表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/87

第63話 お前が逆らえば、お前の世界は壊す。

アナ様問題がスルリと解決してしまい、残るは課題は狼のみとなる。


まぁ他にも細々な問題はあるのだが、友情問題が一番私が悩んで禿げそうだったので、心がとても軽くなる。

あー軽い。

めちゃくちゃ軽い。


トイレから出て、スキップしながら教室へ向かう途中。

何かが私の前に立ち塞がった。


思いっきり鼻が潰れた。

すごく痛い。


スリスリと鼻をさすりながら『どこ見て歩いてんだい!』とイオさん並みに叫ぼうとした時。


「…久しぶりだな、エイプリル。」


聞き覚えのある声。

そしてそのまま私は抱えられ、拉致されるのだった。


ぎゃー!!

こんなに早く遭遇するとか、心の準備!


急展開多すぎないか!!


廊下を女子生徒1人を肩に担ぎ颯爽と歩くラルフ様に、通りすがりの女子から『どよめき』が起こる。


「お、おろしてくださーい!!」


ガッコンガッコン肩で揺れるので、軽く三半規管がやられそう。

そして、顎が…顎がぁ…!


「黙ってないと舌を噛むぞ?」


舌は噛みたくないけど、叫ばないと誘拐されるじゃないか!!


「ぎゃー!だれか、助けて…!」


「大人しくしてろって。本当に怪我したいのかよ!」


意図も簡単に担いてだ私を前で抱き上げる形に持ってくる。


「…人を荷物みたいに、簡単に…!」


「…こうでもしないと話せないだろ?

…逃げ回ってんのは誰だよ。」


至近距離で眉を寄せ、私を睨みつける金色の目。

確かにそうだけど…!


私は話すことなんてないんだようう!


私が手で顔を覆いサっと目をそらすと、それに苛立つ様に手首に噛み付いてきた。


「…い、だだだだだ!!

まって、離して、口、離して!」


思いっきり噛み付かれて、手首に歯型がクッキリと残る。

その噛み跡を自分で眺めて、満足そうに笑った。


「野生か!!

突然噛むとか野生の動物か!!」


気がつくと人気のない校舎の影に連れてこられていた。

そこでやっと私は地に足が付くことができた。


だがしかし壁際に押され、逃げ道なんてない。


歯型がついた手を反対の手でさすりながら、涙目でラルフ様を見上げた。


「痛いです。」


「そりゃ噛んだからな。」


「なんで噛むんですか…。」


「お前が勝手に逃げて他のやつのものになるからだろ。」


「私は物ではないのです!

簡単に誰のものにもならない。」


「でも婚約は約束したよなぁ?」


ドンと私を挟んで両腕が壁を押す。

ひいい、壁ドン嬉しくなーい。


「…それはパウエル様から守ってくれるということでしたけど、よく考えたら自分で守ろうと思い直したわけで…私に他にメリットが…!」


「…メリット?」


ラルフ様の目が強く私を睨む。

まるで餌を狙う獣の様な目。


その目を間近で見た私は、びくりと体を震わせた。


「お前にメリットは必要か?

