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第86話 あれ?何かを忘れている様な……?

私たちは忘れていた。

すっかり忘れていたのだった。


あの後すぐに残りの貴族に頼まれ、ラルフ様の案内でスタインバーク家の執務室へと連行された。

金庫の鍵がレイモンド様しか無理だった為、エドエド再びカギ係になる。

本人立ち会いのもと、書類は全て丁寧に破り、本人へと返却した。


全て終わった時、太陽はもう高い位置にいた。


だがその後。

怒涛の取り調べの末、スタインバークについての『盗み』についての罪は無効となった。

それどころか多くの貴族を救ったことにより、なんでも一つ願いを叶えてくれることとなった。


コレはまぁ、レオンの計らいだろうけど。


後日表彰される事となったので、その時までに考えておきなさいとの事。


この願いは決まってる。


前々から言ってた『婚約制度の見直し』である。

親が決める政略結婚をなくし、身分差なしの自由恋愛を認めてもらう法案。

法案とか言ったらかたっ苦しいかもだけど。


婚約破棄で女性が傷を付かないように、取り計らって欲しい事。

少しはみんな気楽に恋愛できるようになるのかな?


少しワクワクする。


すぐに浸透は難しいかもだけど、前みたいに破棄するのにも婚約するのにも、王の許可や書類手続きを廃止して、婚約は貴族同士の両家でのみで行う事となる。


難しいことではない話、かな?


そして『救世主』について。

…コレはひたすら隠し通した。


ほか貴族に『召喚の儀』なんて危ない事を知らせる必要はない。

もしこの世界がピンチになった時に知ったらいいし、そしてそれはラルフ様とヴィヴィアン様に受け継がれた。


ドサクサに紛れてパウエル様と会う機会があった。

もちろん執務室で紙を破く大事なお仕事をしている最中。


ドアの外でウロウロとするパウエル様を声かけたのはオーガストだった。


前にローウィン様のお屋敷に来た時だって、『どうしても私に会いたかった、会って母親の事を謝りたかった』らしい。


話してみて、パウエル様はパウエル様で、私への『愛情』が感じ取れた。

母のことも、ちゃんと。

私の勘は間違っていなかったと心底ホッとした。


パウエル様の手が私の手に触れた。

とても大きく、そしてとても老いて見えた。


少し胸を痛めたが、この件関してはやはり…。

謝罪は受け取ったが、許すには時間がかかるのかもしれない。

パウエル様のやった事は例えレイモンド様に唆されたとしても、絶対やってはいけない事。

それは許してはいけない。

私の心がそう言ってる気がする。


なので時間をかけてその謝罪を受け入れられるよう、少しづつ歩み寄ることにした。

母親の話も、ローウィン様とで教えてくれる事となった。


それは少しだけ楽しみになる。


ヘトヘトに疲れて、久しぶりの我が家へと帰った。

お屋敷の前には、私達の帰宅を知り、お父様が迎え出てくれていた。


門の前で抱きついた。

私の大事なお父様。


私の父は、この人なのだ。


私はエイプリル・ディゴリー。

4月生まれの16歳。


「お疲れ様、エイプリル…。」


「ただいま、お父様!」


涙が出そうなのをこらえ、笑う。

お父様も泣きそうな顔して微笑んだ。


後ろからゆっくりと歩いてきたオーガストも、お父様は抱きしめた。


「やっと、家族が揃ったなぁ…。」


お父様の言葉に、オーガストも微笑んで3人で抱きしめあった。

やっと帰ってきた。


全ては終わったのだ。


ホッとしてオーガストを見つめる。

オーガストは見つめる私を、恥ずかしそうに見つめ返した。


「…ちょっと!!何やってんのよ!!」


リンリンと鈴が激しく鳴り響く。

思わず鳴る方向を見上げると、ハートテイル様がワナワナとハンカチを掴んで震えていた。


「オーガスト!!あんた私の婚約者なのよ!!」


ツカツカとこっちへ歩いて来る様子に思い出した。


「あー!すっかり忘れてた。」


私の言葉にオーガストが苦笑いをする。


「…リル、悪いんだけど、最後のお仕事があったね…」


そういうと肩をすくめた。


「ねーメイ、この小さいのはどうするの?」


ガイが手を振りかざしたままのハートテイル様を持ち上げた。

私を打とうとしたのだろうか?

そのままの姿勢で唖然とするハートテイル様。


「…しょうがない、やるか…」


「はぁ!?ヤるって何よ!正々堂々かかってきなさいよ!!」


足をばたつかせるハートテイル様。


オーガストがため息をついて、嫌そうにガイに加勢する。


「ちょっと!!オーガスト!

…3人がかりで何をする気…」


喋っている途中で私が『ガッ』と顎を掴んだ。

俗に言う、顎クイ。


「はーい、痛くないからねー

大丈夫、大丈夫ー」


「…何!?いや…イヤよやめて…!

私を魅了する気!?卑怯よあんた達!!」


私の瞳がハートテイル様に重なる。

タイラー様の一件、何となくコントロールはできるようになった事を感謝しつつ。

ふんすっとハートテイル様の瞳を探る。


だがしかし。

いざ自分からやろうとすると、どうもうまくいかない。


ハートテイル様もイヤイヤと顔を左右に振って抵抗するので、焦点が定まらない。


…よし、煽ってみよう。

苦肉の策!


