第68話 落ち着いて、考えてみよう。
生きているのかわからないガイが何処かへひきづられる中、ガタガタと恐怖に震えていた。
こんなんじゃダメなのはわかってる。
だからこそ自分を落ち着かせる様に、自分で自分を抱きしめる。
息を漏らさない様に何度も深呼吸して、強い意志を込めてレオンの腕から抜け出た。
レオンは私を見つめたが、私に口だけ歪ませてニヤリと笑う。
私も下手くそに、強気を見せた。
まんまるは鼻歌を歌いながら、ガイの両腕を持ち、背中に背負い込む形で踵だけ地に着かせ、引きずる様に歩いていた。
身長は遥かにガイの方が高いので、まんまるは仕方なくこういう持ち方だったんだろう。
まんまるは鉱山の方向へとガイと共に消えていった。
扉を少し開けて辺りを見渡すレオン。
他に人がいないかを確認して、反対の壁の隙間に隠れていたオーガストを見つけ、合図する。
合図を受けてオーガストがフードを目深に被り、こっちに走ってきた。
さっと扉の中へ入り、合流する。
「ガイは無事なの!?
なぜまんまるがここへ?城で捕まっていたんじゃないの!?」
「…リル、一つづつ答えるから。
ね、落ち着いて。」
慌てる私を他所に、レオンは顎に手を当てて黙って考え込んでいた。
オーガストが私の前に立ち、私をそっと扉より奥に押しやった。
その行動にハッとする。
確かにドアのそばで声をあげてたら誰かに見つかる可能性もある。
また周りを見てなかったことに気がつく。
…私1人で来てたらあっという間に自滅してかもしれない。
結果みんながついてきてくれたことを感謝し、息を飲んだ。
「ガイさんはアイツを見かけて…止めたんだけど、わざと見つかって捕まった。
アイツを見かける前に2人で違和感を感じて話してたときだったから…。」
「違和感は私も思った。」
オーガストは静かに頷いた。
「住人が魔物が来たから逃げようというとっさの気配が、誰もいなくなった家からは感じられなかった。
どこの家もさっきまで普通に生活していた感じだった。」
「突然のアクシデントに家から出なければならなかった感じ。」
「そうだね。魔物が攻めてきて逃げるならもっと家の中がめちゃくちゃになってると思ったから。
だから慌てた様子はないんだ。
と言うことはさ、訪ねてきたのは魔物ではない。」
「…人ね。」
レオンが考え込んだまま、こっちを見て話を聞いていた。
オーガストがゆっくり頷く。
「そう、僕もそう思った。…しかも知っている人…面識のある人だと思う。
扉は無理やりこじ開けられてはいなかった。」
「…全員訪ねてきた相手に、歓迎したか、訪ねて来たお客として扉を開けたのね。 」
「…そうなんだ。」
私の言葉に頷いて、オーガストはレオンを見た。
「…でも待って。まんまるがもし訪ねてきたんなら、誰も開けないよね?
歓迎もしないはず。
だってみんな私を閉じ込めた事件で怒ってくれてたし…。」
オーガストが見つめるレオンもオーガストを見て頷く。
「エイプリル、この街で信用がおける人物は誰だ?」
「信用?…この街で信用というか頼られていたのは自警団の人たちだね。
鉱山の組合のトップの人たちや、引退した有志でやってくれている人たちで、いわゆる警察の…騎士団の代わりの様な…。」
そこまで言って、私は黙る。
まさか。
まさかそんなはずはと。
顔を上げるとレオンもオーガストもわかっていた様な顔で私を見ていた。
「…この騒動は自警団の人たちが関係しているということ?」
「…そうだ、多分。」
「間違い無いと、思う。
そして商人長とも知り合い。」
「…商人長とは、もしやまんまるのこと?」
「…まんま、る?」
「いやなんでも無い、商人長ね。」
キョトンとするオーガストに、察するレオン。
まんまるって呼んでたことをオーガストが知っているかも微妙だって話だ。
ここは商人長で行こうと思う。
謎の決意を胸に頷くと、レオンがため息をついた。
「ともかく、だ。自警団が関わってるとして、何故ガイはわざと捕まったのだ?」
咳払いをしつつ、レオンがオーガストを見つめる。
オーガストもレオンを見ながら頭を抱えた。
「多分みんなが捕まっている所に自分も打ち込まれるだろうから、捕まった方が手っ取り早いと…。」
その話を聞いて全員がため息をつく。
…ガイよ。
確かに手っ取り早いが、こっそりついていくという手もあるだろうに…。
犯人のあぶり出しもあるだろうけど、危うくその場で殺されてたらどうするつもりだったんだ…。
そんなことを考えてたら、ハッと気がついた。
「…え?ってかまんまるについてって無いから何処に運ばれたかわからないんじゃ!?」
オーガストが再びまんまる?と首を傾げたが、とりあえずスルーして。
GPSとかあるわけないんだから、捕まった意味!!!
「それなら心配ないよ。ガイさんの踵の後を辿ればいい。」
「いや、屋敷の中に入ったらわからないんじゃ?」
私の疑問にオーガストがポケットから何かの意思を取り出した。
「影をやってたときによく使ってた道具らしい。
暗くなったらこの石をかざすと、靴の踵から出してる粉末が光って見えるらしい。」
…まさか。
「ブラックライト効果か…。」
「…それはどういう効果?」
私のボソリと呟いた独り言にオーガストが反応する。
「例えばある光を立てると光る鉱石があるんだけど。
オパールとか蛍光性が高い石を粉末状にして、道しるべに落とすんだよ。
それを特殊な光、ブラックライトを当てると、光って見える。
多分この石の方は紫外線を集めやすい性質で…」
そう言いながらオーガストの手から黄緑色の乳白石を取り上げ軽く叩いた。
「こうやって衝撃を与えると紫外線を放出する。」
ボンヤリと不気味に光る石をオーガストの足元に当てた。
ガイの踵から出た鉱石の微粒子が、わずかにオーガストを光らせた。
レオンもオーガストも少し驚いて私を見ている。
「このブルーライトもどきの成分はわからないけど、こっちの蛍光素材はオパールなのは当たりだなあ。」
ともかく夜になるのを待って、ガイの痕跡を頼りに、まんまるが行った方へ向かうことにした。
今移動は危険なので、このまま他人の民家で3人で休憩をとる。
そして夜が更けていく。
いつもありがとうございます。




