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第41話 まさか私も使えるとは……

ヨロヨロと家に着くなり、リビングのソファーに倒れこんだ。

帰りを心配してお父様が迎えに来てくれて、やっと家に帰ることができたのだ。


うううーお腹すいた。


私の腹の音を聞きつけて、すぐさまメイヤーさんがご飯の用意をしてくれる。

だが色々1人で考え込んでいるせいで、お腹が空いているはずなのに、手が進まない。


正直に言ってしまうと、この巻き込まれハーレム状態を私は全く喜んでいないのだ。

メンドクサイ、この一言でしかない。


ハートテイル様が代わってくれるなら、本当にどんなにいいか。

だがこの考え方も、同性の敵を作る要素だということは学習済みだ。


だけども。

望まぬ私からしたら、この逆ハーレム状態が好ましい状態ではないことはわかって欲しい。

そもそもラルフ様だってレオン様だって私のことが好きとは限らないわけで。


どっちにとっても私は『都合いい人物』なのかもしれないのだ。

…私の真実の愛とは。


異世界人はどーたらこーたら言われてますが、異世界人だからって何も役に立ってませんしねぇ…。


そんなことを考えてた時に、昨日から感じていた嫌な予感がよぎる。

タイラー様の言葉も同時に反芻する。


「お嬢様、お行儀が悪いですよ!」


気がつくと、頬杖ついてスプーンでカチャカチャとスープをかきませていた私。


「…ハッ!」


いかんいかん。

慌てて姿勢を正す。


とりあえず、レオン様との接触は避けたいと思う。


…ラルフ様に協力すると決めたんだし。

この重苦しい婚約制度を見直ししてくれたら、私はそれでいいや。


1人で食事をとり終わり、オーガストの様子を見に部屋へ。

気持ち良さそうな寝息を聞いて、具合がだいぶ落ち着いた事を感じ取る。


起こさない様にそっと部屋から出て、自分の部屋へと向かった。


さっさとお風呂を済ませ、今日はもうベッドに入った。


…疲れた。

とても、疲れた。


今日の一言。


『生きていくって難しい!!』


横になると疲れていたため、簡単に夢の世界へと落ちていった。



次の日。

学校へ着くと、何故かエドエドさんが私の従者か!っていうぐらいベッタリとついていた。

…これは、まさか監視か!


思わず後ずさると、エドエドさんはニッコリと微笑んだ。


「どうしたんですか、エイプリル様?」


そういうと私から鞄を引き取って、がっしりと腕をつかみ、ズルズル教室へ引っ張っていった。


…従者じゃないな。

誰がどう見ても、私を監視する人だ!!


力なくされるがまま、私はひきづられて教室へ着いた。


それから授業が終わると私を見に来たり、昼休みも捕獲されて拘束され。

放課後だって速攻で馬車に押し込まれる日々を過ごすことになる。


3ー4日過ぎたあたりで、オーガストが復帰したのだが。

それでもエドエドさんの監視生活は続くのだった。


「ねぇ、これってラルフ様の指示!?」


エドエドさんは微笑むだけで何も答えなかった。


この監視のせいで、メー様だってアナ様だって話すこともままならないのだ。

全部を制限されれば、私だって不満はたまる。


「あの、オーガストも復帰したし、もうこの監視やめて欲しいんですけど。」


私の問いにもただ微笑むだけで何も言わない。


「エイプリル…。

みんな心配してるんだよ、レオン様と何かあったんでしょ?

一応婚約者がいる人が、他の男性と…ましては王子と2人きりだとか軽率だったんじゃないかな?」


「じゃあなんだ?信用取り戻すまでこうやって監視されて生きろと?

婚約者の許しが出るまで、女友達とも目も合わせられない状況を我慢しろって?」


肩から深く、息を吐いた。

今までにない感情が私を支配する。


そのいつもとは違う感じに、オーガストは私の俯いた顔を心配そうに覗き込んだ。


「…そうまでは言いませんが、ラルフ様がハートテイル様の調査が終わるまでは我慢していただきたいなって。」


エドエドさんは微笑みを崩さず、肩をすくめる。


…我慢?

なぜ私ばかりが我慢をしなくちゃならないんだろう?


私はユラユラと、立ち上がる。


「…そのあとはベタベタとラルフ様が監視するからって?」


止められなかった。

自分の怒りが。


それだけがわかった。


「…え?エイプリル様?」


私はゆっくりとエドエドさんの前に立つ。


「なに?聞こえなかった?…もう一度言う?」


今までにないトーンで声が出る。

少し早口で、そしていつもより低い自分の知らない声。


「え?いや、聞こえましたが…。」


私は静かに顔を上げて、エドエドさんを見つめた。


「私はもう嫌なの。

わかる?

