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第84話 ゴリ押し救世主。

うちの領地から城まで幾度となく、スタインバークの影が付け狙ったが。

さすが本場の護衛騎士。


手先が焦げてもタイラー様に指一本触れさせませんでした。

すんばらしーい!!


馬車で急ぐこと数十分。


城の裏手から、王家専用通路でダッシュ。

あっという間に、会議室へ向かう。


私は書類持つ係…。

いや、破く係かもしれない…!


わっさわっさと書類の束を持って、何やらザワザワする声が聞こえる扉の前に立つ。


ノックの音で部屋から一瞬声が聞こえなくなり、『どうぞ』と小さく聞こえた。


静かに扉が開く。


まずは一番初めにレイモンド様と目が合う。


だが私に興味がないのか、チラリと姿を見ただけですぐ王様に向き直る。


レイモンド様の横にラルフ様とヴィヴィアン様が立っていた。

私を見るなりラルフ様は眉を寄せたが、静かに目線はそらされた。


その手前に王様、王妃、あばらを押さえるレオン様が座っていて。

逆側反対のテーブルにはレッドメイル派、スタインバーク派の貴族が入り混じって座っていた。


王様はほとほと疲れた顔をしていて、レオンもかなり参っている表情だった。


「…父上、お待たせしました。遅くなってすみません…!」


タイラー様がわざと声を張る。

この声にレッドメイル派の貴族は俯きがちにザワザワとしていた。


「…タイラー、よく戻った。

状況は使いを出した通りだ…。」


王様は消え入るような小さな声でタイラー様に呟いた。


「…お任せください。」


タイラー様も小さく王様に耳打ちした。

その声に王様は少しだけ安堵の表情をした。


「今日はどういう要件でお集まりで?」


タイラー様が自信満々に微笑みながら言った。


だが胸を張った背中の裏で、拳を強く握りしめた。


きっとうまくいくか怖いのかもしれない。

それがわかったので、思わず背中に手を置いた。


私の手の感触に一瞬私を見たが、不敵に微笑みながらまた前をまっすぐ見た。


「…第一王子が、王の代理か?」


嘲笑うかのように微笑みながらレイモンド様は言った。


「代理とは恐れ多い。

ですが、公爵の要件を聞くぐらい出来なければ、次期王に相応しいと認めていただけないようなので。」


それに負けず勝気に微笑むタイラー様。


「…ほう、次期王と?」


レイモンド様の唇が綺麗に三日月の様な形になった。


「ええ、何か?」


タイラー様の発言に、レイモンド様が大きな声で笑った。


「遅かったようだな。今この無能な王は、王ではなくなった。」


レイモンド様が後ろに控えた左右の貴族をゆっくりと見渡す。

貴族たちは俯き目を合わせない者と、レイモンド様と同じテンションの貴族とで見事に別れた。


だが態度はそうであっても反論しなきゃレイモンド様の意見に同意したも同じ。


王様と王妃は互いに顔を見合わせて、うな垂れた。


そんな様子にタイラーの顔が曇る。


レオンも不安そうにタイラーを見つめていた。


「ああ、そうそう。我が娘との婚約は無しにしてくれ。

貴様は娘に怪しい念を送り、操っていたのだろ?

それに関しては、裁判にかけ処分を決める。」


そういうとヴィヴィアン様の腕を掴んで前に押しやる。


「ちょっとお父様!!勝手に決めないで!」


レオンに視線を送りつつ、ヴィヴィアン様が声を荒げた。


「私が王になるんだ、勝手じゃないぞ?

私が決めるのだ。」


ヴィヴィアン様は大きな目を見開き、レイモンド様を睨みつける。


「 お父様どうしてしまったの!?

