第71話 ラスボスの計画。
「…やっぱり。」
レイモンド・スタインバークを見て、そう呟いたのはオーガストだった。
自分の唇をなぞる様に人差し指を這わせる。
「ここからだと何言ってるか聞こえないね…」
「そうだな、もう少し下へ降りてみるか?」
レオンがそう提案した。
見つからない様に静かにその場から離れる。
そして道沿いに線路を歩いて、下へ降りる手動のエレベーターを見つける。
しかも木で出来ている。
木ですよ、木。
木枠で出来て、ロープで巻いて動かすタイプ。
「…これは使えないな。
これを動かせるレバーは下にあるし、かなりギシギシと音がなりそうだ。
…というか、落ちないかこれ…。」
レオンが不安そうにエレベーターらしい物を手でペチペチと叩いた。
そのペチペチの揺れだけで、軸となるロープが朽ちてしまいそうな気がしてならない。
「どうやって降りようか。」
オーガストが静かに下を見つめる。
俯いた時に流れた前髪を耳にかけた。
だいぶ迂回したので、さっきの広場と違い下は薄暗く誰の気配もしない。
「僕とレオン様なら飛び降りられる距離だけど…」
「私は無理です。」
「…うん、わかってるよ。」
オーガストが私の真顔にフッと微笑んだ。
そしてレオンを見た。
レオンの顔は見えなかったけど、何やらエレベーターらしきものから2人とも離れた。
別のルートでも探すのだろうかと私も歩こうとした時。
オーガストが私をすくう様に抱き上げ、助走をつけてエレベーターらしき物に足を掛け、そのまま下に引っ張り飛び降りた。
ん、ぎゃーーー!!!
思わず突然の胸が飛び上がる様な落ちる感覚に、暴れそうになったけど。
ていうか普通はお姫様抱っことかで飛び降りない?
どっかの綺麗な物語だと、お姫様抱っことかじゃない!?
私は自分の膝を抱える様に丸くされ、その荷物を抱え込む様に持たれたまま、着地です。
華麗に着地したオーガストですが、一旦遅れて持ち上がってからの着地をしました私。
酷くないですか姉に対してコレ!!
まぁわかってますよ、重力。
着地した時足にかかる重力が私の体重分も加算されるので。
…という事は。
一瞬私を投げたという事ですよ!!
ぎゃーー!!
私の顔があんまりな顔をしていたのか、レオンが私の顔を見て一瞬吹き出した。
そしてそれを誤魔化す様な軽い咳払い。
忘れないから。
吹き出したこと忘れないからな…。
ヨロヨロと地に足をつきましたが、怖くてガクガクしています。
飛ぶならそう言ってよ!!
心の準備!!
心の準備大事!!
エレベーターはガラガラと大きな音を立てて下へ落ちた。
「…やっぱり壊れちゃった。」
「やっぱりじゃないよ!!人が来るよ!!」
「…そうだね、逃げなきゃ。」
レオンが遅れて降りてきたのを合図に、生まれたての子鹿の様に足をガクガクさせた私は、再び抱えられ走るオーガストにしがみついた。
横穴の一つに潜り込む。
3人でしゃがんでギュウギュウの広さで、真っ暗。
壊れたエレベーターが無残に床に散っているのが見える距離。
音を聞きつけてドカドカ見慣れた顔の自警団の人たちが様子を見にきた。
そして1人が壊れたエレベーターを足で蹴り飛ばす。
ほか数名が辺りを雑に確認していた。
「…なんだよやっぱこれが壊れた音じゃねぇか。
誰だよ侵入者だとか言い出したの。」
男が散らばった木を、足で端っこに寄せながら怒鳴った。
1人冷静そうな男が、考え込む仕草をしながら怒鳴った男の元へ歩いてきた。
「だがあの食堂の護衛が1人で戻ってくるなんてありえねーだろ。
ここまでの道は全てレイモンド様が貴族に命令して封鎖したと言ってたからな。
普通にこれるはずないんだよ。
だからアイツはずっとここに潜伏してたんだな、きっと。」
「そんなのありえるかよ。ネズミ1匹逃げられない様に全員集めたじゃねーか。
今更居ましたなんてねぇよ。」
苛立ちを隠さずぶつける様に冷静な男に声を張り上げた。
「商人長の家は領主が管理してから見てねーだろ。
あそこに居たに決まってる。」
苛立っていた男は黙った。
その代わり反対側を見に行っていた小柄な男が口を開いた。
「…ならまだ誰か居たりして…。」
「まさか、な。」
乱暴な男が呟く。
「俺は嫌だよ。報告するならお前らがしろよ。
あそこまで戻ってまた探すなんてめんどくせーよ…!」
冷静な男は肩をすくめた。
「誰もいないと言えばいい。
これも見たまま、エレベーターが落ちたと言えばそれでいい。」
小柄な男が呟いた。
「…たく、あの護衛はもう始末したのか?」
乱暴な男が冷静な男を見る。
冷静な男は静かに首を振った。
「アイツらはコブんとこのシェルターだろ。
あれは頑丈だと自慢してただけある。
だか外から鍵かけたら、中で誰も出れない欠陥品だったけどな!!」
そういうと3人は大声で笑った。
私たちは顔を見合わせた。
ガイはそこにいる。
もしかすると男性陣はそこにいるのかもしれない。
お父様も…!
生きている希望がわかり、心底ホッとする。
ふうと息を吐く。
小柄な男が一瞬キョロキョロと辺りを見渡す。
「なぁ、今誰か息したか?」
乱暴な男が怪訝そうな顔をして小柄な男を見た。
「俺だ!今ため息ついた。めんどくせーなマジで。」
「…ならいいんだが…後ろから聞こえた気がしたんだが…」
「こんな空洞がいっぱいあるのに、風ぐらい通るだろう。
そろそろ戻ろうぜ、交代の時間だ。」
「…そうだな…レイモンド様が到着したという事は、あれを実行に移すときがきたという事だろ?」
「ああ、準備はバッチリらしいからな。
…これで俺たちはこんな街からオサラバだ。」
「レイモンド様が王になったら、貴族になれるんだからな!」
その言葉を最後に、彼らは元来た道を戻って行った。
「貴族に…?」
「…スタインバークが王に!?」
其々で反芻する様に思い出す。
「…ともかくヤバいんじゃない?
レイモンド・スタインバークがどうやって王の座を狙っているのかわからないけど、サッサとここを終わらせてレオン様、城に戻った方が…。」
オーガストの言葉に、レオンが息を飲んだ。
「少なくともスタインバーク派の貴族もたくさん城に潜伏してるという事だよね…」
私が続けていう。
レオンの顔が今すぐでも城に戻りたいという顔になる。
「…とりあえず、焦らせないでくれ。城には兄もいる。
あの人はあー見えて…多分大丈夫だ。
ともかく、ガイやディゴリー男爵を…、街のみんなを助けよう!」
レオンは決意した様に息を吐いた。
オーガストも私もレオンの顔を見て微笑み、レオンとオーガストの腕をそっと取った。
そのまま二人の間に入り、3人で腕を組んだ状態で私が引っ張って行った。
2人は戸惑ったが、すぐ諦め、今の状態を楽しむ様に笑った。
3人で腕を組みながらコソコソと自警団の消えて行った道を追いかける。
さぁ、行くぞー!
早くお城にレオンを帰してあげなきゃ…。
イオさんたちをとりあえず、先に助ける。
行くぞ!やろうども!
…って2人しかいないんだけどね?




