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第22話 ああ、私……。

「エイプリル…、あれは何?どういう事!?」


部屋に入るなり、メー様が私に詰め寄った。


「あれとは?何かしましたっけ?」


私が不思議そうに首をかしげる中、横でオーガストが頭を抱えながらメー様の話を聞いていた。


「え、何?もう一度最初から説明してもらっていいかな…?」


「だからぁ!っていうかあんた賢いんでしょ?聞こえてるよね?頭が問題を拒否して処理しきれないだけでしょ!?」


「本当に何も耳に入ってこないんだけど…?」


オーガストとメー様が同時に大きく息を吐いた。


「ていうかさ、やっぱ君、厄介な問題こっちに持ってきたよね?だから嫌だったんだよこんなの懐に入れるのなんて…!」


「…早口で言ったって全部聞こえてるから!!」


「…私聞き取れなかったよ!?」


私の驚きを一瞬2人が見つめましたが、再び2人の話に戻ったようです。


「だからさー、もうなんでめんどくさいのに絡まれてんだよって話!!」


「しょうがないでしょ!初めはレオン王子だと思ったから…!」


「レオン様じゃなくて、あの赤い人なんていう人?」


再び2人がこちらを見つめましたが、また無視されました。

きっと覚えなくてもいいと判断されたのでしょうか?

まぁどうせ興味がわかないのですぐ忘れそうですけどね。


「しかも自己紹介してるとかもう、ありえないんだけど!」


「…あり得ないのはわかったけど、なぜ俺の目の前で話しているんだ…?」


トントンと書類を机に揃えている人が、レオン様。

苦笑いを浮かべ、オーガストを見た。


「僕がこんなタダ働きさせられてんですから、自分の兄の問題ぐらい、ちゃっちゃと解決してもらおうと思って遠巻きにお願いしてるんですよ。」


「あのなぁ…。なんとかしてやりたいが、兄は俺の手に負えない。」


「はぁー?役立たず…!」


「オーガスト、友人とは言え、目上の者に暴言を吐く事を不敬罪になるということを知っているだろうか?」


「あーはいはい、失言でした。」


「それは謝っているのか…?」


オーガストが『テヘペロ☆』と言わんばかりにゲンコツを自分の頭に乗せ、可愛くあざとく舌を出した。

それをため息混じりに息を大きく吐きながら、レオン様は書類から目を離し、窓の外を見た。


「兄がすまなかった。また何かしら絡んでくるかもしれんが…それについて俺から忠告すると、あの人の性格上余計に興味を持ってウザ絡みするだろうから…俺からは何も言えないんだ。」


「レッドメイルは性格が歪んでませんか…?3男もちょっとなんかなーって感じだし…」


「…俺はまともだ!!」


思わず大きな声を出したのを、自分で驚いたように口に手を当てる。

そしてそれを誤魔化すかのように、『コホン』咳払いをしました。


「ともかく様子を見て、なるべく会わないように逃げてくれ。」


「…素晴らしく為にならない助言ありがとうございます。」


「…くっ!」


レオン様はオーガストを悔しそうに見つめ、机を軽く『ダムっ』と叩いた。


「…レオン王子、なんだかすごく人間ぽくなりましたね…?」


「「…え?」」


メー様の言葉に、オーガストとレオン様の声が重なる。

その声にハッとするメー様。

慌てて自分の言葉を取り繕うように言葉を足した。


「あ、いえ、すみません…。アナスタシア様といた時と印象がすごく違って見えて…」


その言葉にレオン様も思わず自分の口元を押さえて、俯かれてしまいました。

メー様はひどく焦ったように、何か言いたげに手をバタバタと上げたり下げたり広げたりと。

目を白黒させて、力無く肩を落とされました。


「あ、いや。ヒックス嬢、気にしなくていい。自分でも自分の変化に驚いている…。」


メー様は小さく『はい』と返事をして、黙ってしまいました。

私はそっとメー様の背中に手を置き、様子を伺うように顔を覗き込むと、メー様は悲しそうに笑いました。


「ともかく、僕のこの書類をまとめるという働きに免じて、姉の発言が不敬罪にならないようには動いてもらえますか?そこが僕、とても心配…!」


「それは勿論、手を尽くす。」


嘘泣きするオーガストを宥めるようにレオン様はいった。

真面目すぎてあんなわかりやすい嘘泣きが見抜けないのでしょうかね。

裏を返せばきっと素直な方なんだろうと、私の印象も少し変わるのでした。


それにしても、レッドメイル長男はめんどくさい人なんですねぇ…。

2度とかかわりたくないですね!


