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第19話 メー様とトイレでイチャイチャする。

朝からオーガストが用事で早く出たためか、校門の前でヒックス様に捕まっております、私。


「おはようございます、ヒックス様。」


「挨拶なんてどうでもいいから。宿題考えてきたんでしょうね?」


「…宿題とは!」


ヒックス様は私に対して、『イラっとしている』と表情を向けました。

なんて素直な方なんでしょうか。

思った事がそのまま顔に出るなんて、羨ましい!

喋らないでも表情で周りが全て悟ってくれる能力!


思わず羨ましげにニコニコとヒックス様を見つめていると、余計怒らせてしまったのか『ダンッ』と足を踏みならされました。


「昨日言ったじゃない、私。」


「ええっと、昨日私が聞いた事に関しては、ヒックス様が何かしら破棄についての責任を感じていらして、何か良い手はないか?と聞かれたところで邪魔が入りました!」


「そうなの邪魔が…ってあんたの弟でしょ!」


「はい、弟です!紛れもなく。」


ニコニコする私に、ヒックス様は前髪をかき上げながら疲れた様に深く息を吐いた。


「と、ともかく。またあんたの弟に邪魔されても困るのよ。だから今日放課後顔を貸して。」


「…顔は取り外せないので、貸せないのですが…。」


「ああ、言うと思ったわよ。絶対言うと思った!」


今の表情は『本当に頭が来るわね』と言う表情をされてますよ。

なんとわかりやすい…!!

感動さえ覚えます。

素晴らしい表情筋!

この人なら、私の空気読めない能力でも何をお考えかがわかるので、とても良い関係が築けそうな予感がします。


「すみません、比喩というものが苦手でして…。とりあえず放課後オーガストをまいて、ヒックス様について行けばよろしいですか?」


「ええ、放課後3階にある女子トイレで待ち合わせで。私もあなたとつるんでいるとこを見つかるとヤバイので。」


「女子トイレで、待ち合わせ…。」


「何よ!トイレならあんたの粘着弟もついてこれないでしょ!」


「トイレで待ち合わせなんて初めてなので、ワクワクドキドキですぅ!」


「私だって初めてよ!!」


今度は顔を真っ赤にして、眉がつり上がっておられます。


「ヒックス様は素直で可愛らしい方なのですね」


「はぁ!?」


今度は眉を最大限に寄せ、頬を引きつらせた。

私は相変わらずニコニコとヒックス様を見つめてほんわかしておりました。



さて。

問題は放課後なのですが。


キョロキョロと辺りを見回します。

今日は朝からオーガストは先生の手伝いだったり、委員会だったりで忙しそうなのです。

ですが『帰りは一緒に帰りたいから、絶対待っててね』と言われてしまったので。


まぁ、私が上手いこと誤魔化せるわけないのは皆さんもご存知なはず。

そう言われた時、目線は明らかに宙を仰ぎ、吹いたことのない口笛なんて吹いてみたりしてしまった訳です。

そうなると表情が読めないオーガストでも『コイツ…放課後なんか企んでやがんな…』なんて顔に文字が丸見えでしたし。


なので捕獲される前に逃げるしかないのです!


私はカバンを抱え、3階のトイレにダッシュした。

側から見ると、ただのお腹の痛い女子生徒みたいで恥ずかしかったですが、そんなこと言ってられないのです。


初めての、トイレに呼び出し…!

あ、じゃなかった。

トイレで待ち合わせです!!


トイレで待ち合わせ。

円陣で囲まれるより、メチャクチャワクワクしますね!


ダッシュのつもりが、途中でスキップに変わり。

『お腹が痛くてダッシュしていた女子生徒』は、『トイレにスキップで嬉しそうに入っていく変な女子生徒』の称号に変わるのでした。


トイレに入ると、鏡の前に数名の女子生徒がお化粧を直していました。

私が入ると一斉に注目されます。

3階は知らない生徒が多いですねぇ…。

ちょっと緊張します。


とりあえずどこで待っていようかと考えたのですが、トイレが狭い上に人が多いため、一旦奥に移動する事に。

スルスルとお化粧を直している方々の脇を通り、する事がないので奥の小窓から外を眺めていると、校庭の裏手にある運動部の為の運動場が見えました。


3階からなので走っていたりボールを追いかけている姿は誰が誰だという認識まではわかりません。

ですが。


運動場のベンチに1人の女子生徒が座っている姿が確認できました。


太陽の光に反射して、肩より少し長い、真っ直ぐな茶色の髪が揺れる。

そしていつもと同じ耳あたりに緩く結んでいるリボンが、髪の毛と一緒に風に遊ばれておりました。


『あれ…どっかでみたことある…』


誰だっけ、誰だっけ?

