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第61話 何度も立ち塞がるアルド様。

学校へ行く日となった朝。


軽い胃痛で目が覚めて、朝食が喉を通らないまま登校用の馬車に押し込められた。

…レオンも一緒に。


一応王族の婚約者ということで、護衛がつくことになったが、ガイ1人で十分ですとそっと断る。

…やだよ、ついこないだ私を投獄しようとしたメンバーですよ。

信用ならないじゃん。


1人でもちょっとでも疑っている人が護衛の中に混ざっていたら、私が危ない目にあっても『いっか』なんて見捨てられるかもしれないじゃないの!!


相変わらずタイラー様は目覚めてはいない。


私の疑いも晴れたわけじゃない。


あと、昨日からレオンが少し舞い上がっているのも不安。

ヴィヴィアン様と思い合っていると実感したのだろう、浮き足立っている。

まるで恋する乙女ならぬ、恋する男子なのだ。


その様子を見つめながら恐ろしく行く末に不安になり、馬車の中でガイとレオンに挟まれながら震えるのだった。


もう既に婚約計画が崩れかけているので、どう転ぶかもう全くわからないからね。

ほんとね、もうね…。


私は揺れる馬車の壁に頭をより掛けながら、何も考えない様に目を閉じた。



学校につき、馬車から降りる。


「エイプリル!お前に言いたいことがある!!」


思わず2度見した。

というか、おまけにもう一度見た。


「聞いているのか!エイプリル・ディゴリー!!」


これは夢かとボケっと立ち竦んだ私に、アルド様が人差し指をブンブンと振りながらすごい剣幕である。


「お前どういうことだ!!説明しろ!!」


私の前に出された人差し指を、パスンとガイに振り払われた。

今度は呆然としたのはアルド様の方。


「…お久しぶりです…、アルド様。

えっと、久々の登校で、それでもってデジャブな光景に感動さえ覚えます…」


「意味わからないことを言ってないで、さっさとアナスタシアに説明しろ!!」


「…説明とは…?」


まさか。

冒頭いきなりでアナ様に婚約の事を説明しろと。


待って待って、心の準備ができていない…!

しかもレオンは今一番頼りにできないし、計画はそうそう誰かに言うわけにはいかない。


と言うことは…。


アナ様の婚約破棄に同情するふりをして恋愛していた女狐という嫌なポジショニングにいるわけで…。

そんなこと絶対ないのだが、世間的にはそんな目で見られると言うこと。


終わった。

私の友情終わった。


何にせよこの事実がある限り、どんな言い訳したって心には伝わらない。


はい、私死んだ。

終わった。


自分のお葬式に参列する様な顔で、ワーワー喚いているアルド様に軽く会釈して、教室へ向かった。


ガイが何もわかってないので、アルド様と私を交互に何度も見て首を傾げていた。

またアルド様は毒気を抜かれた様な顔をして、ポカンとし私の後ろ姿を見つめていた。


教室に入ると、半年病欠していた私に注目が集まった。

一瞬シーンとする。


怖い、怖いやめて…。


緊張しながら自分の席に座ると、アナ様がゆっくりと歩いてきて、私の机をトンと指でノックした。

静かに顔を上げると、メー様が腕を組んだまま黙って私を見ていた。


…怖い!!

怖いよー!!


学校着いて数十分で、もうですよ!


「…エイプリル、どういうことなの…?」


静かにアナ様がびびり上がる私に問いかけた。

悲鳴をあげたいのを我慢する。


「…ご、ごめんなさい。

…私、何も言わないまま、その…」


顔を上げることもできず、机の下でモジモジと指を交互にクルクルとする。


「…もう体は大丈夫なの…?」


「…え?体?…か、体はぁ、うん、もう大丈夫ですが…」


アナ様が小さく息を吐き、綺麗に揃えられた手を胸に当てる。


「半年も療養なんて聞いてなかったから…本当に心配したのよ。

おうちにも何度も訪問したいと手紙を出したのだけど、全部断られてしまったし。」


…まぁそりゃいないわけだからな…。

いないものをお見舞いできないわけで…。


冷や汗をタラタラとかきながら、薄気味悪い笑いを浮かべる。


私の後ろめたさからの青い顔色に、保健室を勧められたがそれは丁寧にお断りをした。


「もう体調はいいのよね?」


「…はい、これからは学校へ通えると思います。」


「そ、よかったわ。

あまり無理をなさらない様にね」


アナ様はニッコリと私に微笑み、自分の席に戻ろうとする。


思わず。


「…え!それだけ!?」


はい、これを世に自爆というのだ。

よくわかってる。


でもだ、まさかそれだけとは思わないじゃない?


