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第36話 エイプリル、探偵になる⁉︎

「おおおがすどおおお…」


「…うん、エイプリル、ごめん。大丈夫だから、ね?

だから、鼻拭いて…。」


目から鼻から垂れ流す私を気遣うオーガスト。

グシグシと服の袖で涙をぬぐい、またダラダラと垂らしている。


「エイプリル、オーガストはお父さんが色々仕事を任せてしまったり、エイプリルのお世話で疲れがたまっているらしいよ。

お医者さんにお薬ももらってきたから、もう寝かしてあげよう?」


『ね?ね?』と何度もお父様に言い聞かせられて。

渋々オーガストの部屋から出る。


苦しそうなオーガスト。

子供の時はよくこう言う風に寝込むことも多かったけど、最近はなかったからすごく心配です。


「お父様!ネギをお尻に挿すと治りが良くなると聞いたことがあります!!なのですぐ実行を…!」


「…うん、それは流石にどんな病でも治すと言われたとしても、絶対拒否されると思うよ。

年頃の男子だしね?うん。」


「…そうですかぁ…」


すごく残念そうにシュンとする私の頭を撫でた。


「大丈夫。よく寝てよく食べたら、すぐ良くなるから。

ともかくしばらく寝かせてあげようね?

だからね、オーガストが良くなるまで、エイプリルはお姉さんなんだからね?

…とにかく何もせず、静かに毎日を過ごしてほしい…!」


お父様がフルフルと小さく震えながら、私の手を握りました。


よく理解ができず、『ふえ?』と変な声が出ましたが。

お父様の切実な願いは、私も頑張ろうと思います。


大人しくしとけばいいんですよね?

任せてください!!


部屋に戻って手帳に『私もオーガストも、絶対安静』と書く。


しかしびっくりしました。

窓に鳥でも当たったのかと思う音がして、ふと外を見ると。

オーガストが苦しそうに倒れていました。


慌ててメイヤーさんとお父様を呼びに行き、駆けつけて大事には至りませんでしたが…。

おやつに食べたケーキを喉に詰まらせたのかと…。

いやぁ、本当にびっくりしましたよ。


普段はゆっくり食事をするオーガストなのに。

メイヤーさんの新作ケーキ、そんな急いで食べるほど美味しかったのかと…!


疲れがたまって倒れたようで、心配ですね。

しかし明日からしばらくまた1人で登校するようです。


今のうちやれる事をしましょうかね!

そんな事を考えながら、私はニヤニヤと笑いながら、今後の計画の続きを手帳に書くのであった。



次の日。

案の定起きられず、遅刻ギリギリの登校になった。


急いで門をくぐると、レオン様の姿を見つける。

生徒会の腕章をつけ、遅刻者を門から締め出していた。


「おはよー、エイプリル嬢!」


あら、キーオ様もいたようです。

私を見つけて手を振ってきました。


「キーオ王子、おはようございます。そして、御機嫌よう。」


「なんで二つ言ったの!?」


「つい、おはようございますと言ってしまったので、取ってつけました。」


「うっは!あいかわらず変なのー!」


「キーオ王子も相変わらず笑い上戸ですね…。」


私たちのやり取りをじっと見つめながら、レオン王子が近づいてきた。


「エイプリル、あとで話があるのだが昼休みに生徒会室へきてくれるか?」


「うへぇ、昼休みですか?」


「…何か予定でも?」


「いえ、ありません。」


お昼休みに早速動こうと思ってたなんて言えず、ハイと言うしかありませんよね。

うう、仕方ない。

私の用事は放課後にでも…!


