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第66話 なんとしても、鉱山へ行かなきゃ。

それから次の連絡が入るまで丸一日かかった。

だがそれだけたってもお父様の消息や、街の人の安否は分からなかった。


進展なしとの事。


流石に痺れを切らし、せめて鉱山の手前の村なりに様子を見に行きたいと懇願したが、城からの許可は下りなかった。


街に魔物が出たのなら、何故城は討伐隊を送ってはくれないのか。

一刻も早い対応を期待していたのだが、それに関しても城からも何も返答はなかった。


うちが男爵だからなのか。

確かにうちは鉱山で儲けていて、お金ならそこらの貴族に負けないので、伯爵クラスの貴族たちに煙たがれはしていたが…。

だからといって助けをゴネるまでの恨みは持たれてないはずなのに。


レオン自体も城の対応に納得できないのか、タイラーからの報告の手紙を床に投げつけ八つ当たりする程だった。


このまま家にいても息がつまる。


空気が読めないハートテイル様のわがままぶりにもそろそろブチ切れそうだった。

…これが姑の気持ちかしら…。


こんな状況だと言うのに『お腹が空いた』だの『する事がなくて退屈だ』だの。

しまいにはレオンを見て立派な胸囲をコレでもかと押し付ける始末。

今まで一度もその手でうまくいかなかったんだから、少しは学習すればいいのに…。


しかもこの人、勝手に私の部屋など入っていじったり、客間を自分の部屋としてリフォームしていたのだ。


うちの予算をふんだんに使い、ろくなことしやがらない。

ううう、この問題を片付けて、さっさと出て行ってもらわなければ…。


しかしレオンにべったりのお陰で良いこともあった。

レオンに集中しすぎて魅了の持続を忘れているのか、オーガストの表情がはっきりとしている。


私は誰にも告げず、庭に出た。

少し歩いたところに池があり、その奥に東屋のような建物がある。


そこまでずんずんと1人で歩いて向かった。


もちろん1人だといっても、ガイは距離を取りつつ、後ろを離れず付いてきたが。


ぼーっと椅子に座って考える。


無駄に情報がないまま、あれから30時間はたっている。

確か生き埋めになって72時間だとどこかで読んだ気がする。

と言うことは、一刻も早く助け出さねばならないと言うことだ。


それ以上は生存を望めなくなる。


ここからどれだけ早馬で急いでも2日はかかる。

どのみち街に付いたところで、72時間はたってしまうのだけど…。


少し1人で頭の中を整理したくて、ここにきた。

昔はお父様とオーガストとよくここで語ったことをふと思い出す。


許可が出ないものをおとなしく待つ気は無い。

だったら行ってしまえばいいのだ、勝手に。


だが勝手にこっそり行くにも問題がある。


鉱山までの道が通行止になっているという事。


通るにはそれなりの理由だとか証書とかいるのだろうか。


こればっかは1人で考えても仕方がない。

しかも事態は一刻を争う。


鉱山が例え入り口を塞がれていたとしても、あの鉱山はとても広く、お父様だったらきっと抜け道を探して歩き回るのではないかと予想している。

お父様と一緒に閉じ込められた方々も数名いるとの事だし、鉱山の中は鉱山の人たちが詳しい。


中にいた魔物は外へと出て行ったという事だから、もしかすると鉱山の中は安全なのかもしれない。

もし中に残っていたとしても、もしかするとワーっとみんなで出ちゃう時にマゴマゴして出遅れた様なウッカリな魔物なら、鉱山の方々の敵ではないかも。


街の外に魔物が出たとしても、そのままウッカリ街の人に気がつかずに、ワーっと街の外へ出てしまったかもしれない。

イオさんやコブさん、そして自警団の方々も、元は鉱山の人達なので力と根性はある筈。


魔物がウッカリ街の人たちに気づいたとしたって、あっという間に乱暴な酔っ払いだってちゃっちゃと捕まえちゃうぐらいの人たちだ。

あの人たちが魔物なんかに負ける筈ない。


大丈夫。

きっと大丈夫よ。


お父様やイオさん、みんなはまだきっと元気に行きているはず。


だったら早く応援に行ってあげないと。

城の兵を私たちが動かすことは出来ないだろうし、そうなるとメンバーは限られる。


レオンは王子なのでこんなこと連れていけないし、オーガストはディゴリーを継ぐ者だ。

お父様にもし何かあったら、オーガストが当主となる。

なのでオーガストも連れてはいけない。


となると、だ。


私とガイしかいないのだ。

ガイは私に付いてきてくれるだろうか…。