ダラダラ汗の止まらない私に、アナ様はキョトンとした顔で私を振り返って見つめた。


「…それだけだけど…?」


…まさか。

婚約のこと知らない…?


婚約が決まって1週間は立っている。


発表はしていないが、横のつながりで生きている貴族が知らないわけがない。


それともあえて言わないのか?

私からいうのを待っているのか…?


…何という難問。

人の気持ちがわからない私に、何という難問だ。

これはどうしたら正解なのか。


私にはわからない…!!


アタフタする私をジッと見ているアナ様に『なんて声をかけようか』と立ちすくんでいると、先生が入ってきてそこで途切れた。


ある意味ホッと息をつく暇ができる。

だがしかし、問題が先送りになっただけだ。


授業どころでなくなった私は、ひたすらこの場をどう切り抜けられるかという言い訳をずっとノートに必死にかきまくっていた。


お昼休み。

お昼に行きましょうと声をかけてもらう。


今までだとスキップしながらルンルンと浮き足立って行っていたカフェテリアだったのだが。


カタツムリ並みのスピードで後ろからノロノロと着いていく。


メー様が何も言わないのも怖い。

ジッと私を見るのみ…。


トホホ、胃が痛い。

胃が痛すぎる。


こんなので食事なんて喉を通るわけがない。

味さえわからない食事をただお腹の中に押し込んで行った。


食事が済んで、校庭でお話することになる。


他愛もない話。


今日の授業がどーたらこーたら。


いつもの5人で和気あいあい。

まるで半年私がいなかったことなんて信じられない様な。


みんな知らない様だし、もうこのまま知らないふりしとくかな。

そしたらみんなと今まで通りにこうやってのほほんと過ごせるんじゃないのかな。

あーこの空間、幸せだ…。

嫌なことも忘れそう…。


いやいやいや!!

普通にダメだろう!


落ち着け、私。

これは私から言うのを待っていると言うパターンなのかもしれない。


落ち着け、言うタイミングを探そう。


私のすごい挙動不審な状態に、メー様が口を開いた。


「…ねぇ、やっぱりまだ本調子じゃないんじゃないの!?」


突然に私の肩を掴んだ。

私はビックリして固まってしまう。


「半年も寝込んでたのに、学校来れても無理するんじゃないわよ!

どれだけ…どれだけ私が…みんなが心配したと思ってるのよ…。」


メー様の目にうっすらと涙がにじむ。


それにつられて私ももらい泣きしてしまい。

堰を切った様に、メー様以上に号泣したのだった。


それを糧に思いの丈もぶちまけた。


『とある理由』で婚約することになったと言うこと。

その『とある理由』でお家には帰ってないこと。

病気はすぐ治ったが、その『理由』によってずっと学校に来れなかったこと。


見事に大泣きで語りあげた。

…お昼休みの校庭で。


周りの目も気にせず無く私に、アナ様は小さく息を吐いた。


「…知ってたわよ。でもそれが何。」


「…は?…え?え?」


「みんな知ってた上で心配してたのよ。

戻ってきたら髪の毛も短くなっているし、少し痩せたなーって。

私たちはどんな事があってもあなたの味方をしようと決めたのよ。」


「…へ?」


状況がまだつかめていない私。


「だから、その『とある理由』もだいたい察しがついてるって事。

アナ様今はアルド様と超ラブラブなのよ?

もうあんな赤毛の王子なんてどうでもいいの!」


メー様が自分のことの様に踏ん反り返る。


もう何が何だかわからないけど。

ただ嬉しくてまた泣いた。


そっといろんな液体でグショグショの私の顔をハンカチでそっと拭いてくれるアナ様。


ああ、神さま。

私の友情はまだ健在でした。

いるかわかりませんが、感謝します…。


思わず祈りのポーズの私を、『相変わらずね』とメー様もアナ様も笑った。


校庭で友情を確かめ合っている時。

ふと視線を感じて振り向いた。


ハートテイル様とオーガストが校庭の反対側の端からこちらを見ていた。

オーガストの腕に絡めた手を、ギュッと自慢のお胸にくっつけながら。


ドキンと胸が飛び跳ねる。


未だ心の傷は癒えておらず、まともに姿も見れない私。


彼らの視線を感じながら、私はさっと下を向いた。

いつもありがとうございます…!

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