両方のこめかみを人差し指でグリグリしながら首をかしげる。


こっちも何処かで見たことある赤毛が通りかかると、茶色の髪の彼女はすぐに立ち上がった。

胸の前で祈る様に両手を重ねて。


赤毛の前で立ちふさがる様に、彼の前にピョンっと出る。


私が窓をガン見しているので、お化粧軍団も気になったのか窓の下を見始めた。


「ねぇ、あれハートテイル様じゃないかしら?」


「あー、本当だ。またレオン様追いかけてらっしゃるのね。」


彼女たちはクスクスと口元に手を添え、笑い合った。


「あれじゃ、ストーカーよね。嫌がられているのがわからないのかしら?」


「ね?ほら避けられているわ。」


そしてまたクスクスと笑い合う。


「…ホントに嫌がられてるのでしょうか?」


「「「はぁ?」」」


私の声に、お化粧軍団の声が揃いました。


「ですから、嫌われたり、避けられている根拠ですよ。」


私は彼女たちの方を向いて、右手の人差し指を出した。

私の人差し指の気迫に、一瞬たじろぎましたが、彼女たちは形勢を立て直します。


「私見たもの。ハートテイル様がお胸をグリグリとレオン様の腕に擦り付けてらっしゃったら、レオン様がとても嫌な顔をされて、手を払われていたわ!」


「…ほう!それは興味深い…!あのイケメンはお胸の小さいのが好みなのか!」


「…私だって、見たわ。ハートテイル様がレオン様をああやって待ち伏せされるのに気がつくと違う道を通られるのよ!」


「凄いですね!あなたもそれを知ってらっしゃるという事は、レオン様について歩いてらっしゃったんですね!」


「「はぁ!?」」


あ、しまった。

これは逆鱗に触れた。

調子に乗りましたー!!


お化粧軍団は私に青筋をたてて詰め寄ってきます。

私は両手の人差し指をクルクルと上下に絡ませる様に回し始めました。


「あの…そのぉ…」


『あはは』なんて誤魔化し笑いをしてももう遅いんだろうなって。


グイグイと詰め寄られ、距離を詰められていきます。


ジリジリと後ろへ探しますが、ああ、なぜ私は奥に行ってしまったのでしょう。

これ以上逃げれない…!


そんな余裕がないのに窓の下ではレオン様が張り付いたハートテイル様を剥がそうと必死で腕を振っておられた。

ああ、人は違えど状況は一緒ですねなんて、こんなに詰め寄られても余裕な私。

あっちは余裕なんてなさそうですけど…。


思ったんですけど、レオン様って女性が苦手なんでしょうか?

腕をめっちゃ振りながら、かなり青ざめてらっしゃいますけどね。


しかしあんなに振られている腕に、なぜしがみついていられるのか。

ハートテイル様の握力最強なのでは?


