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第74話 ウサギは、可愛い……?

ウサギって言ったらさ。

可愛い絵を思い浮かぶじゃないですか、普通。


今誰もがみんな、言葉を失っているんです。

もう立ちすくんじゃう。


コブさんの癒しの基準とは。


そこに書いてたウサギはまるで。

まるで。

ウサギでは…ないかも。

いや、ワンチャン、まぁウサギという種類のもの…?


リアルに寄ってるけど、ちょっと輪郭とかズレてて睨みを効かせた怖い顔に、カンガルー並みのムッキムキボディのどう見てもウサギではなかった。


肩に錨マークなんか書いてる時点で鉱山用じゃない。

海の人用だと思う。


「コブさん絵心あんまりなかったんだなぁ…」


私の言葉にオーガストが少し笑った。


「それでもみんなを癒そうとして書いたんじゃない?」


オーガストがクスクスと笑いながら言った。


「それじゃ、このウサギ?を頼りに行きますか…」


私は携帯用のランプをつけた。

そしてウサギを振り向きながら、先へ進んでいった。



しかしこのウサギ?のマークはコブさんが言うだけあって、スイスイと進んでいける。

しかもウサギ?はだんだんとめんどくさくなったのか、耳が左右非対称だったり、ネズミっぽくなったり、体が錨マークだけになったりしていた。


お陰で覚えの悪い私でもすんなり頭に入る。

帰りは錨に、ネズミに、アシメの順。


コブさん天才か!


未来の私に向けてのメッセージだったに違いない。

そう思いながらウンウンと頷いた。


ウサギ?のおかげで全員迷う事なく中央へと着いた。

ここまで何も、誰にも会わず。


でも絶対私たちが来ることぐらい容易にわかると思うから、慎重に行かなければ。


「…コブさんはここへ向かえって言ってたよね?」


中央広場の壁をペチペチと叩きながら私が言った。

オーガストがじっと考え込んでいる。


そして壁を叩きながら思う。


「…罠とかあったりして、ね?」


何の気なしに口から出る言葉に、中央広場の中心に向かって歩き出そうとしていた護衛騎士が『ビクリ』と体を強張らせ立ち止まった。


片足をズリズリと後ずさる。

先頭の騎士もまだ中心へはたどり着いていないので『まだ』何も被害はないのだが、今踏み出そうとしてた騎士にとっては冷や汗ものなのかもしれない。


一歩一歩と後ろに後退していく。


ある程度離れたところで、レオンが少し大きめの石を中央に投げた。


石がビューンと飛んでいき、中心へと落ちる。

しばらく様子を見たが何もない。


…私の勘違いでした的な空気が流れたその時。

数秒、いや数十秒遅れて上から重たそうな大きな檻が落ちてきたのだった。


やっぱ何もないじゃーん的な空気から、みんなが唖然とする。

なぜこんなに石を投げてから落ちるまでが遅れたのだろうという謎にも、思考が支配される。


…え、もしかして手動?

手動なのこれ!?


恐る恐るコッソリと前に出て上を見上げると…。


顔見知りの自警団の人と目があった。


ギョギョギョ〜!


思わずギョッとして、後ろにひっくり返るように私も後ずさった。


「…上になんかいた…!」


小声で呟くと、レオンの護衛の数人がチラっと見にいく。

そして『ブフっ』と吹き出すのを堪え、戻ってきた。


いやぁ、間抜けだろうよ…。


『誰かきたー!

今だー、えーい!

え?あれ?何これ重い…!!

あれ!?

お、落ちない…!!』


的なことが繰り広げられたとか、られないとか。

想像して笑ってしまう。


落ちてきた檻がグラグラ揺れると、ゆっくりと傾き、すごいゆっくり目のスピードで上がっていった。


「…いやもう分かってるから行かないけど!?」


思わずツッコミを入れた。


「…全く。小賢しいネズミだなぁ!」


ゆっくりと奥から歩いてくる人影。


そのまんまるな体型に見覚えあったのだが、思わず目を見張る。


「…あれ!?まんまるなんで!?」


思わず叫んでしまい、まんまるの顔が熟したトマトの様に真っ赤になる。


「まんまるって誰のことだ!!

