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第47話 イオさん、王子にも容赦ない。

着替えを済ませ、前髪をめいっぱい手で引っ張って顔を隠すと、おずおずと部屋の外を見た。


「あの、ありがとうございました。もう、大丈夫です。」


俯きながらスッと頭を下げたまま。

王子は濡れた自分の体を大きなタオルで拭き取りながら私を見ていた。


「…何事も無くてよかった。何故噴水に?」


…何でそこを気にすんだよ…。

もうさっさと『じゃあねー』って出ていけばいいのに。


喋ると声でバレそうで怖いんだよー…!


「えっと、子供が遊んでいたボールが噴水に落ちてしまって…拾おうと思って…」


声が上ずりながら、ボソボソとわけを話す。


「…では俺を見て逃げようとした訳じゃないんだな?」


「…は?」


「…エイプリル…!何故、こんなところで…。」


レオン様は私をそっと抱きしめた。


抱きしめられた服が少しヒヤリとしていた。


…え?

……いやいやいや…!!!


「え!?どっから気づいてた?」


レオン様の胸を押さえて顔を上げる。

私を見つめる顔がクシャッと崩れ、今にも泣き出しそうな顔になる。


「遠くから歩く君を見て、すぐ君だとわかった。

髪の毛も短くなっていたが、雰囲気は変わらないから…。

だが決定打は、彼だ。」


そういうと優しく短くなった髪を撫で、ガイを指差した。


「俺を訪ねてきた時、彼と一緒だっただろう?」


レオン様がガイを見ると。


「スミマセンが…」


後ろにいたガイが突然私をレオン様から引き離す。


「イオさんに怒られちゃうので、あんまメイに触るのやめてくださいませんか?」


「…メイ?」


レオン様が首をかしげる。


「ああ、私が使っている偽名です…」


ガイの後ろから私が顔を出す。


「…なるほど。」


小さくレオン様が呟いた。


一度床に視線を向ける。

しばらく見つめていたかと思うと、強い視線で私を見つめた。


「エイプリル、帰ろう。」


「…帰りません。それよりレオン様は早く下の暖炉で服を乾かしてください。」


即答する私に眉を寄せた。


「…何故?」


私はレオン様から視線を外す。


「私の目を、誰のためにも使いたくないからです…。」


俯く私に、ガイがポケットからさっき無くしたと思ったメガネを差し出した。

それを受け取るときに、ガイの袖がびしょびしょに濡れている事に気がつく。


「ガイも早く着替えないと。」


水に濡れるの嫌いだと言ってたのに…。

私のためにメガネを噴水から探してきてくれたんだと思うと、複雑な気持ちになる。


「俺は大丈夫だよ、メイ。」


「…でも」


「メーイ?」


私の言葉を遮るように、私に向き直り微笑んだ。


「俺は大丈夫。目、心配なんでしょ?…早くかけて?」


私を静かに見つめるガイが微笑んだ。

私は言われるままメガネをかけた。


「エイプリル、彼は一体?君はすごく信用しているようだが…」


「ガイは王都で雇った護衛の1人です。

私が頼りなかったらしくて、心配してここまで一緒にきてくれました。」


「…初対面で?」


レオン様が怪訝そうにガイを見つめる。

ガイも視線をレオン様から外さない。


「…」


ガイが仕方なく何かを話そうと、肩から大きく息を吐いたその時。


「…いい加減にしな。」


その緊張感を割って入ったのはイオさんだった。


「アンタねぇ、遠くからはるばるきたんだろうけど、来てすぐうちの娘を連れて行こうとするとか何なんだい!?」


「…イオさん、この人王子…!」


私が思わずフォローを入れようと小声でイオさんに伝えようとすると、イオさんが今度は私を怖い顔で見た。


「だから何なんだい!!この街はこの街のルールでみんな生きてんだ。今まで見たこともない王子なんて知ったこっちゃないんだよ!」


流石のレオン様も呆気に取られたようにポカンという顔で固まってしまった。


…いや、イオさんの言葉も最もですけど…。

ここはうちの領地でも端っこだ。

街を出て山を越えればすぐ隣の国。


今まで一度でもゴールドスタイン国として、何かの恩恵を受けたかと言われると、答えば『いいえ』となってしまう。

長いことこの街は鉱山で栄えてきた。

うちの領地にはこの辺りのいくつかの鉱山があり、その其々でみんな自分たちの力で生きてきたのだろう。


村の人達からしたら噂でしか知らない王子なんて来たところで、『そうなんだー』ぐらいの反応なのだ。

映画館もないような田舎の街に、ハリウッド俳優が撮影に来るぐらいの認知度というか…。


ともかくここでは2人とも風邪を引いてしまうので、私は2人の腕を引いて1階の暖炉の前にきた。


パチパチと火が木を鳴らす音。

そこの前に椅子を置いて2人を座らせた。


この狭い空間に結構な人がいるはずなのに、無言が続く。


『よく拭いてね』とタオルを渡したはずなのに、ガイの髪の毛から雫がポタポタと垂れている。

気になってタオルを奪い去り、ガシガシと頭を拭いてやった。

まるで子犬のように目を細めて気持ちよさそうにしている。

とりあえず、これで乾くだろう。


ふと視線を感じて横を見ると、レオン様が私を見ていることに気がつく。


「…どうしましたか?」


私の問いに、サッと目線をそらした。


「…い、いや。」


んー?どうした?

なんか挙動がおかしいレオン様。


私が首を傾げながら通り過ぎようとすると、腕を掴まれる。


驚いてレオン様を見つめていると、ボソボソと話し出した。


「…それ、俺にもやってみてくれ。」


「へ…?」


流石に護衛の人たちも驚いた顔でこっちを見ていた。

すぐ『何も見てません』と言わんばかりに視線を泳がせたけど。


…そりゃびっくりよね…。

私もびっくりだもん。


でも城だと侍女さんたちがやる仕事だからかな。

もしかして自分で拭くとか出来ないんだろうか?


そんなこと思いながら、手渡されたタオルで赤い髪に触れた。

流石にガイみたいに乱暴には拭けなかったけど、ガシガシタオルで髪の水分を取っていく。


拭き終わってそっとタオルを首にかけると、満面の笑みで私を見ていた。

…レオン様、どうしたんだ…。


「…王子、張り合ってません?」


ガイがレオン様に問いかけた。

レオン様は一瞬大きく目を開いたが、すぐに何も答えず聞こえないふりをした。


…張り合ってんのか…。

私はちょっと困ったように顔を引きつらせた。


服が乾くまで、イオさんと厨房で王子とその他護衛軍団に簡単な食事を出すことになる。

大通りの向こうの宿屋はもう、食事は出してない時間だから。


とりあえず食事を摂らせたら、宿屋まで送っていこうという話でまとまった。


大丈夫かしら…。

レオン様、あんなこじんまりしたベッドで寝れるのだろうか…。


なんて、違うドキドキ感に包まれる。



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