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第16話 婚約破棄にお怒りのアルド様。

「エイプリル・ディゴリー!!!これはどう言うことだ!」


…またですか。

またこのパターンですか…。


もういい加減全校生徒が私のフルネームを知ってしまいそうな勢いです。


毎回毎回、朝の校門前に立ちふさがるのをやめていただきたい…。


「聞いてるのか!エイプリル・ディゴリー!!」


私に向かって指さをさし、手紙を突きつけてきました。

ああ、婚約破棄が受理されたお知らせでしょうか?


私はスカートの裾を持ち、静かにお辞儀しました。


「おはようございます、アルド様。」


「エイプリル、もう関係ないからローラントね。」


「ローラント様」


「俺の呼び方まで変わるのか…!」


オーガストが私の前に立つ。


「もう関係ないからですよ、ローラント様。

破棄は貴方から言いだしたこと。受理された我が家は貴方とはもう他人です。

いちいちストーカーのように、ここで姉を待つのをやめていただきたい。」


「す、すとーかーとはなんだ!!」


アルド様は焦ったように叫びます。


「破棄はしないと言った筈だ!なぜ今になって受理されたと手紙がきた!?

お陰でこっちはひどく叱られたんだぞ!!

お前が何かしたんだろう!…こっちに来い、さぁ言え!」


アルド様はオーガストを押し、私の腕をつかもうとします。

ですがオーガストの方が動きは早かったようで。


彼が私の腕を掴む前に、その手をオーガストが掴んで捻り上げました。


「イテテテ…!!」


大袈裟に痛がるアルド様に、オーガストはサラリと流れた前髪の奥から睨みつけました。

アルド様はオーガストの迫力に、ビクリと体を強張らせます。


「…嫁入り前の姉に、触れないでいただきたい。」


腕をより捻り、アルド様に近づきます。


「…これは俺のものだ…!」


精一杯痛みを我慢し、オーガストを睨み返します。


「…初めからお前のものではない。」


そういうとオーガストは静かに手を離しました。

その反動で後ろに転がるアルド様。


通りすがりの方々がその様子をみて、クスクスと笑いだしました。


顔を真っ赤にして立ち上がり、怒り狂うアルド様。


「オーガスト・ディゴリーに、俺は暴力を振るわれた!慰謝料を請求する!!」


さっきよりも大きな声でアルド様は叫びました。


「…何をやっている?これはなんの騒ぎだ。」


アルド様の声の後、すぐに誰かが声をあげました。

視線を声の方へ向けると、赤髪の王子がこちらを見ながら立っておられました。


えーっと、レオン様の方。


レオン様はアルド様を冷ややかな目で見つめています。

アルド様は気まずそうに、汗を袖で拭きました。


「今、こいつに腕を捻られました!腕が痛くて上がらないので折れたのかも…!訴えてやるからな!ディゴリー!」


腕を痛そうにさすりながら、レオン様に擦り寄っていきます。


『訴えてやるからなー』は、レオン様の後ろで言いましたよ、あいつ。


「…アルド・ローラント。腕を見せてみろ。」


「…え?」


レオン様はアルド様の腕を取ると、オーガストとは逆に捻り上げました。


「いでででえええ!!」


さっきより大きな声で叫ぶアルド様。

そして度肝を抜かれたかのように、その場に座り込んでしまいました。


「すまない、痛かったか?…逆にひねったら痛めた筋も元に戻るかもしれんと思ってな。」


「レオン王子…!?」


味方をしてもらおうと後ろに隠れたのに、手を捻りあげられたのだ。

頭にはてなマークがいっぱい見えます。


「この婚約破棄について、王は認められたのだ。

全面的にローラント、お前の過失だ。

お前のディゴリー嬢に対しての発言や、素行の悪さの証拠も上がっている。

婚約破棄によるディゴリー嬢の名誉も、我がレッドメイルで保障しよう。

これに関して今後ローラントはディゴリーに対し、接触することを許可しない。

…理解できたか?ローラント。」


「…出来ません。」


「…なんだと?」


アルド様は即答した。

ビックリしたのは我々の方。


「こ、この女は俺のものです。

誰に何を言われようとも、だ。

だから俺がこいつに何言おうが、何をしようが、構わないんだ。

俺から離れることは許さない…!」


アルド様はゆっくりと私に手を伸ばし、近づいてきました。

まるでスローモーションの様に。


レオン様はオーガストの横に並び、私をかばう様に前に出ます。


さ、さすがに怖い。

アルド様どうしちゃったんだろう?

