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第73話 ウサギは、可愛い。

2度目の爆発音が鳴り響いた。


みんなの表情が固まる。


その爆発音に思わず私は走る。

その後を地図を持ったオーガストや、準備中だったレオンが追いかけてくる。


とにかく必死でコブさんの家の方へ向かって走った。


石畳に足を取られ、一度つまずいてしまう。

派手に転んで、靴が片方遠くに転がったけど、構わず走った。


お父様…!

ガイ…!!

…コブさん…!


心の中で何度もみんなの名前を呼んだ。

足が片方痛かったけど、構ってられなかった。


噴水を越えて、曲がり角を突っ切ると、コブさんのお店が見える。

コブさんの裏手から、遠くから見えた黒い煙が激しく上がっていた。


「コブさん…!!」


見慣れた人影がコブさんの家から飛び出してくる。


激しく咳き込みながら、コブさんはランニングシャツにステテコ風のラフな格好で地面にころがった。


「何があったの!?」


慌てて抱き起すと、オーガストとレオンもようやくたどり着いた。


とても咳き込んで話せる様子ではないが、レオンの護衛が差し出した水を何とか口に含むと、落ち着いてきた様子。

背中をトントンとしていたら、大きな音とともにコブさんの家が崩れ落ちた。


思わずギョッと立ちすくむ。


「お父様は!?

…ガイはどこ!?」


勢いよく立ち上がると、小柄なコブさんが後ろにひっくり返ってしまった。


「メイ!年寄りは大事にしろ!!」


コブさんがお尻を撫でながら叫んだ。


「コブさんお父様は!?

ガイも一緒だったんじゃないの!?」


思わずコブさんの肩をガクガクする。


「リル、それじゃ喋れないからね…。一回落ち着いて…。」


オーガストが私をなだめ、レオンがコブさんを介抱した。

見事な連携プレイだ…。


廃屋あたりから気がついていたが、なんか凄く息が合っている。

オーガストはもしかすると、領主的なものになるより、こういう補佐が向いてるのかもしれない…。


もしオーガストがやりたかったら、私が領主になってもいいのにな。


なんてぼんやりと思っていると、コブさんが咳払いをした。


「…ワシはずっと1人でシェルターに閉じ込められてたわい!

誰も助けに来ないから、自分で爆破して出たんじゃ!」


「「自分で爆破!?」」


私とオーガストと声が重なった。


コブさんはオーガストの笑っていない笑顔で『あ、これは叱られるな』と悟ったらしく、慌てて弁解を始めた。


話はこうだ。


なんか突然自警団が押し掛けてきて、自分を捕まえようとした。

逃げるのにうっかりシェルターに入ってみたものの、中から出れないことに気がつく。

出れなーいと騒ぐコブさんを逆手に、自警団が扉の外から鍵を閉めてしまった。

慌てたコブさんはシェルターに入れてあった工具箱から爆薬を作り、中から爆破したという事だった。


「なんて2回も爆破したの!!」


思わず私が叱る。


しょぼんと小さくなったコブさんが眉を下げて言い訳を続ける。


「…2つできたから…」


「2つできたからって2つとも爆破しなくてもよかったじゃない!!」


「2つできたら2つ使いたくなるじゃろ!!」


『な!!』とレオンやオーガストを見るが、誰1人と同意を得れず、またシュンとなる。


「コブさんに何かあったらみんな悲しむでしょ!!

怪我がなくて本当に…よかった…。」


安心したので、涙腺が少し緩んでしまう。

私の目に溜まった涙を見て、やっと反省を述べるコブさん。


後でしっかりイオさんに叱られてください!!


取り敢えず、後から追いかけてきた護衛の人にコブさんを託し、私たちは崩れたコブさんのお店を見つめた。


「…コブさん何も知らないぽいから、やっぱりみんなこっちの鉱山に連れていかれたんじゃないかな…?」


「…そうだよね。あれ以上地下を掘ることはできないはずだから…。」


きっとここにレイモンド様もいるのだろう。

何かを盾にするなら、お父様は格好の人質なのかもしれない。

だとしたら、まだ生きている可能性が高い…。


グッと拳を握る。


「どこから入ったほうがいいのかな?

壊れたお店の奥から行くには障害物が多いけど…。」


しかもさっき爆発が起きたばかりだ。

その振動で脆い鉱山の入り口なんて、崩れる可能性もある。


心配と躊躇で立ちすくんでいると、コブさんが私に何かを投げてきた。


「メイ、これ持って行きな。」


とっさにキャッチできずに、地面にガチャンと何かが落ちる。

落ちた袋から小さなガラスのような瓶の容器に入った数個の液体が足元に転がってきた。


「コブさんこれ何?」


液体を袋ごと拾い上げて、手で360度回転するように確かめる。


「…爆薬の素だ。」


私の手がピタリと止まる。

そして一瞬でじわっと手に汗が溢れた。


「今投げたよね?…投げたよね!?」


しかも私はブンブンと静かに降ったし…!


恐ろしくなり、フルフルと手が震えだす。

そしてそっと離れるレオンたち。


おい!!

離れるとかひどい!


青い顔で立ち尽くす私にコブさんは仕返しした子供のように笑った。


「それはちょっとやそっとじゃ爆発しねーの!」


「そんなの爆薬の意味ないよね!?」


「…コツがいるんだ。だからなんかあった時使え。」


「…なんかあった時って…?」


「お前がこれを使う時が今だって思う時だ。

その判断に町のみんなもきっとわかってくれる…。」


「…コブさん?」


思わずコブさんと手に持った液体を交互に見つめる。


今だって時とは。

そんな怖いこと起きないでほしい…。


思わずブルリと背筋が凍ったが、気を取り直そうと静かに袋にしまった。


私の反応に満足そうに笑うコブさん。


「店が崩れて入りにくいが、この地図を頼りにこっから入れ。

ここが一番古くて丈夫な入り口だ。

帰りもここを目指せ。」


今度はオーガストに折りたたんだ紙の束を投げつけた。


「…この地図は?」


「この入り口から入ったらとにかくウサギのマークを辿れ。

そのウサギを辿ると、地図通りに中央に行けるはずだ。

…多分男どもはそこにいる。」


「…コブさんありがとう…。

でもなんでウサギ…?」


「…ウサギ、可愛いだろう。」


「…え?ウサギ…うん、可愛いけど…。」


「男ばっかでムサイからな、鉱山は。

だからワシが若い頃みんなを癒してやろうと書いたんだぞ。」


「…え?癒し…え、あ…うん…ウサギ…」


心でも一度呟く。


…う、ウサギ?


「ともかく道順にウサギを追え。」


私たちは顔を見合わし、コブさんに頷いた。


「わかった、ありがとう。」


話を聞いてか、護衛の騎士が鉱山までの道を確保する様に瓦礫を退け始める。

コブさんは別の護衛にイオさんに怒られに、屋敷へ向かった。


瓦礫掃除を私たちも手伝い、なんとか鉱山の入り口へと辿り付いた。


爆薬を使ったこともあり、とても焦げ臭い空気にみんなで咳き込んだが、入り口はびくともしていない様子。

思わず木の柱をちょっと揺らして確認したけど…大丈夫そう。


オーガストが再び騎士と簡単に地図の打ち合わせをして、地図を託した。

多分もう頭に入っているんだろう、レオンと中央までの道のりの最短ルートを話す余裕。


私にはさっぱりです。


ウサギ、とにかくウサギを頼りに、歩く…!


私たちは探検家並みの意気込みで、鉱山に入っていった。

いつもありがとうございます。

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