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第48話 「あんた、娘のフリしないか?」

結局微妙な空気のまま、解散となる。

レオン様を宿屋まで送ろうと思ったらコブおじさんが帰宅するついでだからと、護衛をたくさん引き連れて連れて行ってくれた。

まるでおじさんが護衛されている人みたいでちょっと笑ってしまったけど。


暖炉の前でまだ動かないガイに近寄る。

私に気が付いて、振り向いた。


「…王子、帰ったの?」


「うん、明日の朝また来るって。」


「…そう。」


そう言うとガイは暖炉の方を向いた。

じっと炎が揺らめくのを見つめていたので、私も横にストンと腰掛けた。


「そういえばごめんね。お水嫌いて言ってたのに、メガネ探してくれて助かったよ。」


「…でもバレちゃったね。」


私はふふっと口元を緩ませた。


「なんかもうメガネ関係なくバレてたみたい。」


ガイが『はぁ?』と言わんばかりに顔をしかめる。


「…王子、どんな視力してるの?」


「いや、城に忍び込んだ時ガイも一緒だったでしょ?それでわかったみたい。」


「…俺かぁ…!ごめん。」


自分の髪の毛をグシャグシャと指で混ぜ合わせ、そのままうな垂れる様にため息をついた。


「…それより、さ。メイはどうするの?」


膝を抱えて座ってるガイがゆっくりと私を見る。

私はその視線を外す様にまた、暖炉の火に視線を合わせる。


火はそろそろだいぶ小さくなってきた。


「…どうもしないかな、今の所。

このままここに居れればいいんだけど…どうしようもなくなったらまた移動しなきゃなのかな…?」


「戻る気は無いってこと?」


「…戻るってどこに?…戻れないよ、もう。」


ふと、オーガストのあの光景が浮かぶ。

馬車から出てきた女性と、親しそうに腰に手を回すあの光景。


遠くだったが確かにオーガストは笑顔だった。


私がいなくなって半年。

彼はもう私の事は要らないのだ。


確かに領地の事とか考えれば、結婚しなくてはならないだろう。

次なる代に領地を受け継がせるのは、領主としての役目なのかもしれない。


オーガストも覚悟を決めたのか。


だったら尚更私の居場所はあそこには無い。


スタインバークなんて以ての外。

戻る場所なんてどこにもない。


だったらこのまま『見つかりませんでした』が一番平和的な解決なのかもしれない。

そう思いながら口をつぐむ。


考えと気持ちは裏腹で、やっぱり気持ちは置いてけぼりな自分に悔しさが募る。


超えなければ。

自分がそこから逃げたんだ。


グッと涙を堪え、口を結ぶ私を優しい腕が伸びて肩を寄せた。


「メーイ、俺ずっとついてくよ。俺じゃ頼りないかもだけど、ずっと側にいる。

だから、泣いてもいいよ。

そんでさ、いっぱい泣いてスッキリしたら一緒に次どこに行こうかなんて、考える?」


目を見開いてガイを見上げた。


見開いた目から涙が溢れる。

止め処なく。


「今、1人じゃなくて良かったって思った…!」


私のボロボロな顔を見て、『フフッ』と顔を緩ませて。

ゆっくりと私に向かって腕を広げた。


私はそこに飛び込む。


ギュッと暖かなガイの腕の中で、声をあげて泣いた。

言い知れない不安がたくさん、涙と一緒に軽くなっていく感じがした。


ガイは私が泣き疲れて眠るまでずっと私を抱きしめていてくれた。

眠る私を部屋まで連れて行き、まだ少し冷たい服をまた私の部屋に残していくことになる。



起きたらスッキリした反面、すごい顔だった。

もうね、パンパン。

瞼を見てクリームパンを思い出す。

…今度作ってみようかしら?


