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第49話 まんまるに捕まったので、逃げます!

水が一滴一滴、どこから落ちる音で目を覚ます。

冷たい石で出来た床の上に転がされ、うっすらと湿気の匂いが鼻につく。


どこかの小説で読んだような、誘拐された誰かの典型的な目覚め方だと思う自分は、どこか冷静だった。


頬が痛い。

ズキズキと口の中まで腫れている感じがする。

喉のあたりに鉄分の味がした。


手で触れて確認しようと手を動かそうとすると、ジャラリという音と共に後ろで固定されたまま動けないことがわかった。


ゆっくりと体を起こす。

目の前には太い鉄格子。

窓もない。


あるのは小さなテーブルとその上に置かれた濡れたロウソク。

床には洗面器ぐらいの大きさのタライ。


…まんまるめ、家に地下牢まで作ってんのか…。

この街は自警団や鉱山の組合の人たちがいるので、まんまるが悪い人をしょっ引いて地下牢に閉じ込めることなんてまずない。

何のための地下牢だ。


こんな平和な街なのに…。


後ろで手が縛られているので、自力では立ち上がれない。

それでももっと情報を仕入れようと、地下牢をよく観察する。


どこか隙間から外が見えないだろうか?

地下牢とは言ったが、ここは本当に地下なのだろうか?


もしかして半地下みたいになっていて、外につながっていたり…するわけないか。

壁をよく見るが、結構頑丈で隙間なんてない。


あー、意地でも叫べばよかった。

殴られるとは思わなかった。

むしろ無理やり連れて行かれるとも。


壁にもたれ掛かり、ハァと息を吐く。


悔しいが捕まっている自分にはどうすることも出来ない。

しかし幸か不幸か今現在イオさんのところにはレオン様がいる。


私が戻らないことはすぐガイが気づいてくれるはず。

そこでレオン様のいっぱい連れてた護衛さんが協力してくれて…。


そんなうまくいくかな…?


あの人たちはレオン様から離れないだろう。

やはり頼りになるのはガイ。


叫んだら声が漏れないだろうか?

でも叫ぶときっとまた打たれる…。


頬の痛みが増した気がする。


誰かが私のこと見かけてくれてたらいいんだけど…。

…それも厳しい。


私が連れて行かれたのは、店の真ん前の通り。

真ん前の大通りだけど、田舎町なので人通りはそれほどない。

しかも朝も早い。

スズメがちゅんちゅん鳴いてそうな時間。


通りには遠くに見える雑貨屋さんの前に、掃除道具持った女の人達と、遠くに歩いてたおじいさんぐらいだった。


…絶望的だ。

しかもこの街の人たちは仲がいい。

ほとんどが顔見知りだ。


このまんまるがこんな事、仕出かすなんて誰が思うだろう…。


石の壁にもたれてうな垂れる。

こんなとこに何日も閉じ込められるのは嫌だ…!


…誰か…!

…お、オーガスト…!


口を開きかけてハッとする。

思わぬ名前が口から出そうになった自分に。


おかげで少し客観的に冷静になれた気がする。


為すすべがなくぼーっと考え込んでると、バタバタと上から足音が聞こえてきた。

狭い階段を狭そうに降りてくる、まんまる。


私が座っているのを見て、舌打ちをした。


「…お前、何で王子がいることを黙ってたんだ?」


…聞かれてないからな…。

というか、この人街の人と交流してないの?

あんなに赤毛が来たと噂になっていたのに…。


黙っている私に苛立ちが隠せないまんまるは、鉄格子を力一杯蹴った。

そして足を負傷して、転がりながら痛がった。


「ともかく今しらみつぶしに家を訪ねている。お前を隠さねば…。」


まんまるは黙って考え込んだ。


「…いっそ息をしてない方が隠せるか…?」


と、恐ろしいことを口出ししだした。


…殺されたくはない…!

