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第21話 見たことない赤毛が現れた。

「次の加工デザインはどうしようかなぁ。一回ちょっと鉱山の様子も見に行きたいんだけど…学校がなぁ…。夏休みまで長いしな…。」


ハッと閃いたように手を叩く。


「…休学届けとかいい案があるじゃない…!」


「エイプリル様、夏休み前に休学とか旦那様もオーガスト様もお許しになりませんよ…。」


メイヤーさんが私の制服をハンガーにかけながら、苦笑いをしていた。


「や、やだなぁ、冗談ですよう…!」


うっかりメイヤーさんがいることを忘れ、独り言をつぶやいたようで。

誤魔化すように無理矢理な笑顔に、頭をかく仕草。

メイヤーさんがまた反応に困ったように、苦笑いをした。


「もう寝られた方が?デザインを考え続けるとまた寝るのを忘れると思うので、さっさとベッドに入ってください。」


「ううう、いいデザイン閃きそうだったんだけどなぁ…!」


だがしかし、メイヤーさんの言うことは絶対なのです。

物心ついた時から私の母親がわりのような存在で、厳しく叱ってくれる大事な存在。


厳しくとも、ちゃんと出来たらたくさん褒めてくれたり、たくさん甘やかされたなあと。

メイヤーさんの小さくなった背中を見ながらしみじみと懐かしむのだった。


背中を見つめていると、キッと振り向かれて睨まれたので、早々にベッドに入る。

あっという間に睡魔がやってきて、私は夢の中へと旅立ちました。


次の日の私は早めに寝たせいか、すこぶる元気で。

メー様に『元気すぎて対処に困るから静かに。』と言われるぐらい。



お昼休みにふと、中庭で見慣れた赤毛を目撃しました。

その横に…アナスタシア様が?


何やらお二人、木の陰で揉めている様子です。

メー様がいてもたってもいられなかったのか、私の手を引いて中庭に続く渡り廊下に猛ダッシュしました。


こっそり影に隠れて様子を伺うと…。

アナスタシア様の向かいに、赤毛殿下が私達に背を向けて立っている様子。

なので顔までは見えませんが、アナスタシア様の美しいお顔はよく見えます。

それだけで十分です、私的には。


「なぜ君がそこまで口を出すんだ…?」


「ですから。彼女はやめた方がいいと、助言しているのです。」


私たちが聞こえたこの会話に、メー様と2人顔を見合わしました。

『THE☆修羅場』じゃないですかこれ!?


「助言、ね…。君がそんな事を助言できる立場なのか?」


「…もう婚約者ではなくなったから、立場では無いと?」


「ああ、そう思っている。」


アナスタシア様の顔をキッと怒った様に歪む。


「だったら元婚約者としての助言ですわ!!」


赤毛殿下は『はぁ』と腰に手を当て、嫌味ったらしくため息を吐いた。


「そもそもお前は絶対降りないと思ってたのになぁ。どんな失敗したのか詳しく言ってみろ。」


赤毛殿下の言葉に、アナスタシア様の顔が再び歪んだ。

美しい人は歪んでも綺麗なのだ。

再確認。


「あ、あなたに何がわかるの!?失敗なんかしていない。私は間違っていないわ…!」


「なら教えてやろうか?お前の失敗はどんな事があっても傍観してればいいものを、嫉妬心丸出しで事を起こしたことだ。」


今度はカッと赤くなる。

目を見開き、口を一文字につぐんだ。


「お前が降りたんだ、次を探すのは当たり前のことだろう?レオンが決まらなければ、キーオも決まらんしな。おまえがやめとけというハートテイルはこの度国への貢献が認められ、男爵から子爵に陞爵したばかりだ。候補に上がっても間違いではないだろう?」


「わ、私は…!」


赤毛殿下がアナスタシア様を凄む様に、一歩前に足を出す。


「もうお前に出来ることはない。わかったらレオンに近づくな。」


アナスタシア様は泣きそうな顔で赤毛を睨み付け、走ってこっちへきた。

渡り廊下ですれ違う。

一瞬視線が重なったが、すぐ外され、背中を見送った。

メー様はアナスタシア様の横顔を目を見開きながら見つめていた。


何か声をかけたかったのだろうが、『静かに見守る』を思い出し、口をつぐんだ。

静かに上がった手が下へと降りる。


「盗み聞きとは、いいとこの令嬢のすることではないな?」


私たちの後ろから声がした。

まぁ誰だかわかる。

さっきの赤毛だ。

会話からして、見たことのない赤毛だが。


ゆっくりと振り向くと、レオン様より少し背の高い、偉そうな顔をした赤毛が仁王立ちしていた。


「ねえねえメー様。頭下げたままだっけ?」


質問には答えず、私はメー様に問いかける。


メー様が私の言葉にハッとして、スカートの裾を持って頭を下げる。

仕方ないので私も頭を下げる真似をした。


「申し訳ありません、大変失礼をいたしました。

たまたまここを通りかかっただけで、盗み聞きするつもりはありませんでした…。」


うん、見つけて慌てて走ってきたけど、それは内緒ね?