「おおおん?どうしたどうしたー、怖いのかーい?」


それは煽りなのかと言われたら、そうじゃないかもしれないが…これが私の精一杯だ。


私の言葉に見事に釣り上げられるハートテイル様。

目を見開き怒りが見えた。


「はーん!?私を誰だと思ってんの!!」


アゴむにゅってされながら目を見開き、私を睨む。


その時、瞳の奥がユラユラと燃え出した。


…うん。

可愛いぐらい単純な人。


こんな事がなかったら、友達になれたらよかったのにな。


おなじ転生人同士、弾む会話もあっただろうに。


そんな事を思いながら、瞳の炎を捉えた。


ハートテイル様は苦しそうに眉をよせたが、私から目をそらすことが出来ず、ただ為すがままに私に瞳を捉えられて身動きもできない。

タイラー様の時のように別の生き物が出て来ることもなく、ハートテイル様の中にいた魅了というものは、全て私に飲み込まれる。


プツンと糸が切れる様に、瞳同士が外された。


ハートテイル様は反動で後ろに体をそった。

それを後ろのガイが抱きとめる。


見開いた目がガイを見つめていた。


「…ねえ。」


ガイは自分が問いかけられた事に動揺した。

キョロキョロと辺りを見渡して、自分かと言わんばかりに指をさした。


その時ハートテイル様を抱えた手を離した為、ハートテイル様は下にストンと落ちてしまう。


「ちょっと痛いじゃない!!」


お尻を抑えつつ、モゾモゾと立ち上がる。


ガイはまだ動揺し、狼狽えたままだ。


「あなた名前はなんて言うの?」


ハートテイル様はガイに詰め寄った。

ガイはまさかの彼女の行動に、仕切りに両手を振り続ける。


「えっと、彼は私の護衛で…」


「あんたに聞いてないわ!」


私が代わりに答えてあげようと思っただけなのに。

速攻で言葉を遮られた。


「えっと、ちょっと私の護衛ハントする前に聞いて欲しいことが!」


「うるさいわね!!何となくわかってるわよ!!」


思わず息を飲む。

そう言うとハートテイル様は俯いた。


「…スタインバークの計画、ダメになったんでしょ。

あんた達が意気揚々と帰ってきたと言うことは。」


「…あー、はい。」


「それで、私の魅了も使えなくなった。」


ハートテイル様はお尻をパンパンと叩きながら言った。


「…はい。」


私は素直に返事をする。


「そっか…これでスタインバークは終わりね…。」


「うーん、そこはまだ、ちょっと、わからないです…。」


ハートテイル様はスッと髪の毛を手ではらう。


「あーこれで、私も終わりなのね。」


「…え?」


「あんたは言ってもディゴリーをしつこく名乗ってたから実害ないかもだけどさ。

お互いスタインバークの令嬢という事実は消えないわけでしょ?」


「…んん?」


思わず噎せてしまい、激しく咳き込んだ。


「そんな動揺しなくても…。」


そんなこと言われながら背中をさすってくれたが…。


「ハートテイル様スタインバークとは一切関係ありませんよ?」


何とか喋れる様になって、事実を告げる。


「…何言ってんの?私は…」


「そこもパウエル様に確認してきました。

全く申し訳ないのですが、ハートテイル様は間違いなく両夫妻のお子さんで、ハートテイル子爵の事業の事で、ハートテイル夫人がパウエル様にご相談してただけの仲だった様です。

…まぁそこを実験材料としてパウエル様が利用してしまった為、召喚の儀を使われてしまったのですが…。」


「ななな…」


「…ばなな?」


「何でよ!!ぱ、ぱうえる様も私に、お父さんと呼んでいいと…!」


「…それについても、あまりの嬉しそうに仰るハートテイル様に事実を言えなかった様です!

まぁ、自分が悪いことをしている自覚もあったので、ごまかしたかったのかと…。」


「な、な、な…」


「…ば、な、な、?」


「煩いわよ!!!何なのそれ!!その事実!!

…イヤよ絶対間違いだわ。何かの間違いよ。

私があんなチビデブな子爵の娘なわけ…」


「…全くもって事実です…。」


思わず侍女のように手を前にちょこんと組んで、お辞儀する。


それにあっけにとられたように固まるハートテイル様。


ハァと大きく息を吐くと、スーンとした顔で私を見た。


「…帰るわ!馬車をここに。

こうしちゃいられない、もっと爵位の高いイケメンを見つけないと…!

学園に戻る準備しなきゃ!」


そういうと足早に馬車乗り込み去っていかれた。

台風のような人だった。


私たちは思わず顔を見合わせて。


「お腹すいたー!メイヤーさんに夕飯作ってもらおうー!」


私はみんなの背中を押しながら家の中へと入った。


仕切りにお父様がガイをチラチラと見て、これは誰なんだとドキドキしながら私を見つめていたことは後に知ることになる。


いつもありがとうございます!

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