まだやる事がある。


わざわざ何の因果か転生してきたんだ。

何かせめてこの世界の役に立って死にたいんだ…!


体の自由が聞かないので、震えるしか出来ない。


静かにまんまると目があった。

…合いたくなかった。


まんまるは無言でポケットを弄ると、小さな鍵を取り出した。

その鍵を器用にまんまるな手で持ち、鉄格子についている錠前をガチャガチャと大きな音を立てて開けている。


私は後ろに後ずさった。

ピタリと壁までギリギリに。


ガチャリと音が響く。


そしてゆっくりと鉄格子の扉が開けられる。


「…お前、名前なんて言ったかな?

…何でもいいか。

さぁ、出るんだ。」


まんまるが狂気に満ちた顔で笑いかけてくる。

私の頬が引きつった。


ズルリと腕を簡単に持ち上げられた。

後ろ手に縛られていたので、力が変に入らず、易々と立ち上がる事ができた。


「…さっさとしろ。」


まんまるはイライラと私を急かす。


ずっと座っていたので、少し痺れてしまった足がよろめくと、ますますイライラした声を上げる。


「何やってんだ!!早くしろと言ってんだよ!!」


そして私をどんと押した。


反動で私の体は鉄格子にぶつかる。

ガシャンと鉄が擦れるような大きな音が響く。


うまく私が歩けない事で、かなりイライラが募るまんまる。

再びまんまるが手をあげる。


今度はギュッと髪の毛を掴まれ、鉄格子の扉まで無理やり押された。


咄嗟にまんまるに体当たりをする。


髪の毛がブチブチと抜ける音と痛みがしたが、今は気にならないぐらいの緊張感。

まんまるは私に押された反動で壁側に転んだ。


それを確認して、私は走った。


ちゃんと鉄格子の扉は閉めた。

鍵までは閉めれなかったけど。


鉄格子は重く、私が階段を上がり切る時間くらいは手間取っていた。

階段を駆け上がり、奥の少しだけ開いていた扉に体当たりをする。

足を縛られてなかった事が不幸中の幸いだった。


扉を出ると、ホールに行き着く。

この家のメイドさんらしき人が私の姿を見て顔を歪ませた。


まさか地下から同年代の縛られた女の子が出てきたら、私でも腰が抜けると思うけど。

ここの家の人たちはまんまるの味方かもしれないから、気が抜けない所。


必死で出口を探し走った。

後ろからまんまるが追いかけてくる。


見つからないようにしらみつぶしに部屋を渡り歩く。


「探せ…!!絶対に逃すなよ!」


まんまるの叫ぶ声が聞こえる。

見つかれば今度こそ命が危ない。


怖くて息が上がる。

小さく小刻みにしか呼吸できない。


くるしい。

怖い。


隠れている部屋の前をバタバタと足音が聞こえる。

近くで何かが割れた音もした。


息がつまる。

体の震えも止まらない。


助けて…、誰か。


カタカタと体の震えも止まらず。

壁と着ている服の擦れる音が小さく響く。


とにかく小さくなるように、膝を抱え物陰に隠れた。


扉の前で足音が止まった。


それと同時に扉の音を響かせて、ゆっくりと廊下の光が入る。


薄暗い部屋の中に誰かが入って来た音。


コツコツと靴の音が近づいて来た。

その音に恐怖心が募る。


そして目の前で止まった時に、もうダメだと覚悟して固く目を閉じた。


目の前で止まった足音は、私の前から動かない。

恐る恐る目を開けると同時に、目の前の人物が私を抱きしめた。


「エイプリル…。」


懐かしい声だった。

その声に涙が溢れる。


「…え?…なんでぇ…?」


声が上ずってうまく話せない私を、そっと優しく撫でる。


ゆっくりと私から離れていく。

見上げると、フードのマントを被ったオーガストが、私の顔を覗き込んでいた。




いつもありがとうございますm(_ _)m

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