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第29話 突然明後日に、なんだって?

「…そう。」


次の日の優雅なお昼休み。

カフェテリアでみんなでチキンのグリルサラダとサンドイッチを頂いている。

サラダと名がつく割に高カロリーな気がするが、そこは成長期だからと見なかったことにする。


そんなお食事中にメー様が鼻高々に、昨日のアルド様の決意をアナ様に報告すると、アナ様もまんざらじゃない顔をした。


おやおや、おやぁ?

思わずニヤニヤと薄気味悪い笑顔を浮かべる。


これは邪魔しない方がいいと判断したので、来週の婚約式を見守ることにする。

…まぁ私は出席はしないんですが、気持ちだけ見守ります!


「私はいつでもアナ様とともに…!」


思わず口から想いが溢れてしまい、みなさんが気持ち悪いものを見る顔をして私を見つめます。

…この温かい友情を噛み締めます…!

グフっ。



「…お前こんなとこにいたのか。」


気がつくと座っている私に影がさしました。

見上げると、私を見下ろし覗き込んでいる銀髪の人影が見える。


「ラルフ様…?」


アナ様もメー様もAもBも慌てふためき、立ち上がるとお辞儀をする。


えー、お辞儀するの!?

まって、このチキンを口に入れてから…!


慌ててフォークに刺していたチキンを口に入れようとして、手を掴まれる。


「待て待て、食うな!」


「ええ〜?なんでー!!」


『何でじゃねーわ!』とラルフ様に鼻をつままれる。


周りがザワザワとする。

そりゃ元王子がドカドカとカフェテリアに現れて、私の食べかけのチキンを取り上げ、鼻をつまんでいるわけですから、ザワザワもするだろうけど。


「エイプリル、明後日の婚約式について何だが。」


「…は?誰のですか?」


「俺たちのに決まってんだろ。」


「…聞いてませんが?」


「今言っている。」


ザワザワが大きくなる。

ザワザワがガヤガヤぐらいに。


「…明後日ってなんですか?」


「2日後だ。」


「いや言い方変えただけだし!」


『あはは』とラルフ様とエドエドさんが顔を見合わせて笑ったが。

何言ってんだこいつって目で見るんじゃない!!


ガヤガヤがワイワイに変わる頃。

1人の女子生徒がワイワイに勝る声で立ち上がった。


「聞いてないんですけど!?」


思わず全員の目が彼女に向く。


「…ハートテイル様?」


ハートテイル様はワナワナと赤い顔をして唇を噛み締めている。

パレード要員達も彼女の慌てて立ち上がるとオロオロし始めた。


「婚約ってどういうことですか!?」


すごい音と共にこちらへやって来て、ラルフ様の腕を掴む。

ラルフ様は少し首を傾けて、首に手をやる。


「…お前、誰?」


「ミティアです!ミティア・ハートテイルです!先日中庭でお話しさせていただいたではないですか、ラルフ様ぁー!」


「…知らんな…エドお前知ってるか?」


「僕は一応知っておりますが、認識程度ですねぇ」


ハートテイル様は『キッ』と私を睨みつける。


「婚約ってどういうことなんですか?元王族のラルフ様と末端男爵のディゴリー家が婚約とかありえなくないですか!?」


「…あんたも男爵じゃないよ…。」


ボソリとメー様が呟くと。

天狗ぐらいに伸びた鼻を突き出し、腰に手を当てた。


「ヒックス様は知らなかったのですか?我がハートテイルは功績を認められ、この度子爵へと上がったのです。このまま行くと近い将来、伯爵にもなれると王様にお墨付きを頂いた由緒ある家ですの。」


「早々にバカバカと簡単に上がったりしないわよ…。」


「そうですわね、功績を上げるには最低でも…」


「うるさい!負け犬どもは黙ってて!!」


アナ様とメー様の言葉をビシャリと止める。


負け犬と言われたアナ様は黙ったまま動きが止まった。

『負け犬とはワタクシの事かしら?』

『負け犬って何なんでしょう?』


メー様とアナ様がクエスチョンいっぱい浮かべながら首をかしげる。


ああ、何故ここにカメラが無いんだ。

この可愛さ。

脳内に焼き付けるだけではなく、写真に残したい…!


2人の首をかしげる姿に、私は口元を押さえ、震えた。

もちろん、歓喜で。


それをラルフ様が見て、私の肩を抱きしめる。


「エド、この女を連れて行け。エイプリルが怖がって震えている。」


は!?

誰が震えていると…?