支度をして、下に降りていくと。

既にレオン様が護衛と一緒に朝ごはんを食べにきていた。


私の顔を見てイオさんが複雑な顔して苦笑いをする。


「…ひどい顔だねぇ。顔洗いに行って冷やしておいで。」


そう言って私にタオルを渡してくれた。


私も苦笑いしながら受け取ってテクテクと小川まで歩く。

お店から出る時にガイとすれ違う。


昨日いっぱい泣いた分、ちょっと気恥ずかしさにモゴモゴ言いながら目をそらしてしまったが。

ガイはいつもと変わらない笑顔で私の頭を撫でた。


小川まで歩いていくと、チラホラと雪が降ってきた。

寒いはずだなぁと冬の訪れを肌で感じ、水の温度でも感じる。


水を汲んで顔を洗う。

そして持ってきたタオルも水に浸し、目に当てる。

目隠し状態だと危ないので、木に寄っかかってしばらく上を向いていた。


遠くで聞こえる子供の足音や、馬のひずめが地面をける音。

通りすがりの人の会話などが耳に聞こえてくる。


楽しそうな笑い声や、子供を叱る母の声。


この街は好きだ。

平和で、みんな優しい。


レオン様にこの街にいることがバレたという事は、すぐにでもラルフ様にもバレて連れ戻されるだろう。

だとしたら、このままガイがいう通りに街を出たほうがいいのか?


レオン様に内緒にしててとお願いしたところで、内緒にできるはずがない。

口は硬いだろうが、きっとこの街に頻繁に遊びにきたりするだろうから、行動でバレる恐れがある。

…悪気はない。

だが、きっとバレるだろう…。


ラルフ様にバレるほうが厄介だ。

婚約だってまだ継続したままだ。

あれから半年くらいは経っているが、まだ辛うじて婚約が保温状態で残っている筈。


だからこそ、躍起になって私を探しているのだ。

ここで見つかると、逃げた意味なんてない。


魅了が使える事を絶対知られてはいけないんだ。


思わずブルリと震える。

そして目に当てたタオルを取り、自分の肩を抱いた。


フニフニと瞼を触る。

だいぶ落ち着いたかな。


視界も瞼の重みを感じなかったので、お店に戻ることにする。


しかし、どうする。

とりあえずレオン様には黙っててね☆と釘を刺しておかなければ。


あとは頻繁にこの街にはくるなと。

どうせだったらもう2度とこないでくれるほうが有難い。


私を友と呼んでくれている数少ない人だけど…。


メー様やアナ様、元気かなぁ?

私のこともう忘れちゃったかな。


また悲しくなってきたので、鼻を啜って頬を両手で叩く。


今は考えるな。

昨日散々泣いたじゃない。


しっかりしなきゃ。

また移動するならするで、考えないと…。


トボトボとお店まで歩いていると、遠くから丸いおじさんに呼び止められる。


「おお、お前いいとこに!!」


道の端からドスドスと。

転がったほうが早いんじゃないかと思うほどのスピードで走ってくる。

そんな知り合いでもないんで、親しそうに手を振るのはやめて欲しい。


その場でキョロキョロオロオロしながら立ち尽くしていると、やっとおじさんが私までたどり着いた。


「いやぁ、お前。金が欲しいだろ?親のために孝行しないとな。食堂も随分と古くなったから、建て替えとかしたくないか?」


まんまるおじさんは私を上から下まで舐めるように、行ったり来たり視線を流す。

何だろう、別に仕事欲しくないけど…。


困ったようにまんまるおじさんを見つめていると、おじさんはニヤリと笑った。

そして私より小さな身長を一生懸命に背伸びをして、私の耳元に寄ってくる。


「…あんた、ここだけの話。

領主の娘のフリしないか?」


「…は?」


驚いてまんまる親父を睨みつける。


嫌だよ、何でだよ!

ていうか、本人だよ!!


何で逃げようかという話をしている中で、本人なのに本人のフリをしなくちゃならないんだ…!