渋々私はお昼休みに生徒会室へと向かいました。



嫌そうに向かう生徒会室。

1人で来いと言われてないので、メー様を連れて行こうとしたのですが…。

メー様は夜会でのアナ様の様子が聞きたかったらしく、簡単に裏切られてしまいました。


すごく悲しそうな顔をしたせいか、アナ様が気を使ってくれて『私が付いて行こうか』と言ってくださったのを、メー様たちが怖かったので辞退させていただいた。


なので1人です。

はぁ、やだなぁ…。



扉をノックすると、少し低めの声が『どうぞ』と言った。

ノソノソ扉を開け、部屋を覗く。


赤毛の王子がいつもの場所に座り、いつも通りに難しい顔をして、何かを書いていた。

中々入ってこない私に気づき、眉を寄せる。


「…なぜ懐かない野良猫みたいな顔でこっちを見てるんだ…。いつもみたいに入って来たらどうだ?」


「…いつもってどうやって入ってましたっけ?」


「遠慮がないぐらいズカズカと入ってくる。」


「次から遠慮しがちに入っていきます!!」


「…今更遠慮するのも違うと思うが…。」


扉を閉めて、いつも座っている客用のソファーにちょこんと座る。

何を言われるか、聞かれるか予想がつかないので、ソワソワが止まらず落ち着かない。


そんな私の様子を目を細めながら、私にお茶を出してくれた。


「えーっと、お話とは?」


「スタインバークとどう繋がっていたんだ?

…なぜ婚約する事に?」


「…というと?」


要はレオン様が何が知りたいかによって、返答が変わる。

言えない事だらけなので、どうにかごまかさないといけない事もあるし…。


私の質問返しに眉間のシワがめいいっぱい寄った。


「…ローラントの婚約破棄から1ヶ月も立っていない。」


「それはアナ様も一緒ですけど…。」


「アナスタシアはローラントと身分が対等だ。

あそこは横のつながりも強い。破棄後すぐ婚約するのも、両家の負の噂を沈静化するためもあるだろうし…。

君は違うだろう?」


「……と、言いますと?」


人差し指で眉間を抑え、『ハァ〜』と壮大に息を吐いた。


冷や汗をタラタラかきながら、無理して笑う怪しい私をじっと見つめる。


だってしょうがないじゃないか。

ラルフ様に協力すると決めたんだから、敵に情報漏らせません!


「…いいかい、俺たち友達だろう?

君が困っているんじゃないかと思って、助けたいと思ってここに呼んだんだ。

何か事情があるなら、話してほしい。」


気がつくと、レオン様は私の横に座っていた。


ジッと見つめられ、思わずドキリとしてしまう。

あ、キュンって方ではなく、ギクッという方のドキリです。


私も覚悟を決めたように口を開いた。


「…婚約については、もう納得しています。

なので無理やりでもないのでご心配なく。

経緯についても、他の皆さんが仰っているように身分差云々についてはちょっと複雑な事情があって…その件は口外出来ないのです。」


「…そうか。」


レオン様は一言そういうと、静かに背もたれに頭を預けた。

頭の重みで、ソファーの背もたれが少し傾いて、沈む。


「…言いにくい話を話してくれて、ありがとう。」


私の方を見ずに、ぼそりと呟くように言いました。


私はキュッと口を結んだ。

私が考えている事をこの人はどう思うんだろう?


この人のいう友達とは、どこまで踏み込んでいいものなんだろう?

そんな好奇心に駆られてしまい、我慢できなくなった。


「私もレオン様に聞きたい事があるんですが、それがちょっと言いにくくて…。」


チラリとレオン様の反応を見る。

レオン様は驚いた様に私を見た。


…え、その反応はどういう反応だ?


「えーっと…」


言葉に詰まり、モゴモゴと口籠る。


「…言いにくい事とは?」


まっすぐ私を見る、レオン様。

『友達』という言葉を利用しようとしている邪な私の心を、綺麗な目で見るのはやめてくれー!!


