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第70話 ラスボス、登場。

『足を滑らせたら、落ちる。』


フラグじゃないから。

落ちないから。


そう言いながらもう20分ぐらいグルグルと降りている。


3回、足がヌルッと取られた。

…死ぬかと思った。


なので今は、ガニ股のカニ歩き。

ほんとは触りたくない、ヌメヌメな壁にめっちゃ張り付いて。


緊張感なんかなくなったって知らない。

後ろの2人が肩を震わせるのを我慢していたとしても。



やっと地に足がついた気になれたのは、それから数分後。

もうここまで降りるのに3日ぐらいかかった気分。


大げさなのはわかってる。

でも気持ちと疲労感は、そんな感じ。


ヨロヨロとヌメヌメが続く床を歩く。

手のヌメヌメが気になるけど、しょうがない。

このブラックライト石もガイに返す時にはヌメヌメしてそうだけど、しょうがない。


微粒子もわずかに目を凝らさなきゃわからないけど、落ちていた。


長い階段の先は、大きな鉄の扉。

こっちも鍵がかかっていない様子。


押してみるが私の力だとビクともせず、オーガストとレオンと3人で力一杯押して、僅かに人が通れるほどの隙間ができるぐらいだった。


隙間に滑り込むと、その先はまるで…。


「…ここ、なんかまるで…」


「…鉱山だ。まさかここも掘ってるということか…?」


オーガストと私の声が重なった。


それはコブさん家の裏手にある、正規な鉱山の入り口と同じ作りで、均等にかけられた小さなランプが頭上で揺れていた。


穴を取り囲むように木枠で囲っている。

足元に所々に落ちてあるツルハシ。

そして石を運ぶための古ぼけたトロッコのレール。


オーガストが穴の長さを確認するようにライトを穴の方向へ向けたが、全く長さを目視できなかった。


また空洞音がフアンと響いた。


それが異様に胸騒ぎをぬぐい切れず、私は息を飲んだ。


「…なぁ、わからないんだが。

エイプリルとオーガストはさっきから何故そんなに不安そうな顔をしてるんだ?

ここに鉱山の入り口があるなら、生き埋めになった側からこっちに逃げている可能性があるんではないか?」


あたりを見渡しながら、歩きながら。

線路を辿るように奥へとすすむ。


レオンの疑問をボソボソ答えながら。


「私が不安に思っているのは地盤沈下の心配と…。

いつから此処は掘られてたのかってことかな。

少なくともこの穴の古さだと私たちが生まれる前からあるかもしれないという事と…。

うちの土地で勝手に、我が家が知らない所で鉱石取ってたなら、その売り上げとかは何処に行っていたかという事とか…。」


オーガストも考え込んで独り言のように呟く。


「この鉱山は報告にない場所だから、もちろんうちに届けも出された様子もない。

古さから言って父さんが知ってるのかも怪しいなぁ。

もっと前からあるのかも?

この規模だと多分うちが出してる鉱山の年間収入と同じぐらいは掘れてるんじゃないかな。」


「ここ数年売れ筋の鉄や宝石類は年々取れなくなってきてるよね。

そっちの収入は落ちたけど、天然石やパワーストーンを売り出して、それでトントンぐらいだったよね?

ここの地層だと鉄はまだ取れそうだし、うちより収入源にしたら多いかも。」


…おかしいなぁ。

卸すにしても闇で裁くにしても、市場は厳し目でチェックしてある。

この辺りの他の土地の鉱山にしても、石の特徴は似てても各家々で加工の仕方も変えてるはずだし。


加工前の石なんて産地がちゃんとしてないと買い取るところは渋るはず。

ブランドが大事。

そのブランドの証明も我が家でやってるので、ここで取れた石が何処に持っていかれてもお金になるはずがない。

たとえすっごいダイヤモンドが掘れたとしても、だ。


ただし、独自で加工技術を持っていたら。

うちの石を隣の鉱山が闇で買取し、自分のとこで取れたと売り出したら。


「…この街の誰かが、独自で勝手に鉱山を開き、何十年もよその鉱山に売っていた。」


オーガストが私と同じ答えにたどり着いたようだ。

私は頷いた。


「でもゴールドスタイン国の鉱山って、ウチとアイデル男爵んとこと、ターミラ子爵の土地だけだと思うけど…。

何処も不調になった話は聞かなかった。

不調に落ちたのはウチぐらいだったはず…。」


「…なぁ、ゴールドスタイン以外で考えられないのか?

