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第38話 レオンの告白と、初めての……

「私と兄とキーオは母親が違うんだ。今の王妃の子が兄とキーオで、俺は『側室』の子なんだ。」


ポツポツと、レオン様が話し始めた。


私はその悲しそうな横顔を、黙って見つめている。


「…詳しいことは聞いた話なのでわからないんだけど、本当だったら俺の母親が正妻になるはずだったんだが、どうしてか輿入れの時にどうしてか父は今の王妃を選んだ。そのせいで、母の輿入れが半年遅らされることになったらしい。


母はそれがとてもショックだったようで、父に裏切られたといつも泣いていた。

そうこうしているうちに、兄が生まれ、母が俺を身ごもった。

だが、そこで噂が流れる。

俺はもしかすると母の不貞の子ではないかと。

あんなに王妃を愛する父が側室の母の元には一度も通っていないと。」


レオン様の重ねていた手が、ギュッと力が入る。


「勿論、根も葉もない噂だったんだが…その噂のせいで、母は精神を病んでしまった。

まだ幼かった俺は、王妃の元で兄さんと一緒に育てられることとなった。

なので俺は本当の母をあまり知らなかった。

王妃が実の母ではないと知ったのも少し前なんだ。」


俯いてたレオン様の顔がゆっくりと上がり、強い目で前を見た。


「ずっと王妃が本当の母だと思っていた。

…バカみたいだろう?」


「いいえ、そんなことはありません。

王妃様は慈悲深い人だったのではないですか?

だからこそ本当の子供のように育てられたのではないですか?」


私の言葉にレオン様は悲しそうな顔で私を見た。


「俺もそう思っていた。

ずっと、本当の母ではないと知っても、王妃を尊敬した。

だが、一つの綻びを見つけてしまった。」


強く握られた手が、カタカタと小さく震える。

何かに怯えるように。

それを隠すように…。


私はそっとレオン様の手に触れた。

自分の手で包むように、レオン様の手に添えた。


レオン様の目が私に向けられる。

私とレオンの瞳がお互いを写しあった。


「その綻びは俺に対しての王妃の目。

覚えているのはその一回だけ。」


レオン様が私を見つめたまま、瞳の奥が小さく揺れる。


「王妃が俺に何かをして欲しいと言ったが、俺はそれがどうしても嫌だった。

今まで王妃に言われた事はそう思った事はなかったんだが、その言われたことに関して、どうしても嫌だった。

だから顔を見ずに、ずっと俯いていた。

王妃はいつもの優しい声で俺を宥めるように何度も何度もお願いをするんだ。

だんだんとその声も聞きたくなくなり、耳を塞ぎ、最後まで拒否し続ける。

王妃は最後に俺の顔を両手でつかみ、俺を自分に向けさせた。

そして、こう言った。」


眉がギュッと寄る。

瞳の奥から何かが溢れる。


『あなたは私のいう事だけを聞いて、静かに何事もなく生きていけばいいんだ。

母のようにはなりたくないだろう?』


レオン様の頬に伝うものは、とても綺麗にこぼれ落ちた。

ただ流れ落ち、私の手の上に落ちる。


私の視線はレオン様から離せなかった。


「王妃の目を見つめていると、黒い瞳が深い闇のように吸い込まれそうになる。

俺は怖くてそのまま王妃を突き飛ばし自分の部屋へと逃げた。


次の日王妃に会った時、昨日のことが嘘のように普通だった。

事情を話した父にも、夢を見たんだろうと言われたよ。


だから本当は夢じゃないことぐらいわかっていたが、今までそれにずっと気がつかないふりをしてきた。

王妃がもしかして今までずっと、俺や父を魅了しておとなしくさせてたのかと思うと、俺は…!」


流れる涙を私が自分の袖で拭うと、レオン様がハッとした顔をする。

自分が泣いていたことに気がついたようで、顔を赤くして私から離れた。


「…すまない!感情がコントロール出来ないようだ…。」


自分の手で涙を拭う。

私はそれを止め、また自分の袖で拭き取った。


「私こそすいません!女のくせにハンカチを持ち歩いておらず、柔らかいとこがこの袖あたりしかないので、ここで…!」


「いや、袖を貸してもらうわけには…!」


「手で擦ると肌が赤くなってしまいます。

余計に泣いた跡が落ち着くまで時間がかかるのでダメです!」


そういうと素直に袖で拭かせてくれた。


「すまない…変なところ見せてしまって…」


「何がですか?」


「情けない…王族の威厳も保てずに人前で弱みを見せ、涙を流すとは…」


「ほへ?王族ってロボットかなんかですか?」


「…ロボット…?」


「ああ、そうか。言い方を変えると、お人形なんですか?」


「…人間だが…」


「人間だったら泣くし笑うし食べるし怒るんですよ。知ってました?」


「…だが…」


「王族だって1人の人間ですよ。弱音だって愚痴だって悪口だって吐き出さなきゃ息が詰まりますって。

泣きたきゃ泣けばいいし、怒りたかったら怒ればいい。

あと私忘れっぽいんですよ。

忘れろって言えば、すぐ忘れますから安心してください!」


どうやら矢継ぎ早にペラペラと喋る私に『ポカーン』として涙も止まった様子。


「気が利いたこと言えればいいんですけど…。

『辛かったね』とか『可哀想』って系統の言葉はあまり言いたくないんです。

私が言われる分には同情とか大好物ですけど、私はそれを人に言いたくないんですよね。

だって辛いってその人それぞれ違うし、大変かどうかだってその人しかわからないんですよ。

だからこそ、辛い苦しい気持ちは誰に辛かったねって言われたって救われないんです。

救われるには今の状況から打破しないと、そこから逃げられないし。

でも辛いとか苦しいは自分から口に出すと泣けてくるので、楽になりますよ。

私は泣けないまま耐えましたが、泣けるという事は、まだ頑張れますから。

救われます。大丈夫です。」


一度外された視線が、再び私と重なった。


私をジッと見つめるレオン様の瞳が、霞みがかった様にボンヤリ私を見つめた。


…ん?早口で言いすぎて脳の処理が追いつかなくなったのかしら?

