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第24話 便利な指パッチン。

3日後。

夜更けにバルコニーでまた頬杖をつく。

今度はバッチリと軽装のドレスのままですけどね。


月が一番高くなる前、闇夜からにょろりと、エドエドさんが歩いて現れました。


「こんばんは、エイプリル様。」


笑顔で近付いてくるエドエドさんを目を細め、睨みつけます。


「またまたうちのセキュリティを簡単に超えていらっしゃいましたね、エドワード・エドワーズ様。」


チッ、やっぱ3日では無理だったか。


あれからお父様に相談して、かなりのお金をかけてセキュリティ問題を強化したのですが、どうやら間に合わなかった様子。

どっかのセキュリティ会社顔負けの防壁対策と、影と呼ばれる隠密軍団とかの採用も考えてたんですけどね。

3日じゃ間に合わなかった…!

くそう…!

影!欲しかった!めっちゃ欲しかったのにー!

3日じゃ面接もできそうにない。


別のことでかなりご機嫌の悪い私の前に、口を尖らせて立ち止まった。


「だから、フルネームはやめてくださいよ!!」


エドエドさんが足をダムダムと踏み抜いた。


「やぁ、エドワード。こんな夜更けに姉を連れ出そうとは一体誰の使いだ?」


エドエドさんはピクリと体を強張らせ、警戒する様にオーガストを見た。


「…君までくるとは聞いてないよ?」


軽く睨む様に私たちを見比べる。

私は肩を大げさに竦ませて、『フン』と鼻を鳴らした。


「言ってませんからねぇ。でも1人で来いとは書いてませんし、帰ってくる保証も欲しかったので、護衛代わりにオーガストも連れて行きますね。」


「行きますねって…!勝手に!」


エドエドさんの笑顔が少しひきつる。

それを横目で見ながら、続ける。


「勝手にうちに忍び込んで招待状を突きつけたのはそちらでしょ?勝手はお互い様だわ。」


「…僕が運べるのは1人だけですけど?こんな重いおっきな男子は…」


「僕は自力でついていけるよ。…知ってるだろ?」


「あーはいはい!もうわかりましたー!1人じゃ運べないのでお手伝いさんを呼びまーす!

じゃ、行きますよー」


投げやりになったエドエドさんは手をパンパンと叩く。

手拍子に合わせて何人か影と呼ばれる人たちが私たちを取り囲んだ。


「…この人たち、うちで雇えないかなぁ?」


「…言いたいことはわかるけど、多分絶対無理だと思う。」


私の言葉に、オーガストが困った様に笑った。


そして私たちはあっという間にいい匂いの香と共に、影さんたちに抱えられ暗闇へと連れ去られた。




気がついたらどこかの豪華なソファーの上だった。

すぐ横にオーガストもいることを確認し、ほっと胸をなでおろす。


「…気がつかれましたか?今お茶を入れますね。」


エドエドさんの笑顔をスルーして、状況確認の為キョロキョロと部屋の様子を見渡す。


ポットの中の茶葉に、お湯が注がれる時のいい匂いが香る。

エドエドさんは楽しそうに、ポットの横の砂時計を逆に向けた。


部屋は古いが、全体的に落ち着いた感じで、とてもいい、高そうな家具の様だ。

家具に家紋が彫り込まれている。

今座っているソファーなんて、うちの使い古したやつが新品だとしても、10倍…いや18倍ぐらいはしそうだ。

手触りも滑らか!

いい職人を使ってそう。


テーブルもこれは一枚板かな?

絨毯でさえ、毛足が揃えられフッカフカだ。


「エイプリル様、絨毯にうずくまるのはお行儀が悪いと思います。」


「え?」


気がつくと、おとなしく座っているはずが、絨毯の毛足を手で撫でまくっていた。

いけない…!いつもの悪い癖が…!


だけど何か今見たもので違和感を感じ取る。

だがいつまでも絨毯にうずくまって撫でているわけにはいかないので、慌ててソファーに座りなおす。

その振動で、オーガストが気がついた。


「…おい、僕だけ倍以上の量盛っただろ…!」


頭が痛いのか、手で押さえる様に顔を歪めていた。


「…あー、帰るまで寝てくれてればいいのになって思いからかな?…つい。」


エドエドさんが『結構盛ったのになぁ』なんて悔しそうに指を鳴らした。


「…お呼びでしょうか?」


指の鳴らす音に、何処からか執事が現れる。

…何もないところから現れるなんて、ホラーすぎる。

実は幽霊なんじゃないんだろうか、この人たち。


思わず現れた執事をソッと触ろうと手をかざすと、スカッと避けられてしまう。


…やっぱお化けだってこの人たち!

思わず怖くなって、オーガストにしがみつく。


そんな私の行動に見向きもせず、エドエドさんが笑顔で執事さんに言った。


「旦那様にお茶が入りましたとお伝えください。」


「かしこまりました。」


そういうと、お辞儀と同時にまた、ヌルヌルといなくなった。


歩いているとこは目視した。

でも気がつくといないのである。


ここはお化け屋敷か何かか?

