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第65話 赤毛兄弟のワダカマリ。

次の日から、タイラー様が家庭内ストーカーを始めておられた。

…もちろん、レオンの。


学校でもお家でも、それはもうストーカーという言葉がぴったりな具合に。

だがそんなレオンも負けていない。


タイラー様に対し心のつっかえが取れたのか、えらい邪険にしている。

いいのかこれで。


そして邪険にされても喜ぶ、タイラー様。

…いいのかこれで。


コイツにしては一応王太子という立場。

これでいいのか、この国の次の王。


私の真顔に気づいたのか、タイラー様が私の方を同じく真顔で見た。


「なんだこっちを見るな、くそ女。

なんか言いたげな顔をしやがって!」


「…国の将来を心配していました。」


「は!?お前はどこまで俺をバカにするんだこのくそ女!!」


タイラー様が激怒して私に詰め寄ろうとして、レオンと護衛が止めるという持ちネタのような流れが出来上がっていた。


キャラ的に昔のアルド様とかぶるのでやめた方がいい。


そんなアルド様というと。

アナ様のお陰か見違えるほど尻にひかれ、元々イケメンではあったけど最近は一目置かれるほど残念度がなくなってきたとの噂。


さすがアナ様。


アナ様はきっといい奥さんになるだろう。

アルド様は幸せだなぁ。


ワーワー騒いで怒り狂うタイラー様を見ながら、そんなことを考えていた。


お休みの日まで王族のお勉強がある。


私は歩くバランスが悪いとかで、まずは体幹を鍛えることとなる。

本を頭にのっけて歩くことが来るなんて。

まさかそんな漫画の世界だけだと思っていたのに。


これがまた中々難しいです。


頭の上に集中すると、足元がおぼつかない。

今度は足に集中すると、頭から鈍器が落ちてくる仕組み。

私はこれに随分と時間を取られていた。


そもそもダンスの姿勢が悪いから始まったのだ。

そしたら歩くのもバランスが悪んじゃない?ってなって、これですわ。


「違います、こうですわ!」


「…こう…」


「違いますわ!!」


「えええ…」


覚えが悪いのも運動音痴なのも仕方ないじゃないか。

どうせなら転生した時にチート級の運動能力とかくれたらよかったのに。


「ダメですわ!!」


定規でビシーっと叩かれるたびに、婚約破棄をしたくなる。


『やってられっかー!!!』


言ってやりたい…。

言えないけど。


しかも、だ。

私のレッスンの度にタイラーさ…もう様いらないか。

タイラーが、私の失態を見に来るのだ。

しかもえらい上機嫌で、嬉しそうに微笑みながら見ているのだ。


コイツは暇なのか。

絶対暇じゃないはずなのに、なんでいるのだ。


思わず口からチッと音が漏れる。


そしてそれを聞き逃さないタイラー。


「おい今舌打ちをしただろうくそ女!!」


「…これはこれはタイラー様。

一体なぜここにいらっしゃるのでしょうか。

王太子とあろうお方が、そんな暇なはずありませんものね。

どうぞ私に構わず、ご公務をなさってくださいませ。」


「…は!?

なんで俺がお前に構っていると思うんだ。

だからバカなんだお前は!

お前の醜いこの失態を笑いにきたに決まっているだろ!」


「…要は暇だということでよろしいでしょうか?」


「何故そうなる!!」


この扱いは、アルド様で慣れてるからです、とも言えず。

私はまたワーワー騒ぎ立てるタイラーを放置して、ヨロヨロと鈍器と戦った。


何度やっても上達する気配がなく、誰もが諦めかけたその時。


3Mの長さを落とさず歩けることに成功した。

やった!

私はやった!!