ちょっと横暴すぎますわよ!!」


ヴィヴィアン様が縋るようにレイモンド様の袖を掴むと。

レイモンド様は素早く振りほどいた。


あっけにとられるヴィヴィアン様。


そしてレイモンド様がヴィヴィアン様を見た。


「ああ、お前はコイツと破棄したら、ローラントの息子と婚約させる。

筆頭貴族でもあるローラントが全面的に私に忠誠を誓うそうだ。

こっちもそれなりの忠誠を見せないとな。」


ヴィヴィアン様が自分の父親の言葉にショックで固まっていた。

まさか自分が『贈り物』扱いされるとは思っていなかったのだろう。


顔は青ざめ小さく震え出した。


「父上、それは流石に…!」


ラルフ様がヴィヴィアン様の前に庇うように立った。


それにレイモンド様が眉を寄せた。


「…これ以上失望させるな、ラルフ。

本来ならお前が王になるところを力不足な為、私がやることになったのだぞ?

これ以上父の足を引くような真似をするな。」


グッと唇を噛むラルフ様。


「ですから私がエイプリルと婚約して、王位を…」


「もう必要ないのだ。」


最後まで聞かず途中でビシッと言葉を止めた。


「…え?」


「その役立たずの娘は、もう必要ない。

最後のチャンスも棒に振った。

無能な救世主はいらないのだ。」


レイモンド様はそういうと、とても満足げに笑う。

そしてまたチラリと私を見ると。


「ディゴリーは無謀な儲けを出すために掘ってはならぬ場所まで掘り進め、街一つ無くしてしまう大惨事を引き起こした。

爵位剥奪、領地取り上げで家族共々牢に入ってもらう。」


そういうと、私を指差した。


「そんな横暴な!

うちはそんなことしてないし、やったのはアナタが人の領地で勝手にやったことでしょ!!」


思わず声を荒げた。


「お前、王に向かってなんて口の聞き方を…!」


レイモンド様の顔が怒りを私に向ける。


「あの!!レイモンド様はもう王になったんですか?」


勢いで私がずいっと前に出た。

まだ王ではないなら不敬罪にはならない…多分!

だって私パウエル様の娘なら身分は同じはず!!


「だから私はさっき王になったと言っただろ?」


「それはどうやって決まったんですか?」


「多数決だ。」


「もうそれは決定しましたか?」


「だから決定したと…」


「…いえ、決をとってまだ数えている途中で…」


王の後ろに控えていた宰相が小さくなって口を出した。


「お前は黙ってろ!

数えなくても結果はわかる!!」


レイモンド様が怒りを宰相に向けると、さっきより小さくなった。


「ならもっかいちゃーんと多数決をとりましょうよ!!」


「なぜもう一度する必要があるのだ!?」


「こんなあやふやな多数決が国民は納得しません。

しかも第一王子であるタイラー様がいない時に決を取ったんですよね?

…次期王候補がいないとこで決を取ったのが後々響いたりしませんかねぇ…?

どうせならレイモンド様もクリーンな投票をしたいですよね?

さっきが満場一致ならもう一度やっても一緒ですよね…?」


ゴリ押しとはこのこと。

わかってますとも、でも必死に食い下がる。


ゴクリと唾を飲み込む。

書類は背中に隠した。

私の考えは悟られないように。


レイモンド様は私を見つめ、眉を寄せた。


緊張感が走る。

無駄に長く、沈黙の時が流れた。


後ろの貴族にも動揺がじわじわと広がり出す。

その様子にレイモンド様も焦ったように貴族たちを睨みつけた。


「…ならばもう一度決を取ってやる。

どうせ結果は一緒だ。」


「…ええ、そうでしょうとも。」


かかったあああ!!!

後は、これを…。


背中で隠す書類を強く握る。


「…だが、その背中に隠しているものを無効にすることが条件だ。」


レイモンド様がニヤリと微笑んだ。


「…無効?」


唾液を飲み込む音が響く。

タイラー様の余裕ある表情が一気に曇る。


…さあどうする?

……どうする!?私。

いつもありがとうございます。

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