1人でブツブツと考え込んでいた私は、ユックリとガイの方を見た。

ガイは私の視線に気がついて、下手くそに笑った。


きっと気を使っているのだろう。

だからといって何を声かけて良いかもわからない。

そんな顔をして笑っている。


私もその顔を見て少し笑った。


ガイに手招きをして、こっそりいまの話をしてみた。


「うーん、ここから勝手に抜け出すのは簡単。

馬もあの人たちのコッソリ借りちゃえば何とか。

問題は通行止がどんな規模かによるんだよね…。」


ガイがコメカミを指で押さえながら考え込んだ。


「1時間くれないかな?ちょっと情報が欲しいから周囲を探索してくる。

その間は必ず部屋から出ないでほしい。

俺はあくまでメイの護衛だから、離れている間は危ないことしないで…。」


「…わかった。」


ガイは私に念を押すように人差し指を突きつける。


「…約束守れなかったら、協力しないからね…?」


「もーわかってるよ。絶対部屋で待てるってば!」


後ろ髪引かれるような顔で、何度も私に振り向いて確認する。

しまいにははよ行けと言わんばかりに、私に手のひらを振りつけた。


あーはいはい。

わかりましたよ。


さっさと部屋に籠ります。


腰を上げ、私が部屋に向かうのを確認して、ガイの姿は見えなくなった。


そして部屋に1人。

しかし無駄なリフォームにより、自室なのに落ち着かない。

何で勝手に人の部屋に入るんだ…。

嫁気取りのいい加減にしてよね!!

ふんっ。


いつも愛用のカバンから、ボロボロになった手帳を取り出す。

そして今考えついた計画を書き始めた。


ガイが戻ってくる前にもう少し具体的に考えを詰めたい。

後は鉱山までの地図。

思いつくまま街の様子を書き記した。


もし鉱山から出た魔物がどこへ広がるか。

どこへ向かうだろうか。


予想でしか無いが、きっと役に立つと信じながら。


ガイは1時間もしないうちに戻ってきた。

誰にもわからないように、そっと窓から。


「どうだった?」


「…うん、通行止はそんな必死なのものではなかった。

迂回すれば簡単に突破できそうだから、すぐにでもいけるよ。

…どうする?」


「もちろん、今すぐに。」


ガイは少しだけ微笑んで、フードを目深にかぶった。

そして私に手を差し出した。


その手を取ったらそっとフードの中に入れられる。


「掴まってね。」


そういったかと思ったら。

2階から私を抱えて飛び降りた。


そういうことは事前に行って欲しかったよね。

そしたら叫ばずに済むじゃ無い!?


ひええーと情けない声を上げてしまい、窓の外を覗き込んだオーガストと目があった。


ガイは横目でチラリとオーガストを見つめたが、私を抱えスタスタと馬の方へと走っていった。


「ねぇ、バレちゃったんじゃ!?」


「うん、バレてもいいよ」


「どうして!?」


「だってメイと俺だけじゃないから、行くのは。」


「どういう事!?」


あっという間に馬に乗せられた私。

その後ろにガイが乗る。


ガイが後ろを気にしてしばらく待つと。


レオンとオーガストも次々と馬へと乗った。


「え!?」


「1時間あったから、誘った。」


「誘ったって、ねえ…!」


「どうせ追いかけてくるなら、一緒に行った方が効率がいいよ?」


ガイは私に首を傾げた。


「いやそうかもだけど、でもこの人たちに何かあったら…!」


一方は我が家の次期当主。

もう一方は第二王子。


今から魔物がいるかもしれない危ないところへ連れて行くなんてできない。


無言で馬にまたがる2人を見て、躊躇する。


「メーイ、大丈夫。彼らは自分で自分を守れるよ。

俺たち2人じゃ何もできないから、連れてってあげて?」


2人は私をみて頷いた。


私は2人を見て、ガイを見上げる。


ガイはまた微妙な笑みを浮かべて頷いた。


「…一緒に行ってくれるの?」


今度は2人の方を向いて、そう聞いた。


「早くしないとアレに見つかっちゃうから、行こ?リル。」


そう言って懐かしい笑顔で微笑むオーガスト。


「…何かあった時に王族の俺がいた方が便利な時があるだろう?」


少しだけはにかむようにレオンが言った。


目に涙が溢れそうになったけど、今はその時じゃ無いから。


「ありがとう、一緒に行こう。」


静かに、私は言った。


ガイの合図に一斉に馬を走らせる。


私たちは全速力で鉱山へと向かって走った。

いつもありがとうございます。

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