結果、いたたまれない気持ちになった。

昼休みなので、廊下から他の生徒の足音や、笑い声が聞こえてくる。


思わず固まる私に、レオン様はもう一度言った。


「言いにくい事とはなんだ?」


「えーっと…。」


私は人差し指をクルクルと手遊びしながら、目を泳がせる。


「…ちょっと事情を説明できないんですけど、気がついた事がありまして…。

でもそれってよく考えたら、王族のすごく大事な秘密を私が発見してしまったとしたら、どうなりますかね?」


「そんな大雑把に言われてもなんて答えたらいいかわからないけど…。」


そういうとまたポスンと背もたれに頭をつけた。

そしてゆっくりと息を吐き出す。


レオン様が上を見上げた形になっているので、喉の辺りのラインの綺麗さが目に入る。

『この人ほんと綺麗な人なんだなぁ』と思わず見惚れたが、いまはこんな事をしている場合ではないと思い直す。


「…君は俺にその話を『王子』として聞くか、『友人』として聞くかという事なんだろう?」


喉仏を触りたい衝動にかられる手を押さえつつ、慌てて頷いた。


「俺はさっきも言った通りに『友人』として聞く。だから話して見てほしい。」


ゆっくりと視線が私に向く。

そして私に少し悲しそうに微笑んだ。


「うう、絶対友人として聞いてくださいよ…。

後で秘密を知ったことで捕まったりとか嫌ですからね!」


口をとがらせ、レオン様を見る。

視線が重なると、レオン様は頷いた。


「タイラー様の事なんですけど…例えばタイラー様が見つめると、好きになったり、いうこと聞きたくなったりする事があるのは…王家特有の能力とかなのかなーって…。

それともタイラー様だけが使えるのかしら?」


一瞬私が言ってる事が理解できない様な顔をした。

でもすぐ眉をキュッと寄せ、考え込んでしまう。


私が次の発言をしようと口を開けたら、レオン様が私の口をそっと押さえ、シーっと人差し指を立てる。

そしてまた考え込んだ。


まずいこと言ったんだろうか…。

まぁまずい事を聞いた自信はあるけど。


これもしやレオン様は知らなかったパターンだろうか?


心臓がまたドキリと跳ね上がる。

今度もやっぱり怖い方のドキリ。


「…兄は魅了が使えるということか?」


「えーっと、はい…。」


「ということは、ヴィヴィアンが最近おかしいのは…?」


「えーっと?」


「…エイプリル、俺は魅了なんて使えない。

もちろん父も使えるとは思えない。」


「…という事は遺伝ではないと…。王家特有の能力というのはなさそうですけど…」


レオン様は私の方をガシリと掴んだ。

そしてギュッと肩に痛いぐらい力がこもる。


「エイプリル、頼みがあるんだ。」


「…高いですよ?」


「高くてもいい、君にしか頼めないんだ。」


「…高いは冗談ですけど、私にしか頼めないとは…?」


「それがキーオも使えるのか調べてほしい…。それがわかったら全部ちゃんと話す…!

だから頼む。」


おおっと。

この私が探偵の様な事を頼まれるとは!!!


そんなの返事は決まっている。


「…やります。もちろんやります。」


私はガタリと立ち上がった。

そして大きく拳を振り上げる。


「任せてください!他にもやろうと思ってた事あるし楽しみすぎる!」


「…いや、あんまり頑張りすぎないでくれ…。

しかも内密に動くんだぞ…?そのやる気だと一瞬で失敗しそうで怖いんだが…」


「なーに言ってるんですか!!

任せてください!こっそり空気に溶け込むのは大得意ですよ!!」


ウフウフ笑いながら拳を震わせた。

レオン様がとても不安そうな顔をするのに気がつかずに。


「…やっぱり一緒に行こう。エイプリルは誰か止める人がいないとダメな気がしてならない…。」


「え?何がですか?」


話を聞いてない様子の私に、レオン様は不安そうに溜息をついた。


そして私の肩を掴むと、苦笑いをしながら。


「エイプリル、一緒に行こう。

俺がキーオと話している間や、キーオが別のだれかと話しているときの様子を…一緒に観に行こう。」


「何でですか!いきなり任せられなくなった理由はなんなんですか!!ねえ!」


「…俺は今すごくオーガストの気持ちがよくわかった。」


「え!?それはどういう意味ですか!」


「…うん。」


「フォ!?」


「…行こう。」


「…はい…。」


しょぼんとした背中をレオン様がそっと押した。

2人で仲良く生徒会室から出る。


ねぇ、なんで1人じゃダメになったと思いますか?

何がダメだったんでしょう?


ちくしょー!!


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