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第42話 オーガストの気持ち

エイプリルが僕の魅了を解いて、いなくなった。

今は全てが何かを考えることを放棄し、ただ混乱している。


エドにかけた魅了はすぐ解けて、彼女に隙を作ってしまったことを何度も後悔しているようだった。

ラルフ様にしばらくの謹慎を言い渡されていたが、エイプリルの捜索にこっそり参加しているようで。


スタインバークもレッドメイルも、秘密裏に彼女を探し始めた。

彼女はきっと彼らにはすぐ見つからないだろう。


そんな気がする。


自分の中で感情が分離し始めているような感覚に、病み上がりの体が耐えられず、再び寝込んでしまった。

既にあれから3日が過ぎて行った。


エイプリルはいつも抱えていたカバンだけを持っていなくなった。

カバンの中にはエイプリルが持ち歩いている鉱石のサンプルや、加工前のパワーストーンの原石などが入っているのは確認したので、しばらくはお金に困ることはないだろう。


果たして僕は彼女の魅了にかかっていたのか。


僕は両手で頭を抱え、ベッドの中でうずくまった。



ノックがして、父さんが部屋に入ってきた。

エイプリルがいなくなった事で、ひどく落ち込み、彼もひどい状態だった。


僕は父さんに、あの時見たままを報告した。

僕の話を最後まで聞くと、顔を歪め、項垂れた。


「じゃあエイプリルは私たちが魅了されていたと、言ったのか?」


「…そうです。

まるで全てが繋がったかのような言い方をして、僕の魅了を解いていきました。」


父さんは再び大きく項垂れ、静かに肩を震わせた。


「あの子は私たちが思う以上に、ずっと1人だった。

1人でずっと…何と戦っていたのか…。

私たちがエイプリルに注いでいた愛情は、彼女が魅了したからではないという事を、わかってもらえなかったのだな…。」


「…エイプリルは僕たちを信じてなかったという事ですか?」


「いや、そうではないだろう!!」


僕の乾いた言葉に、父は怒鳴り立ち上がる。


「オーガスト、今は突き放されショックだからそう思うんだろう。

だがな、彼女は私たちを拒絶したんじゃない。


自分が魅了を使えると知って混乱しているだけだ。

今まで信じてきた愛情が、もしかして自分が作り出したものだったらと思ったら、怖くなっただけなんだ。


…オーガスト、私たちはツギハギだらけだけど、紛れも無い家族だ。

エイプリルを探し出して、私たちの愛情が魅了で作り上げたものではないことを、彼女に伝えよう…!