「ちょっと聞いてるの!?」


「えあ!?…すいません!!」


聞いていなかった事はとりあえず火に油を注ぎそうなので、聞いていたふりをします。


「だったらいいわよね?」


「…へ?」


「なに!?やっぱり聞いてなかったんじゃないの!?」


「…いえ、あのその…」


窓の下も気になるのですが、こっちもヤバイ。

人差し指のクルクルが激しくなります。


「じゃあ、いいって事でいいわよね!」


「…は、はぃ…」

「ダメよ。絶対ダメ。この人半分以上人の話聞いてないんだから。」


入り口から声がします。


「ちょっと、あんた誰よ!?」


それをお化粧軍団が声を荒げ、振り向きました。

その瞬間に、3人の目が見開いたまま固まります。


「「「め、メーガン・ヒックス…様!」」」


ヒックス様は腕組みをして、はぁと息を深く吐かれました。


「ちょっと、こんなとこになんで人がいるのよ。ここで待ち合わせた意味がないでしょ!」


「そうですねぇ…でもここ決めたのヒックス様ですけど!」


「だから後悔してるんじゃない。あんた達、もう行っていいわよ。あ、この子は私のツレだから『2度と』変なお願いしないでね。

わかったらさっさと散って。」


「「「は、はい!」」」


鶴の一声に蜘蛛の子を散らすお嬢様達。

さすがアナスタシア様のお友達です。

高身分に我々逆らえません。


怯える様に逃げていくお化粧軍団に、ヒックス様は鼻を『フン』と鳴らした。


「ヒックス様…!カッコよぉ〜!!」


「はぁ!?」


クルクルしていた手を、さっきのハートテイル様のように両手を前で組み、頬に添える。

『はぁ!?』なんて悪態つきながらも、ちょっと嬉しそうに照れるヒックス様。

ちょっと萌える。


アナスタシア様までいかなくとも、ヒックス様も結構な美人さんです。

少しオレンジにも見える、薄い茶色の髪の毛に、気の強そうなクリッとした瞳。

薄い唇が今日もピンクのリップを輝かせている。


爵位は伯爵様ですが、由緒正しき家系で、代々お城でお勤めをされてらっしゃる家系です。


「ともかくアンタとつるんでる事がバレちゃったから、もう堂々とするわよ。変に噂されても面倒だし。

…ていうかアンタね。知らない人に適当に返事するのやめなさいよ。」


「へ?彼女達は何を言ってらっしゃったんですか?」


ヒックス様はまた深く息を吐かれて、私を睨みつけました。


「アンタの弟との仲を取り持てと言われてたのよ。」


「あー…それは難しいですね。前に頼まれてやったことあったんですけど、すっごく怒られました。」


「…やったことあったんだ…」


「5時間正座させられて叱られた上、次これやったら私の知らないうちに香草死ぬほど食べさせてやると言われたので、2度としません。」


「…知らないうちに口に入れられるってなんなのよ…」


私は『フッ』と意味深な笑みを浮かべ、斜め下を見た。

私の様子を見て『ああ、何かでやられた事があるんだ…』と察せられたヒックス様は、乾いた笑いを浮かべました。


「何でアイツらと揉めてたの?」


「ああ、あれを見てたからですねぇ…」


私は窓の外を指差した。


私はヒックス様に救出されたので事なきことを得ましたが、レオン様はいまだに袖を振り

中です。

そろそろ疲労感も見えてきて、腕の振りが弱々しくなってきました。


それに比べてハートテイル様の疲労感を見せない握力と根性。

素晴らしい。


でもそろそろレオン様の顔色がおかしいですねぇ。

土気色になってます。


「…はぁ、あの女!…でもまぁアイツはアナスタシア様の敵じゃないわ。あの様子だと、どんな事があってもレオン様は振り向かない。アイツに釣れるのは中途半端なやつばっかよ。」


