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第46話 レオンとの再会。

ラルフ様を見て、それから1週間はとても滞りなく平和な日常が続く。


次に備えてしばらく変装までしていたが、取り越し苦労だったようだ。

一瞬だけどもう坊主にして少年として暮らそうかとも考えたが、流石にそれはイオさんに止められた。


お店の壊れた所やお皿も、鉱山の組合の人が弁償してくれることになったので、新しいお皿がたくさん増えてイオさんもご満悦だ。


今日来た鉱山の組合関係者の中で、こないだのお父様に諂えていた商会の人も来ていた。

どうもこの人が雇った様子。


イオさんが怪我をしたというのに、謝る様子もなく、言い訳御託を並べて誤魔化している。

いるよね!こういう是が非でも自分は悪くないおじさん。

流石にこの態度ではイオさんの怒りが増幅するだけなので、組合の方が早々に引き取っていかれた。


帰り際、私をジロジロと見つめるまん丸な商会のおじさん。


「…しかし、こんなのがディゴリーのお嬢さんと間違えられるとはねぇ。全く見る目がないやつを雇ってしまったことは認めますよ。」


そんな捨て台詞を吐いていったので、イオさんどころかガイまでも戦闘態勢に入ったので、命からがら出ていった。


似てないのに越したことはない。

私はその言葉に安堵する。


オーガストももう暫くここに来る事もないだろう。

次に来る時には、領主となり、領地の視察とかかな…。


ラルフ様にしては、2度とないかもしれない。

少しだけ残った後悔をギュッと心の隅っこに押し込めて息を吸った。


「イオさん、私コブさんとこにご飯運んできますね!」


組合の人の対応に忙しそうなイオさんが笑顔で頷く。

私は厨房に置かれた袋を持って、店を後にした。


後ろからガイがついてきてくれるのが見える。

ガイが追いつくのを待ってから、街頭を歩き始めた。


大きな噴水の横を通ると、小さな子供達がボールを投げて遊んでいた。

顔見知りの私に気がついて、手を振ってくれる。


私が笑顔で振り返すと、私に気を取られていた子供の取り損なったボールが、噴水めがけて飛んで行った。


子供達は困った様に顔を見合す。


『私に任せて!』と言わんばかりに胸をどんと叩くと、ガイがとても不安そうな顔をした。

ガイに手を引いて貰って、噴水に手を伸ばす。


子供達が見守る中、『後少し!もうちょっと!』と手を必死に伸ばしていく。

水がバシャバシャと上から流れて来るので、ボールがヒョロヒョロ動き回り、中々手が届かない。


「これガイが取ってくれた方が早いんじゃないかな?

私より手が長いわけだし。」


ガイは静かに首を振る。


「俺、水に濡れるの嫌い。」


「…なんで水に濡れる前提なの…?」


思わずツッコミを入れようと大きく振り向いて、バランスを崩した。

ガイと繋がっていた手も反動で離れてしまい、見事にガイの予言通り、私はすごい水しぶきとともに、噴水へ落ちたのだった。


そろそろ雪が振り始めようという季節。

噴水の水は思った以上に冷たく、座り込んだまま呆然とする。


「メイ!ごめん、手が離れちゃった…。」


慌てて私を助けようとガイの手が伸びてくる。

思わず手を取ろうとして、子供達の顔が目に入る。


「ううっ寒いけど、先にこっち…ボール!これ渡してあげて!」


伸ばした手にボールを託し、私は自分の肩を両手で抱いた。

ううう、さっむ!!


水は刺すように体を冷やしていく。

ガタガタと勝手に震える肩を、自分の手で抑えた。


そういえば、噴水に落ちた拍子にメガネがどこかへ行ってしまった。

そう思い、水の中を震える体で探し出す。


あれぇ?どこに行ったんだろ?


寒さに耐え、ガタガタと体を震わせながらメガネを探していると、突然誰かが噴水に入ってきた。


「…大丈夫か!?」


突然私にかかる逆光の人の姿が私を引き上げた。

そして軽々とびしょ濡れの私を抱き上げる。


「何をやっている?

こんな季節に水の中に飛び込むなんて、自殺するようなものだぞ!」


噴水で濡れた赤い髪が頬に雫を垂らす。


見上げたまま、動けなかった。


ガイが呼ぶ声が、遠くで聞こえる気がする。


全ての時が止まった気がした。



何故この人がここにいるんだろう。


あの時魅了はといたはず。

彼がここに私を探しにくることは、絶対ないと思っていた。


なのに。


『ヒッ』と引きつったような声が出る。


「おい!大丈夫か!?」


私の冷たくなった体を自分のつけていたマントを外し、私に巻きつけた。

呆気に取られていたガイがハッと気がつき、彼から私を受け取ろうとするが、それを拒否し家に運ぶから案内しろと言いだした。


まだ私だと気がついていないだろう。

だってあっという間に赤いマントでぐるぐる巻きだ。


これ、高いだろうに…噴水のせいで水のシミが出来始めている。

弁償しろと言われたら、一生イオさんのところでタダ働きさせてもらおう…。

そう思いながら、マントに深く潜った。


お店に着くと組合の人がちょうど帰る頃だった。

すれ違いざまに私を抱き上げた赤毛の王子が店に入ってくる。


レッドメイルは赤毛で有名だ。

誰がどう見ても、レッドメイルの王子なのだ。


突然入ってきた始めてみる王子に、みんなポカーンと止まったままだった。

店から出ようとしていた組合の人も、イオさんでさえも固まって目を見開いたまま動かない。


店に着くなり静かに王子が言った。


「すまないが彼女が水に落ちたようだ。彼女の保護者の方はおられるか?」


その言葉にビクッと強張った体を無理に動かすイオさん。


「…うちの娘です!…水に落ちた…?」


イオさんは後ろで罰が悪そうに立っているガイを睨む。


「あんたが付いていながら何やってるんだい!?」


イオさんはガイを大声で叱り飛ばし、顎で私を引き取れと合図する。

ガイはまたハッとして、慌てて王子に手を出したが、王子は私ごと一歩引いた。


「…すぐに彼女を湯へ。着替えも手伝った方がいいかと?」


そういうとイオさんを見つめた。

イオさんはめんどくさそうに私を抱えたままの王子を2階へ案内した。


1階にはゾロゾロと王子の護衛が沢山いて、イオさんが今日は商売にならないだろうと溜息をついた。

その言葉に自分のせいだと申し訳なく思い、ますます縮こまる。


マントの弁償と店の営業1日分の損失が加わった。


イオさんのお店がお休みになってしまうと、この街の人たちは果物や野菜などの小さな屋台などで食事を摂取しなくてはならなくなる。


みんなお腹が空いて明日の活力が減ってしまわないだろうか。


王子には申し訳ないが、さっさとお礼を言って引き上げてもらうべきなのでは?

だがそれには面と向かってお礼を言わなければならなくなる。


1人で湯で体を温めながら頭を抱える。

部屋の外で待機中の王子とガイ。


静まり返る一室で、水の音だけが響いていた。


いつも誤字報告ありがとうございますm(_ _)m

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