「…いや私は…!」


違いますと言おうとしたけど、力強く胸に引き寄せられ、頬がムギュッとされたので言葉が止まる。


「…ちょっ!離して!!」


エドエドさんがハートテイル様の手を掴む。

パレード要員のスタッフさん達が抗議にわらわらと集まって来た。


「…何の騒ぎだ!」


カフェテラスがその声でシーンとなる。


声の方向に視線が集中する。


そこには赤髪3兄弟が勢ぞろいしていた。

声を発したのはレオン様で、ツカツカとこちらに歩いている。


そしてエドエドさんからハートテイル様を救出すると、自分の背に隠す。


「君はか弱い女性に何をしているんだ?」


そういうと、ラルフ様に抱きしめられている私と目があった。

すぐ逸らされ、レオン様はエドエドを睨みつける。


エドエドさんは『か弱い』の部分をちょっと鼻で笑い、肩をすくめる。


「彼女が我が主人に不敬を働いたので、退けていただけでございますが。」


鼻で笑われたハートテイル様がまた顔を赤くして怒り始める。


「不敬って何よ!私が何をしたっていうの!」


「では我が主人の許可なく婚約者がいる前で主人に腕を絡ませるとは、不敬ではなく何だというのです?」


まぁ、ここにいた全員が見ていた事だ。

ハートテイル様はますます顔を赤くする。


「エド、もう良い。エイプリルを静かなとこで休ませたい。」


「…かしこまりました。」


ラルフ様の声にエドエドさんがお辞儀をして下がる。


その様子を見つめ、レオン様は眉を寄せた。


「えー?エイプリル婚約したの?」


この緊張感をぶち破ったのはキーオ様だった。


「…まだ婚約式してませんけどね。

というか、『はい』っていってな…」


「でもキスした仲だろ?」


「あれはキスって言わないですし!勝手に!勝手にしたんじゃないか!」


私の言葉を遮った上、はたき落とされた気分に顔が赤くなる。


「「「キス!?」」」


「何でそこで声が揃うんだ!!」


もう誰が叫んだかわからなけど、ツッコミ入れたのは私。

みんなが固まる中、ラルフ様は颯爽と私を抱き上げ、その場を後にした。


「あーもう何でそんなこと言っちゃうんですか!」


抱きかかえられたまま、ソファに座ってます。

私は顔を両手で覆い、足をバタバタをさせて抵抗中。


ガシガシと私の踵がラルフ様に当たりますが、ラルフ様は笑顔で私の髪の毛を撫でていました。


「牽制だ。」


「それが何で必要なんですか。」


「レッドメイルにお前を渡したくないからな。」


「どの道欲しがらないでしょう!?」


ラルフ様はプイッとそっぽを向いて、耳をほじるポーズです。

私の話を聞いてないという態度にムカつきます。


キーッ!

ますます踵をガシガシとぶつけますが、どうやら私が蹴っていたのはソファーの足だったようで。

疲れたのは私のみ。

敗北感に大人しくなりました。


「とりあえず、明後日な。」


「ああそうだった、忘れてた。

明後日って急過ぎませんか?うちのお父様倒れたまま部屋から出て来ませんし、あなたのせいでオーガストもギクシャクして会えないままです。」


「お前の本当の父親が出席すると言ってる。」


「会ったことない私の敵みたいなのを親代わりと?」


「会いたくないってことか?」


「当たり前じゃないですか。会ったら私絶対殴り倒しますよ?」


ラルフ様が『フハッ』と笑った。

口元を押さえ、しきりに肩を震わせる。


「…いや、マジで。本気でボッコボコ殴りたい。

むしろ処刑したいぐらいです…」


「処刑か…!」


「何であの人は罪を償わないんですか?

母も『エイプリル』も殺したようなものではないですか?」


「『エイプリル』は生きている。」


「…自由がないので死んでいるようなものです。」


「その自由を勝ち取るには、異世界の知識を持つお前が必要だ。」


「…それを手伝ったら、私の望みも叶えてくれますか?」


「…望みとは?」


ラルフ様の目がクルッと深い色に変わる。

本気の目。

その目で私を見つめている。


「婚約制度の見直しです。」


「…具体的には?」


「女性が破棄されても生きにくくない制度を作りたい!!

どんな理由でも破棄されたら傷モノ扱いとか、あったまおかしんですよ!」


やや興奮気味に吐き出す。


グッと眉を寄せ、口をへの字にラルフ様を見る。

その顔をみてまた『フハッ』と吹き出すラルフ様。


「お前は見てて飽きないな。」


「…それはどうも。」


「…いいだろう。俺がこの国の王になることに協力するなら、それを必ず実現してやる。」


「…絶対ですよ?」


「ああ、いまだ貴族の中にはレッドメイル派とスタインバーク派がいる。

スタインバーク派の貴族は新しい貴族も多く、頭もそれほど硬くない。

お前の意見を通すなら、頭が柔軟な方がいい。」


「なら、協力します。

けど、私はこの婚約認めてないですからね…?

好きな人が出来たら、破棄しますから!」


ジッと目を細め睨む。

もちろん口はへの字のまま。


ラルフ様は私を驚いたように目を見開いてみていたが、すぐまた吹き出し笑った。


「好きな人だと?…面白い。

なら俺はお前を本気にさせればいいのだな?」


「…本気にって、何ですか?

何するんですか?」


不敵にニヤリと笑うラルフ様。

そして私の髪の毛をひと束すくい取る。


ゆっくりと髪の毛にキスをした。

目線は私を見つめたまま。


「獣に捕らえられた子豚みたいな顔をするな。

調子が狂う。」


「オーガスト助けて!この狼が子豚を食おうとしている!!

…ん?…子豚?

子豚って、私?

痩せすぎと言われたことあってもデブって言われることは初めてです…!」


私の言葉にラルフ様は私から視線を外すと、どこか違う方を向き、腕で顔を覆った。

そんな彼の肩は地震が起きた。


ふと横を見ると、エドエドさんが床に転がって泣いていた。

ヒィヒィと言いながら、震えながら。


とりあえず、契約婚約です。

…お父様とオーガストに、なんて言おう…。


そして『父親』と会う日。

私は拳を鍛える訓練を計画していた。

絶対ぶん殴ってやるんだから。





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