守られてれば、それがメリットだろ。

何不自由なく暮らせる生活が約束されて尚、何を望む?」


グッと言葉に詰まる。

図星を刺されたからとかではなく、ただただ恐怖で。


「…それは私にとって、自由ではない…!」


声が上擦り情けないけど、精一杯の言葉。


ラルフ様の眉がまたギュッとよった。


何か言いたげに一瞬口が開かれたが、すぐギュッと閉じられた。


長いため息をつく。


一度伏せられた目は再び私を捉えると、顔が一気に近寄ってきた。


思わず近付く顔を避けようと、噛まれた手を防御に前に出した。

腕が再びラルフ様の口に触れる。


ラルフ様は私が拒否したことに驚いたが、すぐに笑った。


そして再び腕に歯を立てた。


さっきより強い痛み。

噛みちぎられるかと思うぐらいの恐怖。


ただ彼の口が腕から離れる事を耐えながら待った。


終業のチャイムがなる。


その音に反応して、ラルフ様の口が私の腕から離れた。

少し滲む血液に、ラルフ様の口元が汚れていた。


それを拭いもせず、私の方を向いてまた笑ったのだ。


恐怖にすくみ上った。


この人に逆らったら私は殺されるのではないかという恐怖。


腕についた2つの歯型の痛みがジンジンと心臓の鼓動と重なり、恐怖心を増していく。


「俺から逃げられると思うなよ。

お前はスタインバークのものだ。

スタインバークによって作られた。


それをお前が拒否するのならば、お前の守る世界は俺が壊す。

…この意味が分からないのならそれでもいいが、その時後悔しても遅いと思え。」


口を開き、再び私の腕に噛み付こうとした。


びくりと震える私に、途中で開いた口を歪ませ笑った。


ラルフ様の姿が消えるまで、目で追った。

そして視野から消えると、その場に崩れ落ちた。


私の異変を聞きつけ、ガイが私を探して走ってきた。


護衛は授業中は別室で待機させられるのだ。

ましてはガイはもう成人済みなので、学生としても入ることはできない。


渋々いつも待機場所で待つガイだったが、私が連れ去られた事を聞きつけ、追ってきてくれたのだ。


「…メイ…何があった?」


私の腕の傷を見て、ガイが表情に怒りを見せる。

感情的な怒りでなく、静かな怒り。


「…大丈夫。

ちょっと噛まれただけ。」


「それにしては血が出ているけど…。

保健室に行こう。」


へたり込む私に手を差し伸べて、立たせてくれる。


スカートの裾についた土を、しゃがんで丁寧に払ってくれた。


「…歩ける?」


ガイが申し訳なさそうな表情をして、私の顔を覗き込んだ。


その表情が不思議でなぜだか聞いてみた。

するとガイは口の端をキュッと上げ、私を見つめる。


「護衛なのに、怪我させた。

学校のルールがあるけど、俺護衛なのに守れてないよね?」


「なんだそんな事か。

…これはしょうがないよ。

逆にガイがいたらもっとたくさん血が流れる結果になったと思う…。」


これは本当に思った。

例え正当防衛とはいえ男爵風情が公爵家の嫡男に怪我をさせたとなると…。

我が家もガイも、ただじゃ済まない。


だから、まぁ…痛かったけどこれでいいんだ。


あと残んなきゃいいな…。

残ったら今日のことずっと思い出すことになる。


私の口もへの字になる。

保健室へトボトボ向かってると、途中でアナ様メー様が私を探しにきてくれた。


どうやらガイが飛び出していったのを見かけたようで。

私の噛み跡を見て顔色が悪くなる。


アナ様に至っては倒れそうになったが、ガイが支えたので床に倒れるは免れた。


お嬢様に血はやっぱ、見慣れてないよね…。


ササッとアナ様を支えたガイは、そのままソファーにもたれさせる。

ここまで目にも止まらない速さで。


「ねぇ、大丈夫なの?」


メー様が私の腕を痛々しそうに見ながら声をかけてくれた。


「…野犬でもいたのでしょうか?こんな噛み跡見たことないわ…」


うん、だって人間だからね…。

人間滅多に人なんか噛まないもんね…。


私は2人の会話を聞きながら苦笑いを浮かべた。


ガイは手早く私の腕を消毒して包帯を巻いてくれた。

責任を感じているのだろうか、今まで見たこともない顔をしている。

悔しそうというより、少し怒っているような。


ガイはこの半年間一緒にいたが、感情を露わにして怒っているところを見たことがない。

本人もあまり怒ることが苦手だといっていたのが。

まぁその時思ったのは、怒るだけではなく、全ての感情を表すことが苦手なんだと思う。


ずっと一緒にいたら嬉しい悲しいぐらいはなんとなくわかってきたけれど。


メー様とアナ様がいるはずのない野犬について話をしているのをぼんやりと聞いていた。

対策をしてもらうにはどうすればいいかなど、本気で心配してくれているのはありがたいことだった。


ぼんやりと彼女たちの会話を聞きながら、ラルフ様がいった言葉を反芻する。


私がスタインバークで作られたモノだといった。

それは召喚の儀で呼ばれた異世界の魂であるということ。

その意味はなんとなく理解できるのだが、もう一つ言った言葉。


『それをお前が拒否するのならば、お前の守る世界は俺が壊す。

…この意味が分からないのならそれでもいいが、その時後悔しても遅いと思え。』


私の世界を壊す。


それは今の私の環境についてなんだろうか?

それとも人質みたいにとられているオーガストやお父様の事か…?


どちらにせよ、私が後悔するようなことが起こる可能性があるという事。


だけどハイそうですかとラルフ様のいうことはもう聞きたくない。


どうすればすべてうまくいくんだろう。


ジクジクと噛まれた腕が痛み出す。

どこへも逃げられない。


そんな気分に私は頭を抱えるのだった。



いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