こんなの見たことないアルド様です。


私は両手で耳を塞ぐ様に2人の背中で震えました。


アルド様が私を見つめる目は、狩りをする前の獣の様。

どう見ても正気ではありません。


「…じゃあなんで婚約破棄なんて言い出したんだ…。

何もしなければ婚約者なんだからいずれ結婚できただろう…?」


レオン様は呆れた様にアルド様に問いかけました。

アルド様は何かを振り払う様に頭を振りました。


「この女は俺に対し、感情がない目でいつも見ていたし…。

婚約者としてどう思われているか、いつも不安だったんだ…。

誰かに取られるかも不安で、初めはヤキモチでも焼かせてやろうと思ってやってたんだが、誰を連れてきても、破棄すると言ってみても、この女は…俺をいつも可哀想な目で見るから…!!」


伸ばした手が段々と近づいてきます。

私のせいだったのか…!

そんなつもりはないのですが…めんどくさかっただけで…。

申し訳ない気持ちがたくさん溢れてきます。

私はアルド様の方を見つめました。


「ローラント、下がれ!辞めるんだ。」


「嫌だ…!」


オーガストとレオン様の壁も、私を守る力を込める様に、私にくっつきました。


ドンドンとゆっくり迫ってくるアルド様に、焦ったレオン様の手が剣に触れました。

オーガストはそれを気がついて、そっとレオン様の手に自分の手を添え、首を振りました。


「…ここで抜いてはダメです、王子」


「…分かっている…!」


『本当かなぁ』なんて疑う様な顔をして、レオン様を見つめて。

その顔にちょっと動揺を見せるレオン様。


やばい…!

恐怖心より、何か違う感情が芽生えてきた…!


この2人のやり取りを見てたら、違うドキドキがやってきた気がします!

いけない…。

見て喜んではダメよ、エイプリル。


耳に当てていた手で顔を覆う。

今このにやけた顔を見られるわけにはいかない。

緊張感なさすぎだから!!


レオン様が私をチラリと見ました。

オーガストも私を気にしていましたが、さすが弟。

私の様子が恐怖で顔を覆っているわけじゃない事を気がつきました。

小さく呆れた様に溜息を吐き、冷ややかな視線を私に浴びせかけます。


あああ、なんかバレてるぅぅ!

恥ずかしい!


益々顔を上げづらくなり、顔を覆ったまま俯きました。


弟から蔑みの目線を浴びながら、そんな辱めを受けている時に。

レオン様が私の耳元に顔を近づけて来ました。


「大丈夫、君には指一本と触れさせないから。」


「…へ?」


指の隙間からレオン様と目が合います。

レオン様は頷き、私に微笑みかけました。


イケメン王子の微笑み、入りましたー!!

め、メモがしたい。

メモを取りたい…!


今の気持ちを手帳に書きたい…!


レオンデーターも取れてしまった。

イケメン図鑑の出版、本気で考えよう。

名前そのままだと絶対捕まるので、それぞれちょっとずつ変えようっと。

レオン様のジャンルは、正統派イケメンですかねぇ?


あ、ていうか私が怖がっていると思ったのでしょうか?

悪いことしましたね…。


さっきは本当に怖かったですけどね?