ゆっくり話した方がいいかな…。


「あ、ごめんなさい。自論を早口で言っちゃって…。

聞き流してくださいね、わけわからないですよね。

要はですね、励ましたかったんで…」


言葉が最後まで言い終わらないうちに、レオン様に引き寄せられた。

とても強く抱きしめられて、息が苦しくなって見上げる。


「…レオン、様?」


「ごめん、なんだか無性にこうしていたいんだ。

少しだけだから…。」


ふとこんな時だけど考えてしまったが。

これ、ラルフ様に見つかると『不貞』とか言われるやつでしょうか?

友達のハグ☆なんて誤魔化しが効くのは、きっと前世までだなぁ、なんて。


前世でもダメか。

ハグはダメだ。


だがしかし。

さっきまで泣いてた人を『やめろ!不貞になるじゃないか!』なんて引き剥がせない。

結構な非道になってしまう。

しかも締められた腕は、私が叶う敵じゃない。

私の力ではどうにもならない敵だ。


結果。

仕方がないので、落ち着くまでこのままでいるしかない。

仕方ないので、オプションのトントンで落ち着くスピードを上げるしかない。


私はそっとレオン様の背中に手を回し、ポンポンと背中を撫でた。

まるで子供を慰めるように。


それに気がついたレオン様は一瞬強張らせたが、ゆっくりと自分の頭を私の肩にもたれかからせた。


お?ポンポン気に入ったか?

ならば続いては『頭を撫でる』だ!


オーガストはこれで子供の頃よく落ち着いた。

よく小さい時は怖い夢を見て起きる事が多かった。

その度にこうやってポンポンとしながら、頭を撫でると落ち着いたようで。

…というか、これでよく寝た。


肩にもたれた赤い髪の毛をそっと撫でる。

よーし、よーし、いい子いい子。


明日はきっといいことあるさー!


ただ撫でるのにも飽きてきて、段々と指で赤毛を遊び出す。

撫でながら、時にはクルクルとしてみたり。


意外に赤毛は柔らかく、指通りが良かった。

こんな赤いと『ちょっと痛んで硬いんじゃないか』という偏見を持っていたが、驚きの柔らかさである。

そしてちょっとレオン様はくせ毛のようで、指でクルクルするとクルクルした所がそのままの形で残って、愛着まで出てきた。


結構真剣にクルクルしていた為、レオン様が少し笑った。


「エイプリル…ありがとう。」


「…ほわ?」


肩から顔を上げた時、耳元に声が響く。

思わず耳を押さえると、レオン様の視線に気がつく。


あら、顔が近い。


レオン様は私を見て微笑んでいた。

まじまじと私を見つめる。


ん?

なんか顔が赤いし、なんかレオン様変じゃない?

私を見つめる瞳も、なんだか…。


「落ち着いたら離してくださいね?そろそろ帰らないと、オーガストにもお父様にもまた心配かけてしまいますから…」


「わかってる…」


レオン様の腕はそれでも緩まなくて。

思わず催促するようにグイグイと抱きしめられた胸を押してみる。

ゆっくりと私の手にレオン様の手が重なり、レオン様の近かった顔が私に重なった。


ビックリマークが3つぐらい、飛び出た。

多分私の右側ぐらいに。


随分と長いこと重なった唇が静かにゆっくり離れて行った。


「…確実に不貞じゃないですかこれ!」


「婚約だから『不貞』にはならないんじゃないかな?」


「…じゃあ浮気?浮気になる!?」


「…ははは、エイプリル。」


「ははは、じゃない!」


「初めて、手放したくないと思ったんだ。」


「思ってもダメなものはダメでしょう!?

てか手放したくないって…友達のセリフではない気が!!」


「あははは!」


「もう離してください!」


「…ヤダ、もう少しだけ…」


「もーダメですって!!」


暴れる私だが、ビクともしないこの腕に段々腹が立ってくる。

腕は私の腰に回され、また強く引き寄せられた。


そしてレオン様の頭がまた、撫でてくれと言わんばかりに私の肩に収まった。


うぎゃー!!

もうやだ!


なんか頭を撫でたせいか、駄々っ子状態だし。

コラー!離せー!


ハートテイル様のこと言えなくなってきました…。

これじゃ私がアバズレです…。

そして、アナ様の顔を見れなくなるうう!


どうしてこうなった。

私が悪いのか?

頭を撫でたのがダメだったのか!?


生徒会室で2人きり。

抱きしめられたまま動けず、今度は私が半泣きに。


そんな時、扉が勢いよく開いた。

焦るのは私だけで、レオン様はゆっくりとドアの方を見上げる。


「探したぞ、レオン!」


扉に手をもたれさせ、タイラー様が笑顔で立っていた。


ぐあああ、これまたたちの悪いのに見つかった気がする。

ラルフ様に見つかってもタチが悪いとは思うが…。

ある意味戦争は避けられたか…?


無言でタイラー様を見上げるレオン様。

そんなレオン様を深い熱のこもった瞳で見つめるタイラー様。


いい加減離してくれー!!


今度は私が泣いちゃいそうです。

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