ここだと隣がすぐ国境じゃないか。

ビースティアート国は確か、鉱山あったよな…?」


レオンが顎に手を置き、眉を寄せた。


「…ああ、ビースティアート…考えられるのはそれだけど…。

でも貿易は国を通して、国が管理してるはずなのに…。

というかね、国境の横だからって簡単じゃないはずなんだよ。

ウチだってバカじゃないから管理は厳重だったはず。

簡単に誰にもバレずに国境を超えた取引を何十年もやってたなんてあり得ないんだよね…。」


「…誰かが手引きしていたということか?」


「手引きって言っても、正直レッドメイルが黙ってやってたんだとか言われないと納得できないレベルだよ?」


「…うちがやるわけないだろ!

そもそもあんなボーッとした父上がこんなずる賢いことなんて…!」


レオンがいっそう眉を寄せ声をあげたので、私とオーガストで口を塞ぐ。


フガフガ言いつつ怒るレオンを宥める。


「例えだってば。それぐらいじゃないと横流しは無理なんだよ。

なのに何十年もやってたって言うのが…理解できない。」


「…そもそもウチが今の王位についたのは、祖父の代だから即位して歴史は浅いんだ。

何十年も続いていたと言うなら、うちは関係ない。

即位して直ぐに知らない領地の鉱山掘って横流すルートさえわかるはずがないからな…。」


レオンが早口で話す。

そりゃそうよね、自分の家が疑われたら…。


「…待って。」


「…エイプリル?」


後ろを歩いていたレオンが立ち止まった私を追い越し、止まった。


「…ねえ。」


私の腕に、鳥肌が広がる。


「なんか、わかった気がする。

全部…繋がった。」


「…何がだ?エイプリル。」


レオンが私を見つめる。


「…リル、僕もわかった。」


オーガストが小声で呟いた。

そして。

鉱山の奥を指差した。


「…明かりが見える。

僅かに人の声も。」


暗がりをよーく目を凝らすと、僅かに段差がありその下から明かりが漏れていた。

落ちない様に地面に這い蹲り、そっと下を覗く。


そこには僅かなランプの明かりの中で、たくさんの人が集められていた。


みんな顔色は悪く、疲れ果てた様に座り込んで動かない。

噴水にボールを落とした子供達も、母親に抱かれ、身を寄せていた。


人々の前に踏ん反り返ったまんまるが踏ん反り返りながら何かを叫んで笑っている。

その様子を強い意志でにらみかえす女性がいた。


「…イオさ…!」


思わず叫びたいのを我慢する。

口を押さえ、目を見開いた。


睨まれていることに気がついたまんまるは、イオさんに手をあげる。

その光景に、直ぐにでも飛び出したい衝動になるがレオンに肩を掴まれた。


イオさんは周りの住人の人の手を借り、ヨロヨロと起き上がり、座り直した。


「…ガイさんはいないな。

父さんも、コブさんもいない。」


冷静に話すオーガスト。

だけどては怒りで震えていた。


「そうだな…どっちかと言うと、ここには子供と老人と女性ばかりだ。」


オーガストの肩もレオンが掴む。


そして2人の目が見開かれる。

それは衝撃を受けた様な顔で。


まんまるが突然へこへこしだす。

奥から自警団と一緒に現れたのは…レイモンド様だった。


いつもありがとうございます。

…70話…!

頑張ろう…!

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