これ以上監視されたくない。」


じっとエドエドさんを見つめると、彼の目がだんだんと見開いてきた。


「…エイプリル様…?」


「エドワード、…もう私の監視をやめて。」


私の瞳の奥が深くなる。

深い闇の様に、目の中に広がった。


それを見つめていたエドエドさんが、静かに頷いた。


「…わかりました、ラルフ様にそうお伝えしてきます…。」


その時私にキスしたレオン様の顔が思い浮かぶ。

あの時の感覚と似ていた。


まさか。


自分の顔を両手で覆った。

確かめる様に、指で瞼をなぞる。


「エイプリル!!」


オーガストが私に向かって声を荒げた。


私が静かに振り向き、オーガストの方へ顔を向ける。


それを合図の様に、ボーッと虚ろなエドエドさんは、私とは逆の方へ歩いていった。


私はオーガストを見なかった。


だけど。

オーガストは私を、泣きそうな顔で見ていた。


「エイプリル…僕を見て。

僕の目を。」


「…やだ。絶対見たくない。」


「エイプリル…。」


「ねぇ、オーガストは知ってたの?

私も『魅了』使えたんだね…。

オーガスト、ねえ知ってた?」


オーガストは私の質問には答えず、私を見つめたままだった。


「…知ってたんだね。」


おかしいと思ってたんだ。

なぜこんな私をみんなが構うのか。


「でも僕は魅了されたから側にいたんじゃない。」


「そんなの私にはわからないよ。いま現在も解けてないだけかもしれない。」


私の肩がわずかに震える。

それに気がついて、オーガストが私に触れようと足を前に出した。


「エイプリル。

みんなの君への優しさは本物だよ。」


オーガストが1歩近づくと、私も1歩下がる。


「…おかしいと思ったんだ。

なぜお母さんは、私を忌み嫌うのか。

なぜみんな、私を欲しがったのか。」


「…聞いてエイプリル!!」


私は頭を激しく振った。


「今、解いてあげる。」


私はオーガストへ前に出て、視線を合わせようとする。


大丈夫、さっきやった逆をやればいい。

コントロールなんてすぐ出来る。


オーガストは私から目をそらそうと俯いたが。

すぐさま私が両手でオーガストの顔を抑え込む。


「…エイプリル、嫌だ…やめて。」


「今、魅了をとくね。

長いこと縛り付けてごめん…」


無理やり目を合わす。


泣きそうな顔でオーガストが何度もやめてと言った。


女の私の力なんて振り解けばすぐに逃げられるのに。

どうしてそれをしないのか、オーガストの気持ちに胸の奥がツンと痛んだ。


自分が抵抗すると、私が怪我をするかもしれない。

だから、掴んだ手を離したんでしょ?


大丈夫、すぐ自由にしてあげる。


もしかすると何年も魅了し続けていたとしたら、解けるのは時間がかかるかもしれない。

でもないよりましか、と。

私は急ぐ。


「エイプリル…」


1度目を閉じて、大きく息を吸う。

そして息を止め、目を見開いた。


オーガストの視線を捉えた。


私の目の闇が、オーガストも目に入り込む様に。

黒くキラキラしたものがオーガストから剥がれ落ちていく。


「…エイプリル…!!!

いやだ、やめて…!」


「オーガスト、ごめんね。

お父様にありがとうって伝えてね。

私は…大好きだったよ。」


だめだ、泣くな。

自分の意識に集中して。


目に余計なものを溜め込まない様に。


オーガストは目を見開いたまま、一筋の光が流れる。


痛くないはず。

大丈夫、これで、大丈夫。


オーガストの瞳から、私の光が消えた頃。

私は目を閉じた。


私から一粒の涙が、オーガストへ落ちる。


オーガストはその場に目を見開いたまま動かずに。

オーガストの瞳に、私の涙が落ちていった。



オーガストがハッと気がつく頃には、私はもうどこへもいなかった。

ゆっくりと、辺りを見渡す。


まるで何かの痕跡を探す様に。


そして自分の頬に触れる。


さっきまであった手のひらの温もりを、確かめる様になぞった。


「…守るっていったんだ。」


乾いた声で、そう呟いた。


「…守るって約束したのに…。」


オーガストは力一杯拳を振り上げた拍子に、よろめいて倒れこんでしまう。

そのままうずくまり、その握ったままの拳を振り下ろす。


ジンとした痛みが手のひらを支配したが、そんなの比じゃないぐらいの胸の痛みにオーガストは呻いた。


守るべきものはどこへいったのか。

だかその感情も今はやりきれない気持ちでいっぱいになった。


なぜ彼女は自分の魅了を解いたのか。


オーガストは叫んだ。

まるで心の痛みを吐き出す様に。


自分の頬に伝う雫は、本当に自分が流す涙なのかもわからず。

頬を流れ、土を掴んだ手を伝い、地に落ちた。

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