商人長様と呼べ!オツムの足らない女だな!」


最近バカバカ言われることが多くて、思わずムッとした表情があらわになる。

それに気がついて嬉しそうに見た見たと笑うまんまる。


「いっちょ前に苛立ったのか?」


そう言うとまんまるは大きく下品に笑った。


「お前達が捕まえたワシは、レイモンド様が用意した影武者だったんだよ!

どうだ、悔しいか!?

そう何度も捕まえられてたまるか!!」


下品にゲヒゲヒ笑いまくり、私たちを見る。


下品なまんまると私たちの温度。


…え、別にあっそうですか的な空気。

どのみち全員捕まえないとだし、まんまるに重点を置いていないのですよ。

まんまるが別に何人いようが、まんまるがすでに捕まってようが正直どうでもいいのだ。


なんだとおおお!?

まさか…アイツが偽物だったとは!

く…悔しい…!

なんて感情はつゆほどもなく。

シラーっとした顔でまんまるを見つめる。


それがまた気に入らなかったのか瞬間湯沸かし器並みの着火速度で顔を真っ赤にした。


「誰かコイツらを捕らえろ!!」


まんまるが地団駄を踏んで騒ぎ立てると、上から檻ががしゃんと落ちてきた。

今度は結構速い速度で。


檻は見事に私たちを…捕らえず、まんまるを捕まえた。


呆気に取られているまんまる。


「殿下、ここにいるもの全員捕らえました!」


上から護衛騎士の1人が声をかける。

さっき笑った1人だ。


まんまるが登場して、勝手にヤイノヤイノやっているうちに護衛が気を利かせ上へ向かい、自警団の人たちをパッパと捕らえたらしい。


もちろんいいタイミングで檻を落としたのも護衛の騎士の方。

素晴らしい!!

仕事の出来る騎士である。


こうしてまんまる再登場は呆気なく終わった。

なんだかちょっと不憫だが、しょうがないと思う。


なんかまた影武者ーとかいって出てきそうな気もしないでもない。

そんなこと言っていると本当に出てきそうなので、言わないでおこう…。


私たちは各自鉱山をくまなく見たが、ガイやお父様の姿は全く見えなかったのだ。


「…街の男の人たちさえいないんだけど…。」


ため息混じりに呟く。


「…確かにここに居るとあっちの鉱山で言ってたよな…?」


オーガストが唇に手を当てて考え込んだ。


「…これは誰かに情報を聞き出すしかない。」


レオンのその言葉に、私たちは一斉に降りに捕らえられたままの哀れな男の方を見た。

男は私たちの視線にびくりと震え、首を左右に思いっきり振った。


「…いやあの、私は何もシラナインデスよ…!

ディゴリー坊ちゃん!!

私が嘘をついてないことを証明するために、この目を見てください!!」


男はウルウルとした自分の目を指差した。


「…男の目を見つめる趣味はないんだ。

見つめる相手は1人でいい…。」


オーガストがそう言うと、私を見つめた。

ドキンと心臓が跳ね上がったが、今は護衛の手前『婚約者』な立場なので反応することもできず。

スーッと虚空を見つめるしかなかった。


そんなやりとりを悟るレオンが少し笑うのをこらえていた頃、ドヤドヤと自警団のメンバーが檻に放り込まれた。


檻に放り込まれた自警団の面子と、まんまる屋敷に放り込まれたメンバーとでほぼ全員捕獲してあることが確認できた。


自警団覚えている限りで主要メンバーはほぼ捕獲。


さて、他のメンバーの居場所を聞かなければ。

思わず私はニンマリとする。


狭い檻に逃げ場のないくらいギチギチに詰まっている自警団とまんまる。


「さぁて、みなさん教えて欲しいことがある。」


私は本物の悪役の前で、すこぶる悪役っぽく笑った。

いつもありがとうございます。


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