だとすると、悪霊に飲み込まれる前に、早く帰りたい。


『うへぇ』と苦虫噛み潰した様な顔でオーガストを掴む手に力が入る。

だけどオーガストはかなり頭が痛むのか、段々と苦痛に歪む表情とは別に、顔色も悪くなってきた。


「オーガスト、大丈夫?」


「…ん。」


思わず指をパチンと鳴らす。


「お呼びですか?」


驚いたのは私だけではない。

エドエドさんもすごい顔をして驚いてる。


「…私でもお化けを呼ぶことができた…!」


「お化けってなに!?…ていうか勝手に呼ばないでうちの使用人を!!」


「…ええっと?」


お化けも困惑し始める。


「すみません、頭を冷やしたいので濡れたタオルか何かをくれませんか?」


とりあえず呼び出した用事を言いつけると、『かしこまりました』とまたすぐいなくなった。


「指パッチンで呼べるお化けってすごい…!」


「…いや勝手にそういうのマスターしないでね!?」


やや切れ気味のエドエドさんを無視して、オーガストをソファーに寄りかからせる。


「…旦那様、そこで笑いをこらえてないで、さっさと座ってください!」


ハッと気がつくと、扉の前で口元に腕を巻き付け、肩を震わせている男性の姿が。

急いで来たのか、何度も咳払いをして呼吸を整えようと焦っていらっしゃる。


私は立ち上がり、お辞儀をする。


「ご招待くださり、有難うございます。

私、エイプリル・ディゴリーと申します。

横にいるのは弟のオーガスト・ディゴリー。

弟は体調がすぐれませんので、あのままで失礼させてください。」


「…こちらこそ突然の招待によく来てくれた。

…楽にしてくれ。」


「ありがとうございます。」


旦那様と呼ばれた男性が目の前に座ると、エドエドさんがお茶を差し出した。

先ほどいい匂いが香っていたお茶。

茶葉がお湯の中で開くとまた香りが変わって、さっきより優しい匂いがした。


私の前にも、オーガストの前にも置かれる。


「…よく、来てくれた。」


旦那様と呼ばれた方は、騎士の様な首が詰まった赤いサーコートを着ていた。

肩には短めのマントも付いている。

こんな夜更けにしては仕事着過ぎる格好。

家にいるのに気が置けないのだろうか?


うちのお父様ぐらいの年齢で、端麗な顔立ちに薄い青みがかかったシルバーの髪の色。

金色に輝く瞳で私を見つめている。

少しラルフ様にも似てる気がするなぁと、じっくり見つめていると。


あまりにガン見していたのか、少し戸惑いを隠せなくなったらしい。

私を見ていた視線が逸らされた。


「ええっと、なぜ私はここへ招待されたのか聞いてもよろしいでしょうか?」


「エイプリル様、お茶が冷めますよ。」


私の質問に被せる様に、エドエドが濡れタオルを差し出してきた。

それを受け取り、苦しそうなオーガストの額を拭う。


水を持ってきてもらおうかと指をパチンとしようとすると、流石に2度目は素早く止められた。

…チッ。


「…君はとても、君の母親によく似ているな。」


「…私の母をご存知で?」


「ああ、よく知っている。」


勘が良い方なので、手紙が届いた時点で『まさかなぁ』とは思っていたが。

この人私の父親なんだろうか。


確かにこの人に私は似ている気がしない。

ということは母親に似るのも必然だ。


私は黙って旦那様と呼ばれた人を見つめる。


ただよく覚えていない母親に似ていると言われることは、あまり嬉しいとは思えなかった。


「お名前をお伺いしても?」


「そうか、まだ名乗っていなかったな。

ローウィン・スタインバークだ。

ラルフを知っているのだろう?あれの叔父にあたる。」


ローウィン様は少しだけ微笑んだ。

だがまだ表情は硬い。


「スタインバーク公爵様、なぜ母をご存知なのですか?」


「昔、少し話したことがある。」


「少し話したことがあるだけで、子供が授かるなんてどこのコウノトリなのでしょうね」


私の言葉に驚いたまま目を見開いた。


「…何故、何故わかったんだ?」


「『覚えていたから』ですね。あなたは幼い私を母から助け出した方によく似ていますから。」


私の表情は変わらず、淡々と言葉を紡いでいく。

オーガストが苦痛に顔を歪めながら、私を心配そうに見つめている。


『大丈夫』という合図のつもりで、オーガストの手をソッと握った。


「…そうか。あんなに衰弱しきっていたのに、覚えていたのか…。

だが、本当の父親は私ではないんだ。…私だったら良かったのだが…。」


「…では誰なんですか?私の父親は。

私をここへ呼び出したことと何か関係しているのですよね?」


ローウィン様は困った様にため息をつかれました。

そして再び私に向き直ると、強い眼差しで私を見つめました。


「君の父親は私の『弟』だ。」


「…弟。」


「話を急ぐ必要がある。だがこの話は少し長くなるので、心して聞いてほしい。」


そういうとローウィン様は立ち上がり、窓の外をチラリと見た。

控えていたエドエドさんも立ち上がる。


「オーガスト、これを飲め。そしたら少しは動けるだろう?」


「あー…近くでゴチャゴチャいうな、頭に響くだろ…」


「それくらい元気があるなら大丈夫だな」


エドエドさんが液体の入ったコップを片手にオーガストを抱え、笑った。


「…どうかしたのですか?」


「少し移動をした方が良いと、判断した様ですね。」


エドエドさんがローウィン様に手のひらを差し出した。

手の方向に視線を送ると、窓の外で誰かの気配がするようで、ローウィン様のお顔が険しくなられていました。


それを聞いたオーガストがコップを一気に飲み干した。


「…どこに行けばいい?」


まだ苦しそうに口元を拭う。


「ここから先の隠し部屋へ。お話が終わり次第、すぐにでも屋敷を離れましょう。」


「…ええ、すぐにでも帰るわ。」


私も立ち上がりオーガスト共に、エドエドさんの案内する方へ歩いて行った。





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