ヒックス様は『フン』と鼻を鳴らしました。


「ふあああ…!ヒックス様、ホントかっこいい。悪役の鑑ですぅぅ!!」


「それ褒めてないわよね!?」


「えええー褒めてますよ!?」


怪訝そうに私を見るヒックス様。

私は嬉しそうにニコニコと微笑んだ。


「まぁいいのよ。アイツは…。」


窓の外を睨みつけながら、また深く息を吐かれました。


「それより、考えてくれたのよね?何か良い手。」


「はい、いっぱい考えました。」


「…それで?」


「それで、オーガストに怒られました。」


「はぁ!?またアイツ?」


私はヒックス様に微笑みます。

私の微笑みにグッと一瞬引きましたが、直ぐにまた腕組みをしました。


「オーガストからの伝言です。『自力で浮上するまで待って、そして戻ってきたらいつもと変わらなく話しかける事が大事』らしいです。」


「…」


ヒックス様は腕組みを解き、黙って考え始めました。


「色々考えましたけど、やはりオーガストが言った通りが得策なんじゃないかなと思います。

今何かするより、その方がアナスタシア様は傷付かない気がします。」


「…このまま見てろっていうの!?」


ヒックス様はグッと拳を強く握りました。


私は笑顔を崩さずに、頷きます。


「友達が…苦しんでるのに、黙って見てるしか、できる事ないって事?」


握った拳が小さく震え、瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれました。


「友達だからこそなんじゃないですかねぇ。私は今まで友達いなかったのでわかりませんけど。

妄想ならよくするので、妄想の友達に例えて昨日寝る前にシュミレーションしたんです。

38パターンを終えた頃には夜が明けてましたけど。」


ヒックス様は目を丸くしたと思うと直ぐ、細めました。


「ああ、それで今日授業中爆睡だったのね…。」


頭を抱え、また深く息を吐かれましたが、直ぐに。


「38パターンの結果は?」


私は最大限ににっこりします。


「オーガストの言う通りだなーと言う結論に。

何故ならアナスタシア様はプライドが高い。

そして友達とはいえ、あなたたちを少し下に見ている節があります。

そんな中素直じゃないので、プライドが助けた手を振りほどくのではないかと。

そうすると振りほどいた事の後悔で友達関係もギクシャクしますでしょうし、その方が修復不可能になる可能性も。」


「…そう、ね。」


今日一番の深い深い息が漏れました。


いまだギャイギャイと騒いでる窓の外を見つめていたヒックス様は、再び私の方をむきなおりました。


「ありがとう。あなたの言う通りしてみるわ。」


今度は気合いを入れるように息を吸った。

まるでここがトイレだと言うことを感じさせず、大草原の真ん中のような深呼吸です。


ええ、余計なこと言いません。

気合いに水を差すような行為を…。


レオン様は無事レオン様のお付きの方達に救出され、粘着していたハートテイル様はベリベリと剥がされました。

剥がされた後、小さな子供のようにすごい地団駄踏んでいたので、思わず魔道具で映像記憶してしまったことは内緒です。

帰ってこっそりもう一度見よーっと。


私がウキウキと魔道具をポケットにしまっていると、ヒックス様が私にそっと手を差し出されました。


「…友達になってあげても良いわよ。あと、アンタの粘着外道弟にも一応ありがとうってお礼言っといて。」


「…友達!!ほほ本当ですかぁぁあ!?」


生きててよかったぐらいの勢いで、目が輝く。


「メーガンで良いわよ。私もエイプリルって呼ぶわ。」


口を尖らせてはいるものの、頬を赤らめ照れているヒックス様。


「メーガン!!」


「呼び捨て…!…まぁいいわよ。」


差し出された手を両手で掴み、上下にブンブンと振った。


「きゃーーーー!!!」


歓喜し、思わず感動に叫んでしまった。

片耳をウザそうに押さえながら、ヒックス様…いや、め、メーガンが私をにらんだ。


「うるさいわよ!突然叫んだら耳が死ぬじゃない!…あと手も死ぬ!!」


力一杯握った手が紫色になっていた。


「あ、すいません。」


思わずパッと手を離すが、緩んだ顔は戻らない。

ニッコニコでメーガンを見つめる。


「…こんなとこで何してんの…?」


スタスタとやってきたオーガストが私の手を掴む。


「ちょっと!ここ女子トイレ!!」


「はて?女子なんて何処に?」


「目の前よ!!…やっぱりお礼言うのやめる!取り消すわ!」


「…今時ツンデレはモテませんよ、ヒックス嬢。」


「この顔だけオトコ!!…性格最悪すぎる!」


みるみるメーガンは顔を真っ赤にして、堂々と女子トイレに入ってきたオーガストを怒鳴った。


「お褒めに預かり、恐縮です。…さぁ、帰るよエイプリル。」


胡散臭い笑顔をメーガンに向け、オーガストは私を引きずるように女子トイレを後にした。


私は最後にオーガストを静止させ、メーガンの方を見る。


「メーガン!やっぱり私はメー様って呼びますね!メー様って可愛くないですか?メーガンにぴったりの可愛さです!」


私の発言に、怒りとは違う赤で顔が染まるメー様。

口を尖らせたまま、『呼びたきゃ呼んだら?』なんて。


くぅー、ツンデレも可愛い。


ズリズリとオーガストに引きずられながら器用に手帳を取り出し、『始めての女友達記念日』と今日の日付けに大きくハートを書いたのでした。




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