第75話 再び来た、地響きとともに
「私は今から試してみたい事をして、口を割らせる事にしました。」
全く意味のわからない言葉を言う私。
オーガストでさえポカーンとした顔をしている。
語学力が無いのではなく、言葉通りなのです。
必殺☆人間は静電気で拷問できるか。
いや拷問じゃ無いけど…!
この世界は空気が乾燥することがあまりなく、静電気の概念がない。
たまにドレスを脱ぐ時にバチンと来る静電気でさえ、怪奇現象の類と疑うぐらいだ。
さっきまでいた洞窟の様なヌメヌメしたところとは違い、ここは鉱山の中。
穴の中は変わらないが、ここはさっきより空気が乾燥している。
静電気って、なんとなく魔法が使えるような気分になると思いませんか!
この世界は魔法が存在はするのだろうけど、それを使う人はわずかだ。
なので魔法を使えると見せかけたら、ビビって口を割るのでは無いかと私は考えた。
必殺☆簡易拷問。
徐に両手を髪の毛に擦り付ける。
短くなったけどこれで確実に痛むだろう行為。
手のひらがちょっと熱くなるぐらいでやめ、スッとまんまるの腕に人差し指を触れさせる。
『バチン』と静電気が音を鳴らせて、まんまると私の皮膚に痛みが走る。
イッター!!
ダメじゃんこれ私も痛いじゃん!
思わずくじけそうになったが、まんまるは突然の痛みにひどく驚いている様子。
…うまくいった?
しかも痛みに後ろに下がったが、檻はギュウギュウで私の手の届く範囲外まで逃げれない。
何度も掴まれた腕と私をみた。
かなり怯えた様子で。
もう一度ゴシゴシと手を髪の毛で摩擦し、今度は反対の手に触れる。
『バチン』
さっきより強い痛みが私にも返ってくる。
ぎゃー痛い!!
これが本当の自虐…。
そしてモジャモジャになる髪の毛。
やや涙目になりながらまんまるを見つめる。
「もっと痛くしてやろうか…!」
まんまるに向かってガオーっと両手の爪を見せるように向けた。
まんまるが微々たる痛みだったが、かなりビビったように私を見ていた。
ふっ…これも異世界の知恵…でいいよね?
…いいよね!?
「…お前、魔法を…!
…成る程だからレイモンド様が欲しがる筈だ…。」
妙に納得するまんまるにトドメのコメカミビリビリ。
これは結構痛いのだ。
そして、私の指も痛いのだ…。
『バチン』とコメカミに走る静電気。
まんまるはかなりビビり、コメカミを抑えながら叫んだ。
「お、お前今魔法でワシの脳をいじっただろ!!」
その勘違いに自警団もビビり出す。
「静電気ぃ、舐めんなぁ!!」
鬼の首とったかのようなドヤ顔に、檻の中の人達はうなだれた。
見事にうなだれたのだった。
ふはは。
オーガストもレオンも何の事だかわかってなかったが、空気を読んで自警団やまんまるに言った。
『魔法で頭の中を操作されたくなければ、洗いざらい吐けと。』
護衛の中にも『こいつ本当に魔法が使えんじゃねーか!?』なんて勘違いしているのが居るので、後で誤解は解かねば。
とりあえず静電気一回、護衛にも試しとこうかな。
ポロポロと静電気にビビった自警団たちが質問に答えていく。
まんまるも観念した様に、レイモンド様の目的なんかを吐き出しだした。
「…男どもはお前らが来る前にとっとと別の村に連れて行って閉じ込めてある…」
「お父様もそこへ?」
「ディゴリー男爵もそこだ。
だがディゴリー男爵はお前たちを言うこと聞かせる為の最高の道具になる。
今頃レイモンド様が自分の屋敷に連れて行ったかもしれん…。」
「…ガイもお父様と?」
「ガイ?…ああ、ノッポの兄ちゃんは廃屋に連れてった時点で勝手に抜け出して逃げてったぞ…」
「…え?」
ガイ…どこ行ったんだ…!?
『助けに来たら誰もいなかった』な気分にポカーンとしてしまう。
どこに行ったんだろう…。
ガイめ…!
