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第40話 婚約してなかったの⁉︎

「兄さんが、ごめん。」


私の迎えの馬車の前で、レオン様がやっと私から離れる。


「何故謝るのですか?謝るのは違うことを謝ってほしい。」


私はいつまでも口を曲げ、頬を膨らましている。


「そっちは謝らない。」


「あの!私婚約者がいるんですけど!?」


…契約的なやつですが。

それでも婚約者のいる人に手を出すのは王子のやることじゃない。


だいたいこの世界の人は、私の気持ちを置いてけぼりしすぎだ。

そこが色々納得できない。


レオン様は切なそうに私を見つめ、微笑んだ。


「…わかっている。」


「婚約式も終わってますから、もう正式なスタインバークの婚約者なんですよ?」


「勿論だ、だが…。」


レオン様は言葉を詰まらせ、私の膨らんでいる頬に触れた。


「俺は君が必要なんだ。」


「私は私の自由を生きる。」


「支配しようとしているわけではない。

ただ、君がそばにいてくれたら…。」


頬を優しく撫でる。

頬の膨らみをなぞるように、そっと。


私が黙って見つめていると、また切なそうに微笑んだ。


「私にはそれはわからない。」


「だけど覚えててほしいんだ。俺が君を必要としていることを。

君の特別な何かではなくて、君自身を。」


「…覚えるのは得意ではない…。」


「覚えていて、エイプリル。

俺は君が…」


「そこまでです、王子。

その方はラルフスタインバーク様の婚約者です。

どうかお手を離してあげて下さい。」


ニコニコと微笑みながらエドエドさんが立っていた。


…いつの間に!!

この人ほんと気配消すのやめてほしい。

すごくびっくりするから!


エドエドさんが目の前まで歩いてきたが、レオン様は私から離れなかった。

なので。


エドエドさんがレオン様の手に触れた。


「私に触るな。」


「…ですが。」


エドエドさんが『ふぅ』と溜息を吐き、続けた。


「…手を、エイプリル様から離して下さい。」


「スタインバークの犬が何故ここまでエイプリルを?

ただ主人の婚約者だからって、ここまでするのはおかしいだろう?」


エドエドさんは含んだ笑い方をする。

一度目を伏せた。


そしてゆっくりと、ゆっくりと視線をあげていく。

レオン様の目線まで視線をあげると、ニッコリと微笑んだ。


「エイプリル様が何故、ラルフ様とご婚約なさったか知っていますか?」


エドエドさんはそういうと、アゴのあたりに人差し指を置いた。

トントンと人差し指で数を数えるように、人差し指を静かに動かす。


答えないレオン様にもう一度微笑むと、視線を私に移した。


「謎ですよね?男爵令嬢が公爵の御子息と婚約なんて。」


コツコツと足音を鳴らしながら私の前にゆっくりと歩いてきた。

そして、私に礼をする。


「彼女は我がスタインバークの第3当主、パウエル様の忘れ形見だったと発覚しましてね。」


…あれ?

パウエル様いつ亡くなったんだろう?


思わず首をかしげる。


あの人は殺しても蘇りそうだから、死なないと思うんだけどな。


傾げた首をもっと傾ける。

傾げたついでにレオン様を見上げると。


すごく驚いていた。


えええー?

なんでそこまで驚くの!?


すっごく驚いた顔をしていたので、つられて驚く。


「いやなんでエイプリル様が驚くんですか!!」


「ホントですよね!?」


自分でもびっくり。


コホンと咳払いをするエドエドさん。


「とにかく、ラルフ様は従姉妹にあたるエイプリル様と婚約を決められた。

レオン王子、あなたに入り込む隙はないのですよ。」


レオン様は静かにエドエドさんを見つめる。


その目は強くエドエドさんを捉えた。


「…そうだったか。

だが、正式に王が婚約を認めてない場合、私にも可能性はあるのではないか?」


「いや、無理だよ!!もう婚約式も終わったし。

…ね?エドエドさん。」


エドエドさんを見上げると、何やら顔に『ギクリ』と書いてあるまま、固まった。


「はぁー!?」


思わず叫ぶと、エドエドさんが耳を塞いだ。


「耳元で叫ばれたら、鼓膜が!!」


「どーいう事だよ!!」


エドエドさんを掴んでガクガクと揺らす。

揺らされながら青い顔をして、目を白黒とさせた。


「話す、話すから、ちょっ…!離し」


私に揺らされながら、苦しそうに首を抑える。


「さぁ吐け。」


ライトを顔のところに近づけイカつい顔を寄せる刑事のように、エドエドさんに詰め寄りました。


「正確にはまだ、レイモンド様がゴリ押ししたので仮で認められているだけで、まだ受理はされていないんですよ。婚約式やお披露目を先にやっちゃった感じですね。」


「…まだ正式に認められてない?」


反芻するようにつぶやく私に、レオン様はニッコリと笑った。


「エイプリルはローラントの婚約破棄から1ヶ月経っていないだろう?婚約破棄されて、次の婚約が決まるまで6ヶ月以上は間を開けないと受理されない決まりなんだ。」


「…なんだってええ!?」


という事は、アルド様とアナ様も仮婚約ということか。


「…ですが、先に婚約式やお披露目などをやる事は、おかしいことではありませんよね?