顔を手で隠したまま、私は無言で頷きました。

レオン様はさらに素敵な笑顔で微笑まれました。


いやぁ、いいもの見たわ。

帰ってメモを。

忘れない様に脳内に刻め、私。


気がつくとアルド様はレオン様によって地面に伏せさせられていました。


私はオーガストの腕の中です。

ハッ!

意識!意識を集中させて!私。


「…アルド様はどうなるの?」


オーガストを見つめます。

チラリとアルド様を見たオーガストは、困った様に溜息を吐きました。


「こんな騒ぎを起こしたんだ、流石に無事じゃ済まないかな。」


「なんとかなりませんか?」


「なりません。

…と言いたいところだけど、どうせ助けろっていうんでしょ?」


私は無言で頷きました。

結局私の守銭奴な態度が彼を傷つけていたのは事実でしょうし、責任を感じてます。

婚約者としてどう扱えばいいかなんてわかりませんでしたしね…。


もっと向き合うべきだったのかもしれません。

ですがもう終わったこと…。


せめてアルド様が次にいい人に…。

いい人でお金を持っている方に巡り会える様に祈るばかりです。


私はじっとオーガストを祈る気持ちで見つめました。


「はぁ、分かったよ。

レオン殿下、姉は重罰を望まぬ様です。

…離してあげて下さい。」


「…此処までされたというのに、許すというのか…?」


レオン様は驚いて、静かにアルド様の上から退きました。

アルド様は小さく呻くとゆっくりと起き上がりました。


「ローラント、ディゴリー嬢に2度と近寄る事がないように。

…分かったか?」


アルド様はレオン様の問いに答えませんでした。


「…次はないと思え。

次はディゴリー嬢の恩恵があったとしても、ローラント侯爵への報告と、それなりな罰を受けさせる。

か弱き女性を怯えさせたんだ…わかるよな?」


アルド様は静かに頷きましたが、チラリと私を睨みつけます。

…これは、忘れた頃にまた来そうですね…。


それはレオン様にも分かった様です。

レオン様は小さく息を吐かれました。


「もういってもいいぞ、ローラント。」


アルド様は足を引きずる様に、教室へと去っていかれました。


とうに授業が始まる鐘がなっています。

私たちはアルド様が見えなくなるまで立ち尽くしていました。


「あれは、また来ますね。」


みんなが思ってることを口に出しちゃったよこの子…。


レオン様も溜息を吐いて頭を抱えました。


「やはり重罰を与えるべきだったのではないか…?」


レオン様は私を見つめました。

私は首を振ります。


「いえ、どうやら私の態度のせいだった様ですし、私も罰を受けるべきなのでしょう。

しばらく嫌がらせを受けても、甘んじて受け入れます。」


「あなたはどうしてそこまで…。」


頭を抱えたまま、困った様に微笑む私を見つめます。

眉が寄ってますよ、レオン様…。


思わず指でレオン様の眉間を伸ばしました。


「…リル!」


オーガストが私の手をサッと払いますが、間に合わなかった様で。


レオン様はビックリして固まってしまいました。


「眉間寄ってますよ。ここは幸せの通り道らしいので、寄せると幸せが通れませんから。」


レオン様がゆっくりと私に視線を合わせました。


「…ああ、そうか。」


「はい。昔、元気だった頃の母が言ってました。」


大丈夫ですかね?

目の焦点定まってない気もしますが。

目の前で手を振って見ますが、視界の応答がありません。

大丈夫でしょうか?


「…リル、王族の方を気軽に触ってはいけません…!2度としないで。」


オーガストが小声で言いました。

なるほど、ダメだったのですか…。


「あの、レッドメイル殿下。」


「ああ、なんだ?」


「触ってしまってすみませんでした、ここ。」


私は自分の眉間に指をさしました。


「ああ、いや、…大丈夫だ。」


レオン様は硬い表情で微笑まれようとしてくれましたが、動揺が隠しきれません。

誠に申し訳ないことをした。


「次からは絶対触りません!」


「え?」


「リル、触りませんじゃちょっと語弊があると思うけど…!」


「へ?」


レオン様とオーガストが目を合わせました。

そして、2人が同時に吹き出したのです。


は!?

