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第15話 レオンの気持ち。

レオン回。

とある執務室。

机に向かいペンを走らせ、読み返し、判を押す。


ふと手が止まり、頬杖をつく。


書類の内容が昨日から、何度読んでも頭に入らない。

気を抜くと、昨日の出来事が蘇るからだ。


はぁ…とため息をこぼす。


なぜ自分はあんなに力強く手を引いてしまったんだ。

頬杖ついた手を、トントンと指で頬をノックする。


その様子を眺め、『クスッ』と笑う者がいた。


「レオン、珍しいな。お前が頬杖とは。」


「…!」


驚いたように顔を上げるレオン。

ついていた手を、膝元に下げる。


「タイラー兄さん。…すみません、いついらっしゃいましたか?」


ドアの横に立つ人影が、ゆっくりと現れる。


「気にするな、今来たばかりだ。」


タイラーは赤髪を手でかきあげ、レオンに優しく微笑んだ。

そして静かにレオンへと歩んでいく。


「何か悩みでもあるのか?」


タイラーはレオンの額に手を当てる。


「熱なんてないですよ…」


タイラーの当てた手をメンドくさそうに顔を背けた。

その様子にまた、嬉しそうに微笑むタイラー。


「兄なんだ、弟の心配してもいいだろう?」


もう一度、額に触れようとするが、レオンに阻まれた。

それを愉快そうに笑うタイラー。


「…兄さんにはもう1人、弟がおりますよ?」


ハァとまた息を吐きながら、また書類に目を通す。


「あれは見ずとも元気だろう?」


「…元気ですけど。」


レオンの反応一つ一つに『ククク』と楽しそうに笑った。

それをまた嫌そうに眉を寄せるレオン。


「何の用ですか?」


レオンは仕方なさそうにタイラーを見つめる。


タイラーは口元を隠すように手を当てたまま、レオンの机に腰をかける。


「弟の様子が変なのに気がついて、見に来たんだ。」


「…嘘だ。」


「…嘘だな。本当は侍女がお前の様子がおかしいと噂してたからだ。」


「…はぁ。」


レオンは呼吸を整えるように、大きく息を吸い、吐く。

こいつは絶対、俺が言うまで絡んでくる。

ということは言うしかないのだ。


ああ…めんどくさい。

レオンは覚悟を決め、いつもでも顔を緩ませているタイラーを見つめる。


「心配するようなことはありませんよ、…ただ昨日、父に頼まれた事を実行しようとしたら、女性に少し怪我をさせてしまった事が気になってただけです。」


「…ほう?女性に怪我か。それは心配だな!」


「…思ってないでしょう。」


「…思ってないな。別にお前が無事ならどうでもいい。」


「…でしょうね。」


そう、この人は。

タイラーは極度のブラコンなのだ。

あざといキーオより、こうやって素の反応を返すレオンを愛している。

弟愛が行き過ぎて、今以上に弟妹が増える事を、長年父と母に懇願するくらいの変態である。

増えるなら妹ではなく、弟のみ、だ。

彼に妹を与えてはいけない。

自分の中の危機回避探知機がそういっている。


「いいか、その女が傷を理由に結婚を迫ってきたら、お兄ちゃんに言いなさい。

秘密裏に破片も残さないように消してやろう。」


「…どんなことがあっても言いませんから。」


「レオンが冷たいー!!」


タイラーは可愛く手を上下に振った。

それをレオンが冷ややかに見つめていた。


「顔に傷が残るようでしたら、力加減が出来なかった私に責任があります。

…その時はそれ相応に対応するのが私の務めです。

兄さんはいい加減すぎるんです。」


タイラーは横目で『ちらり』とレオンを見つめ直した。


「アナスタシアが絶対婚約者の座から降りることはないのに、か?」


「そちらもそれ相応に、誠実な対応をするつもりですが…。まだそうと決まったわけでもありませんから。」


「その女はなんと言ってたんだ?」


「その女性は、『たいした傷じゃないから気にすることはない』と…。」


タイラーは吹き出した。


「なんだ、その女は!レオンに気にするなだと?普通だったらどんなことでも繋がりを持とうと、寄せでも作った胸でも何でも擦り付けて寄ってくるはずだろうに!!」


「…兄さん下品ですよ…」


腹を抱えて笑うタイラーにレオンはため息をついた。


「気にするなと言われ、なぜ気にすることがある?」


タイラーはヒイヒイと呼吸を乱しながら、ニヤリと笑う。


「そうなんですけど…。ただ、気になるのです。」


「お前が他人に興味を持つのは珍しいことだな。

一体どんな女なんだ?

と言うか、父から頼まれたこととは何だ?俺は聞いてないぞ!?」


「兄さんには言わないと思いますよ、そんなだから。」


「そんなだからとは何だ!!」


「兄さんこそ、他人に興味ないからですよ。身内ばかりに愛を注がず、国民にも目を向けるべきです。

次期王として…。」


「…なぜ俺が継ぐと思う?」


レオンは拳をきつく机の下で握った。


「兄さんが第1王子だからです。次がキーオだ。私は…側室の子なので、権利はありません。」


タイラーは静かに首を傾け、目を閉じた。


「側室や妾の子でさえ、権利は同じだ。

父親譲りの赤い髪。

お前にも権利はある。」


「私は辞退致します。身分相応に、王となる貴方を支え、尽くすつもりです。」


「なるほどお前が俺に尽くすのであれば、王も悪くないな?」


タイラーは唇をなぞるように指先を這わし、口元を歪ませた。

兄に見つめられ、背筋が冷える思いをするが、グッと堪える。


『この人の迫力は、狂気だ』


『資本主義なこの人が継いで、国は大丈夫なのだろうか』


『この人は大事に思うのは、『家族』のみなのだから』


誰かがレオンの耳元で囁く。


それをレオンは振り払うように首を振った。


そして微笑み、繰り返す。


「必ず貴方を支え、国に尽くします。」


タイラーの手がレオンの頬に触れる。

今度は拒まず、されるがままでタイラーを見つめた。


もう一度、レオンは微笑む。


そして。


「なので、兄さん。この書類半分は兄さんがやるべき仕事ですからね。

やっていってください。」


「嫌だ。俺は今から父に話があるんだ。」


逃げ腰のタイラーをみて、レオンはハァとまた溜息をつく。


「…頼まれごとならば絶対教えてもらえませんよ…。タイラーには言うなとキツく言われたので。」


「ならばキーオを吐かせるまでだ。」


タイラーはあっという間に、走って扉から飛び出した。

止める間もなく。


『待って』と言おうとした手を静かに下げる。


「キーオが捕まらなきゃいいけど…。」


キーオはきっと言うだろう。

こう言う時のタイラーは容赦がない。


彼女に迷惑をかけてしまうかもしれない。

明日、自分から対応しないと。

タイラーと彼女を近づけるのは危険すぎる。


レオンは何かを思い直し、大きく息を吸った。








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