私が睨んでいることにも気付かず、まんまるは続ける。


「…領主がこないだきてたの見ただろう?

これは内緒なんだがな、あそこの娘が今どうやら行方不明らしいんだ。

それでえらくお前のことを気にかけていた様子なので、お前がだいぶ似ていると思うんだよ。


…領主が娘を探し出した奴に金を出すと言ってるんだ。

あそこの家はな、俺たちを馬車馬のように働かせている分、金をたんまり持ってんだよ…。

どうだ?もし上手く行ったら、お前に1割…いや、2割をやろう。」


ニヤニヤと。

それはもうすごく絵に描いたような顔でニヤニヤとしながら私を見上げた。


…ツッコミどこ満載すぎてどっから言えばいいか…!

そもそもうちはあなた達を馬車馬のように働かせている覚えもない。


そして働いているのは鉱山の方々で、まんまるが働いているわけではない。

働いている鉱山の人も、仕事がなくて困っている人を募集して働いてもらっている上、勤務状況も私が徹底見直ししているのでホワイト企業ですよ!

手当も万全だし、効率よく夜勤勤務もあるが、それも希望する人も多いのに…。


しかもあなたはうちの商会の子会社。

そのまた子会社の子会社で、甘い汁を吸っているのはあなたの方でしょう!


この…、まんまるめ!!


嫌悪感満載で睨み倒すが、全くまんまるには届いていない。

というか気が付いていない…?


どういう神経しているんだこの人は!!


モヤモヤしながら口を開く。


「…お断りします。」


「…何だと?」


「お断りします!!」


私の言葉にみるみるとヤカンが沸騰していく。

ワナワナと握りこぶしを震わせて。


「…がめつい奴め。2割じゃやらんというのか!?」


「…いえ、そこじゃなくて。

身代わりなんてやりません。」


「お前、親のために働こうと思わんのか…!!」


「そんなの関係ない。むしろこんな事協力したらイオさんに怒られちゃいますし。

…領主さんが可哀想です。

自分の娘なんだから、偽物なんて一瞬でバレますよ?

大体、本物の娘さんが現れたときどうするんですか!」


「あの領主なら大丈夫だ。

なぁに、顔にちょっと傷でも付けたらそれ以上顔なんて見ないもんだ。

本物の娘にしても、金持ちの嬢ちゃんがこんなとこに一歩でも出てみろ?

今頃野生のクマにでも食われてるよ。」


…食われていませんけど。

まぁ、ガイが付いてきてくれなかったら今頃食われていたかもしれない。

それは否めないけど…!!


いや違う。

今考えるとこはそこではない…!!


『グヌヌ』と首を曲げて堪える。

どうやったらこのまんまる丸を黙らせることができるのか…。


「…どうだ、やってくれるな?」


ジリジリとにじり寄って、まんまる丸が私の腕を取る。

一瞬でその手を振りほどいた。

だが、私より小さなまんまる丸でも、力は大人の男性。


振りほどいた手が再び掴まれ、引っ張られた。


「お前…!!暴れんじゃない。このままウチに閉じ込めて献上してやろうか!」


反対の手も伸びる。

反射的にその手を拒むが、片方を掴まれているので簡単に捕まった。


引きずられる中、朝早かったせいで人通りが少なく、私がまんまる丸に引きずられていることなど気付かれていない。


…大きな声を出すべきか?

ここならきっとガイにも聞こえるかもしれない。


私は大きく息を吸った。


叫ぼうと口を開けるとき、頬に鈍い痛みが走る。


その痛みで一瞬目の前が暗くなる。

ヨロヨロと足元がおぼつかなくなった。


「…手間を取らせるな。叫んだらもう一度打つぞ。」


まんまる丸が聞いたこともないような低い声を出した。

ビクリとと体がこわばった。


そして私はそのまま、まんまる丸の家へと引きずられていくのだった。

誤字報告いつも有難うございます。

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