得意げにタイラーを見ると、私ではなく扉の方に視線が行っている。

見てなかったのかよと悔しい思いを抱きつつ、私も扉を見つめたその時。


焦ったようにひとりの従者が慌てて部屋へ飛び込んできた。


「タイラー様!至急王のところへ!」


「なんだ、なんかあったのか?」


めんどくさそうに答える。

そう耳に小指でも突っ込んだ感じで。


「…それが、鉱山で爆発が起こったようです。」


『鉱山』という言葉に、一瞬で背中がヒヤリとして鳥肌が身体中に走る。


「…どこの鉱山ですか?」


聞いたところで、鉱山を持っているのは片手で数えるほどしかいない。

私の声にタイラーが気を使って従者と部屋から出ようとする。


それを制止してもう一度聞く。


「…どこの鉱山ですか?規模は?」


従者はタイラー様の顔を私の顔を何度も見比べたが、タイラー様の頷きにやっと口を開いた。


「…ディゴリーの領地です。」


その声に、もう体が走り出していた。


「まて!エイプリル・ディゴリー!!!」


扉に向かって走り出した私を制止するように、タイラー様が私の前を立ち塞がったが。

横をスルリとすり抜けてあっという間に部屋から飛び出した。


ガイがすぐ私を追ってきたので、すぐに馬車の準備をしてもらう。


偶然にも歩く練習をずっとしていたので、少し短めのドレスでよかったと思う。

裾を気にせず腕を振って、必死で走った。


長い廊下を抜け、城の入り口へたどり着き馬車を待っていると、レオンが息を切らして追いかけてきた。


「エイプリル…。」


「レオンは王様に呼ばれてないの?」


「兄さんがこっちはいいから一緒に行ってやれと言ってくれた。

俺も一緒に行きたい。

…一緒に行っていいか?」


私は静かに頷いた。

タイラーめ。

こんなとこでいいヤツ出すな…!

泣いちゃうだろ…。


ギュッと口を結んで堪えた。


レオンとガイと一緒に、ディゴリーの屋敷に向かった。


向かうまでの道。

不安で不安で、いてもたってもいられなかった。


心臓がバクバクと身体中に響き渡る。


うちの領地の鉱山だということは、もしかすると。

イオさんたちは無事だろうか。


街はどうなっただろう。


どうかイオさんたちの街ではありませんようになんて考えている自分がいたことにハッとする。

イオさんたちじゃなかったら別の街の人だといいのかと。


そうじゃない。

そういうことでなくて。


自分で自分に言い訳する。

怖い考えを正当化させる様に。


ぐるぐる1人で悩んでいると、見慣れた屋敷の門が見える。


着いたと同時に飛び降りて、玄関へと走る。


扉は開いていた。


勢いよく扉を開けると、玄関ホールにたくさんの人がいた。


「…お父様!!」


取引のある商人さんたちやお父様の下で働いている鉱山の関係者の人たちが集まっていた。


「…お父様!?」


お父様の姿を探し人混みを抜けるとオーガストが立っていた。


「…オーガスト…!」


私の声にハッとこっちを見た。

久しぶりに向き合うオーガストの顔に、胸の奥がギュッとつままれたような痛みがした。


オーガストが私を見るなり、悲しそうに微笑んだ。


「エイプリル、落ち着いてほしい…」


ドクンと親族が跳ね上がった。


落ち着いてほしいと言うことは。

その言葉だけで嫌な予感が身体中を走る。


「…お父様は?」


思わずオーガストに詰め寄った。


私がオーガストの両腕を掴み揺らすのを為すがままに揺らされている。


何も答えないオーガストに苛立ちを押さえながら、再び聞いた。


「お父様はどこ!?」


「…たまたま一昨日から鉱山でトラブルがあって、その視察でイオさんたちの街へ行ってたんだ。」


イオさんの名前を聞いて震えが止まらなくなる。


「待って、結論を。」


私の問いにオーガストがまた悲しそうに目を細めた。


「鉱山で事故が起こった。何故か魔物が大量に発生して、その対応に行ったんだ。

そこで、誤って爆発したらしくて…鉱山の入り口が落ちてしまった…。」


「生存の安否は!?」


「…それが…爆発する前に魔物が街に向かっていったとの情報もあって、今あの街完全に封鎖されてて…」


「…ガイ、すぐに行こう。」


オーガストの話じゃラチがあかない。

すぐに状況をこの目で確認しなくちゃ。


私は踵を返し、玄関へ向かって体の向きを変えた。


「エイプリル!」


レオンが私の腕を掴んだ。


「エイプリル!!聞いて。」


オーガストも叫ぶ。


「エイプリル、ダメだ…。」


ガイさえ私を止める発言にイライラをぶつける。


「もういい、1人で行ってくる。」


「今行くのは危険だと言っている。」


「わかってるわよ!!」


叫んだ自分の声と同時に、ポロポロと涙が溢れる。


「お父様…助けなきゃ。

早くしないと…」


「リル…。」


オーガストが私に触れようと手を伸ばしたが、それを自分で拒んだ。


それもまた悲しかった。


もう前みたいに戻れない気がして。


私はレオンに支えられ、ただその場に立ち尽くし、泣くことしかできなかった。

いつもありがとうございます。


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