なんで、笑うとこ?


意味がわからず目を見開いて固まったのは私の方で。


「もう本当にめちゃくちゃにしないでよ、エイプリル…!」


「緊張感が、どこかに行ってしまった…!」


2人は肩を寄せ合い、腹を抱えて笑っている。


…解せぬ。


「…とりあえず、何かされたら俺に言ってほしい」


レオン様は私にそう言って微笑んだ。


「あ、それは大丈夫ですよ!」


「「は!?」」


「え?」


オーガストとレオン様の声が揃った。


え?キョトンとしてどうしたんでしょう?


「とりあえずは、自分でなんとかしますし、レッドメイル殿下のお手をこれ以上煩わせるわけにはいきませんから!」


私は『ねっ!』と言わんばかりに首を傾げた。

オーガストが『もう何もいうまい』と、目を細め心を無にして、ただ立ち尽くしています。


「…いや、これは父にも頼まれていることだし、また何かされることをわかってるのに…」


「ええ、ですから。それは重んじて受け入れます。

怪我する様なことがあったら、その時はまた王様にお手紙出したらいいのですよね?」


「え…それは…。いや、でも…。」


レオン様は困った様にチラリと助けを求めましたが、オーガストは一向に目線を合わせません。

段々と困り果てたレオン様の目が泳ぎだしました。


「大丈夫ですから。これ以上私に構われると…王様は大丈夫だと仰ってましたが…やはり、私の気も進みませんし。

アナスタシア様に申し訳ないというか…?」


「アナスタシアがなぜここに関係あるのか?」


「婚約者様なのでしょ?」


「そうだが…。」


レオン様は乙女心が分からない方なのでしょうか?

私はうーんと考えます。


なんて言ったらいいのだろうか。


「普通自分の婚約者様が別の女性を王様の命令だとしても、ずっと気にかけていたら嫌だと思うんですよねぇ。

他の人からの目もあるし、『婚約者が誰々と浮気してますよー!』なんて報告されるでしょうし、私のせいで、アナスタシア様に嫌な思いをさせたくないというか。」


「…アナスタシアなら大丈夫だ。」


「なんでそう言い切れます?相手はただの同じ年の女性です。

殿下は本当に彼女のこと知ってますか?」


「ただの…女性。」


「そうですよー、女性は守らないといけないのでしょ?

だったら私より婚約者様のが大事でしょう?

本当に守らないといけないのは…」


「そのことはわかった!考える。

だが、この事とは別だ。私も父に言われている以上遂行させてほしい。」


「そう、ですか。

…そうですね、わかりました。

じゃぁ、アルド様が何かしてきたら、その時はお願いします。」


んー、なんかさえぎられたような?

気のせいでしょうか?

それとも何かお考えがあるのでしょうか?


でもまあレオン様もいろいろ立場があるのかもしれませんね。

これは断る方が良くないのかもしれません。


私の言葉にホッとした様に頷かれました。


「でも必ずアナスタシア様にフォローをお願いしますね。」


「ああ、わかった。」


「…本当にわかってるかどうか…」


「「ん?」」


私とレオン様が同時にオーガストを見ました。

いま何か呟いた様な気がしたのですが…?


オーガストはニコニコと『何かあった?』という顔でこちらを見ています。


気のせいですかねぇ…?

レオン様と顔を見合わせました。


「ともかくこれからも守らせてほしい。」


レオン様は私の手を取り、私を見つめました。


「あ、はい。その時はよろしくお願いします」


レオン様が微笑まれたので、私もつられて微笑みました。


そのまま笑って爽やかに立ち去られましたが、なんか不穏な空気が。

何かありそうな匂いがします。


アルド様も一体また何をしでかすのでしょうか。

私は大きく溜息を吐きました。


はー。

空も青いけど、心は晴れない。


私とオーガストも教室へ向かって歩き始めました。


…はぁー。


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