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第60話 不敬で連行されちゃいそうです⁉︎

護衛の方々が剣に手をかける。

『抵抗すると切る』という、無言の圧力。


ゴクリと生唾飲み込む音が響いた。


ガイも腰にそっと手をやった。


やめて…ここで血が流れるような争い事は見たくない…!


ここは大人しく投獄されるか…。

じゃないともっとひどい結果になりそうだし。


…まあ、あとで考えよう。

お父様たちには迷惑かけない様にしなきゃ…。


グルグルと1人で考え込んでいる私は、覚悟を決めた様にグッと目を閉じた。


「下がりなさい!!」


可愛らしい声が響いた。


全員がその声の方へ視線をやる。


視線の先には、レオンに支えられたヴィヴィアン様が仁王立ちしていた。


…仁王立ち!?


「…私は下がりなさい、と言いましたが?

その人は私の恩人です。

事情も分からぬまま不敬で捕らえることは、私が許しません!」


…護衛が一歩引いたのだが。

まぁ、ヴィヴィアン様にこの権限はない事は一目瞭然。


でもタイラー様の婚約者。

将来王妃になるかもしれない立場の人。


…でも今はなんの関係もないお姫様。


護衛の人がザワザワと顔を見合わせて…。

一斉にレオンを見た。


まぁ、わかる、うん。


タイラー様が連れていかれてしまったし、この場の最高責任者はレオンとなるわけで。


一斉に視線を集めるレオンは、それでやっと気付いたのか『ハッ』として咳払いをした。


…こいつ。

今の現状を見てなかったな。

久々の素のヴィヴィアン様を見て、舞い上がってたんじゃないんだろうか…。


「…この場は私が預かる。

兄が目覚め次第、事情を聞き、すぐにでも対処しよう。

エイプリルはそれまで私とヴィヴィアンと同席してもらう。

…それでいいか?」


残っていたタイラー様の護衛数名と、レオンの護衛は顔を見合わせて頷き、お辞儀をした。


ヴィヴィアン様はなぜか得意げに鼻を鳴らした。


「全く!サッサッと聞けばいいのよ。

なぜレオンに聞く必要があるのかしら!」


…うん。

それはあなたにまだ権限がないというだけであって…。


…まぁ、いいか。

なんか可愛いし。


小柄なお姫様は実はこんな感じだったのかーとまじまじと見つめた。


常に手は腰にあり、笑い方も『オホホ』に近い感じ。

踏ん反り返っている割には、自信がないのか周りの反応を気にして、オドオドしている様にも見える。


私があんまり見つめるもんだから、オドオドから顔を真っ赤にして頬を膨らまし、そのまま可愛らしいお顔を両手で隠してしまった。

…残念。


「…エイプリル、我を忘れてるね?

だいぶ近すぎじゃないかな?」


レオンが苦笑いしていた。


「ハッ!!」


気がつくと私は30cmぐらいの距離でじっと見つめていた様で。


「…いやぁスイマセンデシタ…。」


照れ隠しにうっすら笑みを浮かべ、頭をかいた。


「ちょっと!あなた!

助けてもらったんだから、お礼ぐらい言いなさいよね!」


「ああ、そうでした。

レオンありがとう…。だがちょっと気づくの遅すぎたんじゃない!?

危うく投獄される覚悟をしたよ!」


「それは本当にごめん。

ちょっとあまりの展開の早さに、呆気にとられてて…。」


私とレオンのやり取りをぽかんと見つめていたヴィヴィアン様は、またぷーっと頬を膨らました。


「助けたのは、私でしょ!!

それになんなの!あなた、レオンに馴れ馴れしいんじゃない!?」


プンプン頬を膨らましたまま怒るヴィヴィアン様を見て、私たち2人は顔を見合わした。


…ていうか、展開的にヴィヴィアン様の魅了が解けた後のことを考えてなかった。

というか正直、順番が狂ってしまった感じがプンプンしてくる。


本来ならレオンとの婚約を破棄したあたりで正気に戻ってもらって、レオンとくっついてハッピーエンド☆なんていう流れが一番スムーズだった気がする。


私たちが婚約していることを聞いたら、彼女はとてもショックなんじゃないか…?