なんてボヤボヤと思い出し笑いを隠しながら、頭を下げたまま静かに耐えた。


私とメー様を上から静かに見下ろしていた赤毛殿下は、私たちを値踏みするかの様にジロジロと見つめた。


「お前、アナスタシアの取り巻きの1人だったよな?アナスタシアが王子の婚約者ではなくなったから、別の女に取り入ってるのか?」


メー様は頭をあげず、『キッ』と地面を睨みつける。


「…こっちの女はアナスタシアより利用価値があるのか?」


赤毛殿下は鼻を『フン』と鳴らしながら、ゆっくりと私たちに歩み寄ってきた。


「…いいえ、その様なことは…。彼女はただのお友達です。」


「ほう、この女はなんだ?公爵か?それとも侯爵か?その辺の爵位なら次のレオンの婚約者候補に名前がある女だろう?名前はなんという?」


私の目の前に立ち、私の髪に触れた。

メー様が私に振り向き、頭をあげそうになると、赤毛殿下の手がメー様の頭を強く押さえた。


「誰があげていいと言った。頭をあげる許可はしていないぞ?…これだから女は…。」


メー様の頭を押さえたまま、赤毛殿下は綺麗な顔を歪ませた。


「あのぉ、発言してもいいですか?あと、疲れちゃったので頭をあげる許可もください。」


頭を下げたまま、右手をサッとあげる。


ビックリして動きが止まったのは赤毛殿下の方。


「あのー?いいですか?」


右手をブイブイと震わせる様に主張する。

呆気にとられていた殿下が思わず「あぁ…」と言ったので、『いいよ』という言質と受け取って、素早く頭をあげた。

あー首が痛い。


そしてニッコリと微笑むと、ソッとメー様の頭に乗せている手をサッとはらった。

ビックリしたのか、払われた手を見つめる赤毛殿下。


確かレオン様は3人兄弟だとか言ってらっしゃったっけ?

ていうことはこの人一番上の王子ということになる。

名前は忘れたけど。


「お前、いま俺の手に触れたか?」


「え?触れましたっけ?私。」


とぼける私に、赤毛殿下が顔を歪ませる。

メー様はあまりの恐怖に顔が真っ青で、ブルブルと肩を震わせながらこちらを見つめていた。


「自己紹介してもいいでしょうか?」


「…自己紹介だと?」


私はニッコリと笑う。


「はい、先程殿下はメー様…ヒックス様に対して『この女はなんだ?公爵か?それとも侯爵か?その辺の爵位なら次のレオンの婚約者候補に名前がある女だろう?名前はなんという?』と、おっしゃいましたよねぇ?」


ニッコリと微笑みながら、殿下の前に立つ。


私の笑顔の気迫にちょっと押されたのか、一歩下がりながら私を怪訝そうに見つめていた。


「ああ、それがなんだ?」


「なので、その誤解を解きたくて、自己紹介をしようかと思いまして。」


「…許可する。」


ニコニコと微笑む気味の悪い私を手で払うように腕を組んだ。


「私、ディゴリー男爵家の長女でエイプリルと言います。エイプリルという名前の通り、4月生まれの16歳です。さっきのお言葉をお返しするのですが、公爵でも侯爵でもなく、末端の方の男爵です。

なのでヒックス様が私に何か利用しようとして近づいているという事はなさそうですねぇ?」


『ですよね?』と言わんばかりに、首を傾げ、赤毛殿下を見つめる。

流石に少し気まずそうに、私から目をそらした。


「…だからなんだ?俺に間違いを訂正して謝れとでも?俺に?」


「いえ、ただ殿下の誤解を解きたかっただけで、特にそこまで考えてはいませんでした。」


「…は?」


「あばばば…!もうしわけありません!彼女ちょっと作法をおしえてもらっておらず、そしてちょっと変わってまして…あの、どうか、無作法をお許しください!」


慌ててメー様は私の頭を下げ、ひたすら謝った。

あまりに謝るので、ボツボツと人が集まり、注目しだす。


殿下もバツが悪くなったのか、人目を気にし始め『もういい』と言った。


メー様はその場から私を連れて退出しようと、再びお辞儀をし、私の手を引いた。


だが、殿下の手が伸びて、逆の手を掴まれる。


「お前、もう一度名前を言え。」


引かれた手の痛みに、赤毛殿下の顔を見つめた。

その時、赤毛殿下の目が黒から少し赤みを帯びる。


「ああ、私には効かないですよ」


「…は?」


「あなたの目、少しばかり人を操ることができますね。自白強要でしょうか?

でも、それ私には効かないんです。」


秘密を暴かれ、度肝を抜かれたように顔色が変わる殿下をソッと振りほどき、もう一度微笑んだ。


「お、お前…!」


「…自己紹介はもうしたので、では。」


今度はメー様の手を私が引く。

そしてその場をゆっくりと離れたが、彼は追ってはこなかった。

ギリっと歯をくいしばる音。

足元に何かを投げつける音。


私が耳に響いたのはそれだけだった。



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