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第5話 馬車に乱入して来たこの人は⁉︎

「これはお前が書いたのか?」


何なんだこの人は。

さっきから私のだといっているのに、いったい何度聞いたらいいのか。


耳が遠いのか?もしかして。


「これはー、私のー、手帳ですよぉ〜!」


ゆっくりハッキリと彼に伝える。

若いのに難聴とは、可哀想に。


後ろでオーガストが青い顔で私に手を振っている。


どうしたんだ?こんな近くで手を振るなんて。


私はにっこりと微笑んで手を振り返した。


『バカ!違う!手を振り返すんじゃない!』


オーガストが何か言ってますねぇ。

読唇術は習得してないので、パクパクされてもわかりません。


大丈夫、私は元気ですよ!

必死で手を振り返してますね?


しょうがない、ここは姉として負けてられません!


私は大きく両手で振り返します。


オーガストの顔がドンドンと青から白に変わってきました。

横にいるハートテイル様も、お顔色が悪いようですけど?

何度も私とオーガストの顔を交互に見ておられます。


そんな私を見て、後ろで壮大に吹き出した音が聞こえました。


振り向くと。


さっきの金目の狼さんが、横っ腹を抑え『ヒィヒィ』と体を震わせておられます。


『…ん?』


体調が悪いのでしょうか、大変です!


「だだだ、大丈夫ですか?どこか痛いですか?」


そっと背中をさする。

狼さんは私が触れるとびくりと体を一瞬強張らせましたが、すぐに咳払いをして私の顔を覗き込んだ。


「お前、名前は?1年か?どこのクラスだ?」


「…近けぇ!!」


トップクラスのイケメンを至近距離で見ると、目をやられます。

これまたいい匂いもするので、この匂いで思考を惑わされると誰かが言っていました。

思わず眉を寄せ、鼻をおさえ、速攻で顔を離しました。


狼さんは突然仰け反る私に、戸惑いを隠しきれなかった様子で、石のようになってしまいました。


「あの、スタインバーク様!姉が突然失礼致しました。代わりにお詫びします。」


オーガストが私を狼さんから引き剥がし、自分の後ろに隠しました。


「構わん。姉の名前を言え。このノートは何だ?」


「あのそれは。姉の手帳で…姉はちょっとボーッとすることが多いので、いろんなことを忘れないようにメモる癖がありますので…その手帳かと。」


「ほう、それで名前は?」


「あの、わたくし…、ミティア・ハートテイルと申します!ラルフ・スタインバーク様ですよね?」


私の後ろから鈴がリンリンと鳴り響きます。


グイグイと前に出られるので、間に挟まった私に、お胸がグイグイされるのがちょっと苦しいです。


これは、やはり!

イケメンの匂いにつられてしまったのでしょうか。

全く恐ろしい…イケメン狼ですね…!


私はこれ以上近寄らないようにしましょう。

何かに惑わされている場合ではないのです。


「お前には聞いてない。余計なものは出てくるな。」


狼さんの目が細く光ります。

すごい迫力です。


鈴もチリンと音を立てて、黙ってしまいました。


もっとお胸を寄せて、さっきの上目遣いで言えば魅了対決できたのではないでしょうか?

惜しい。

なぜやらない。


『うむぅぅ』と首を傾げ、考え込みます。

私を隠す手が強くなりました。


「姉の事はどうか…お許しください。公爵様に名を名乗れるような…名は」


「言え、と言っている。」


オーガストの体がこわばりました。

何のことかわかりませんが、仕方ありませんね。

弟は、私が守ります。


私は静かに狼さんの前に出ました。


そして。


スカートの裾を持ち、静かにお辞儀をしました。


「私、エイプリル・ディゴリーと申します。

先程は手帳を拾って頂き、有難うございます。

ボーッとしておりまして、ご挨拶が遅れて大変申し訳ありませんでした。」


ええっと、ここで微笑んだら良かったのでしたっけ?


私はゆっくりと顔を上げる。

そして『ごめんね☆』の意味を込めて、微笑みを返しました。


ニッコリ。


あ、ほっぺがつりそうです。

もういいかな?


スッと営業スマイルを元どおり、無表情に戻し。

さっさと狼さんから手帳をそっと奪い去ります。


しかし名を名乗れと言ってたのに、彼は私を見つめ、固まってしまいました。

…今のうちです!


「さぁオーガスト。お昼休みが終わってしまうので戻りましょう。

ハートテイル様と、えーっと、(そう言えば名前知らないや…適当に誤魔化すか)…フニョヘニャリ公爵様、御機嫌よう。」


名前のところはあえて口を閉じたままモゴモゴと誤魔化し、即ささとオーガストの手を取ると早歩きで教室へと戻りました。

これであの公爵様と関わることもないでしょう。


私はそう思っていたのですが。



「エイプリル・ディゴリーはいるか?」


私を呼び出すなんて、ろくな奴はいないと自負します。

なぜなら私は知り合いがいないから。


もしアルド様だとしたら、居留守を使う方が賢明ですね。

私からは用はありません。


ソッと人影に隠れ、空気になります。


私を探す人物が『エイプリルはいない』と認識されて、去っていかれます。

良かった。

諦めてくれましたね?


私はコソコソと反対のドアから出て、下駄箱に向かいます。

先に馬車を呼びに言ったオーガストを追いかけて。


小走りに校門を走り抜けます。

いつもあまり走らないので、足がなかなか進みません。

もつれるうう!


こんな事ならもっと走る機会を増やせば良かった。

そんなことを思いながら、我が家の馬車を見つけるのでした。


「セーーフ!!!」


馬車の扉を開けて、飛び込んだと同時に叫びました。


「あー、久々に走った。すっごい走った!」


ゼイゼイと肩で息をしながら、ドッカリと椅子に座ろうとしたら。


「遅かったじゃないか、エイプリル・ディゴリー。」


そこには手で口を塞がれたオーガストと。

オーガストの口を手で抑えた知らない人と。


…金眼の狼さんが座っていた。



コメントでご指摘頂きまして、主人公の愛称を『エイプ』から『リル』へ変更致しました。

書きためたやつは全て直したつもりですが、もし今後私の見落としで愛称『リル』が『エイプ』になっている箇所がありましたら、誤字報告などでお知らせくだされば幸いですm(_ _)m

今後ともゆるゆると、よろしくお願いします。

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