で、代々能力は遺伝せず、今は普通の人なんだけれどねぇ。」
そう言いながら『ウフフ』と笑った。
そして私に内緒よと、王様とのエピソードも教えてもらった。
「王様とは政略結婚だったのです。
王様は私の親友と 実は愛し合っていてね…。
私はどちらも大好きで、大事だったから、二人が惹かれ合っているのを私の立場からこっそり応援するしかできなかったのだけど。
私は私で政略結婚を止められず…王様に嫁ぐことになった時、勇気を出して側室に迎えるのはどうかと聞いてみたのです。私はお飾りでも構わなかったのだけど…どうしても『救世主の子孫』である、私との子供を産む事がレッドメイル家からの側室を迎える条件だったの。
だけど側室に迎えてレオンの妊娠がわかるとすぐ、レオンの母は手遅れな病を患っていることに気がついてね。
レオンを産むとすぐ、私にレオンを託し亡くなってしまったわ…。
彼女の病はどうやら遺伝性のもので、レオンも亡くなってしまうのでは無いかと怖くなって、つい厳しく育ててしまった事が心残りなのだけど…。」
王妃は遠くの空を見ながら話していた。
まるで親友のレオンの母に語りかけるように。
時折悲しそうに微笑みながら、話を続けた。
「でも子供の頃にちゃんと治療をさせたから、もうレオンは死ぬことはないわ。
それ以上に立派に育ったことを、誇りに思っています。」
「あの、もしかして…。」
私は右手を軽くあげてハイと質問のポーズ。
王妃はキョトンと私を見つめた。
「レオン様に子供の頃厳しく治療のことで叱ったりしました?」
うすら笑みを浮かべる私に、『んー』と考え込んで小さくまた首を傾げた。
「よく熱を出す子だったから、それでもタイラーと遊ぼうとして…、そうねえ叱っていたかもしれないわね。」
「…あのもしやそれで、『お母さんみたいになっちゃう』みたいなお話をレオン様にされました?」
「…ええ、そうね、確かに!あったわそんな事!
あまりにぐずってお布団に入りたくない、薬を飲みたくないと言って…、レオンの母が同じ病気で苦しんだから飲まなくてはダメと強く叱った事があるかもしれない…!」
…これだなあ、絶対。
具合悪くて、無理矢理飲まされた薬のトラウマと、思い違いした記憶がずっとしこりに残ってたんだな。
遺伝性の魅了に関しても、どんどん『必要としない勇者の能力』は、子孫には色濃く遺伝しないようだ。
なのでタイラー様が先祖返りというか特別変異だったようで…。
キーオも王妃も私が取り込むほどの魅了はないと判断。
王妃にはその病気のエピソードをどうか今日の食卓の時にレオンに話してみてあげてくださいとお願いしておいた。
きっとこの話をタイラー様と共に聞けば、夕食時の笑い話として、トラウマも和らぐことと思う。
えーっと後は。
ふと呼ばれた気がして、私の手帳を書く手が止まる。
キョロキョロと左右を確認する。
姿は誰も見えず、なんだ気のせいかと再びペンを持つと。
後ろからふわりと抱きしめられた。
「メーイ…?」
耳元に彼の声と髪の毛が触れ、思わず耳を手で押さえ振り向く。
「…ガイの真似はやめて!」
私は口をへの字に曲げ、顔を赤くした。
「…ちぇ、バレたか。
声真似までしたのになぁ…」
オーガストは子供っぽく舌を出して笑った。
「リルそろそろみんな待ってるよ。」
優しい声が私を呼んだ。
そして私に手のひらを向ける。
私はその手を取って馬車から降り、歩み出す。
「さーあ、褒美に新しい土地をもらったからね!
開拓しますよおお!!」
「でもイオさんたちはあそこの街から出たくないって言ってたんでしょ?」
オーガストの疑問に私はニヤリと悪そうに笑った。
「私考えたんだけど、あそこは出なくてもいいのよ。
もらった土地もそんな離れてないから、もしかすると掘ることも可能かもしれないじゃない!
だからね。予算ぶっ込んで沈下したとこは丁寧に埋めて街に戻せばいい!
そして生きてる部分の鉱山を再開すれば、残っている人たちは働けるでしょ?」
「…それだと予算がかなりかかってしまいますが。
あの街はもう鉱山の部分だけ修復して皆さんを新しい土地に移動させた方が予算も…」
「エドエドわかってないなぁ。いい思い出はなくても、君たちのふるさとでしょ?
あそこはお母様の思い出の地らしいし、無くなったら悲しむだろうし…。」
私はくるりと振り返り、必死に計算しているエドエドの肩をポンと叩く。
「予算かかっても大丈夫よ。うち、それなりに儲かってるし!」
「…ですが…あーもう!わかったよ。なるべく予算は抑えるように…コブさん達みんなを使えばいいんだ…そうだそれだ!」
突然にひらめいたエドエドは必死にメモを取り出した。
こうなるときっと耳には入らなそうだ。
「手伝いにはきてくれるって手紙が…」
私は夢中のエドエドを見つめながら、ため息をついて微笑んだ。
「ガイ?」
私が名前を呼ぶと、スッと姿が見える。
「メイに言われて調べてきたけど、鉱山掘れそうな場所がココとココと…ココかな?
他には危険な感じはなさそうだったよ。
…だけど…本当に開拓しなきゃ、だったよ?」
ガイが苦笑いをする。
「…望むところよ!