とりあえず私がガオーのポーズをすると、大人しく縛られる人達を連れて、鉱山を後にした。
鉱山を出て、タイラーたちと合流する。
まんまるとまんまる影武者の区別をつける為に、同じ牢には入れないことになった。
しかしよく似ているな。
魔法で姿を変えたとか整形とかではないのはわかっているので、本当に似た人を探してきたのか、兄弟なのか…。
それについて興味あるのはきっと私だけだろう。
バタバタと人の出入りが激しくなる。
全員悪者は護衛の人がぐるぐる巻きにしているので、身動きは取れなさそうだ。
王都から檻状の馬車待ち。
でも1台じゃ無理そうだし、結構な台数が来ることになるだろう。
とりあえず運搬に関してはレオンたちに任せて、私はイオさんの元へと向かった。
イオさんはテキパキとみんなを指示して、私たちが来た時封鎖した2階の階段や奥の部屋を掃除して、使える様にしていた。
思えばここにみんなを避難させたが、部屋とか使えない状態だったんだった。
2部屋しか使えない状態だとこの人数不便だったね…。
とても申し訳なく思った。
みんなが慌ただしく動く中、玄関でショボンとした顔の私が立っていると。
「メイ!!!」
イオさんが私の名前を呼んだ。
それに合わせてみんなが私に注目した。
あっという間にみんなに取り囲まれ、口々にお礼を言われる。
私は何もしていないです!!
全てうちの弟とレオン王子のおかげですと、たくさんのハグの中叫んだ。
イオさんが涙ぐんでいた。
その横でコブさんがイオさんの肩をそっと抱きしめている。
ああ、なんて幸せな光景だろう。
私はみんなに揉みくちゃにされながら、イオさんたちを見て微笑んでいた。
イオさんの泣き顔、初めて見た。
もらい泣きしそうだった。
微笑んでいた私に、イオさんは両手を広げる。
私は走ってイオさんの元へと向かい、その胸に飛び込んだ。
「メイー!!バカだね、なんで来たんだい!」
「心配だったからに決まってるでしょ!」
「もう!バカだね、この子は…!」
抱きしめ合う私たちに、コブさんも加わった。
この街でのお父さんとお母さん。
私はイオさんの温もりのとてつもない安心感に包まれた。
その時、ゴゴゴという地響きと共に、地面が激しく揺れだした。
イオさんと抱き合ったまま、身を縮こませる。
「はやく、何か…テーブルとかの下に!」
慌てて叫んで、みんなを誘導する。
あっという間に震度5か6か…。
とてつもない揺れに、タンスや食器棚は扉をあけて、食器や服を吐き出していった。
2ー3分続いた揺れが収まった時に、ふと外が気になった。
慌てて外へ出ると、街の中心から目視でザッと直系で20mぐらいのクレーターができていたのだった。
近くにあった家も、お店も、コブさんの壊れたお店も、綺麗さっぱりとクレーターに飲み込まれていた。
愕然と辺りをユックリと見渡すと、うっすら遠くに護衛たちの姿が遠くに見えた。
「オーガスト!!
レオン!!」
私は人影たちに向かって走った。
ほぼ街の中心が地盤沈下を起こした状態で、捕まった自警団の人も護衛の何人かもクレーターに落ちてうごめいていた。
下はさほど深く見えず、それでも3メートルぐらいは深そうだ。
やはり違法に掘った穴は無理が祟ったのだろうか…、そのせいで街の中心が落ちてしまった。
無事な人が慌ててロープなどを手配しようとバタバタとしている。
「…オーガスト?」
一人一人を丁寧に目で確認していく。
「…エイプリル!!」
後ろから名前を呼ばれ、振り向くと。
「よかった、無事だったんだね…。
僕は1便の馬車に乗せるメンバーを入り口に移動させてたから…。」
そういうと、静かに私を抱きしめた。
「…無事でよかった…。」
私もそっと背中に手を回す。
久しぶりのオーガストの匂い。
そして頬に触れる髪の毛の感触。
思わず泣きそうになったけど。
すぐさまハッと思い直し、オーガストから離れた。
「レオンやタイラーは?」
「さっきまで、イオさんの店のあたりにいたと思ったんだけど…。」
オーガストから離れてもう一度辺りを見渡す。
土が舞い上がる視界の悪さに、必死でレオンとタイラーを探した。
護衛を頼りに1人うずくまっている人を見かけて近寄った。
「タイラー!レオンはどこ?」
タイラーは青い顔で頭を抱え、動かない。
「レオンはどこ!?」
タイラーの前に立ち、目を合わせる。
私と目があったタイラーは静かに私を見つめる。
そして、指を下に向けた。
慌てて沈下したクレーターを覗く。
数名の護衛騎士がロープで下に降り、動かない誰かを抱き起す姿。
「レオン!!!」
叫ぶ私の声に反応がない。
急いで救出するお手伝いをするが、私が役に立てることはあまりなかった。
レオンはグッタリと、何度呼びかけても目を開けなかった。
いつもありがとうございます。