私なんて絶対『この泥棒猫ー!』なんて嫌われそうだ。


悲しい…。

そんな理由で嫌われるのは悲しい。


この可愛い生き物に、私たちはなんて説明したらいいのかを困り果てていた。



別室へ移動する。

私に用意された部屋である。


一応ガイもお客さん扱いなので、私の隣の部屋をと、レオンが配慮してくれた。


部屋にレオン、私が並んで座り、テーブルを挟んでヴィヴィアン様が仁王立ちである。

ガイはちょっとヴィヴィアン様の予測できない行動が苦手の様で、扉の外で護衛すると部屋には入ってこなかった。

…そんな所も可愛いんだけどなー。


なんて余裕ぶっこいている暇はないのです。

なぜならば我々2人、説教中なのです。


大体の説明をしたのですが…まぁ、大部分かいつまんで。


「この私が、魅了されていたというの!?」


このセリフも3回目です。

まぁ大事なとこは2回言っとこ!ってスタンスはわかるんですが。

…3回も言いました。


「…ヴィヴィアンが覚えているのはいつぐらいの記憶なんだ?」


「…昨日食べた夕飯まで鮮明に思い出せるわよ!!」


両手の拳を上下に振りながら、プンプン怒っているヴィヴィアン様。


プンプンしながら何が思い当たる節があったのか、ピタリと動きが止まった。


「…でも、タイラー様やレオンに最近あった記憶がないわ。

婚約のこともうっすらだいぶ昔に言われた記憶があるけど、受けた記憶はないわね…。

毎月2回も城に何年も通っていた記憶もない…。」


思い出すとだんだん不安になった様で、赤かった顔が段々と青く変化する。

まるで化学反応を起こしたリトマス紙の様に。


「ヴィヴィアン落ち着いて。

…深呼吸しよう。」


そっとレオンが席を立ち、ヴィヴィアン様に寄り添う。

水差しからお水を注ぎ、手渡した。


水を一気に飲み込んで、ぷはっと一息ついたヴィヴィアン様。


額に人差し指をあて、うーんと考え込んだ。


「ともかく、私とレオン様の婚約は色々と事情があって、用事が済んだら解消する予定なので…」


婚約のことで、口ごもってしまう。

この2人はどう見ても愛し合っている。

なのに気がついたら別の女と婚約なんてヴィヴィアン様なら耐えられないかもしれない、なんて。

だいぶ気を使っている。


というか『はー!?何言ってんの今すぐ破棄しなさいよー!!』なんて言われたところでできないのも事実。

だって昨日ですよ、昨日。

昨日受理されたばかりで流石に取り消しもできないだろうし。

あんな大ウソ並べたし…。

今破棄したら狼軍団勝利の文字が脳裏に浮かぶ。


「あら?別にいいんじゃない?

だってアナスタシアよりマシだもの。

それに私もまだタイラー様に用があるし。」


「…アナスタシアより…?

…タイラー様に、用事?」


思わず疑問をダイレクトに聞き返す。


ヴィヴィアン様は私に向かってニッコリと笑った。


「今読んでるロマンス小説みたいじゃない!?

…結ばれない幼馴染の恋。

人目を忍んでこっそり会うの。」


魅了されていたときとは違うウットリとした悦な表情に、若干レオンも引き気味だった。


「…ヴィヴィアン、それはちょっとまずいのでは…」


「…私としては、表立ってしなければ別に構わないですけど…。」


『え!?』っという2種類の表情でヴィヴィアン様とレオンが私を見た。


「…エイプリル、構わないとかって…ねぇ…」


「…いいの!?さすがエイプリルね!頭の固いアナスタシアとはやっぱ大違いだわ!」


『ヴィヴィアン…』


レオンが小さく呟いた。


まぁ、アナ様はレオンのことが好きだったしね。

そんなの認められるわけがないよね、ライバルだったわけだし。


なんとなくアナ様のフォローを脳内でしながら、ぼんやりと気がついたことがある。


将来的にお尻にバッチリ引かれてる姿が見えた気がするなーって。

思わず私は一人でクスクスと笑ってしまった。


「とりあえず、難しいことはよくわからないけど、私は知らないふりするわね。

もう魅了なんてたくさんよ。

その対策はどうしたらいいのかしら?」


「…うーん、タイラー様が意識を取り戻さない限り確証はないですが…。

多分、もう、魅了は使えない気がします。」


「…それは、どういうことだ?」


レオンが眉を寄せ、私を見た。


「確証はないんだって。

でも、あの時最後に目があった時に、タイラー様の瞳には『何も残っていなかった』んだよね。

姿も元に戻ってたし、きっと一番魅了に取り憑かれていたのは、タイラー様なのかもしれない。」


ふぅ…と息を吐く。


「なんで兄さんはあそこまで俺に執着していたんだろう?」


眉を寄せたまま、レオンが口元に手を当てて考え込んだ。


「よくはわかりませんが、『家族』に深い思い入れがあったのかも?とは思いました。

特にレオンについては、もしかすると大事すぎて、自分が守らなきゃと思ってしまう様なことが何かあったのかもしれませんね…。」


私の言葉にレオンは黙ってしまった。


何か思い当たることがあったのかわからないが、深く何か言いたげな表情でずっと考え込んでいた。


とりあえずヴィヴィアン様は帰宅する時間となり、名残惜しそうに帰りの馬車へと乗り込んでいった。

私はそこから1週間、今日サボった分のダンスレッスンも含めて、勉強、レッスンの日々を送る事となる。


そしてとうとう、学校へと復帰する事となり、気が重くなる。


レオンは大丈夫だといったけど。

嫌でもオーガストやラルフ様と会うことになる。


ものすごく気が重い。

本当だったらメー様やアナ様に会うのが楽しみで寝られないところだっただろうけど。

今の私は別の意味寝られず、唸っていた。


ああ、明日なんて来なければいいのに…!


明日の行方を星に、気持ち悪いぐらい祈りながら眠れない夜を過ごした。

いつもありがとうございます。

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