とりあえずは偵察に私も行きたい。」
「もちろん、お供するよ。」
ガイが静かに微笑んだ。
私が微笑み返そうとすると、すぐさま手が伸びてくる。
「ダメだよ、3秒以上見つめ合ったら。」
そう言って私の目を塞ぐオーガスト。
前が見えないのでバタバタと暴れると、手が外されオーガストのアップが。
直視出来ず思わず目を逸らす。
「なんで逸らすの?」
「…恥ずかしいから!」
私の反応にオーガストが満足そうに笑う。
ガイが呆れたように『ご勝手に』とエドエドの方へ歩き出す。
「もー!仕事仕事!!」
私がオーガストを追い立てるようにオーガストの頬に手を添えると。
その手を引かれ、あっという間にオーガストの腕の中へご招待頂いてしまう。
「ねえ、今日はまだ好きって言ってもらってないよ?」
「なんで毎日言わないといけないんだよ!」
「それは毎日エイプリルが僕のものだって確認したいからだよ。」
「そんなことしなくていい!知ってるでしょ?」
「…知ってても、知りたい。」
『ダメ?』と言わんばかりに覗き込んで首をかしげる。
あーこれは、惚れた弱み。
この顔されると、キュンとしてしまう。
どうせ逃げられないんだから、さっさと言ってしまおう。
そしたら街の偵察に行けるんだから。
私は覚悟を決めてオーガストを見た。
「好きだよ、オーガスト。」
オーガストが首を傾けたまま満足そうに笑った。
「僕も好きだよ、リル。
世界一好きだ。君だけをずっと。」
そう言った後、ほら今日も甘くとろけるキスが私に降ってくるのだった。
こうなると暫く抱きしめられて話が進まないので、近況をひとつ。
私たちはあれから学校を辞めて、ディゴリー商会の立て直しを頑張っている。
鉱山の収入は半減し、人も少なくなったが、街のみんなは復興に頑張っている。
サミュエルの商会も援助してくれて、少なからず活気は戻ってきた感じ。
メー様やアナ様とは中々会えなくはなったけど、それでもほとんど毎日のように手紙を書く。
私が寂しくないように、沢山の学校の話題をくれた。
ハートテイル様は婚活頑張っているらしい。
持ち前の美貌で、あちらこちらで『魅了』しているとの噂。
もちろん彼女の『魅力』という、魅了ですけどね。
今度アナ様とアルド様、メー様と新しい『彼氏』とで、うちの領地に遊びにきてくれることになっている。
どうも私が驚く知り合いらしのだけど、誰なんだろう?
それまでに軌道に乗せられるように頑張らないとね!
そしてそしてエドエドとガイは。
うちの商会の『従業員』として雇いました。
エドエドはとても優秀で、スタインバークで馬車馬のように働かされていた知識を活かし、うちの会計担当となってもらった。
それ兼、秘書?
「…ハァ、それを何でも屋っていうのでは?」
私の脳内まで読めちゃうスーパー秘書となった。
あー怖い!
ガイは護衛。
まぁやっぱりです。
セキュリティも担当してもらって、新たな人員育成も兼ねて頑張ってもらっている。
ガイの素性は謎のままだけど…。
いや聞けば出身家族構成なんでも教えてくれるので、謎ではないんだけど。
のんびりマイペース。
そこが一番の謎というか。
ただみんなの幸せを願っているただのいい人でした!
それからもう一人、この人…。
「おいエイプリル、早く指示しないと開拓する人員雇ってんじゃないのか?」
「オーガストもう離して!呼ばれてるから!」
「…やだーもう少しこのまま…」
「おい、いい加減しないと横からかっさらっていくぞ?」
「…やれるものなら。」
「もー!喧嘩しない。ほらさっさといくよ、オーガスト、ラルフも。」
オーガストの腕からスルリと抜け出て、ラルフの元へと小走りで近づいていった。
スタインバークはレイモンド様の罪を受け、公爵の爵位を降格処分となった。
それを重んじて受けた現当主はローウィン様。
屋敷は取り上げられ、新たに男爵としての小さな領地を頂き、パウエル様とそちらに移り住んだ。
なのでラルフは自ら私のところへ来て、鉱山経営のお勉強中。
いわゆる私の弟子!
弟子なのです!
ラルフはローウィン様とパウエル様との面倒を見る決意をして、日々頑張っている。
…変わったなぁ、えらいぞ…弟子よ!
まだ何もない土地の前に集まる人たちをまとめながら、弟子がこちらを見た。
なんだ、良いぞ、苦しゅーない。
腕組みをして頷いていると、イラっとした顔でラルフ様が手招きをしたので慌てて急ぐ。
途中で考え事して立ち止まってたんだった。
急げ急げ。
街を開拓はまず仮住まいを何軒か立てて、別の人員は鉱山を掘り始める。
とりあえず明後日にはイオさんとコブさんが手伝いにきてくれることになってるので、美味しいご飯が食べられるー!
ので、食事面はなんとかなりそう。
ここからまた新しい始まりがあると思うと…!
ワクワクして心が踊り出すのを必死で抑える。
カバンから手帳を取り出す。
そして反対の手にはペンを持つ。
「ディゴリー夫人、こっちを見てください!」
「はい!今行きます!」
私は呼ばれた方向へ慌ただしく走り出した。
長い間ありがとうございました。
次回作の予定は未定です。
暫くは直しと絵を描いて過ごそうと思います。
次回作の予定が決まれば、またTwitterか活動報告でします。
良かったら覗いてみて下さい。