なんて生徒会室で誓って2日後。


なぜか居るし。

しかも教室の前に…。


赤毛長男は私の顔を見るなり、指をさし、親指を逆にはらった。

要は『お前、ちょっと、顔を貸せ』のジェスチャーですよね。

…すごく無視をしたい。

目があってないふりを今からしてもバレないんじゃないだろうか。


そんな考えはすぐにでも捨て去られる。

だって何度ジェスチャーしても出てこない私にしびれを切らし、私の机の前に仁王立ちをしているからだ。


泳ぐ目の前に立ち、再びジェスチャーで外に出ろとおっしゃっている。

目の前にいるのなら、喋れよと、言いたい。

言えませんけどねぇ…。


トボトボと赤毛長男についていく。

慌てて追いかけてくるメー様とオーガスト。


オーガストは隣の1組に飛び込みました。

これは次男連れてくる気ですね…。


話が大きく、ややこしくなりそうな予感です。


トボトボ、トボと。

長男の後をついていくと、上級生の教室に案内されました。

きたことないので緊張しますね?


思わずキョロキョロと辺りを物珍しそうに見渡すと、突然長男が振り向きました。


「…お前、なんで目の事わかったんだ?」


「…ほへ?」


目の事とは?

ちょっとこの人何言ってるかわからない…。


訝しげに首をかしげる私に、苛立ちを隠さず見せつける長男。


「お前はあの時俺に、その目は自分には効かないと言った。」


「…そんなこと言いましたっけ…?」


「言った、確かに。」


とても怖い目で私を見ています。

一体なんのことなんでしょう?


「すみません、私ちょっと色々忘れっぽくて…。そんなこと言ったのでしょうけど、覚えてないんです。」


「…はぁ!?」


長男は怒りに任せ、私の胸元を掴みかかりました。

思わず目を見開き、長男を見上げました。


「目を見ろ。本当に効かないのか試してやる。」


私を捉えた黒い瞳が赤く変化していく。

赤くなった瞳は瞳孔がゆっくりと広がるように瞳の奥が輝いていた。

それから目が離せず、じっと瞬きも忘れ言われたまま見つめ続けた。


「…なんでだよ!!」


しばらく見つめ合っていたが、突然掴まれた手が離れ、私は後ろに転がった。

尻餅をついてしまい、ジンジンと痛みが広がる。


「なぜ効かない?」


「…なんのことでしょうか?」


「何故瞳の事を知っていた?」


「…だから、なんの話ですか?」


ジリジリと私に近づいてくる長男。

あまりの迫力にお尻の痛みも忘れ、ズリズリと後ろに下がっていく。


「これはうちの秘密なんだよ。誰にも知られてはいけない。」


「…内緒なら黙っておきますよ。…なんの秘密か覚えてませんけど…。」


「生かしては置けない。」


「…へ?」


壁に押しやられてしまい、身動きが取れない私を再び長い手が伸びて、胸元を掴まれる。

今度は掴まれたところが、首に近く、息が詰まってくる。


グイグイと閉められる胸元に、思わず長男の手を掴む。


「タイラー様!!エイプリルを離してください!」


メー様が肩で息を整えながら教室に入ってきた。


「ずっとそこで見てればいいじゃないか。さっきまでの様に。」


ギロリと睨む長男の迫力に、ゴクリと喉を鳴らす。


「ダメです、彼女は多分本当に覚えていないのかもしれませんし…!」


「うるさい!…もうお前、黙ってろ。」


私の首元を掴んだまま、ズルズルと引きずる様にタイラーはメー様に近づいていく。


「めー…さ、ま。」


息も絶え絶えに、メー様逃げてと伝えようとするが、うまくいかない。

声が、詰まって出にくい。


ああ、このまま死んでしまうのだろうか?


そう思った時。


私は何かを色々と思い出した気がした。

忘れていた事を次々と。

忘れたくて、忘れていたものを。


「あああ…!」


小さく叫ぶ。


「あああ…あー!」


私のうめき声にタイラーがびくりと体を強張らせ、私を見た。


「エイプリル!?」


教室に飛び込んできたオーガストと、レオン王子が目の隅っこに写り込んだ。


「…あー!!」


ガタガタと体が揺れ、叫ぶ私を気味が悪くなったのかタイラーが手を離した。


「エイプリル!!」


オーガストの呼ぶ声。


「エイプリル…!」


メー様の叫ぶ声。


「…何があったんだ!?」


レオン様の焦った声。


「おい、オーガスト!どうなってんだ?」


久々に聞くラルフ様の声。


自分の中で遥か遠くに響いている気がした。


その時、遠くで光が弾けた。

そして、私は思い出す。


前世の記憶。


私は『エイプリル』の前に、『地球』というところで生きていた記憶。

生きて、生活して、仕事して、勉強して。


私はこの世界に『異世界転生』したんだった。





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