大体6ヶ月経てば受理されて、学園卒業には成婚されるのですし、問題ないかと。」


『貴族ではよくある事だと』念を押すように強めの口調で言った。


「確かに、よくある事だが。

それに異議が出た場合、婚約は受理されないこともある。ましてはエイプリルがスタインバーク家の令嬢となると、私にも相応しい身分と言えるのではないか?」


「…何故スタインバークから2人もレッドメイルに嫁ぐ必要がありますか?

何度も言いますが、エイプリル様は仮とはいえ、ラルフ様のご婚約された方です。

王子が横から他人の婚約者に手を出し、奪い去るとは…レッドメイルとしても問題がある行動だと思いますが…?」


うへぇ、私が争いのタネになるって事か。

やだー!そんなの。


ブルブルと首を振る。


だが私のことは御構い無しに2人はにらみ合った。


「それは考え方次第では?

スタインバークがいとこ同士で婚姻するよりは…新旧王族同士、平和的解決ではないだろうか?」


レオン様も今日は人が変わったように、強気な姿勢だ。


なので、一つ提案をしてみることに。


「…どっちとも婚約しないって手もありますけど?平和的解決の方法で…」


そこまで言ってバフンと口を閉じた。

閉じなければいけないという空気を読んだ。


こっちを見る2人の目が全く笑ってなくて怖かったから。

私だって命は惜しい。


2人が笑ってない笑顔で微笑みながら睨み合ってる中、馬車に片足突っ込んだまま静かに立ち尽くした。

あー早く帰りたい。



『終わったら教えてください…』とそっと告げ、私は馬車の中に入り、座って手帳を開いた。

カチカチとペンをで手遊びしながら、ボーッと考える。


半年しないと次の婚約が認められないとは。

前世のことを思い出す。


まぁあれは離婚してから次の結婚まで半年って事なんだけども。

それは女性が離婚前後に妊娠が発覚した場合、どっちの父親の籍に入るか的な要素だった気がする。

個人的にはDNA鑑定できる世の中にとっては、『なんじゃそりゃ!』と言いたくなる様な、無駄な6ヶ月であり、かなり古いしきたりが残っている感じだった気がする。


私があっちの世界を去ってしまってから、その気になる法律は変わったのだろうか?


こっちの世界も古き重きしきたりなのかもしれない。

だが綺麗な体じゃないと嫁げない世界の、貴族同士の口約束の様な婚約なんて。

半年も待つ必要があるのだろうか?


するのにも破棄するのにもメンドクサイ手続きがあるのに。

その半年のクールタイムは一体何のためだろう?


しかしそのクールタイムは暗黙の了解で、親の都合で簡単に破られている。

他の貴族も周知済み。


むしろ一度失敗すると傷が乾かないうちに、さっさとその噂を上書きするために急いで別の誰かと婚約させる。

絆創膏を貼る暇もない。


その婚約にとって私の利点は何だろう?

パウエル様を黙らせるためにラルフ様との婚約を決めたが、ここ数日の様子を見ていると、なんだか脅されただけで婚約しないでも生きていける気がしてくる。


だが今更辞めますなんて言いづらいが、まだ仮の立場であれば益々なかったことにできるチャンスなのでは?という期待が高まってくる。


逆にレオン様との婚約が有りかというと…。

無し!!


だってアナ様が好きだから!


それを考えるとレオン様は今何かを刷り込みされた生まれたての雛鳥なんだと思う。

あの人が必要なのは私ではなく、彼をしっかり叱りつけられるもの。

それはやはり、アナ様だと思うんだ。


アルド様には悪いけど、やはりアナ様はレオン様が相応しい。

レオン様を救えるのは、アナ様だ。


ふと、言い合いしてる中のレオン様と目があった。

私を見るなり熱い視線で微笑みかけてくる。


私も微笑むけど…。

やや引きつってしまう。


レオン様…暴走しなければいいけど。


そんな嫌な予感がしながら手帳を閉じた。

視線を外す様に、空を見上げる。


外はもうどっぷりと暮れていて、私のお腹がグゥとなった。


…早く帰りたーい!!

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