…早く見つけ出さないと、昔のように苦しい思いのまま生きていく事だけは、させたくない…。」


そういうと、父さんは静かにエイプリルを想い、泣いた。


父さんは発見した時のエイプリルを忘れていなかった。

あの時を思い出し、自分を戒め、後悔と反省を、毎日のように悔いていた。


エイプリルの幸せをただ祈っていた。

…それなのに。


「父さん…。

僕は…エイプリルが少し許せない。」


「どうしてかい?」


「僕にごめんねって言ったんだ。

本当はエイプリルが魅了使えることを知っていた。

初めはそうだったのかもしれないし、それはわからないけど。

でも一緒に暮らし始めて、彼女が弱く守らなければならない存在だとわかったから…。

だからそれが発動して誰かに迷惑かからないように、フォローもしていたつもりだよ。

なのに、『ごめんね』『大好き、だったよ』って。

…父さん、『だった』って、言ったんだ…。」


「オーガスト…それは!」


「…わかってる…だけど。

僕たちはエイプリルを思い続けていくのに、エイプリルはもう僕らを必要としてないんじゃないかって…怖いんだ。

探して見つけても、もう僕らはもう…エイプリルにとって必要なくなったから、僕の魅了を解いて行ったんじゃないかって…!!」


父さんが僕を静かに抱きしめる。


僕は何度も何度も拳を握りしめ、やりきれない思いをベッドの端を叩き続けた。


「オーガスト、それはないよ。

絶対ない。

父さんが証明する。

エイプリルはオーガストをとても大事に思ってた。

きっと今からもずっとそう思っているから、君に自分の痕跡を残さないためにそう言ったんだよ。

だからね、探そう。

会って確かめよう。

そうだね、会ったら全部その愚痴を本人にぶつけてみよう?」


「エイプリルに…?」


父さんは泣きながら僕に微笑んだ。


「バカヤロー!勝手にこっちの気持ち決めていなくなるんじゃなーい!って言っちゃおう?」


「…言うと、きっと僕泣きます。」


「うん、私も泣くよ、きっと…。」


泣きながら微笑む父さんに、僕も泣きながら微笑んだ。


エイプリルはバカだ。

こんないい人の子供になれたのに、疑って何処かへ行ってしまうなんて。


必ず探して、文句を言おう。

そして、こう言おう。


僕たちには君が必要だよって…。



それから結構長い時が過ぎていくことになる。

時間はとても残酷で、自分の心の折り合いがつかないまま、あっという間に過ぎていくのだった。


エイプリルがいなくなったことはそんなに話題には上がらなかった。

父さんがすぐに長期の病気による療養のため、休学届けを出したからもある。

療養に、少し遠くの領地へ静養していることになっている。


ヒックス嬢もビアス嬢も『元気になったらすぐ戻る』と告げると、安心した様子だったし。


エイプリルがいなくなって1ヶ月経ったあたりで、どうやらテイラー王子とレオン王子に接触したのではという情報が入ったが、直接尋ねることができなかったので、真相を探れていない。


エドが直接聞きに行った時も、情報は引き出せなかったようだ。


お陰でラルフ様はひどく焦っているようだった。


本人が『居ない』ので、婚約が受理されない可能性が出てきたのだ。

何としても半年以内にエイプリルを見つけなくてはと。


そのせいでかわからないが、タイラー王子とヴィヴィアン様の婚約式が延期されたのだった。


スタインバークはハートテイル嬢のこともあり、落ち着かないようだ。

彼女が『異世界人』なのかどうかなんて察しはついているが、ラルフ様はそれを認めたく無いのだろう。


レオン王子に関しても、どうせ接触したのは『何らかの理由』でどうしても魅了を解きたくて行ったのだろうと、予想していたのだが。

解けた筈のレオン王子も、そして何故かタイラー王子までもが必死でエイプリルを追っているのは理解できない。

エイプリルがタイラー王子とどういう繋がりがあるかなんて、今の僕にはわからなかった。


時折、エイプリルの部屋を覗きにいく。


僕と出会っていくつの手帳やノートを書き記したことだろう。

何度もそれを読み直す。


その度に分断された心がひどく痛み、僕にどうしたいかを聞いてくるのだった。


探すと決めてから、僕は一度もここから動いていない。

それは心がまだ追いついていないせいもある。


探して見つけたときに、エイプリルを見て僕はなんて言うんだろうか。

そして、どんな顔をするのだろう。


父さんは僕には何も言わないが、エイプリルを探すために人を雇ったようだ。

結構なお金がかかっていることだろう。


果たして僕が探しに行ったところで、エイプリルを見つけられるかはわからないけど。

僕が動き出すまでに誰かがエイプリルを見つけてしまう事も、とても怖かった。


「一体僕はどうしたいんだろう?」


エイプリルのノートをしまいながら呟く。

ギチギチに詰まった棚に、ノートを無理にしまい込もうとすると、ハラリと一枚の紙が落ちた。


落ちた紙を深く息を吐きながら、めんどくさそうに拾い上げると。


「…懐かしい。」


僕が小さい頃、エイプリルの誕生日を祝った絵だった。


父さんと、僕に挟まれて、真ん中には笑顔のエイプリルが書かれている。


子供の描いた絵だ。

とてもうまくかけているとは思えないけれど。

エイプリルはとても喜び、大事そうに胸に抱いた。


『大好きな、エイプリルへ』


青い色で大きく書かれている。


エイプリルは僕の文字を読んだ時、恥ずかしそうに微笑んだ。


「大好きな…」


絵に描かれた文字をなぞった。


「僕は…。」


絵に描かれた文字が自分の心で反芻する。

何度も何度も、呪いのように。


「魅了されていない。」


「魅了されていたわけじゃ無い。」


「エイプリルは僕を魅了していなかった。

…なのに…!!!」


悔しさが込み上げる。

思わずその絵を手に取り、破り捨てたい衝動に駆られた。


だけど。

手は止まる。


あの時のエイプリルの顔が浮かんだ。


握りしめた拳を、緩める。


手に持った絵を乱雑に並んだ棚に戻すと、エイプリルの部屋を後にした。


「父さん、話があるんだけど…!」


部屋から出ると、すぐに父さんの書斎に向かった。

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